Chapter16
今日も、昼から酒を飲んでいたらカスパルが奢られにきた。
「おっさん、戦いが嫌いなんだよな。」
「おっさんじゃねぇけど、おう。」
大盛飯を食い進めるカスパルが、ふと気が付いたように聞いてきた。
「戦いが嫌いなわりに、人のこと蹴り慣れてねぇか?」
「それを語るには俺の過去を無駄に長く語る必要がある……」
「長いならいいや。そこまで興味ねぇし。」
俺も別に語る気はないから丁度良かった。
過去話なんてなんの利益も出ないし、落ち込むところまでセットだからな。
カスパルに見せたいような態度ではないもんだ。
「妙に立ち回りは上手いしよ。参考にしたいと思って。」
「参考に、なぁ。お前さん弓使いだろ。」
「エルナ庇いつつ、攻撃避けつつ、必要に応じて蹴るみたいなのうめぇじゃん。」
ああいうの、俺の理想なんだよねというカスパル。
やりたいことはなんとなく判るが。なんというか、無理寄りかなぁ。
「あれは周りの観察が前提だから、弓射るのに集中してたら出来ねえぞ?」
「そりゃそうなんだけど、目標は高くてもいいじゃん。」
くっ。真面目な若者すぎて、眩しすぎて涙が出てきそうになるぜ。
これはもう酒を飲んで気を紛らわすほかにない。俺を止めてくれるなよ。
「とりあえずコツとかあったら教えろよ。」
「んー。コツねぇ。」
「無いとか言うなよ?」
ありはするんだけどよ。正直コツでも何でもないというかさ。
「敵の獲物から危険な順番に割り振って、立ち位置決めてるな。」
「どこに攻撃届くかとかそういうのか?」
それだな。言われんでもわかってるわ、と言われたらそれまでの話のやつだ。
「じゃあ、本当に基本に忠実にやってるだけなんだな。」
「そりゃそうだろ。特別な何かがあるならさっさとそれを教えとるわい。」
それもそうかとカスパルは小さくうなずいた。
「でも、なんでおっさん毎回蹴りなんだ?杖持ってんのに。」
「杖で殴って折れたらどうすんだよ。」
「いや、まあ折れたら困るだろうけど。武器だろ?」
武器だけどさ。
「貰いものなんだよな。気に入ってるから壊したくない。」
「いいやつなのか?」
「普通の杖だな。本気でただ気に入ってるから使ってるだけだ。」
魔力伝導率も普通、硬さも重さも普通の、ただの柊の杖だよ。
「気に入ってるものは壊したくないわな。」
「そうだろ?」
「俺も、この弓、フレデリクさんにもらったやつそのまま使ってるもんな……」
こいつ、フレデリクはさん付けで呼ぶんだよな……どこに差があるのかね。
Chapter17
「ところでよぉ。」
「はい。」
「なんでこの国は魚がこんなに臭いんだ?」
香草と煮込まれた魚をつつきながら独り言ちめいて愚痴を言う。
この国の魚料理は香草でがっつり煮込む系である。
もしかしたら今度こそは美味いかもしれないという思いで頼んでみたものの。
「魚も香草も臭いんだよなぁ。なぜ組み合わせちまったんだ?」
「魚は臭いがありますし。それを香草で臭い消ししてるわけですよ?」
「消えてねぇんだよ。増やしてるっていうんだよ、これは。」
魚が好きだからこそ、これはちょっと。
同じものを普通に食べているエルナが、また一口食べて首をかしげる。
「美味しいですよね?」
「味はな。でも臭いがどうしてこうなっちまうんだ?」
「他の国だと違うんですか?」
違うな、と俺は目の前の皿を横にどかした。
そっと戻そうとしてくるエルナと、小さく押し合いになる。
「俺の出身は海が近かったからな。」
「海……」
「行ったことねぇか?」
「子どもの頃に一度だけ……広かったのは覚えてるんですが。」
この国も一応海に面してるんだがなぁ。
「仕方ねぇな。俺が飛び切り美味い魚を食わせてやるよ。」
「それは……いえ、楽しみにしてますね。」
「おう、待ってろよ。女将さーん!注文よろしくー!」
エルナが何かを言い淀んだが、俺はさっそくと動き始めた。
「はいはいなんだい?酒のお代わりかい?」
「いや、この魚焼いてくれねぇか?下処理済だから塩振って焼くだけでいい。」
「どこから出したんです!?」
「えー?焼くのかい?見たことのない魚だけど。」
焼くんですよ。大体皮がパリパリになるぐらいまで焼くと脂が落ちて丁度いい。
「北国の魚だよ。焼くだけで美味いし、酒に合う。」
「はぁー。まあいいか。ちょいとお待ちよ。」
「どこから出したんですか……?」
それはこう、ちょちょいと位相をずらしてだが?
