Chapter10
「おい、同じ部屋でいいよな?」
「わたくしに選択権を与えても同じ部屋でいいと返しますわよ。」
流石に申し訳ないですもの、と萎れた巻き髪の持ち主が言う。
「別に金は気にしなくてもいいんだが。」
「だが?」
「宿とは言え、治安が悪けりゃ強盗も出るからな。」
大通りで目立ってきた分、変なやつの気を引いてるかも知れんし。
「なら、余計に同じ部屋にしてくださいまし。」
「だよな。」
「別に今更、何かを気にしたりなんかしませんもの。」
1週間一緒だったしな。
見たわけではないが、水浴びとかも同じ空間でしてきたわけである。
「というか、手を出してくれるならそれはそれで。」
「何がそれはそれでだよ。」
「貴方様の場合、手を出したら無下に出来なさそうですもの。」
それはそれでわたくしの上がりですわ。とこともなげに呟く。
「……はぁ。先に飯でも食べるか。」
「すっごい疲れた溜息出ましたわね。」
「そりゃそうだろ。俺はそういう話題が元々苦手なんだよ。」
人付き合い自体がそこまで好きじゃねえからな。
「とにかく、酒だ。国が変われば酒も変わるだろ。」
「ヴァルノヴィアだと……ワインでしょうか。」
ワインか。ワインはそこまで得意じゃないが、まあいいだろう。
「ワインと適当に合う料理をくれ。」
「あいよ。」
「こういうお店に慣れていますのねぇ……」
別に慣れてるわけでもないが、何が名物なのかも判らんしな。
そういう時は店員に任せればそれなりのものが出てくるってもんだ。
というわけで出てきたのは。
「白ワインと魚、だな。」
「それも川魚、ですわね。」
つい昨日まで大量に食べ続けてきたものと同じ川魚である。
「お前食べろよ。」
「ええ、遠慮なく頂きますけども、ちょっと飽きましたわね。」
山脈越えでわざわざ野獣を狩って解体までして食べるのは、な。
「魚にしても海魚の方が好きなんだけどなー。」
「流石に内陸では難しいと思いますわよ。」
一応、位相転換で出せなくもないが、そこまでするのもちょっと違う。
「本当は海に行きてぇんだよなぁ。」
「それならば東のヴァルノヴィアではなく、北を目指せばよかったのでは?」
「目的地が東にあるから仕方ねぇんだよ。しょうがない旅路だよ。」
会いに行く必要がある奴が、東の砂漠地帯に住んでるはずだからなぁ。
「誰に会いに行くのです?」
「俺よりもすごい魔術師。」
「いるのですか、そんな化け物みたいな方。」
いるんだよなぁ。数は少ないけど、俺を止められる化け物みたいなのが。
Chapter11
「ところで、わたくし、頼っていてよいのです?特に金銭面。」
「別に金には一切困ってないから、そこについては考えなくていいが。」
なんかうだうだ言い始めたアレクシア。
収入源が気になるならと、以前カスパルに見せたコランダムの精製を見せる。
正直、これがあるから俺は別にどの国でも生きていけるんだよなぁ。
「賢者ってすごいですのね。」
「俺はその中でも割と出来ることが多い方ではあるがな。」
一番得意なのは戦いだったりするが。
得意と好きとは違うからな。バランスが取れてるのはものづくりだったりする。
「はぁ。ものづくり……ですのね。」
「魔術でお守り作るとか、色々出来るんだぞ、これでも。」
疑ってるわけではないですわ、とアレクシアが首を振る。
「貴方様に比べてしまうと、わたくしの至らなさが、ね。」
「貴族の令嬢としては相当色々出来る方だと思うが。」
「今、それだけでは生きていけない事実に直面しておりますもの。」
そこで落ち込んでも仕方ないが、まあ落ち込みはするよな。
「お前の出来ることで何か売り物になるものを探すしかないな。」
「身体……」
「お前が本当にそれでいいなら別に止めはしないけどよ……」
場所と売り方さえ選べば、ある意味それが最適解でもあるだろうしな。
適当な商人に嫁入りするってのは、この状況なら正解の一つだろう。
