Chapter25
朝日に照らされた大河は、意外なほどに大きかった。
「でけぇなぁ。」
「でけぇですわねぇ。」
「これ本当に河か?ってぐらいの大きさがあるとはなあ。」
「大きすぎて流れてるのかどうかも判らないですわねぇ。」
他の、初見の客だろうか。
そういったやつらも見て、ちょっとした歓声というか盛り上がっている。
「うっかりすると1か月ぐらいずっと見てそうだわ。」
「そこまで行くのは貴方様くらいだと思いますけど、そうですわね。」
確かに見応えはありますわねぇとアレクシアは呟く。
「どうだ?大河は中々だろう?」
「お、船長。言うだけはあるって感じで、今見させてもらってるよ。」
「そういうお客人を見るのも、この仕事の楽しみなんだな、これが。」
あー。確かに言われてみれば、船員もそこそこ甲板に出てきてるな。
「ここ、河なんだよな?」
「ああ。河の水も、塩水ではないからな。」
もっともそのまま飲むのはおすすめしないと言うが。
まあ、この大きさだと、多分土臭いだろうなぁ。
物珍しさで飲むには、結果が判り切ってる分、流石に気が進まんな。
「ところで、結構客乗せてるんだな。」
「元々、渡り船として、貨物も貨客もどっちもやってるからな。」
「景気はどうだい?近くだとフェルドランの騒動もあっただろう?」
商売やってる人間には、とりあえず聞いておきたいんだよな。
「そこまで影響はねえな。遠くまで行く船は違うんだろうが。」
「山脈と大森林挟んでるからか?」
「貨物を運ぼうとすると、河をぐるりと回っていくことになるからな。」
大森林は超えていくやつらがそこそこいるが、とミーロシュ。
「山脈は?」
「普通は越えられずに死んじまうだろうな。」
「おいおいとしか言えないわたくしが居ますの。」
「なんだよ。生きてるから問題ないだろ。」
一応、命の危険も何にもなく乗り越えられてきただろうがよ。
「傭兵の旦那、魔術師としても卓越してるんだなぁ。」
「あん?」
「じゃなきゃ、足手纏いを連れてそんなことできるわけねえもんな。」
「直球で足手纏いといわれたわたくし。」
まあ、うん。そこについてはな。
「そもそも俺一人で越えてくる予定だったからなあ。」
「拾っていただいてありがとうございます。」
「思っていたよりもまだそこまで長い関係じゃないんだな、あんたら。」
実はまだ一か月も経ってないんだよ。
「見放されないように、必死に面白い女であろうとしてますの。」
「今更見捨てはしないけど、頑張って演じてくれよな。」
「あんたらの関係性、本当にどうなってるんだ?聞きたくはないけど。」
貴族令嬢が頑張って面白い女を演じようとしてるんだよ。判ってやれ。
Chapter26
「それで、実際どうだ?使い勝手は?」
「正直まだ慣れてないというところがかなりありますが。」
一本目の魔術製刺繍針。
そいつの扱いに、やっぱりそれなりに苦心しているらしい。
「慣れの問題でしょうけど、動きが早すぎますわね。」
「調整するか?」
「もう少し慣れても駄目だったら多分お願いすることになりますわ。」
動きが早すぎるってことは、反応が早いってことだよな。
「想像しかけただけで動くのはちょっと使いにくいですわね。」
「そこは慣れる慣れないの問題じゃないから直すわ。」
「そんなに簡単に直せるものですの?」
「これについては俺の特技っていうか、特性みたいなもんだけど。」
俺は術式をシステムとして認識してるからな。
何を直せばいいのかが明確に定義されてるのであれば、すぐ直すぞ。
「まあ。本当にすごい賢者ですわよね。貴方様。」
「これ以上褒めても、特にしてやれることは思い浮かばんぞ。」
知ってますわ、とアレクシア。
「あと、これ、ある程度距離があると落ちるのですね。」
「お前の魔力で動かしてるから、距離もそうだし、重さも刺繍針が限度だぞ。」
「暗殺をするには、ちょっとした工夫が必要そうですわね……」
しなくていいんだってば。暗殺。
「あと、これって最終的には何本も作りますのよね?」
「そのつもりだが。」
「次に作る奴、もっと短くすることは出来ないですの?」
あん?
