Chapter13
「あの、師匠って呼んでいいっすか……?」
「え、良くねぇけど。」
ふざけたことを言うユレンを一蹴する。
俺はそんな偉そうなものには、なったこともなるつもりも全くない。
「で、でも、魔術を教えてくれるなら、俺は弟子ってことじゃないですか。」
「俺の気まぐれに付き合わせただけなんだが。」
そんな理屈あるかよ。
というか、わざわざそんな面倒臭い関係にする必要がどこにあるんだよ。
「弟子なんて、なんの報酬も出ないのに下働きをする仕事だぞ?」
「放浪してる賢者様の弟子になるとか誉れじゃないですか。」
「どこが誉れなんだよ。ただの下働きに何の名誉があるというんだ。」
「ほら、そういう英雄譚ありますし。」
……憧れが先にあるやつかよ。面倒くせぇなあ。
「あんなの作り物だろうが。」
「えー。」
「えーじゃない。作り物なんかよりちゃんと真面目に訓練しろ。」
戦士としての筋は良くないらしいが、治療師としての筋はいい。
いいというか、よく訓練で怪我をするから、その治療回数がそこそこ多い。
治癒魔術なんて、最終的には経験数が物をいうからな。
「っていうか、何で師匠は賢者って名乗らなかったんですか?」
「賢者は称号で職業じゃねえだろうが。自分で名乗るものでもねぇんだよ。」
「かっけぇ……!俺もそんな言葉言ってみてぇ……!」
こいつ、なし崩しに師匠呼ばわりしてきやがる。
とりあえずカッコいいものに憧れるのもガキか?ガキだったわ。
「俺も英雄みたいになってみたいんだけどなー。」
「せめてそこらの兵士に一本取れるようになってから言え。」
「そういう師匠は強いんですか?」
はぁ。強い強くないを価値観の一部にするのは、余りにも不健康だぞ。
「俺は戦わねぇんだよ。」
「フレデリクさんは、油断ならない相手だって言ってましたけど。」
あいつなー。そりゃ戦えばどうなるかって話だけどよ。
「フレデリクはちゃんと剣を教えてくれてるか?」
「はい、なんか、いい経験になってありがたいって言ってましたけど。」
あー。素人に戦い方を教える練習台にされてるのか。
確かに、フレデリクは自分の立場に自覚もあったもんな。
そういう経験も必要だってことは、ちゃんと判ってるに決まってるか。
「まあ、とにかく素直に訓練しろよ。他の奴の2倍速で進めるんだから。」
「それもそうっすか。」
「いっぱい訓練していっぱい食べていっぱい寝ろ。そのうち形にはなるさ。」
一角の人間に至ることが出来るかまでは、俺は保証できないけどな。
Chapter14
反乱軍の幹部が集まる中で、俺は部外者ながらも口を開いた。
「今日話したいのは、反乱軍の展望について、だ。」
「……中々重い話題を持ってきたね。」
ま、幹部といっても殆どが顔見知りだ。
首魁である第三王子の客分扱いの俺が喋る分には、特に問題はない。
「近隣の民を助けるのは結構だ。王剣が使えるようになったのも悪くねぇ。」
「そうだね。」
「ま、そこについては実際上手くやってるとは思うぜ。」
だけどそこには大きな問題点が残ったままなんだよなぁ。
「で。確認なんだが、偽王軍、今何してると思う?」
「……各地の貴族や領主の取り込み、かな。」
「そうだな。あと、反抗的なとこは潰して回って地場の安定に努めてる。」
実に適切に動いているんだよな、これが。
「その上で確認なんだが、お前ら反乱軍は何してる?」
「仲間集めと、民の救助……だね。」
「うんうん、必要なことだな。今打つ手じゃねえだけで。」
第三王子の顔色的に、どうやら言いたいことが伝わり始めたらしい。
「今のお前らは、偽王軍に全部後手に回っちまっている。」
「仲間集めは進んでるけど、それじゃだめってことだよな。」
カスパルも、第三王子と同じぐらいの理解程度だな。よしよし。
「今この国で起きてるのはな、陣取りだ。」
「陣取り?」
「反乱軍と偽王軍で、貴族、兵、金、土地。どっちが多く取るかの勝負だ。」
