それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

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12話

Chapter34

 

「そういえば、ブルーベリーはどうしましたの?」

「美味しくおやつとしていただきました。」

「なぜわたくしに分けてくださらないのか、これが判りませんの。」

 

いいだろ別に。

お前も欲しけりゃ小遣いあるんだから、適当に自分で買って来いよ。

 

「わたくし、刺繍の練習で忙しいですの。」

「何言ってんだこいつ。」

「美味しいものがないと死んでしまいますの。貴方様のお酒のように!」

 

なんだと。

 

「俺の酒かぁ。俺の酒ねぇ。じゃあ仕方ないなぁ。」

「嘘でしょ、この人。これで納得しますの?」

 

別に本気で納得してるわけじゃねぇけどよ。

 

「というか、ちゃんと休憩取れてるか?」

「……寝てはいますの。」

「そこまで急いでるわけじゃないんだから、もっと緩くいこうぜ。」

 

とはいっても、アレクシアにとっては矜持が許さないんだろうが。

 

「ちゃんと寝ないと、こういうのって覚えが悪いんだぞ。」

「……そうですの?」

「これについては治癒術師としての誇りがあるから嘘は言わないぜ。」

 

他のところでは嘘でも何でも言うけどさ。

 

「それもどうかと思いますけれど……」

「まあ、たまには休憩でもしようぜ。港行くか、港!」

 

船から見た港じゃなくて、港から見た船でも見に行こうぜ。

 

「全く、貴方様は……いえ、不満は何一つありませんけど。」

「それも怖いな。不満ぐらいはいつでも言ってくれていいんだぜ?」

「直すかどうかは?」

「その時の気分と、内容次第だと思います。」

 

ですわよね、とアレクシアは少し疲れたように微笑んだ。

 

「じゃあ、行くか。」

「そうですわね。丁度お昼時ですし、何か食べましょうね。」

 

うむ。でかいとはいえ、大河だから何が食べられるか知らんが。

 

「海とはやっぱり違いますの?」

「そうだなぁ。寄生虫とか色々な差があるから……」

 

あと、海ならイカとかタコとか。

 

「どちらも聞いたことはありますが、食べたことはないですわ。」

「美味いぞ。見た目は若干うねうねしているが。」

 

生で食べても茹でて食べてもいいんだよなぁ。

 

「生……生ですの?」

「あー。内陸の国で育ってると、生食文化はあんまりか。」

 

やっぱ地域差があるよなぁ。食文化って難しいねぇ。

 

「北の国でしたか。貴方様が言うからには美味しいのでしょうねぇ。」

「おう。俺の味覚はそこそこ信用していいぞ。」

「でも今日は貴方様も、港に行くのは初めてなのでしょう?」

「いいじゃねえか。たまには、適当な屋台飯を食い歩くのもさ。」

 

多分、この二人で行動するのも、それほど長くはならないだろうしな。

 

 

 

Chapter35

 

「いいねぇ、大河。俺、いつかはこういうところに住みたい。」

「海の方がお好きなのでは?」

「海は海でいいが、大河は大河でいいところがあるんだよ。」

 

特に風の匂いは好き嫌いが分かれるな。俺はどっちも好きだけど。

 

「船から見るとキラキラしてましたが、ここからだとそうでもないですわね。」

「そうだなぁ。結構、石って感じの質感に感じるよな。」

「逆に大河が陽の光を反射していて、光の波みたいですのよ。」

 

貴族の令嬢だけあって、割と詩的な物言いをするんだな。

 

「詩歌はそれほどといったところですけど、ね。」

「ちゃんとした教育を受けてきたことが判るのは良いことだろ。」

 

流石に商家じゃ、そこまでの教育を受けることはなかったな。

 

「ところで、何を食べますの?結構屋台は出てますけども。」

「ここでしか食べられないものが理想だな。」

「具体的なふりをして、半端なく抽象的な発言が来ましたわね。」

 

とりあえず。

 

「飲み物は酒でいいだろ。」

「貴方様、お酒以外に飲み物ちゃんと摂ってますの?」

 

どうだっけ。舌を変えるのに水は飲んだりすることもあるが。

 

「まあ、貴方様ですからそれでも健康なのでしょうけど。」

「任せろ。」

「わたくしは普通ですので、お水か果物水でもいただきますわね。」

 