「よくわかりませんが、またとんでもないことをしてるのは判りました。」
「褒められてると受け取っとくよ。」
「すごいなと感心はしていますが、褒めてるわけではないですよ?」
そんなこんなで焼き魚が来たので二人でつつく。
「美味しい!」
「これよこれ。冷やしたエールがよく合うんだよなぁ!」
個人的にはここに大根おろしと醤油があるなら日本酒でもいい。
「え。エールを冷やすんですか……?」
「そこも引っ掛かりやがるのかよ。」
さてはて、食文化とはかくも認め合いが難しいものであることよ。
横にずらした煮魚は頑張って自分で食べました。不味くはないんだけどなぁ。
Chapter18
「んで、何の用だい?俺は朝から酒を飲んでくだを巻くのに忙しいんだが?」
「それよりは建設的なことを聞きたいと思ってね。」
その日は珍しく、第三王子が俺に用事があると呼んできた。
お付きもいないし、本当に2人きり。信用されきってるけどいいのかね。
「ユレン君だっけ。魔術を教えてるらしいね。」
「……気紛れにな。」
「その気紛れは、うちのエルナには起きないのかい?」
あーめんどくせぇ。そういう話かよ。その内来るとは思ってたけどさ。
「気紛れは気紛れなんだよ。気分の問題だ。」
「肩入れする理由が一つでも湧いてくれれば、僕的にはありがたいんだけど。」
「そういうのはねぇんだよ。変なちょっかいをかけるんじゃねぇ。」
「星見のお守りはそういうつもりではなかったのかい?」
はぁ。
きっちりと把握してくるのは、多分酒場の女将さんあたりからの情報か。
「面倒臭いから嫌なんだよ。訳ありにそういう話を振るんじゃない。」
「おっさんというほどの年齢じゃないだろう?」
「そこまで判ってるならカスパルをもう少し躾けといてくれねぇか?」
あはは、と第三王子が笑う。
「っていうか、エルナは20代の前半だろ?俺とは年が離れてるよ。」
「23歳だね。貴族だとそれぐらいの差はないようなものだよ。」
「俺は貴族じゃねえんだよ。因みに聞くが、そういう王子はお幾つで?」
18歳、と。乳兄弟のカスパルも同い年だな。
「俺のほぼ半分の年齢なんだよなぁ。よくやってると思うぜ?」
「お褒めに預かり恐悦至極。でも年齢で許される立場ではないからね。」
ごもっとも。でも俺は年齢はやっぱり年齢としてあるべきだと思うぜ?
「俺的には、立場が辛いなら逃げ出しちまえって感じなんだが。」
「それをすると後悔する自分が目に見えているからね。やめとくよ。」
間違いなく俺よりも人間として出来ている若者なんだよなぁ。
「ま、選択肢の一つには入れといてもいいんだぜ。」
「選ばないようにしたいところだけどね。」
「その時は、俺が逃げる手配ぐらい整えてやるから、声かけろよ。」
そういうと、第三王子は少し目を見開いて、それから笑った。
「貴方が最初から協力してくれていれば、その選択肢も不要になるよ?」
「俺は戦争までは責任負えねぇんだよ。」
「判ってるさ。それでもありがとう。」
こういう若者がさ。
平和に生きていける世界が欲しいと願うぐらいは、肩入れじゃないよな。
そんな益体もないことを思って、俺は杖を握りしめたのだった。
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