それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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2章
1話


Chapter1

 

フェルドランから旅立ったはいいものの。

実際には王都から出ただけで、国としてはフェルドランにいるんだよな。

そう思うと、微妙になんというか、居た堪れない気持ちになるよね。

 

「さて、東とは言うが。」

 

具体的な場所までは良く知らんのだよな。

知ってる人間に聞くことは出来なくもないが、絶対したくないわけだ。

上から目線の嫌味な女に自分から会いに行くとか罰ゲームでしかない。

 

いや、今から会いに行く存在も、存在が罰ゲームなんだけどな?

とはいえ、まだまだ会うのはすぐじゃない。そう思えば少しはマシである。

あいつ、つーかそれが住んでるのは、むっちゃ東の砂漠地帯のはずだし。

 

「山脈を超えていくか、大森林を超えていくか、だな。」

 

どっちも糞であるが。

うーん。難易度で言えば、普通に考えれば大森林を超えることになるか。

平坦な分、進みやすいっちゃ進みやすいはずだからな。

 

「だけど俺、飛べるしなー。」

 

最初から最後まで飛ぶのは、それはそれでなんかちょっと違うので。

ここぞというときに飛ぶ方が俺がイメージしてる贖罪の旅に近いのだが。

贖罪の旅というのなら、ちゃんと苦行をしろという心の声は聞こえない。

 

しかしだな。

大森林にはアドリアーンの精霊術師の集落(復興中)があるし。

そっちの方に寄っていくのも悪くはないというか、順当でもあるが。

 

「山脈に、龍の狩り漏れがいるかもしれねぇしなー。」

 

どちらかというと、そっちを圧し折っていく方が、な。

フェルドランのためにもなるし、俺のストレス解消にもなるし、と。

そんな感じで、山越え、もとい山脈越えを試みることにしてみた。

 

それぐらいで死ぬような柔な存在ではないからな、うん。

 

というわけで、ゆっくりと東に向けて歩いていく。

戦争中には行けなかった、フェルドランの東側の都市もあるしな。

そっちの様子を見に行きつつ、ってことでも悪くはないだろう。

 

「最後までやったら、何年かかるかねぇ。」

 

俺個人としては、何年かかったところで何も問題はないのだが。

エルナはどうかなぁ。俺は別にエルナが何歳になろうと構わんけども。

普通に考えれば、待つ側は、待つ時間が短い方がいいものだよなぁ。

 

東の砂漠と、北の海国と、あとはいけ好かない女か。

それだけの旅程を考えれば、今、この一瞬急いだ所で変わらん話だろう。

最悪、あれだしな。気合を入れれば星見で通信できないこともない。

 

「……もう少し、まともな宝石かなんか、渡しとくべきだったかもな。」

 

一応、そういう関係になったということで、予約的なさ。そういう意味で。

 

 

 

Chapter2

 

王都の近くだからと言って、大きな街であるとは限らない。

寧ろ、王都に人や物が吸われて、只の通り道になることもあるわけで。

食材なりの購入のために寄った街は、まさにそんな印象の街だった。

 

「こういう時は、高位の魔術師でよかったと思えるな。」

 

表に出す荷物は肩に掛けられる鞄一つ分。

本当の荷物は、魔術で作ったワンルームほどの空間の中に放り込む。

 

魔術としては位相転換というらしく、これの上位技能が転移らしい。

過去生の知識でブーストしているだけの俺としては知らん話過ぎている。

位相転換まではなんとかできたが、転移を実行するまでは至ってない。

 

「どういう理屈で出来てんのかね、あれ。」

 

原子分解しての再構築、とか。世界を折り曲げて座標の移動とか。

そこらへんがいまいちよく判らんので、魔王候補の癖に使えない術だ。

間違いなく便利ではあるので、その内使えるようになりたいのだが。

 

「ここ数年は必要がなかったから、研究もしてないんだよな。」

 

必要じゃないものを研究するほど、研究者寄りの性格してないんだよ。

それを楽しめるようだったら、それこそ本当に魔王化してたね。

世界よ、俺がこのだらだらしたお兄さんでよかったと感謝してくれよ。

 

