Chapter76
しかし、最近は俺は働きすぎだよなぁ。そうは思わないか?
「そりゃあんだけ戦えば、疲れもするだろうけどよ。」
「戦いはそこまで疲れないけど、仕事をしてるって自覚が疲れるんだ。」
なんだそりゃ、とカスパルが首を傾げる。
お前みたいな生まれだと判らないかもしれないが、そういうもんなんだよ。
「でも、結局、おっさんは攻撃魔術使えたんだな。」
「使えるけど、今もまだ対人で使えるわけじゃないぞ。人外のみだ。」
人間相手に意識すると、やっぱり術式組む気が無くなるからな。
「そんなことより、状況が落ち着いた今、お前に話すことがある。」
「なんだよ。」
「あと半年もあれば、戦争が完全に終わるからな。」
正直、もう勝ち確定のラインまで乗っている状態だからな。
「それで俺に何かしないといけないことがあるのか?」
「お前らの跡取りっていうか、次の世代を考える時期になったんだよ。」
ぶっちゃけると、幹部全員の子どもの話だ。
「……俺、まだ十代だから、そういうの、早いっていうか。」
「戦争が終わった頃には二十歳になってるだろうが。」
「いやいや、そういう問題じゃなくてだな。そういう時期じゃねえだろ?」
そういう時期なんだよなぁ。
今の世代は、あと15年は現役だけど、その時には後塵がいないとな。
良くも悪くも前の王朝の人材は枯渇したわけだから、母数が居ないんだ。
「あーうん、俺が34歳になったときに、育てる次を用意しとけと。」
「その理解で正しいな。」
コルニス殿は、後任としてマーレ殿が既にいるからよしとして。
フレデリクも、軍団の中から適当に見繕って育ててもらえばいいだろう。
エルナは、魔術師でもあるからな。どれだけ生きるかも未知数だ。
「そう考えると、王子とお前の跡継ぎが一番問題なんだよ。」
「言いたいことは判るけど。本当にこの時期にするやつなのか、この話題。」
この時期なんだよ、残念ながらな。
人間の子どもは、最速でも10か月は待たないと産まれないわけだし。
それ以前に、相手がいないならそれを確定させるのに時間がかかる。
「15年後に何歳の子どもがいる予定なのかってな。」
「いやいや、でも、そういうのって相手が必要な話じゃねぇか。」
お前の立場から考えれば、そこそこ相手は選びたい放題なんだぞ。
ちゃんと自分で見繕わないと、俺やコルニス殿が運命の出会いを演出するからな?
「運命の出会いって。」
「お互いに好みで、かつ立場も相応しい奴に、偶然恋に落ちるようにするぞ?」
出来ないと思ってるんだったら、大間違いだからなというと。
カスパルは顔を引きつらせて、自分で頑張って探しますと小さくつぶやいた。
Chapter77
各地の都市との交渉が進む。
偽王軍に協力的だった都市も、見切りをつけて反乱軍に付くことを選び始める。
こうなれば、あとは崩れる一方だ。オセロの最終盤ってやつだな。
「その分、王子たち4人は大忙しなわけだけどな。」
モーリス王子と、名代として動けるフレデリク、コルニス殿、カスパル。
彼らについてはもう一日たりとも留まることなく動き続けている。
やればやるほど、戦争にも戦後にも役立つ話だからな。そりゃ動くか。
「最終決戦に向けて準備も進めていますよ。」
「マーレ殿。」
「コルニス先生が不在なのが、私としては不安なところですが。」
いや、マーレ殿がやってる分には誰も疑いやしないよ。
心配だから俺も多少は手助けというか、確認作業ぐらいはするけどもな。
元よりこんなもんは、二重三重に確認して実施するもんだからな。
「エルナさんとも、良好な関係を築けたようで何よりです。」
「いや、そういう関係ではないが。」
「認めていないのは、レーヴ殿だけであると伺っていますが。」
そうは言うがね。俺にどうしろっていうんだよって俺は思うわけで。
「仮にだぞ、仮に俺がこの国に残るって言ったらどうなる?」
「皆さん歓迎すると思いますが。」
