それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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11話

Chapter31

 

「なあ。何で紫色の糸って、他の色より高いんだ?」

「急ですわね。ええと、たしか純粋に、染料の値段のはずですわよ。」

 

染料の値段。

 

「色の元になるのが高いってことか?」

「そうですわね。確か、それなりに希少な貝か何かを使っていたはず。」

 

なるほど、貝か。

貝は、そりゃあ生き物だしな。高くつくのも当然だろうとも。

 

「例えばだな。魔術で紫の染料作れれば、多少は武器になるか?」

「……色の質にもよるでしょうけど、間違いなく。」

「間違いなくと来たか。」

「上級貴族の色ですもの。質が良ければとんでもないことになりますわ。」

 

よし。概ね答えを得たぞ。

 

「魔術で色を作るなんて、そんな簡単にできますの?」

「俺を心配してるのか?」

「貴方様もですが、わたくしにできるものかも心配しております。」

 

なるほどな。しかしそこはあれだぞ。

 

「純粋に、試してみねぇと判んねぇから試しておきたい奴だ。」

「ああ、なるほど。上手くいくことを願っておりますわね。」

 

過去生では、化学的に染料を作っていたわけだしな。

それを考えれば容易であるといいたいところだが、生憎知識はない。

 

「じゃあ実験タイムってことよぉ。」

「楽しそうですわねぇ。」

「実際楽しいから仕方がねぇんだ。俺は男の子なんだ。」

 

とはいえ、紫色か。自然界だと何から出来るんだろうな。

 

「また市場を巡ってみるかな!」

「吉報をお待ちしておりますわー。」

 

そういって市場を回ってきた結果がこれだ。

 

「赤キャベツとブルーベリーですわね。」

「美味しいぞ。」

「食べたのですね?素材にする前にもう既に食べたのですね?」

 

たまには甘みも食べないと、脳が酢酸で動くようになるからな。

 

「サクサン?」

「要は酒で動くようになってしまうんだよ。それは流石に不味い。」

「その方があなたにとって都合がよいのでは?」

 

それがそうでもない……とこの話は置いといてだな。

 

「適当に、赤キャベツとブルーベリーから色を抽出しようと思って。」

「まあ。面白そうだから横で見ていても構いませんこと?」

「いいぞ。成功するかは今のところ、全く判らないけどさ。」

 

一回作れれば、それを再利用っていうか。

俺には俺のやり方の、卑怯な方法も色々あるもんですからねぇ。

 

「とりあえず。」

「とりあえず?」

「摺りつぶしたり煮込んだりしてみるかなぁ!」

「本当に楽しそうですわねぇ。」

 

ほら、なんか小さい頃にやった薬草づくりとかの延長線よ。

ああいう遊び、本当に好きだったんだよなぁ。懐かしく感じるわ。

 

 

 

Chapter32

 

とはいえ、あれだ。

赤キャベツってリトマス試験紙の代わりになるとかやってたよな。

 

「つまり酸性とアルカリ性で色が変わるってことだよな?」

 

んー。

酸性とアルカリ性ってどう準備すりゃ……ってほどでもねぇか。

酢と、なんかの灰汁でいいだろ。とりあえずそこら辺を用意しておいて。

 

「赤キャベツを摩り下ろして、煮込んでみました。」

「はい。」

「ここに酢を入れます。酸っぱい臭いがしますね?」

「あら、鮮やかな赤になりましたわね。」

 

おや。ううむ。これはこれで綺麗だが、求めていた色とは違うな?

 

「さっき煮込んだ汁をここに取ってあります。」

「はい。」

「ここに灰汁を入れます。なんだかちょっとドロドロしていますね?」

「ドロドロと混ざると、なんだか禍々しい緑色になりましたわね……。」

 

んー。失敗は失敗なんだが。

結果として、酸性は赤で、アルカリ性は緑ってことだよな。

 

「色の対比表的に、緑側に向かうのが正解だよな。うん。」

 

ということは、弱いアルカリ性に近づいていけばいいはずなのでー。

 

「酢と灰汁を混ぜればいいか。」

 

他の手段を検討するのが面倒くさくなった奴がここにいますよ。

というわけで、適当に灰汁を酢で薄めたものを段階的に作って行って。

その途中で、ちゃんとした計量カップを作るなどの話を挟みつつ。

 

「青っぽい。まだ灰汁が強いか。」

「今度は赤いですわ。」

「その間だ、その間!」

 

そんなやりとりが何回か続いた後に。

 

「なんだ、できたじゃん。」

「あら綺麗な紫色。」

「意外と適当にやっても何とかなるもんだなぁ!」

 

いや、過去生の知識ありがとうございますなんですけどね?