しかし、今だったらな。

使えたら使えたで、フェルドランに戻ったり、色々使い道がある。

ま、ないものねだりだな。素直に歩いて飛んで、東に向かうとするか。

 

「そういや、服。どうするかな。」

 

俺が着ているのは、シンプルなシャツとズボンにローブっぽいコート。

言っちゃなんだが、どこでも売ってるのが利点である代わりに、特徴はない。

強いて言うなら、コートが魔術師っぽく見せているぐらいの特徴だ。

 

「街暮らしでもないと、流石にあぶねえかな。」

 

魔術師に見える男の一人旅なんて、野盗の恰好の獲物である。

いや、野盗に襲われたところで、蹴り倒せばいいぐらいの差はあるが。

わざわざ襲われやすい恰好をしていくほどの酔狂さは特にない。

 

「傭兵の真似でもしていくか。」

 

シャツとズボンはそのままに。

動きにくくない程度に、革の胸当てと、軽めの剣を腰に携えて。

どこからどう見ても、流れの傭兵のおっさんになったところで。

 

杖だけは、本当は手に持っていたかったが。

これこそ邪魔になると思って、位相転換で倉庫の中に放り込む。

1mを超える長物なんて、ずっと持ち歩くには荷物でしかないからな。

 

「さて。これで流れの傭兵、レーヴができたわけだな。」

 

丁度、賢者ではない存在になりたかったわけだし、丁度良かったかもな。

 

 

 

Chapter3

 

そうして挑戦する山脈は、まあ、大山脈というには小さい。

強いて言うなら中山脈と言ったところか?そんな言葉はありはしないが。

俺が、真っ直ぐ空を飛べば、丸一日もあれば横断できるだろうが。

 

「今回は龍狩りもしたいからな。」

 

いるかどうかも判らんけど、いたら張り倒していきたい。

あんまり人の集落の近くにいていい存在ではないというか。

根本的にいて欲しくないというか、邪魔蜥蜴は殲滅すべきなんだよな。

 

勿論、最近色々と邪魔をされてストレスを溜められた腹いせである。

あんだけ好き勝手されると、俺だってストレスがたまるときもあるのだ。

いや、ある意味、お世話になったと言えなくないが、それはそれとして。

 

まあ、そういうのもあって。

ゆっくり、無理なく山脈を徒歩で闊歩しようとして、すぐさま。

山脈の手前を沿って走る街道で、その存在は現れたのである。

 

「熊じゃん。」

 

野生の熊ってくせぇんだよな。

毛皮だし、返り血ついてるし、そもそも大型の獣という最悪の塊だ。

無視して行こうかと思っているときに、うっかり気付いてしまった。

 

「こいつ、人殺してる奴だなぁ。」

 

こう見えてもちゃんと治癒術師やってるからさ。

返り血が人のものだったら見分けが付く程度には、目がいいんだよ。

人を襲う癖がついてるなら、まあ、殺しておくべきだろうねぇ。

 

「悪いねぇ。」

 

特に詠唱も必要ない。

ただ適当に撃った術式で、その心臓を灼いて、それで終わりである。

無為な殺生とまでは思わないけど、そこまで気が進むわけではない。

 

そうして、肉の焼ける匂いをさせながらその巨体は倒れ。

どすんと大きな音を立てて伏したその先には、規則的な凹みがあった。

細い二本の線が一定間隔を維持したまま、地面に薄っすら跡をつけている。

 

「んあ。轍の跡か。」

 

詰まるところ、運悪くこの熊に遭遇した馬車がいたようだ。

軽くその轍の先を追っていくと、道の脇に派手に横転した馬車が一台。

馬はお気の毒な感じになっていた。御者は逃げたのかね。可哀そうにねぇ。

 

「仇は討っといたから、まあ成仏しておけよ。」

 

そういって手を合わせ。

そのまま通り過ぎようとしていた時に、後ろからがばっと音がした。

真面目に驚いて振り向くと、そこには大量の布に隠れた何かがいた。

 

「た。」

「た?」

「お助けくださいましー!」

 

じっと見ていると、馬車の奥に隠れていたであろう大量の布のお化け。

そのお化けは、身にまとった布……ドレスをぽいぽいと剥がして。

やがて出てきたのは、豪奢な金の巻き髪にドレスを着た、若い女だった。

 

 

 




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