Chapter22
「反乱軍には拠点が必要です。」
「失ってしまったばかりだ。あれを取り戻すのは難しいと思う。」
いいえ、あれでは足りませんと、その壮年の男は力強くいった。
「誰しもが納得するような、集うための場所。それがこれからは必要なのです。」
「その通りだな。失ったものを取り戻すだけじゃ足りはしない。」
ローデン砦を乗り越えて辿り着いたのは学術都市のフェンズ。
ここで出会ったのが、王子の知る知恵者、コルニス殿である。
モーリス王子と、死んでしまった第一王子の教育係を任されていたらしい。
「その場所については心当たりはあるのかい?元教育係殿。」
「勿論ですよ、フェルドランの賢者様。過去に放棄された砦があります。」
用意されていた大判の地図に、こちらですと示される。
フェンズの近くにあり、その上で砦からはそれなりの距離にある。
実物を見ないことには何とも言えねぇが、場所はまあ悪くないんじゃないか。
「へぇ。いい場所にあるじゃねえか。何で放棄されてたんだ?」
「200年ほど前に、王族の傍系の女性がそこに住んでいたのですが。」
おっといきなり雲行きが怪しくなってきたな。
「あれか?悲劇の死を迎えたことで悪霊化したか?」
「惜しいですね。永遠の美を求めて自力で吸血鬼化しました。」
アクティブだなぁ。
「その後、退治されたのは良いものの、誰も使おうとすることなく……」
「まあそりゃ嫌だもんな。」
「そうしたら今度は野生の吸血鬼が住み着いてしまったというわけです。」
「呪われてるぜ、その城。今の内に燃やしとこうぜ。」
お焚き上げだよ、んなもん。
吸血鬼も野生から生えてきてんじゃねぇよ。大人しくしてろよ。
「つまり、まずは吸血鬼退治からってことだね。」
「勿論、追い出すだけでもいいですし、味方にしてくださっても構いませんが。」
そこは変に逃がすよりは退治しといた方が世間様のためな気がするけどね。
「ええ、私もそう思います。王子の武勇を示すためにも、撃破が望ましい。」
「宣伝になるならそれに越したことはない、か。」
「初対面のはずなのに、先生もおっさんもすげぇ楽しそうだな……?」
王子の乳兄弟として、一緒に教育を受けていたカスパルにとっても先生らしい。
「前向きな話をできるのは楽しいことだぜ。お前もその内判るよ。」
「わかりたくねぇなぁ。」
そういってられる立場で居られると思ってたら大間違いだぜ、カスパル。
否が応でも巻き込まれていく立ち位置なんだからな、お前も。
Chapter23
ところでさ。みんな判ってるのか知らねぇんだけど。
「吸血鬼なら、それなりの対策は必要だぜ?」
「例えば?」
「あいつらは魔術で死霊の群れを作れるからな。」
動く骸骨とか幽霊だな。バリエーションには乏しいけど。
生きてるわけじゃないから、強くはなくても案外倒しにくいやつらである。
「……どうやって倒すんだい?」
「魔術生命体と同じだな。魔力の核があるからそれを割ればいい。」
「どうやって見極めればよいのだ。」
「大抵身体の中心にあるから、心臓を狙っておくのが無難だな。」
外れてた時にそのまま動くから、ちょっと注意がいるけどな。
「人間は、その分素直だからなぁ。心臓潰れれば普通は死ぬし。」
「普通じゃないときもあるのかよ。それ。」
「たまにいるんだよ。それぐらいじゃ死なない人間がよ。」
この世界の人間の、気持ち悪いところである。
「王子とフレデリクは剣を使うとして、エルナは火属性の方が効率がいいぜ。」
「火、ですね。得意ではありませんが準備しておきます。」
「俺の弓は?」
「正直、相性が悪いな。槍か杖でも持って行った方がマシだろ。」
弓は骸骨相手だと何ともならんからなぁ。
……銀の矢でも持ってくか?いや、流石に費用対効果が悪いな。無し無し。
「素直に王子かエルナの直掩に回っとけ。」