勿論、私も頼れる方がいる分には歓迎いたしますよ、というマーレ。
うーん、そうなんだよな。誰もきっと反対なんかはしないとは思うんだが。
「だが、俺は平時にはなんの役にも立たないというかだな。」
「はい。」
「なんなら、人に関わり続けると、また魔王候補に戻りかねないんだぞ?」
素質だけで言うならそれだけの素質は十分にあるし。
後は、世界に悪意を抱いて、魔王になる意思を固めるかどうかってだけだ。
そんなのが国政の近くにいるってこと自体が、国によくないだろ。
「私は、それでも貴方にはこの国に残ってほしいと思いますがね。」
「どんな感情で言ってるのかがよく判んねぇんだよな……」
「単純ですよ。貴方はそんなものにならないだろうと信じているだけです。」
ま、ただ。とマーレ殿は言う。
「私の言葉よりも、エルナさんとちゃんと向き合って欲しいですけどね。」
「マーレ殿も実は恋愛脳だったりするのか?」
「立場上こういう態度ですけど、私もちゃんと若い女ですので。」
まるで小説みたいな出会いと、それから始まる運命には憧れるんですよ。
出来れば、幸せな結末を迎えて欲しいと思い、願ってしまうほどにはね。
「乙女だなぁ。」
「乙女ですから。」
王子やカスパルだけじゃなく、俺も向き合うべき時があるってことかね。
Chapter78
「王都攻略戦の前哨戦を始める必要があります。」
「どこを攻めるんだ?」
「ローデン砦ですね。城壁がありますので、そこを陥落させます。」
ローデン砦ね。懐かしい名前だな。
以前、前の拠点から逃げ出すときに、搦め手を使って通り過ぎたところだが。
「おっさん、前みたいに眠りの霧を使ったりしないのか?」
「今回は、正面から打ち破ることに意味があるからな。」
ここまでくると、戦いは戦後のためのアピールでもあるからな。
どういう風に勝って、どういう風に戦地で振る舞うかをみんなから見られる。
そんな中で、魔術で眠らせるってのは、余りにもマイナスが大きいね。
「軍団を並べて、降伏勧告をして、それでも駄目なら戦いだな。」
「この期に及んで偽王軍のために戦うなんて、無意味じゃねーのかな。」
それがなぁ。色々な立場の人間がいるからなぁ。
偽王軍に忠誠を誓ってる奴も、利用してきて今更裏切れない奴も。
悪辣な真似をしてきて降伏できない奴も、色々いるからね。
「新体制に着いてこれない奴に、引導を渡してやるのも必要なんだよ。」
「判りたくねぇけど、判らなきゃいけねえんだろうなぁ。」
カスパルは素直だねぇ。
そうやって、王子と一緒に悩んでやれるのはお前だけだからさぁ。
ちゃんと一緒に、横に並んで成長してやってくれよな。
「逆の立場で言うなら、前の拠点の時に偽王軍はそう思ってたでしょうね。」
「……引導を渡してやる、そういう意味ですか、先生。」
ええ、とコルニス殿は頷く。
「どちらにも一定の正義はあったわけですよ。」
「その上で、俺たちは反乱軍について、さらには勝とうとしてるだけだな。」
そうやって割り切れるのは、後出しで、かつ他人事だからだけどな。
「他人事じゃない俺としては、まだ受け止めきれないけどな。」
「受け止められてたら、反乱になんてなってないよ。」
他の国に逃げて、それで終わりになった未来もあったかもしれんね。
「そうなってた方が、もしかしたら人死には減ったのかもなあ。」
「そういえるだけ、カスパルは強くなったんだと思うぜ。」
「誇らしい教え子たちですよ。こんな不甲斐ない教師で申し訳ないぐらいです。」
ま、今更だ。ここまで来てしまった以上、覆すことは出来ない。
選択してしまって、もう取り戻せないものがいくらあったところで、だ。
今の選択が正しいと信じて、最善手を取り続けるしかないんだよ。
「国って、戦争って、こんなに難しいんだな。」
「悲しいぐらいに立派になったもんだよ。カスパルはさ。」
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