それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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3話

Chapter7

 

「着きました……!」

「着いたね」

「着いたな」

 

というわけで、フェルドラン第4都市のハールトについたのである。

交易都市なだけあって、門の誰何も随分ざるのようだった。

偽王の権力も、まだまだ国中に及んでいるわけではないらしい。

 

「んで、どこだ?」

「案内するよ。着いてきてくれ。」

 

そういわれて付いてきた先は、そこそこ大きな商会……の地下だった。

 

「地下ねぇ。ありきたりだな。」

「王道と言ってくれるかい。」

「割と広いな。表よりもでかいんじゃないか、この空間。」

 

そこには、第三王子に従っている反乱軍が、所狭しと動き回っていた。

 

「んじゃ、俺はここでさよならさせてもらうかな。」

「お詫びはどうする?」

「お前らの軍資金から出る奴だろ。受け取る気にはなれねぇな。」

 

王城から逃げ出す際に持ってこれた資金にも限度があるだろうからな。

そういって逃げ去ろうとする俺に、第三王子は真面目な顔になる。

 

「ところで、やっぱり味方に付くつもりはないかい?」

「やっぱそういってくるよなぁ。」

 

だよなぁ。俺も、星も夢も見なくても、それぐらいの流れは気付く。

エルナ、カスパル、俺の家にも付いてきたお付きの男、フレデリクが俺を見る。

 

「悪いけど、やっぱり協力までは出来ねぇな。」

「まあ、そうだろうね。」

 

ハールトまでの短い旅路、考えてはいたけどな。

 

「もっと気軽な話なら、幾らでも暇つぶしに付き合うんだがな。」

「……暇つぶしには重いかもね。」

「ああ。俺が入ると異物にしかならんしな。多分、良くないことになるぜ。」

 

どんな良くないことが起こるかまでは、説明する義務はねえけどな。

 

「次の国を決めるまで、手伝いはしねぇが、知恵の一つぐらいは貸してやる。」

「それだけでもありがたいけど、どうしてだい?」

 

なんでだろうなぁ。

第三王子らに何かの思い入れがあるというわけでは決してないんだが。

強いてあげるとしたら、やっぱり星の知らせってやつなのかね。

 

「星がまだ違うって言ってる気がするんだよな。」

「星見はしないって言わなかったかい?」

「見なくても聞こえてきちまうんだよなぁ、俺ほどになるとな。」

 

今離れると後悔するぞってのは間違いなく聞こえてきてる。

何やら、繋ぐ縁だの、星の言葉でざわざわと俺に騒ぎ立て続けてる。

 

「とにかく、それなら宿を用意するよ。好きに使うといい。」

「おう。ありがとな。適当に使わせてもらうわ。」

 

まずはあれだな。

この街の飯屋と酒屋めぐりでもしてから、色々考えるとするか。

 

 

 

Chapter8

 

「うお、行き倒れか。」

 

第三王子の用意した宿に間借りしつつ、日々を飲み歩きで潰していたところ。

酔い覚ましに適当にぶらついていると、路地裏に薄汚れた死体が一つ。

若干澱んだ気持ちになりかけるも、仏さんに悪気はないとかぶりを振る。

 

出会って、見てしまったものはしょうがない。

仕方ねぇから一つ、拝みでもしてから簡単に埋葬でもと思ったところで。

 

「……ってお前、まだ生きてるな?」

 

よく見りゃ呼吸をしているし、生気も多少はなくもない程度には感じられる。

またこのまま何もせずほっときゃ死ぬだろうけど。

いい気分なところで、別に見捨てるほどの理由もないと来たもんだ。

 

「仕方ねぇなぁ。起きてからでいいからちゃんと感謝しろよー?」

 

担ぐと汚れそうなので、その軽い身体を風で運ぶ。

ベッドに投げ込むには、若干薄汚れたその肢体が気になるので洗うことにした。

間借りしている宿の裏手で、タライを借りて適当に魔術で綺麗にする。

 

「ケガもしてるのかよ。本当に面倒くせぇなぁ。」

 

腕やら脚やらに擦り傷だの色々。極めつけは肋骨が折れてるのでこれも治す。

そうしているうちに、綺麗になったので服を着替えさせてベッドに放り込み。

最後に活力を供給する魔術まで使ってやる俺様である。

 