「あいよ。おっさんは?」
「俺の蹴りで砕けない骸骨なんぞいない。」
居たら、多分カルシウムじゃなくて鋼鉄か何かで出来ていると思う。
それって骸骨か?骸骨の形をしたアイアンゴーレムか?どっちだろうね。
「吸血鬼、ですか。存在は知っていましたけど……」
「実際に戦うことになるとは思わなかったか?」
「ええ……しもべを作るなんて、まるでおとぎ話の魔王みたいですね。」
別に魔王もしもべがいる奴ばっかりでもないんだけどな。
「基本的には、雑魚は相手にせずに本体優先だな。」
「その心は?」
「消耗戦になったら面倒くさいだけだ。」
無限湧きする死霊を相手にしても何の得もしねぇからな。
「あとはまあ、退治後を見越して動けばいい。」
「退治後?」
「拠点として使うってことなんだからさ、判るだろ?」
あんまり壊したり汚したりするとよくないんだぜ。
そうじゃなければ、吸血鬼のいた城なんて燃やして終わりだからな。
更地から作り直すには時間がないから、そんなことも言ってられないが。
本当に、これからは時間だけはもう取り返しはつかないからな。
俺の本気、ちょっとだけは見せてやってもいいかもしれないな、うん。
Chapter24
平坦な平原を、借りてきた一頭の馬だけ連れて、ぞろぞろと歩いていく。
「そういや、あいつ元気にしてっかなー?」
「あいつ?」
「ユレン。置いてきちまったからな。」
「なんで置いてきちゃったんですか……?」
いやだって。
「反乱軍には直接関わらせてなかったから……」
「ちゃんと説明したら着いてくると思うんですけど……?」
そもそも別に連れてきたいという思いもなかったわけであるが。
だってそもそも戦わせるために拾ったわけでも何でもないからな。
「多少の金は渡しといたし、治療術師としての経験も積ませた。」
「それだけか?」
「治療院でも何回か遊ばせたし、働き口ぐらいはすぐ見つかるだろ。」
「それでもおいてくるのはちょっと……」
私だったら傷つきます、とエルナは呟いた。
「いや、そんなことねぇよな。なーカスパル?」
「俺に振るなよ。そうだな、俺ならとりあえず探してみるかな。」
「僕だったら追うね。間違いなく追う。逃がさない。」
王子が怖いんだけど。
「追ってどうするんだよ。」
「なんで置いていったかを問い詰めた上で、二度としないように誓わせるね。」
「気紛れで拾っただけだし、面倒見たんだから置いてくぐらいいいだろぉ……?」
クズの論理である。とフレデリクが一刀両断した。
どうやら俺にとって不利な話題であるようなので、話を変える。
「コルニス殿とはいつからの付き合いなんだ?」
「兄様の教育係を終えられてから僕たちに着いてくれたから、10年前かな?」
結構古くからだな。
「どんなことを教わってたんだ?」
「ほとんどは歴史と地勢だったね。今も昔も思慮深くて穏やかな方だよ。」
「ふうん。丁度いい人材がいるものだな。」
もっと早く頼れればというのは、俺と王子どちらにとっても禁句である。
「軍師というには穏やかだけど、その方向性もできるのか?」
「宰相付きだったこともある方だからね。」
「軍事よりは政治寄りだけど、ってところか。」
ま、足りなくても助け合って何とかしていくしかないんだけどさ。
「順番に人集めしていくしかないからな。」
「陣取り合戦に今度こそ負けないようにね。」
本当だぜ。今度負けたら、モーリス王子の正当性自体も怪しくなるからな。
「偽王軍に対抗できる旗頭は、モーリス王子の正当性しかないもんな。」
「残念ながらね。」
「勝ち方も限定されるのが、この反乱軍の一番弱みであるってことだな。」
戦力差で負けてるのに手札も制限されてるとかね。やってらんないよなぁ。
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