 

「紫色の煮汁が用意できたのは良いですけども。」

「ここからどうするかって話だろ?」

「そうですわ……っていうか愚問ですわね?」

「その通りだな!実験タイム続行だよ!」

 

とりあえず、濃くしたいんだよな。結果としては。

というわけで、煮込んでみたものの。

 

「茶色っぽくなったな……?」

「元が植物なので、焦げたのでしょうか。」

 

火を通すとよくないなら、魔術で乾燥させるだけだな。うん。

これで染液は出来たわけだが。

 

「よく考えたらこれで染めても洗えば落ちるよな?」

「……そうですわね?」

「普通の染色ってどうやってるんだろうなぁ。」

 

むむむ。まあいいか、困ったら普通に聞きに行けばいいんだよ。

 

「どなたに聞きに行くのです?」

「市場で糸売ってたおばちゃん。買い物すりゃ教えてくれんだろ。」

「賢者は人に教えを乞うのも躊躇がないものですのねぇ。」

 

そんな偉いもんじゃねぇよ。

最悪、魔術で暗示かけてでも聞き出そうとしてる程度には悪人だよ。

 

 

 

Chapter33

 

「ミョウバン水に浸けるのが正しいらしいです。」

「そういってましたわね。」

「絶対、俺の実験だけだと出ることがない方法だったな……」

 

とにかく、正解が出てしまったので、これはこれで。

 

「ミョウバン水に浸けて、半乾燥させます。」

「はい。」

「水分を飛ばした染液に浸けて、染み込んだら取り出して乾燥させます。」

 

そうして出来上がった紫色の糸を、二人で眺める。

 

「出来たなぁ!」

「出来ちまいましたわね……?」

「なんだ、不服か?」

「貴方様に拾ってもらった幸運を真剣にかみしめているのです。」

 

そんなことを感じなくてもいいんだけどなぁ。俺は楽しいし。

 

「ところで、乾燥させる工程が多いですわね。」

「お前がやるときは、日光に当てずに自然乾燥かな?」

「日光に当てないのはどうして?」

「日光に当てると物によっては変質するものもあるからだよ。」

 

これがそれに当てはまるかどうかは知らんけど。

 

「恐ろしいほどに私一人で作れそうな手段でしたわね。」

「それを目標としてたわけだしな。」

「刺繍の練習と合わせて、試しに一回やってみますわね。」

 

今の時点で出来るのは、紫の煮汁を作るまでかな。

 

「ここからは、日光に当てずに自然乾燥、でしたか。」

「メモとってもいいんだぞ?」

「いえ、わたくしの糧となる知識ですので、そんなことできませんわ。」

 

ま、それもそうか。

書き残して、奪われたらそれでもう終わりなのが知識ってやつだもんな。

 

「個人的には公開して社会の発展に繋げてもいいんだが。」

「わたくしの商売がある程度成り立ったらそれも考えますわね。」

「そこを先にやれとまでは、俺も言える気がしねぇなぁ。」

 

とにかく、これで一回刺繍をしてみるのもいいんじゃないかね。

 

「そうですわね。商品の見本として、作るべきですわね。」

「微妙に納得いってなさそうだなぁ?」

「ここまでくると、本当に何をすれば恩を返せるか判りませんもの。」

 

そうは言うが、まだ問題が全て解決したわけではないんだぞ?

 

「仕入れと販路と自己防衛と拠点がまだ決まってないからな。」

「全部大きな問題ですのに、なんででしょう。拍子抜けしますわね。」

 

解決の目途が立てやすいものしかないからな……

今までに比べると、そりゃあ簡単に思えるだろうよとしか言えんな。

 

「ま、俺が居なくなっても大丈夫なように、頑張って見せろよ。」

「そうですわね。まずは自立が恩返しの一歩目ですわ。」

 

別に恩返しなんかもいらんのだけど、貴族としてそれはないんだろうな。

 

 

 




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