「服、俺ので入るのはいいんだが、ガリガリだな。」

 

特別、俺が極端な体型をしているわけではない。

したがって、純粋にこいつが細いというわけになるんだが、どうかね。

 

「勢いで拾う分には、軽くて重いものを拾っちまったなぁ。」

 

さぁて、拾ったはいいけどどうすんだろうな、俺。

魚はくれてやるけど魚の釣り方を教えるまでは、正直面倒なんだが。

流石にそこまでやってやるほど、こいつには縁も所縁も何もない。

 

「行き場のある奴だったらいいが、そうだったらこうはならないよなぁ。」

 

まあ、最悪、第三王子に引き渡すのも手か。

いっそ悪いやつなら衛兵に突き出して終わる分だけ、楽かもしれんな。

 

「しっかし。若いのは肌がぴちぴちしてて羨ましい限りだぜ、ったく。」

「うう……」

「変なところで寝言で相槌するんじゃないよ。精気奪ってやろうか。」

 

34歳にもなると、肌の張りも落ち着くし、お父さんの匂いがするんだよ。

ま、俺は34歳だけど新緑の香りがする素敵なお兄さんではあるんだが。

 

って、よく考えたら、その匂いがするベッドに若い男連れ込んだんだな。

……俺の寝る場所、準備してもらわねぇと、こいつと添い寝か?

面倒臭いが、仕方ねえなぁ。もう一部屋用意してもらいに行くか。

 

 

 

Chapter9

 

「で、お前さんはどこの誰なわけ?」

「キール郷の……もぐもぐ……ユレン……っす」

 

もぐもぐユレンな。覚えたぜ。

朝になると無事男は目覚め、腹を空かせていたので飯を食べさせることにした。

それにしても、キール郷ねぇ。どこだったっけな。ド田舎だったはずだが。

 

「……もぐもぐ……破落戸に襲われて……もぐもぐ……」

「いいよ。食べ終わってからで。」

 

正直、大した話でもなかったしな。

要は、立身出世を夢見て田舎から出てきたら、最初の一歩で滑って転んだだけだ。

多少治安が悪い国だったら珍しくもなんともない話ではある。

 

「まあ、帰る場所もないなら、働き先ぐらいは紹介するわ。」

「本当っすか!?」

 

反乱軍って働き場所だけどな。

帰るところすらないならな。死んでも恨んで出てくるなよ?除霊するからな?

……いや、流石に悪辣か。第三王子に仕事用意させるかと結論づける。

 

「なんかできることはあるか?それによって紹介先も変わるが。」

「農作業や力仕事なら……」

「身体は健康ってことだな、よしよし。」

 

商会で荷運びさせるぐらいなら、俺も第三王子に押し込みやすい。

意外と、そういうやつって街だと集まりにくいんだよな。

街で生計立ててる人間は、普通なら定職持ってるから忙しいし。

 

「ところで、貴方は何をやっている人なんですか?」

「治癒術師だよ。」

「……やっぱり、俺って怪我してましたよね?」

 

そういや、気絶してる間に治してるから記憶も薄いか。

 

「治したが、それがどうした?まだどっか痛むか?」

「あ、いや、あの……謝礼金、とか。」

「いらねぇよンなもん。行き倒れをこっちが勝手に助けただけだ。」

 

正直、それをもって過度に感謝されるのは気分がよくない。

感謝したくなるのは判るけどな。感謝される側の都合ってやつもあるんだぜ。

なお、一般的にはダメ人間寄りの論理である。勝手すぎるもんな。

 

「えっと……なんで助けてくれたんですか?」

「酒飲んで機嫌が良かったからだよ。だからあんま感謝するな。」

 

え、ええ?と困惑するユレン。

 

「なんか理由があるとでも思ったか?」

「……悪いこと、させられるのかと、ちょっと。」

「それならそれでもっと人を選ぶよ。」

 

使い捨ての人材にわざわざ行き倒れを拾うほど効率悪い話もないわい。

 

「ま、素直に、おっさんの気紛れで命を拾ったと思っとけ。」

「は、はい!」

 

素直でいいこった。裏もなさそうだし、これはこれでよい拾い物かもね。

そんなこんなで、俺はまた自分から厄介事を拾ったのであった。

 

 

 




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