美女の多い世界に転生した   作:インフェルノ

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獣の復活

 

 

それから、ギルドの連中には内緒の「地獄の特訓」が始まった。

 

 

「おおおおおッ! 殺してやるッ! 全部壊してやるッ!!」

 

 

理性を失い、獣の如き咆哮を上げるエルフマン。全身テイクオーバー『ビーストソウル』——その巨大な鉤爪が、俺の身体を容赦なく引き裂き、吹き飛ばす。

 

だが、俺は逃げない。マルド・ギール並みの膨大な闇の魔力を「防御」ではなく、単なる「肉体の維持」と「クッション」として使い、彼の暴走を正面からすべて受け止める。

 

ドゴォォォッ!! と衝撃音が森に響き、俺の背後の大樹がへし折れる。

 

 

「……まだまだだ。その程度じゃ、俺の闇は晴らせないぞ」

 

 

血を拭い、俺は何度でも立ち上がる。エルフマンが力尽き、魔力が枯渇して人間の姿に戻るまで、俺はただの「動く標的」に徹した。

 

 

「はぁ……はぁ……っ! グ、グリア……また、俺……」

 

 

理性が戻り、ボロボロになった俺を見て絶望に染まりかけるエルフマン。だが、俺は彼に後悔する暇など与えない。「気にするな。次だ」俺は自身の指先に漆黒の魔力を集中させる。マルド・ギールの「呪法」を応用した、生命エネルギーの強制譲渡。闇の滅竜魔法が持つ圧倒的な質量を、彼の体内へ「活力」として流し込む。

 

 

「……っ!? 魔力が、回復していく……!?」

 

「休んでる暇はないぞ、エルフマン。お前の身体がその感覚を覚えるまで、何度でも付き合ってやる。立て。お前の中の獣を、恐怖じゃなく『意思』で捩じ伏せろ」

 

 

傷だらけの俺が笑いかけるたびに、エルフマンの瞳に宿る「諦め」の火が、少しずつ「覚悟」へと変わっていくのがわかった。

 

俺の闇は、破壊のためだけにあるんじゃない。この不器用な男が、再び姉を護れる「漢」に戻るための、足場にするためにあるんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

ギルドの裏手、月明かりだけが二人を照らす静寂の中で、ミラジェーンはいつもの微笑みを消して俺を待っていた。

 

 

「……グリア、もうやめて」

 

 

その声は震えていた。彼女の視線の先には、闇の魔力で無理やり塞いだ俺の無数の傷跡がある。エルフマンを追い詰めていることまでは気づいていないようだが、俺が彼に付き合い、ボロボロになりながら何かを企んでいることは、彼女の鋭い勘を欺けなかった。

 

 

「私たちのこと、そんなに気遣わなくていいのよ。これは私たちが背負うべき事情で、あなたの人生を削ってまで背負うものじゃないわ」

 

 

ミラが一歩詰め寄る。その瞳には、深い悲しみと、自分たちに関わったことで俺が「壊れてしまう」ことへの恐怖が滲んでいた。

 

 

「関わらなくていいの。……これ以上は、あなたが壊れちゃうわ」

 

 

突き放すような言葉。だが、それは彼女なりの、必死の愛情表現だと分かっていた。俺は彼女の細い肩に手を置き、マルド・ギール並みの、底知れない闇の魔力を敢えて穏やかに解放した。

 

 

「壊れないさ。……俺は、お前が思っているよりずっと強い」

 

 

俺の闇が、ミラの周囲を温かく、包み込むように揺らめく。

 

 

「全部受け止めるって決めたんだ。エルフマンの拳も、お前の悲しみも。あいつを必ず復活させる。たとえ、あの日以前と全く同じ形での復活が難しかったとしても……あいつが自分を誇って、強く生きていけるようにしたいんだ」

 

「グリア……ダメよ、そんなの……」

 

 

ミラの瞳から、堪えていた涙がひとしずく零れ落ちる。彼女は俺の胸元を掴み、顔を埋めた。

 

 

「やらせてくれ。がっかりさせない……誓うよ、ミラ」

 

 

俺は彼女の背中にそっと手を回した。闇の滅竜魔導士として、この禍々しい魔力を何のために使うのか。その答えはもう出ている。

 

 

「お前がまた、心から笑える日を俺が作る。……信じてくれ」

 

 

腕の中の震えが、少しずつ収まっていくのを感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

特訓も佳境に入り、エルフマンの魔力は爆発寸前まで高まっている。だが、あと一歩――心の奥底にある「自分を許せない」という枷が、彼を押し留めていた。

 

離れた木陰で、ミラジェーンが祈るようにこちらを見ているのが気配でわかる。

 

俺は一度大きく息を吐き、闇の魔力をこれまでで最も冷酷に、鋭く研ぎ澄ませた。

 

 

「エルフマン、一ついいか?」

 

 

フラフラと立ち尽くすエルフマンの耳元に寄せ、誰にも聞こえない低音で呟く。

 

 

「俺はお前の姉ちゃんが、ミラジェーンさんが好きだ」

 

 

エルフマンの瞳が驚愕に揺れた。突然の告白についていけない様子。

 

だが、俺は言葉を止めない。冷たい氷の刃を突き立てるように、言葉を重ねる。

 

 

「お前がテイクオーバーできないなら、俺がミラジェーンさんを護る」

 

「は、はあ?お前、俺を覚醒させてくれるって…」

 

「それはこの瞬間までの話だ。遅えんだよ。俺は決めた。ミラジェーンさんは俺が護る。……けど、その対価として、彼女には俺との交際を押し付ける。嫌がるなら無理やりだ。お前に邪魔はさせない。いや、お前には邪魔する力すらないもんな」

