Chapter19
謎の船長、ミーロシュを会話相手にして座って川を眺める。
水の流れはいいねぇ。大河に流れていく分、ゆっくりなのが特に良い。
「ところでご令嬢には行く当てがあるのか?」
「痛いところを流れるように突きますわねぇ。」
無いもんなぁ。行先なんて、今のところは。
「大きい街で、なんか商売させてやりたいとは思っているが。」
「商売か、何を取り扱う予定なんだ?」
「わたくしの心がずたずたに引き裂かれていく気配がしますの。」
さもあらん。
「まだそこらへんも未定なんだよな。装飾品か何かがいいんだが。」
「止めてくださいまし。流石のわたくしもちょっと恥ずかしいですの。」
計画がほぼ立てられてない事実を目のあたりにするのは辛いよな。
「その様子であるならば、うちの船に乗ってくれても構わんぞ?」
「それは、ええと。」
「船の使用人としてだったら雇ってやることもできるということだ。」
それは……どうなんだ?アレクシアがどう思うか、横を見る。
「流石に淑女として船はちょっと。そういう意味もありますわよね?」
「基本的には乗客の給仕だが、その意味もなくはないな。」
「ううん。悪くはないのですが、もう少し考えたいところですわね。」
まだ俺の庇護があるうちだからなぁ。
「俺が居なければ乗ってたか?」
「乗ってましたわね。間違いなく、比較的に良いですもの。」
「そうか。礼儀作法の教育が要らない分、拾い物かと思ったんだが。」
まあなあ。流石の貴族令嬢だけあって、いちいちの所作は綺麗だからな。
今のところ、それを活かせることが出来るわけではないのだが。
……家庭教師とかも、実績がないと難しいのは判り切った話だ。
「まあ、商売をやるのなら、声をかけてくれ。」
「その心は。」
「儲け話になるのなら、俺たちが手を貸すことも吝かではない。」
しかし。
「意外なぐらいに、俺たちを信用してくれてるんだな?」
「別に信用しているわけではないが。」
「おう。」
「あんたはともかく、ご令嬢は戦闘能力がなさそうだからな。」
何かしでかしそうになっても、逃げ場のない船の上なら、か。
俺より幾分か体格のいい船長であるならば、それなりに戦えるか。
「いい伝手を得たな、と言ってやりたいところではあるんだが。」
「そうですわよね。元手になるものが何もないのが現状ですものね。」
そんなことを言ってるうちに、ミーロシュが立ち上がった。
「ま、何とでもなるだろうさ。傭兵の旦那はとんでもなく強いからな。」
「おや、見てわかるかい?」
「俺やうちの船員では勝てないってぐらいはな。ただの勘ではあるが。」
それぐらいの眼を持ってないと、船長って職は務まらないのかね。
そんなことを言い残して、船長は自分の船に戻っていった。
Chapter20
「指摘されると、自分の至らなさがすごいですわね。」
「まあそんなもんだろ。具体的な話は俺もしなかったしな。」
というわけで、また宿で酒を飲みながらの作戦会議である。
「足りないものがどれぐらいあるのかからでしょうか。」
うーん。とはいえ、だな。
文化レベルと流通レベル的に、そこそこのものならば売れはするんだよ。
何せ、過去生みたく、物で溢れかえってるというわけではない。
「それが生計を成り立たせるほどかって話ですわよね。」
「それだけの量か質を担保する方法が必要なんだよな。」
量が多ければ質が低くても薄利多売でカバーできるし。
量が少なくても質が高ければ単価差で生きていける。
この世界はまだ貧富が明確だからな。貴族相手の商売をすればいい。
「貴族相手の商売って点では、礼儀作法を気にしなくて済む分早いんだよな。」
「そうですわね。そこについては自信がありますわ。」
なので問題になるのは本当に量と質の問題なんだよ。
「刺繍だと、どれぐらいの生産量を出せる?」
「人よりは手が早い方ですが、それでも知れてますわね。」
「質は、お前ができると言った以上、そこまで心配はしてないが。」
それでも、量が作れない以上は、更なる差別化が必要なんだよな。
「上手い刺繍でとどまらない、何か売りがないとな。」
「元貴族の美少女が一針一針……」
「その方向性でお前がいいなら構わんけどさ。」
「冗談ですわ。話題になるのも一瞬だけですし。」
だろ?