取り合って、最後により多く持ってる方が勝つシンプルなルールでな。
「反乱軍の勝利は、第三王子による王朝の復古。そのための条件は判るか?」
「条件?」
「勝ち方だよ。正当性を維持したまま、正面から偽王軍を打ち破るしかない。」
それ以外の勝ち方だと、勝っても目的を達成できないんだよ。
「簒奪直後のこの時期なら、どちらにつくか決めてない奴らも多いしな。」
「偽王軍は、順当に手を広げている。そういうわけであるか。」
「そうだな。大駒を取りに行くか、小駒を纏めるかは戦略次第だが。」
フレデリクは、流石に理解できてるな。
「問題は、お前らが陣取りに参加してねぇってことだよ。」
「そんな。」
「時間は偽王軍の味方だよ。その内、ここまで手が伸びて潰されるだけだな。」
「……じゃあ、どうしろっていうんだよ。」
ここまで来て、ようやく第三王子が苛立ったような声音を出す。
「早いうちに、戦争の始め方と終わり方を決められる奴を連れてくることだな。」
ま、まだ間に合うと思うぜ。ギリギリな。
「貴方では、引き受けてくれないんだよね。」
「言っただろ。俺は宿代代わりに知恵だけ貸してやるってさ。」
さて、そんなちょうどいい人材が、ちゃんと見つかるといいんだがね。
Chapter15
「はぁ。」
「あら賢者さん、ため息なんてついちゃって。お酒追加する?」
「いや、やめとくよ。今日は酒の気分じゃない。」
柄にもない説教なんてしちまったからには、な。
人に対して偉く出られる人間じゃないのを、自分が一番知ってるのにな。
こういう時は、酒を飲んでも自己嫌悪が強くなるだけなんだよ。
「お隣、いいですか?」
「……エルナか。構わんが、今日の俺は楽しくないおっさんだぞ。」
構いません、とエルナはそっと俺の横に座った。
「今日は、すごく苦しそうでしたね。」
「……そんなことないぞ。上から目線の説教なんて娯楽の内だ。」
普段ならね。
「お酒、今日は呑まれてないんですね。」
「真面目な話した後には呑まねぇようにしてる。」
「まあ。」
そういって薄く微笑んだエルナに、酒を注文してやる。
どうせこいつも俺に何か言いにくいことを言いに来たんだろうからな。
酒の勢いで、なんでも吐き捨ててって構わんよ。
「レーヴさんも、お酒の力に頼ることがあるんですか?」
「頼りたくなるから頼らねぇようにしてる。」
「……そう。じゃあ、私もレーヴさんに見習おうかな。」
一度は傾けかけたグラスから手を離すと、エルナは小さな声で呟いた。
「なんでここまでしてくれるんですか?巻き込んでしまった私たちに。」
「なんでってなぁ。」
なんでだろうなぁ。
若者が失敗するところを見たくないのかな。
「俺、結構色々なやらかししてるのよ、生まれ故郷でさ。」
「はい。」
「取り返しが付かないことばっかだ。もう何もしたくなくてな。」
だから、できれば世界は幸せなものであって欲しいんだな。
「……なぁんてな。こうやって戯言を垂れ流し続ける毎日よ。」
「ごまかさなくていいのに。」
「ごまかすさ。これでもお前さんらよりもずっと年上なんだから。」
そうは言ったものの、流石にちょっと居た堪れなくなってきたな。
何か誤魔化すものはないかと思考を巡らせ、これだと思って取り出した。
「弱音を聞いてくれたエルナにはこれでもくれてやろう。」
「なんですか、これ。」
「コランダムで作ったお守り、だな。星見の精度がちょっと上がると思うぜ。」
青のコランダム、つまり人工サファイアってやつだな。
「俺が昔使ってたやつで悪いけどな。」
「いえ。いいえ。」
「使い捨てにすると、割と大きな占いでも一発ぐらいならいけると思うぜ!」
そんな使い方はしませんから!と。
エルナはまるで大事なものであるかのように、それを大切に受け取った。
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