それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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5話

Chapter13

 

道中。山脈横断とは違い、整地された道をゆっくり歩いている中。

 

「わたくしね、考えましたの。」

「真面目な話の方か?それとも面白い話か?」

「今回は真面目な方の話でお願いしたいのですわ。」

 

それならば、俺もちゃんと聞こうと、歩きながら姿勢を正す。

 

「今のわたくしで足りないなら、他所から持ってくるしかないですわよね?」

「まあ、そうだな。」

「現状で一番身近な他所って、貴方様ですわよね。」

 

そうくるかー。合理的ではあるが、それでなんとかなるものかね。

 

「俺から何の技能を手に入れるかの目星はつけてあるのか?」

「一番いいのは治癒術ですけれど。」

 

お、ユレン2号になる気か?でもなあ。

 

「治癒術は才能頼りなところがあるし、習熟に時間がかかるぞ。」

「ですわよね。」

「ということは、二番手が何かあるのか?」

 

こいつ、何を言ってくるのかが読めないからな。

 

「普通に考えたら、物づくりの方かな、と。」

「思ってたよりも普通の回答がきたな。」

「先日見せていただいた宝石などが出来れば一番ですわよね。」

 

あれなー。 そこそこ技術的には難しいはずだから、出来るかな。

 

「わたくし、貴方様が何ができるのかを知らないのですよね。」

「色々出来るぞ。」

「色々出来るせいで、貴方様には思い浮かばないものもあると思うのです。」

 

そうな。俺にとっては盲点になるようなものだよな。

 

「あれかな。俺と縁遠いものと言えば、感性が重要な奴だな。」

「感性、ですの?」

 

流行りとかそういうのは、過去生の知識が邪魔をするからよく判らん。

 

「歌やダンスは、それなりに出来ますけども。」

「そっちの技術は酒場の踊り子ルートになるから違うぞ。」

 

わかってますわ、とアレクシア。

 

「例えば装飾品とか、そういうもののことですわよね?」

「ああ。何かそこに絡む知識があれば、出来ることもあるんじゃないか。」

「多少目は肥えていますけど、目利きが出来るほどではないですが。」

 

とはいえ、そのあたりで何か探すのが一番勝率が高いと思う。

 

「何か簡単に出来るものがあれば、普通に教えてるからな。」

「そうですわね。貴方様が気付かないものですものね。」

 

なんかの職人に自らなるか、それともバイヤーになるか。

そういったラインを目指してみるのが、多分マシなルートになる、はず。

 

「楽しそうだから、協力は惜しまないつもりだぞ。」

「そういっていただけるのは誠にありがたいことこの上ないですわね。」

 

このところなかった前向きな話だ。たまにはこういうのもいいな。

 

 

 

Chapter14

 

「とりあえず魔術の才能はなさそうだな。」

「悔しいことこの上無しですわね……」

 

そもそもの魔力があんまりない。

ここから魔術師になろうとするのは、無理ではないが時間がないな。

 

「そうなってくると、やはりものづくりでしょうか。」

「そっちになるよなぁ。」

「わたくしに出来るものづくりというと、菓子作りや刺繍になりますが。」

 

貴族の子女としてはある意味一般的なラインナップなのかね。

 

「菓子作りは、それなりの量作る体力はあるのか?」

「残念ながらありませんし、そもそも令嬢のお遊び程度ですの。」

 

じゃあ現実的ではないとして。

 

「刺繍、刺繍かぁ。」

「そちらについては一般的な貴族令嬢よりも上の実力でしてよ。」

 

いや。そういう話ではなく。

 

「俺に刺繍のイメージがあまり持ち合わせがないというか。」

「ああ、そういう。」

「精々が花柄のハンカチぐらいしか想像を持ち合わせてないんだよな。」

 

だから正直、どうしてやったらいいのか全く判らんのだよ。

 

「ええと、そうですわね。このドレスの柄は刺繍ですわよ。」

「それも花柄だよな。」

「花以外のものも描けますけど、商売が成り立つほどではないですわ。」

 

ふぅん。そういうものなのか。

 

「刺繍って、普通はどう商売になるんだ?」

「普通、という言葉自体が中々難しいですけど、そうですわね。」

 