「それこそ、俺みたいにコランダムが作られればな。」
「宝石が作れるなら刺繍ではなく宝石を売りますわね。」
「コランダム以外だと、クォーツ辺りならハードルは低いが。」
「私に作ることができるほどですか?」
そこなんだよな。
頭はいいから作り方を覚えることは簡単だろうけど、魔力が足りてない。
「なんでそんなに生命力が強いのに魔力は低いんだ?人並みだぞ?」
「知りませんわよ。一番がっかりしてるのはわたくしですわ。」
それもそうだろうよ。
「とにかく、作れる量が足りない以上、他にないとかなり辛いな。」
「そういうことですわよねぇ。」
あと。
「そもそもお前が刺繍やってる所をみてないんだよな、俺。」
「流石に道具は持って逃げ出してないですわ。」
じゃあ買うかぁ。
「雑貨屋とかに売ってるもんなのか?」
「さあ……申し訳ないですが、商会の外商としか取引をしたことはないのです。」
あれ?
「お前、普通に屋台とかでもの買ってなかったか?」
「やったことがないだけで、知識はありますもの。」
周りの見様見真似ですわ、とアレクシアは言う。
うーん、賢さで言うと、文句つけるところがないんだけどな。
「取り敢えず明日の朝にでも買いに行くから。」
「はい。」
「必要な道具はちゃんと考えておけよ。俺はわからんからな。」
Chapter21
次の日。
刺繍の道具を買い揃え、鞄がないことに気付いたので買ってやり。
そしてミーロシュの船が、明日出港するらしいので、部屋を抑える。
「というわけで、わたくしは仮の商品として刺繍をしてますわ。」
うむ。
そうなってくると俺にやることがなくなってしまうのであるが。
大牧場を見に行くというのも、臭いだけで遠慮したいところである。
「そうなるとだなぁ。」
川沿いの、ちょっと人が少ない辺り。
軽い人払いの術式を敷いて、補助用の術式を大量に貼り。
俺は数週間ぶりに、エルナの声が聞けないかと挑戦することにした。
「もーしもーし。エルナぁー?」
あんまり真剣にやると、上手くいかなかったときがね。
ちょっとふざけながら星見の術式で通信を試みてみるわけである。
「……ん。やっぱ無理かな?」
そりゃ、いつも身に着けてるとかそういうわけもないしねぇ。
切り上げるかと思ったその時、バタバタバタバタ!と音が聞こえた。
「レっ!レーヴさん!?レーヴさんですか!?」
「そ。そうだけど、どうしたよ。なんかあったのか?」
異様に慌てた声のエルナから俺の名前を連呼される。
「なんかあったのか、ですか!?」
「そんな慌てるようなことがあったのかと思って。」
「貴方からこうやって通信が来るとは思ってなかったから……!」
あー?俺がそういうことやらないかっていうと……やらない奴かな。
「確かに、俺がやるには珍しいことしてんな。うん。」
「でしょう!私、幻聴かと思って、慌てて自室に駆け込んだんですから。」
エルナもこんなに慌てることが……前に一度だけ見たかな?
「いや、手が空いたからたまには近況報告でもなと思って。」
「そう、なんですね?」
「今は、フェルドランから東に行って、エリスカって街に居るよ。」
エリスカですか、エリスカ……と思い出すように。
「って大分遠くないですか?もしかして東の山脈を超えたんですか?」
「ああ、大森林を超えるよりは、俺の場合は楽かと思ってさ。」
「飛べる以上、それはそうかもしれませんが、無茶をしますねぇ。」
そうかもなあ。でも最短距離で進みたかったからさ。
「さ、最短距離ですか。」
「そうそう、その時に変な奴を拾ってさ。」
名前をアレクシアっていうんだけど。
「女の子、ですか。」
「元貴族でなぁ。山脈前で路頭に迷ってたから、着いてこさせた。」
「……貴族の女の子に山脈越えさせたんですか。大丈夫なんですか?」
流石に色々ギリギリだったとかは言ってたが、生きてはいるよ。
「今は東へ旅を続けながら、そいつの生きる術を探してる。」
「なんか、レーヴさんは本当に、いつも通りなんですねぇ。」
なんだよ。俺がいつも行き倒れを拾ってるってか。その通りだよ。
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