Chapter22
そうやって、数時間ほどエルナと会話をして。
互いにちょっと疲れてきた頃に、また連絡するといって切ることにした。
「遠距離でも連絡が取れるのは悪くないな。うん。」
これからも暇なときに、忘れてなかったら連絡することにしよう。
気付けばあたりも薄く夕焼け色になっていて、丁度いい時間になっていた。
「おーい、アレクシア。帰ったぞー。」
「おかえりなさい。なんだかちょっとご機嫌ですわね?」
そりゃな。俺自身でもご機嫌なのはわかるくらいだ。
割といいことがあったので、気分としては明確に上向きである。
「わたくしは、静かに刺繍を楽しんでいましたわ。」
「楽しめるのならいいことだな。」
「元々刺繍は好きですが、この状況でも楽しめるものですのね。」
普通は、仕事になったら嫌になってもおかしくないからな。
「どんな感じか、見せてもらってもいいか?」
「勿論。はいどうぞ。」
そういって渡されたのは、刺繍の枠に囲まれた一枚の布。
ここら辺では春の花壇でよく見る、白い花が細かく縫い込まれている布だった。
「おお、綺麗じゃん。」
「お褒めいただきありがとうございます。」
「思っていたよりは、なんというか、範囲も広くできてるな。」
あんだけ言っていたから、一欠けぐらいの範囲しか出来ないものかと。
「これでも手は早いし、急いで作ってますから。」
「そうだな。一個目は、俺が見てみるためもあるしな。」
でもな。
「一日というか、半日かけて、なんだよなぁ。」
「ドレスの一部分となるのが限界ですわよねぇ。」
それでも十分っちゃ十分なんだが。
「よくできるお針子、以上ではないって思うのは厳しいか?」
「いえ、その評価が妥当でしょうね。悲しいことに。」
「因みに、作業してるところを見せてもらうことも大丈夫か?」
勿論と答えるアレクシアに、木枠を返す。
ひゅんひゅんと手元で針を返していくその姿は十分な技量を感じさせるが。
「作業自体は早く見えるんだがなぁ。」
「そうなんですわよね。これ以上早くなるのは普通に難しいですわ。」
「一人で生産性を上げるって方向は、中々難しいか。」
「わたくしの腕が8本くらいあればなんとかしますけど。」
ふむ?
「言ったな?」
「実際腕を増やされてしまうと、多分化け物として狩られますわよ?」
主題はそこじゃない。
「8本ぐらいの腕があっても、針を使いこなすことは出来るか?」
「それは、多分できると思います。賢さと器用さは自信がありますの。」
なるほどね。
「生産性ってところだけなら、意外と何とかなるかもしれん。」
「とてもありがたいことですけど、腕は増やさないでくださいましね?」
腕を増やすよりも簡単な手段を今は考えてるんだよ。
そう……この世界に作ってみるか。魔術式の刺繍用ミシン……!
Chapter23
とりあえず、俺の中での手助けの方向性は固まった。
それはそれとして、酒を飲んで潰れて、次の日は船の出航である。
「よう、船長。今日はよろしく頼む。」
「おう、お客様。快適な航河をお約束いたしましょう。」
「よく判らない仲良くなり方ですのね……」
軽いおっさんは軽いおっさんと惹かれあうんだよ。
「ところで、船旅は初めてなんだが、意外と揺れないんだな。」
「ここは海じゃないし、大河に繋がるから流速も早くないんだよ。」
そういうもんか。揺れてアレクシアが吐き戻すとか危惧してたんだが。
「いえ、揺れることは揺れていますわよ?」
「平気そうじゃん。」
「馬や馬車に比べると、これはこれで、という位に収まってますので。」
馬かぁ。
「俺、馬は乗れねぇんだよな。」
「あらそうですの?貴方様も貴族出身かと思っていましたのに。」
「貴族じゃなくて商家だな。割と大きかったけど、その程度だぜ。」
あと、純粋に、動物全般が苦手だし、走ったり飛んだ方が早い。
「おや。傭兵かと思っていたが、魔術も使えるのか。」
「あー。そうだな。見た目だけ傭兵にしてるけど、本業はそっちだよ。」
ようやく、腰に付けた剣の重さにも違和感を感じなくなった程度だ。
「そうか。お前の方は、俺の船に乗るつもりはないのか?」