そうしとけ。俺も人にこの食生活を押し付ける気は全くない。

 

「さて、飲み物はいいとしてどうします?」

「川海老の唐揚げが売ってるのでまずはそこに行きたい。」

 

サクサク感と塩味が酒を進めるんだよ。

 

「言っちゃなんですけど虫っぽくないですか?」

「言っちゃなんだと思うなら口にしちゃいけないって思ってくれ。」

 

そういうお前はどうするんだよ。

 

「とりあえず、蜂蜜の焼き菓子をいただきますわね。」

「地味に糞高いもの選んできたな……まあ問題はないけど。」

 

そういうのって、実家で食べてたものの方が美味いんじゃねーの。

 

「微妙に郷愁感が湧いてくるのがいい感じのスパイスですのよ。」

「そのスパイス、あんまり利かせると精神的に良くないと思うぞ。」

 

もっと精神安定につなげた方がいいんじゃねーかな。

 

「む。じゃあ貴方様は次の一手はどうされますの?」

「そこの糞美味そうな匂いがする謎の寄せ鍋スープに行きたい。」

「いいセンスしてるじゃありませんか。わたくしも同感ですわ。」

 

フェルドランの煮魚はやばかったが、こっちのはどうかな。

 

「すげぇ普通にうめぇのな。」

「貝の出汁がスープに染み出していて、お野菜が美味しくなってますのね。」

 

やっぱり香草は入れちゃいけないんだよ。全ての料理にさ。

 

 

 

Chapter36

 

「聞いてくださいまし。」

「どうした。」

「このスープ、パンを浸して食べるとクッソ美味いのですわ。」

 

お前、貴族の令嬢としてその食べ方はありなんですの?

 

「屋台のおっちゃんが言ってたからいいと思いますのよ。」

「お前がそれでいいならいいわ。」

「ところで貴方様は今は何をお食べに?」

「大貝のフライ。糞熱いけど中々肉厚でこれはこれでいいぞ。」

 

ちょっと大味な感はあるけどな。それを上回るデカさがある。

 

「中々お腹がいっぱいになってきましたが。」

「本当は制覇したいところなんだが。」

 

こういう時には、カスパルやユレンが欲しくなるな。

一口食べてからあいつらに渡すといい感じに食べきってくれるからさ。

 

「はー。フェルドランでも貴方様は人気でしたのねぇ。」

「そういうわけでは、ないと思うが。」

「いいえいいえ。なんだかんだで人に囲まれるのは人徳ですわよ。」

 

口に出さなくても、わたくしとかって言ってるのが聞こえるわい。

 

「人徳なぁ。」

「どうかしまして?」

 

いや、なに。フェルドランだったらもう少し楽だったんだが。

 

「ここら辺に知り合いとか、いねぇんだよなぁ。」

「それがどうかしましたの?」

「お前の手伝いをさせる相手に事欠いているわけなんだな。」

 

結局、なんだかんだで工房も売り子も護衛も必要だろ。

 

「それは、確かに、知り合いがいたら話は早いですが。」

「そうだろ。俺たちのここでの知り合いなんか。」

「いることはいるんですが、頼っていいのか微妙ですわよね……」

 

脳裏に浮かぶ、金に眩んだ眼をする船長の姿。

 

「わたくし、あの方はよくわかりませんのでなんとも。」

「いい奴なんだが、商売が絡んだ時にどうなるかはわからんな。」

 

飲み込んでくるかも知れんしな。……ってあれ?

 

「それはそれで、お前が良ければありなのか?」

「あの方の商売の中に含まれるってことですわよね?」

 

あいつが、アレクシアを尊重する保証さえあれば悪くない、かも。

 

「その保証がどこにもないのが駄目ですわね。」

「お前さんを飼い殺しぐらいはしてもおかしくないもんな。」

 

そうなると、流石にアイツだけに頼るわけにはいかない、な。

 

「ちょっといい案だと思ったんだけどなぁ。」

「根本的に、わたくしに自衛能力がないのが重いですわねぇ。」

「実は目から怪光線が出るとかそういう機能はないのか?」

「実はそういう機能がない程度には、ごく普通の美少女ですのよ。」

 

そうだなぁ。見る分にはそれなりに普通に美少女やってるもんなぁ。

 

 

 




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