「何かないか、一度真剣に考えますわね。」
「そうしろそうしろ。邪魔にならない程度なら手伝うからさ。」
何せ、俺はそういうのを考えるのが得意じゃないが大好きだ。
過去生の知識を売り物にしようとして、成功したりしなかったりな。
大抵は、大衆受けせずに好事家に気に入られて一過性で終わるんだが。
「ま。それにしたって、この街である必要はないがな。」
「といいますのは?」
「もっと規模の大きな街の方が、商売も裾野がでかいはずだからな。」
人一人が生きていくだけのニッチも、規模がでかけりゃ多いんよ。
「そうなると、首都でしょうか。」
「それか商業が強い都市だな。ここよりはその方がいいと思うぜ。」
どちらにせよ、このままヴァルノヴィアを横断して東に行くからな。
「その途中のでかい都市で、出来ることを探すべきだろうな。」
「……どうか、その時まで、ご一緒させてくださいましね。」
今更見捨てるのはそれはそれで決断力をかなり消費するからな。
俺のメンタルでは決断力を要する判断は出来ん。
俺が飽きて、もう無理だってなるまでは、引き続き一緒に行こうぜ。
「なに。ちゃんと俺はお前といて楽しませてもらってるから気にすんなよ。」
Chapter12
バルクについてから数日。俺は違和感に悩まされていた。
「おかしい。」
「どうしましたの?」
「治安がいい……!」
「暴力が身体に染み付いてますのね……」
こんな目立つ奴を連れていて何も起こらねえなんて。
いや、俺の感覚が、フェルドランにいたせいで狂ってるのはあるんだが。
あの国、流石に動乱中だけあって、毎日何かが起こってたからな……
「お前一人で出歩いても問題なさそうだな。」
「それはありがたいことですけども。」
まあ、治安がいい大通り限定にはなるだろうけど。
「この国、全体がこんな感じの治安なのかね。」
「どうでしょう。辺境で人が少ないからかもしれませんわよ。」
そうなると、大きな街では一人歩きは難しいって話になるが。
「現実問題として、楽観視だけをしているわけにはいきませんもの。」
「そりゃそうだな。お前にとっては死活問題だもんな。」
茶化すところではないよな。うん。
「どちらにせよ、この街に居続けるわけにはいかねえので。」
「はい。」
「明日ぐらいにはこの街を離れようと思います。」
更に東に向かう必要があるからな。
「次の街はどちらになりますの?」
「エリスカって小さい街から船に乗ってコルヴィア、だな。」
どうやら、クッソデカい大河が流れているらしいぜ。
「大河ですの?」
「大河だって。渡し船でも対岸まで1日かかるらしい。」
やっばいよなぁ。早く見たくて結構楽しみなんだけど。
「そちらの方には行かれたことがありませんの?」
「俺、北の出身だもん。東に行くのは人生でも初めてだぜ?」
旅行っていうか、初めての場所に行くのは割と好きなんだよな。
景色のいい場所とか、色々な名物とかな。そういうの、楽しみな方だ。
「私はフェルドランから出たのも初めてですけどね。」
「もうちょっと穏やかな理由で旅が出来たらよかったのにな。」
ええ、本当に。とアレクシアはほんのりとほほ笑んだ。
「どうしたよ。」
「貴方様がそんなに楽しそうにされてるのは初めて見ましたので。」
そうかな。そうかもしれないな、割と悲壮感みたいなものはあったかも。
「わたくしが言えたことではないですが、その方がいいと思いますわ。」
「……なんか、年甲斐もなくはしゃいでたのを急に自覚したわ。」
流石にそれを小娘に指摘されるのは、なんというか、素で恥ずかしい。
「さ、明日は朝から移動開始なのでしょう?早めに寝た方がいいですわ。」
「そう……そうだな!朝早いもんな!」
こいつのこういうところ、割と悪くないというか……なんだろうなぁ。
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