うーん、と言葉を選んで迷った挙句、少ししてから。

 

「普通は、上流階級向けのお仕事になる、はずですわ。」

「単価は相応に高いってことか?」

「ドレスのようなものを作ろうとすれば、お針子も人数が要りますから。」

 

お針子。

 

「それは、あれか。ずらりと並んで細かい刺繍をする奴らか。」

「その光景を見たことがあるわけではありませんが、そうでしょうね。」

 

というと、純粋な人件費と技術料で値段がついてくる訳だな。

 

「あとは、その期間他の仕事を受けられないところもありますわ。」

「閑散期があるのかは知らんが、安くなる時期もある、と。」

「夜会などが少ない時期には、ドレスの必要性は当然少なくなりますもの。」

 

しかし、ということはだな。

 

「生計を立てるためにはお前一人が刺繍できたところでなぁ。」

「そういう話ですわね。お針子の一人にはなれるでしょうけども。」

 

それが終着地点になるのは、なんというか歯痒いところがあるな。

 

「お前だけが出来ることか何かが欲しいところだよな。」

「そこを貴方様とのやり取りで見つけるのが一番の近道でしょうね。」

 

そうなると、なんというか。中々直ぐには思い浮かばんもんだな。

 

 

 

Chapter15

 

「というわけで、エリスカに着いたわけだが。」

「山脈越えではない移動ってこんなに楽ですのね……」

 

アレクシアの当たり前の感想に、若干の申し訳なさを感じなくもない。

 

「あれか。初手山脈横断はやりすぎたか。」

「助けていただいた以上、不満は全くございませんが。」

 

それはそれとして限界ではあったらしい。さもあらん。

 

「しかし、あれですわね。川はありますが。」

「大河ってほどの大きさでもねぇよな。」

 

ちょっとがっかりですわね?と俺の方を伺いながら言ってくる。

 

「んー。まあ、そうだな。」

「あら、否定はしませんのね?」

 

わざわざ否定するほどのことでもねえときに、否定はしないが。

 

「とはいえ、中々大きい川ではありますわ。」

「あとで港に行ってみるか。どうせ船に乗るしな。」

 

それより先に、宿をとるべきだとお前の足が言ってるぜ。

 

「ぷるぷるしてるのに気づいてらっしゃったのね。」

「そりゃ。あの時と違って治癒術はかけてねえもんな。」

 

自分の足で、補助なしで歩くのも経験だろうと思ってさ。

 

「いえ、それは勿論、経験として受け止めていますが。」

「が?」

「人間はこの足のぷるぷるに慣れることが出来るのでしょうか。」

 

歩き慣れるとぷるぷるしなくなるんだよ。本当に。

 

「因みに俺は普通に治癒術を自分に使ってるだけだ。」

「別に貴方様は歩き慣れてるとかそういうのではございませんのね。」

 

いや。

治癒術を自分に使うのに慣れすぎてて、必要ないのかの区別が出来ん。

 

「それは不健康なのでは?」

「健康ではないのは間違いないが。」

 

それを気にするなら、普通の人間はあの量の酒を飲まねぇんだよな。

 

「出来るなら、それも治療をした方がいいのでは?」

「治療した結果がこれなんだよなぁ。」

 

治療して、直ぐに再発して、そして治療して、寛解したのが今だ。

未だに油断すると再発するからな……恐ろしい病気だぜ。

 

「医者の不養生ですわ……」

「本当に俺もそう思う。」

 

でも、なんか治んねぇんだよな。まあ死ぬわけじゃないからいいけど。

 

「それはともかく、バルクからの馬車も出てましたのね。」

「そりゃ近くの都市とは物流があるだろうよ。」

「乗合馬車も出てましたけど、なんで乗らなかったのですか?」

 

旅行感が……薄くなるかなって……

 

「貴方様にとっては旅行ですものね、そうですわよね。」

「悪いな。お前が大変なのは判ってるんだが。」

「いえ、それはそれとして、楽しんでいるので大丈夫です。」

 

色々考える時間にもなりましたしね、と言うこいつはやはり強いと思う。

 

 

 




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