「短くってことは、縮めるって意味合いでいいんだよな。」
「はい。」
「縮めても大丈夫なのか?小さくとなると使いにくくなるとか無いか?」
うーん、とお互いに首を傾げるところではあるんだが。
「よく考えたら、手で持つ必要がないんですわよね。」
「ああ、そうなると小さい方が細かいことが出来るのか。」
「勿論、小さすぎると不便になりそうなのは確かなんですけども。」
俺の脳みそで操ったら、そう時間かからず絡むだろうな。
「最終的にたどり着きたいのはだな。」
「はい。」
「同じ動きの10本か、違う動きの6本かってところなんだが。」
要は大量生産か、一つの品物を6倍速で仕上げるかという話。
「どちらも出来ればなおよし、ですわよね。」
「そうだけど、目指せるのか?」
「今のところはまだ始めたばかりですもの。道を狭める必要はないですわ。」
目標を幅広く持つことによるマイナスもなくはないんだが。
まあいいか、本人のモチベーションがあるうちは問題もないだろう。
「頑張れよ。お前の未来はお前の腕にかかってるんだからさ。」
Chapter27
大河を渡ること丸一日。
まだ朝日が照らしている中、ひとまずの目的地は大河の奥に現れた。
大河に沿って存在する街、コルヴィア。その港である。
「港町だねぇ。中々というか、かなり立派だな。」
「港町ですわねぇ。この大きさは、わたくしは初めて見ますわ。」
「大きいだろう、この港は俺たちの誇りだからな。」
光を反射する白い石の壁。
荘厳とも言えなくもないほどの雰囲気を、コルヴィアの港は持っていた。
良いねぇ。水辺なのもあって、これはかなり俺好みの風景である。
「俺、この船の子になろうかな。」
「それはそれで構いませんが、お待ちの方は怒りませんの?」
くっそ怒ると思う。
なんなら俺のことを怒りに追いかけてくるんじゃないか?
「じゃあある意味大丈夫ですわね。また会えますもの。」
「いや、でも。流石にどれぐらいの怒りに晒されるか判らんから。」
エルナはそこまでだが、周りの面子の怒り方はやばいだろうよ。
「それはともかく。船長は俺たちばかりにかまけていいのか?」
「未来の大型顧客になるかもしれん二人だからな。」
「あら。じゃあ、もしわたくしの商売がうまくいったのなら。」
「勿論。ご令嬢の商品はこの船でも取り扱わせていただくよ。」
どんな形になるかは判らないけどな!と三人で笑いあう。
「ま、必要があったらまた声を掛けさせてもらうわ。」
「そこそこ期待して待ってるから、頼むぜ、兄弟。」
そんなもんになった記憶はないんだが。
「船乗りは一度酒を酌み交わしたら兄弟なんだよ。」
「いつの間にお酒を飲んでましたの?」
「俺はいつでも飲んでるから、何時なのかは判んねぇな……」
そもそも俺は船乗りでもねえから、飲んでも兄弟にはならん。
「騒がしい方でしたわね。」
「お前も負けてねぇから安心しろよ。」
あっちに乗り換えたりはしねぇからよ。騒がしいが評価点ではないからな。
「それは心配していませんの。」
「心配してたら逆に怖いわ。」
「それじゃあ、宿を取りに行きますか?」
「そうだな。港も見ていたいが、後回しにするか。」
俺だけだったら港を1週間ぐらい見て回っていたが。
「わたくしもいるので、ぜひお休みの時間をくださいませ。」
「勿論。この街ならではの酒も飲まねぇといけねぇしな。」
「この街の名物料理はどんなものでしょうかしらね。」
「酒に合う、ちゃんと美味しいものだったら俺は問題ないぜ。」
そうしてミーロシュの船を降り。
そんな軽口をかわしあいながら、俺たちはコルヴィアに着いたのだった。
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