それでも賢者は逃げていく   作:re=tdwa

9 / 32
9話

Chapter25

 

吸血鬼の根城は、そこそこに広々とした廃墟だった。

 

「昔は城下町もあったみてぇだな。」

「住んでた王族が気前のいい方だったらしい。」

 

それ金遣いが荒いって言わねぇの?

まあ、王族が金を使うのは義務みたいなところもあるから悪い話ではねぇが。

 

「とりあえず、正門から入るかね。」

「開いていればいいがな。」

「閉じてたらその時考えればいいさ。」

 

別にゲームでも何でもないし、攻略順なんて関係ないからな。

 

「ここが正門か。」

「開けるか?」

「いや、待て。中に色々いるからここは止めよう。」

 

開けたら一気に骸骨だの悪霊だのの群れが襲ってくる奴だ。

 

「ではどうするのである?」

「こうしようぜ。」

 

地面から岩を隆起させて簡易的に階段を作る。

そこそこ大きな音がなるが、今更だ。相手の舞台上であることに変わりない。

 

「上から入ってこんにちはってことで。」

「貴様、本当になんでもありであるな……?」

 

戦争以外はな。

 

「というか、そんな魔術が使えて攻撃魔術が使えないって嘘であろう?」

「嘘に決まってるけど使わねぇのは事実だよ。」

 

使わないと使えないに、この場合はそこまで差はねぇよ。

 

「とにかく進もうぜ。日が暮れたら厄介だ。」

「どこにいると思う?」

「日が差さない場所。多分大広間とかの隅っこに居ると思うぜ。」

 

日が当たったから死ぬとかそういう生態でこそないが。

やっぱり暗い方が好みというか、身体への負担は少ないらしいからな。

 

「大広間、ね。この規模の城ならこっちかな。」

「お、流石王子。城の構造を推測できるのは高得点だぜ。」

 

これからも使える技能だ。大切に使ってくださいよ。

通りすがりに湧く骸骨や悪霊を適当に切ったり燃やしたり砕いたりしながら。

そうして進んだ先には、古びてこそいるものの、豪奢な扉がそこにあった。

 

「この先、ですか?」

「多分な。日も差し込んでないみたいだし。」

 

目と耳を澄ませば、ねっとりした魔力が感じられるので間違いないだろう。

 

「開けたらいきなり戦闘開始か?」

「悪いことをしでかしてるわけではないから、どうしようかね。」

 

というか、不意打ちを仕掛けても侵入していること自体はばれてるからな。

 

「でたとこ勝負でなんとでもなるさ。」

「根拠があるのかないのか全然わかんねぇんだよ、おっさん。」

「根拠はないわけじゃないが、口に出しては言ってやらねぇよ。」

 

単純に、そこらの吸血鬼なら俺一人でボコれるってだけだからさ。

格の違いってやつ、必要ならば見せつけるのもありかもな。

 

 

 

Chapter26

 

「はっはっはっ!よく来たな人間ども!」

「うわ。」

「何の用事かは知らんが大人しくするから痛いことをしないでくれ!」

「こいつ、なんなのである?」

 

吸血鬼、だな。今回倒そうとしていた奴。

辿り着いたその大広間で、玉座に座るそいつは極めて低姿勢で待ち構えていた。

 

「君がこの城に巣くう吸血鬼、かい?」

「そうともいう!だからその怖い人をこっちに近寄らせないでくれ!」

「怖い人、ですか?」

「若い女よ!そなたの隣にいる化けも……高貴なるお方のことだ!」

 

エルナの隣、俺か。王子たちの視線がゆっくりと俺に集まる。

ってことは。こいつ見えてるのか。

やべえな。何か口走られる前に口封じしておくべきか?と検討を始める。

 

「おっさん、何したんだ?」

「心当たりはあるんだがそれを伝えるわけにはいかねえな。」

 

なんというか……あんまり触れられたくないっていうか……

お兄さん的にデリケートな話題が出てきて、気持ちが少しどんよりする。

 

「おい吸血鬼。」

「はい!なんでしょう!」

「俺たちはこの城を使いに来たんだが、譲り渡してくれるよな?」

「それだけでよければ喜んで!吾輩は出ていけばよろしいですか?」

 