「ないなあ。俺、行く場所も戻る場所も一応あるのよね。」
この期に及んで戻らないって言ったら、あいつら総出で怒ってくるだろう。
「それは残念。戻るところがあるのなら仕方がないな。」
「そうそう。ところで、大河まではどれぐらいかかるんだ?」
「半日だな。夜間は進まないから、明日の朝にご覧入れよう。」
初見のお客様には、そこそこ見ごたえがあるとミーロシュは言う。
「そんなことを言われると期待しちゃうんだよなー。」
「期待してもいいものだと思うぞ、この大河で生きるものとしてはな。」
かっこいいねぇ。俺もいつかはそんな風に言ってみたいもんだな。
「フェルドランに戻れば言えるのでは?」
「それは旅の終着点だから……」
「ふむ。二人はどこに向けて旅をしていることになるのだ?」
どこに向けてっていうとだな。
「俺は東の砂漠地帯だし、こいつは適当に、だな。」
「商売やるのなら大きい街がいいですわよね。」
「次のコルヴィアは中々大きいぞ。この国で二番目の都市だからな。」
あー。大河沿いで交易が万全に出来るとな。でかくなるよな。
「そんな街の専属外されたのって割と大事なんじゃねえの。」
「無茶苦茶大事だから、今必死に焦ってるんだな、これがよ。」
Chapter24
「ところで、結局どのようなものを作っていただけるんですの?」
「とりあえず、試作品の一部なら、今日には渡せるぜ。」
船長と別れ、船の一室に。
そう広くもないが、個室である分の値段はしても、快適さ重視だからな。
俺の場合、金は地面から湧いてくるので、気にすることではない。
「一部、ですのね?」
「というか、お前に使えるかどうかを見てもらわんといけないからな。」
先に完成品を作って、使えないとかだと笑え……笑えるけどさ。
「その言い方だと、使いにくいものですの?」
「わからん。」
「貴方様がなにを作ろうとしているのか、想像もつきませんわね……」
俺も最終的な着地点がよく判ってないからな。
普通のミシンでさえどうできてるのかわからんし、ましてや刺繍用だ。
でも、とりあえず、最低限必要なものは判るぞ、うん。
「というわけで、部品の一つを作ります。」
「はい。」
「ここにお前から借りた刺繍針が一本ありますね。」
なんか色々種類があるみたいだが、俺には正直見分けが付かん。
「こいつを、俺の手持ちの魔術金属で同じ形を作ります。」
「それって既に高価なものではありません?」
「面倒臭いだけで錬成できるから、俺にとっては高価ではない。」
見た目は普通に鉄とかと変わんないんだけどね。魔力伝導率がね。
「ここに念動と、お前だけが使える術式を適当に刻み込みます。」
「後者はともかく、念動というと。」
「想像した通りに動くようにするってことだな。」
というわけで、髪を一本よこせ。
「巻き髪の部分とそれ以外の部分とどちらがよろしい?」
「巻き髪は怖いから前髪とかで頼む。」
髪には魔力が宿るからな。その魔力で、条件付けすればいい。
「要はフェルドランの王剣みたいに使用者が限定される奴だな。」
「自然に国宝の機密を漏らすの辞めていただけません?」
漏らしたところで何かできるわけじゃないし、俺は無罪だよ。
「というわけで、出来上がりました。」
「刺繍針、ですわね。」
「お前の魔力でいい感じに動くはずの刺繍針、のはずだ。」
試作品だから違う挙動を見せるかもしれないが。
「え、こわ。」
「大した魔力は込めてないからよっぽど大丈夫だとは思う。」
とりあえず握ってみろ。
「ん。触る感じは普通の針ですわね。」
「お前が触ってから、10分ぐらいはお前の意思で動く。」
「あ、本当ですわね。当然のように浮かぶのが怖いですけど。」
暗殺とかに利用できません?というアレクシアに目を逸らしつつ。
「とりあえず、これで自由自在に動かせるか練習してほしいんだよな。」
「判りましたわ。これでアサシンとして要人を暗殺すればよろしいのね。」
ちげえって言ってんだろ。これで二本目の腕としろって言ってんだ。
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