 

「お、前……何を、言って……ッ!」

 

「お前は結局、ずっと過去から逃げているだけだ。今のお前には、誰も、何も護ることなんてできやしない。……とんだ使えない、臆病者のゴミクズだ」

 

「な……なっ……!!」

 

 

エルフマンの顔が怒りで真っ赤に染まり、魔力が激しく逆流し始める。俺はさらに追い討ちをかけるように、傲慢な笑みを浮かべて言い放った。

 

 

「この際だ、ハッキリ言ってやるよ。お前なんかより、俺の方がよっぽどミラジェーンさんに相応しい。……身内を傷つけるのが怖くて蹲っている、臆病で腰抜けのお前よりもな」

 

 

俺の手から、マルド・ギールさながらの漆黒の棘がエルフマンの喉元を掠める。

 

 

「不服か? だったらその『力』で示してみろ。守りたきゃ、俺を殺す気で来いよ、エルフマン」

 

 

怒りと屈辱、そして姉を奪われるという恐怖。彼の中で、眠っていた「獣」が、ついに檻を噛み砕く音が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

 

「……おおおおおおおおおッ!!!」

 

 

大気を震わせる咆哮。エルフマンの全身が、禍々しくも力強い筋肉の鎧に覆われていく。完全な『ビーストソウル』。

 

だが、その瞳にはかつての混濁はない。燃え上がるような怒りと、姉を護らんとする強固な意志が宿っていた。

 

 

「お前なんかに……姉ちゃんを渡さねえ! 貴様だけは、絶対に許さねえぞッ!!」

 

 

理性を保った獣の拳が、俺の顔面にめり込む。ドォッ! と凄まじい衝撃が走り、脳が揺れる。だが、俺は笑った。

 

 

「……そうだ、それでいい……!」

 

 

エルフマンは止まらない。俺への怒りを燃料に、重戦車のような猛攻を叩き込んでくる。殴る。殴る。殴る。

 

闇の魔力でガードすれば防げる攻撃だ。マルド・ギール並みの力があれば、彼を組み伏せるのは容易い。

 

だが、俺は一切の防御を捨てた。彼のこれまでの後悔、姉への想い、そして俺への怒り。そのすべてを、肉体で直接受け止める必要があった。

 

 

「もうやめて!!」

 

 

惨状を見かねたミラが、悲鳴を上げながら駆け寄ろうとする。俺は顔を上げ、血に染まった視界の中で、彼女を鋭く射抜くように見つめ、首を横に振った。

 

 

(来るな。……今、こいつの『檻』が壊れるんだ)

 

 

目でそう制し、再びエルフマンの拳を正面から受ける。一発ごとに骨が軋み、視界が白む。それでも俺は倒れなかった。

 

やがて、エルフマンの息が荒くなり、魔力が底を突き始める。しかし立ち上がり、全身全霊を込めた、最後の一撃。大気を爆ぜさせながら放たれたその巨大な拳を、俺は手のひらでがっしりと受け止めた。

 

 

「……はぁ……はぁ……っ……!」

 

 

エルフマンの動きが止まる。俺の手の中で、彼の拳が小さく震えていた。満身創痍の俺と、力を出し切った彼。静寂が訪れる中、俺は折れそうな身体を支え、彼にだけ聞こえる声で優しく笑いかけた。

 

 

「……上出来だ。……最高の『漢』だな、エルフマン」

 

 

その言葉を聞いた瞬間、エルフマンの力が抜け、テイクオーバーが解けていった。

 

 

 

 

 

エルフマンがバタリと力尽き、地面に伏した。その瞬間、抑えきれない様子でミラジェーンが駆け寄ってくる。

 

 

「 エルフマン!」

 

 

ミラジェーンがエルフマンの側に来た。

 

俺は泥にまみれた膝を突きながら、残った魔力を振り絞った。指先から溢れ出す漆黒の闇――それはもはや禍々しい呪いではなく、エルフマンの命を繋ぎ、損耗した体力を強引に底上げする慈愛の力として彼に染み込んでいく。

 

やがて、呼吸を整えたエルフマンがゆっくりと立ち上がった。変身は解けているが、その瞳にはかつてないほどの意志の光が宿っている。

 

彼は拳を固く握りしめ、依然として俺を激しく睨みつけていた。

 

 

「……忘れるなよ、グリア。俺が、俺が生きている限り、姉ちゃんにお前のような不届き者は近づかせねえ!」

 

 

その言葉を聞いて、俺は口の端に溜まった血を親指で拭い、ふっと不敵に笑った。

 

 

「……ふん、お前の勝ちだ。今日のところは、諦めてやるよ」

 

 

俺はあえて突き放すように背を向けた。背後でミラが心配そうに俺の背中を見つめているのを感じるが、今はまだ、彼女に甘えるわけにはいかない。

 

 

「だが、勘違いするな。またお前が腑抜けてるようなら、話は別だからな。その時はいつでも、ミラジェーンさんを奪いに行ってやる」

 

 

背中で語る。これが俺なりの、不器用なエールだ。俺という「壁」がある限り、こいつはもう二度と止まらない。姉を護るという誓いを、その拳に宿し続けるはずだ。

 

 

「……全く、馬鹿な漢だ、こんなに殴りやがって」

 

 

独り言のように呟き、俺はほんの少しだけフラつく足取りで歩き出す。全身はそれなりに悲鳴を上げているが、心は不思議と軽かった。マルド・ギール並みの闇を抱えて転生したこの力も、少しはマシなことに使えたらしい。

 

 






休みが終わる…

メインヒロイン誰が良い?

  • ミラジェーン
  • エルザ
  • ルーシィ
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