Chapter7
「ところでお前って崖から飛び降りても大丈夫?」
「お願いですから貴方様基準で物事を考えないでくださいまし。」
別に俺だって崖から飛び降りたら、ちゃんと着地しないと痛いが。
「そもそも俺だけなら飛ぶから大丈夫だよ。」
「心配はしておりませんけども。」
「まあ普通に飛んで降りるから掴まってくれないか?」
そういって手を差し出す。
「この場合、どう握ればいいのかしら。」
「掴めって言ってるので、出来れば手首辺りを掴んで欲しい。」
「乙女として少しぐらいはためらうべきなのでしょうか。」
面倒くさいから素直に掴んでくれないかな。
「では失礼して。」
「じゃあ行くか。」
そんな面倒くさいやり取りを複数回繰り返し、俺たちは先へ進む。
「ところでお前って飯食わないと死んだりする?」
「どれぐらいの期間かによりますが最終的には死にますわね。」
そっか。じゃあやっぱり食事を準備しないといけないか。
「貴方様だけだった場合はしないつもりでしたの?」
「俺、酒飲んでれば1年ぐらいは平気だからさ。」
「血の代わりにお酒が流れてるんですのね。ある意味効率的ですわ。」
お褒めいただきセンキューござる。
「じゃあ、ちょっと行ったところに川があるから。」
「魚を取るのですね。お任せくださいませ。」
え。任せて大丈夫な奴?
「見ていてくださいませ。貴族の子女の生きざまを。」
「あんまり見たくない前振りだな。」
そりゃあ!と気合を込めて飛び込むと、素手で魚を掴んで浮かんでくる。
「なんなの、お前。野蛮人なの?」
「素手での魚とりぐらい、貴族の子女のたしなみですわ。」
「本当か?」
「嘘ですけども。」
だろうな。なんで出来るのかは面倒くさくなるので聞きたくはないが。
「っていうかドレス濡れてるけど大丈夫か?」
「あんまり大丈夫ではないので着替えてもよろしいでしょうか。」
なら最初から俺が捕まえた方が間違いなく手間は減ってたじゃねぇか。
「まあ、いいけど。その間に魚は焼いとくわ。」
「当然のように片手間で火を起こしますのね。」
「魔術って便利だよな。こういう時、困ったことないわ。」
後ろで着替えるアレクシアを無視して、俺は下処理した魚を焼く。
「器用ですのね。」
「魔術ってマジで便利だよな。」
こういうときだけ、魔術師でよかったって真面目に思うわ。
「というわけで魚は焼けたが。」
「はふっはふっ!マジうめぇですわね!」
串に刺して焼いただけの魚を食べれるのか聞こうとしたのだが。
生命力の塊はそんな俺の配慮も必要なく、齧りついていたのであった。
Chapter8
「ところで貴方様は寝なくても生きていける人種ですか?」
「大体1ヶ月ぐらいは別に平気だけど、それがどうした?」
「実はわたくしは一日に一度は寝ないと体調に問題がありますの。」
そうか……お前でもそんなものなのか……
「貴方様は逆に何故平気なのですか?」
「俺は治癒魔術で自分の身体の最適化をしてるだけだけど。」
「便利ですわねぇ。流石賢者様というべきなのでしょうか。」
それはともかく、流石に野営しないとまずいぐらいは考えてたわ。
「あら、本当ですの。ご配慮いただきありがとうございます。」
「一応、ちょっと前まで普通の人間と一緒に生活してたからな……」
そこらへんが判ってないと、コルニス殿の手助けとか無理だしな。
「ならなぜわたくしの扱いは……いえ、無為な質問ですわね。」
「その質問については仮に聞かれても俺にも回答しようがないからな。」
俺にもなんとなくとしか言いようがねぇんだ。
「その割に意外なぐらいに優しいんですわねぇ。」
「本気で見捨てる気はないからなぁ。流石に寝覚めが悪くなる。」
というわけで、野営の準備をするわけだが。
「敷布と毛布ぐらいは貸してやるのでそれで寝とけ。」
「ありがとうございます。あらいい毛布。」
特に意地悪をしてやる理由もないので、俺と同環境だ。