ん。どうだろうな。元の目的は退治ではあるんだが。

ちらりと王子を横目で見ると、少し悩んだ素振りで任せると呟いた。

任されちまったかぁ。じゃあ、あとは有罪無罪だけで決めちまうか。

 

「因みに、お前は最近人の血を飲んだか?」

「ここには人は来ませんので、妖精の歌声で凌いでおります!」

 

そうか。じゃあマジで退治する意味も全くねえな。

 

「なら見逃してやるよ。これからも謙虚に生きるんだな。」

「ありがたき幸せにございまする!それではこれにて御免!」

 

あ。逃げやがった。

……せめて城の跡片付けぐらいさせてから逃がしたかったんだが、まあいいか。

あんだけ怯えられてるものを押さえつけるのも、ちょっとかわいそうだったし。

 

「見逃してよかったのか?」

「倒すほど厄介な相手ではなかったから、もういいやと思っちまった。」

「っていうか、なんであんなに貴様のことを怖がっていたのだ、あやつは。」

 

なんと説明したものかねぇ。

 

「あー。魔術師としてだな。相性が悪すぎたんだよ。」

「それであんなに怯えるものですか……?」

「さてな。とにかく、戦闘無しで終わったことは、ありがたく思っとこうぜ。」

 

余分なことを言われる前に追い出せてよかったと安堵する限りだが。

ここに来た目的は、今からようやく本番を迎えるのだった。

 

 

 

Chapter27

 

「おい待て。まさか吸血鬼を片付けて、そのまま戻るのか?」

「どういうことだい?」

 

判ってなさそうな王子に、俺は一つため息をつく。

ま、今回についてはサービスだ。王子たちの味方に付くと決めたわけだしな。

 

「この城を、これから拠点に変えてくわけだろ?」

「そうだね。そのためにコルニスに急ぎ知らせなければならないと思っている。」

「そりゃ正しい。じゃあ何を知らせりゃいいんだ?」

 

腕を伸ばして王子たちの視線を誘導する。

 

「まず、城がどれだけ壊れてる?カスパル。」

「俺かよ。えーと、ボロボロ、だな。補修しないと使い物にならねぇ。」

 

こいつ別に頭悪くないんだよな……俺をおっさん扱いするだけで……

 

「そうだな。じゃあ補修に何が必要になる。」

「建材とかだろ?」

「どれだけ必要だ?」

「……調べねぇと判んねぇな。」

 

そこに王子が口を挟む。

 

「ふむ。つまり状況を調べるところから、ということかい?」

「ちょっと違ぇな。」

「ふむ?」

「建材がどれだけ必要になるかは、大工やらがいねぇと判んねぇだろ?」

 

専門家の視点からじゃないと、既に判別すら出来ねぇんだよな。

 

「じゃあ、今、そいつらが来ることが出来る状況か、エルナ。」

「私もですか。まだ魔物も骸骨も幽霊もいますから。片付けてからですね。」

 

つまり、私の出番である、とフレデリク。

いや、まあ。あんたの出番でも他の人間でも誰でもいいんだけど。

 

「さて、人が増えるってことは、どんな対応をする必要がある?」

「寝床と食料、である。最低限雨風を凌げる場所が必要だろう。」

「その通り。で、人が増えるってことは、王子の護衛体制も必要になるだろ?」

 

つまり、だ。

 

「専門家が必要で、専門家がくるには安全確保が必要だ。」

「ああ、うん。そうだね。」

「安全確保には、調査と受け入れ態勢が必要で、それには護衛がいる。」

「……いや、難しくないかい。それこそコルニスがやった方が。」

 

コルニス殿が2人いればな。

そうしたら、この城と街で幾らでもやり取りさせれば済む話だが。

今の時点だと、コルニス殿は、まだここに呼ぶには早いわけで。

 

「とにかく、今は無制限に人を呼べない。呼んだら詰む。」

 

下手すりゃ、戦う前に終わっちまうんだよ。恐ろしいことにな。

 

「終わるってそんな、大げさな。」

「大げさじゃねぇよ。許容以上の人間を置いた瞬間に、何も回らなくなる。」

 

そうなったら拠点の立ち上げどころじゃないんだ。

それを回避して、時間をかけずに積み重ねなければならないのが辛いところだ。

ま、それをどうにかしていくのがこれからの戦いってわけだな。

 

 

 




お気に召しましたらお気に入りと評価もよろしくお願いします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。