「貴方様も寝ますの?」
「一応な。寝なくても平気とはいえ、寝た方がいいに決まってる。」
因みにちゃんと周囲に結界は貼るから安心して寝ていいぞ。
「山脈の途中ですが、普通に寝られると思っていませんでしたわ。」
「龍でも来なければ割れないし、来たところでそれはそれで構わん。」
狩れるしな。
「龍の群れを退治したという噂は本当でしたのね。」
「貴族としてもそこそこ耳がいいんだな。」
「これでも令嬢としては優秀な方でしたのよ。一応ですけれど。」
ところでさ。
「このまま行くとヴァルノヴィアのバルクに着くのか。」
「辺境ですわねぇ。」
「フェルドランからは出るわけだが、お前はそこで置いていっていいのか?」
どうしましょう。とアレクシアは首を傾げる。
「行きたい都市があるならそこまでは連れてくよ。」
「あら、とても助かりますけど、いいですの?」
別に急ぎの旅ではないからな、うん。流石に野垂れ死には止めて欲しいし。
「とはいえ、そこまでわたくしも見通しが付いてるわけではないですわ。」
「じゃなきゃ下働きとか言わんよな。」
ま、でも。適当にどこがいいかは考えといてもらえると助かるぜ。
Chapter9
「生きてたどりつけましたのね、ヴァルノヴィアに。」
「流石に死なせるつもりは全くなかったからな?」
というわけで、フェルドランの山脈挟んだ隣国ヴァルノヴィア。
その一番の辺境である都市、バルクまで無事にたどり着いた俺たちである。
「それは判っていますが、貴族の女としてはギリギリでしたわ。」
「だろうなぁ。」
この1週間ほどの旅路の中で、何度も何度も足を治療したしな。
最終的には治すのも面倒臭くなって、自然治癒力の強化をずっと掛けてたし。
「その髪も、流石に萎れて見えるな。」
「山脈の中で維持するのは不可能であると学べましたわ。」
さもあらん。俺は特に何も変わっていないが。
「ところで、貴方様はここでどうしますの?」
「とりあえず宿取って休憩かなぁ。お前も疲れてるだろうし。」
そう言いながら、大通りの喧騒の中を適当に歩く。
人込みに紛れ込みそうになるアレクシアを、腕を引いて連れ戻す。
「お前、本当に貴族のお嬢様だったんだなぁ。」
「恥ずかしい限りですけれど、本当にそうなのですわよ。」
もうちょっと優しくしてあげるべきだったのだろうか。
「いえ、それは貴方様のご厚意に甘えている身ですので。」
「そこらへんは弁えてるから、こっちも別に嫌じゃないんだよなぁ。」
しかし。
「大通りで、人はまあまあいるが、まあまあ止まりだな。」
「都市とはいえ辺境ですもの。王都に比べられるものではないですわね。」
そんな中でも注目を集めてしまっているのが、俺とアレクシアなのだが。
「街でドレスは目立ちますわね。」
「若干ぼろっとしているけど、質は良いものだからなぁ。」
それを金髪の巻き毛が着てるというところが、場違い感がある。
「着替えた方がよいのでしょうか。」
「そのままでいいんじゃないか?」
「その心は。」
「目立った方が何か縁が出来るかもしれん。」
急にお前を見初めたヒヒ爺がお前を口説きにやってくるかもだしな。
「なんでヒヒ爺限定ですの?」
「すまん、これについてはただの言葉の綾だ。」
そこら辺の男が見初めてくれたらそれはそれで色々解決だろう?
「ある程度の経済力があってくれればそうかもしれませんわね。」
「なので、お前についてはそのまま目立っておいても損はないと思うぜ?」
もし変なのを引っかけても、俺が蹴り倒せば終わるしな。
「……貴方様は。」
「どうした?」
「いえ、まずは宿屋に急ぎましょう。流石に疲れてしまいましたわ。」
そうだなと。俺も頷いて、大通りで一番大きな宿屋に入るのだった。
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