美女の多い世界に転生した   作:インフェルノ

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新章突入します。





紅髪美女攻略
絶望と期待


 

 

「エルザ、この世界に自由など無い。真の自由はここに……この塔にこそあるのだ。共にゼレフを復活させ、真の自由国家を作るぞ」

 

 

脳裏を焦がすのは、冷徹な狂気に染まった、かつての親友の瞳。

 

 

「いいさ、ならば今すぐここから出ていけ。一人でな。外の世界で、精々その仮初の自由を楽しむがいい……。仲間の苦痛を、その身に一生背負って生きるがいい、エルザ!」

 

 

ハッと目を開けると、視界に映ったのは見慣れた木目の天井だった。また、あの夢だ。

 

あの日、私は全てを奪われた。

いや、違う。私は仲間を置いて、自分だけが『楽園の塔』を抜け出してしまったのだ。

ジェラールによって島を追放され、かけがえのない仲間たちと引き裂かれたあの日。私を庇って囚われた仲間たちが、今もあの地獄で苦しんでいるかもしれないという事実は、私の魂を絶えず削り続けている。

 

ジェラールが彼らに何を吹き込んだのかは分からない。だが、きっと彼は歪んだ真実を語り、私を裏切り者として槍玉に挙げたのだろう。私を憎むことで、彼らが生き永らえているのだとしたら、これほど残酷な救いはない。

 

だから、私は心を閉ざした。

傷つくのが怖かったのではない。これ以上、誰も失いたくなかった。私の弱さのせいで、誰かが犠牲になる瞬間を二度と見たくなかった。

 

私は、鋼の鎧を纏うようになった。

それは敵の刃を弾くためではなく、他人との間に強固な壁を築くための檻だった。

 

魔導士ギルド『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』に拾われてからも、その壁が消えることはなかった。

このギルドは温かかった。不器用で、騒がしくて、信じられないほど情に厚い。確かに私は、彼らと仲間になれた。新しい出会いもあった。毎日が賑やかで、一瞬だけ痛みを忘れられる時間もあった。

 

だが――私は、未だに鎧を脱ぐことができない。

 

どれだけ笑い合っても、私の心の最深部にある暗黒の泥には、誰も触れさせないように生きてきた。私が『妖精の尻尾』のエルザ・スカーレットとして強く、厳しく、完璧で在り続けなければ、この温かい居場所すら、あの日のように壊れてしまうかもしれないから。

 

私は今日も、冷たい金属の感触に身を包み、己の弱さを隠し続ける。

この深い闇から私を引っ張り出してくれる者など、この世界に存在するはずがないと、半ば諦めながら――。

 

 

 

 

 

そんな頑なな私の前に、一人の青年が現れた。彼の名はグリザイア・エーテリアス。通称、グリア。

 

ギルドに加入した直後、彼がいきなり最高難易度であるはずの『S級クエスト』を受注したと聞いた時は、耳を疑った。新入りの無謀な自殺行為――誰もがそう思ったはずだった。だが、彼は何事もなかったかのように平然と依頼を遂行し、帰還したのだ。

 

その後、奇妙な巡り合わせから、私は彼とチームを組むことになった。

そこで私は、言葉を失うことになる。

隣に立つ彼の力は、紛れもない本物だった。本物どころか、私などよりも遥かに強く、その底はまるで見えなかった。

いつしか私は、彼に主導権を握られる形でクエストに赴くようになっていた。かつて一人では決して見ることのできなかった景色、到達できなかった境地。私は、彼の実力を完全に認めざるを得なかった。私の硬い鎧など、彼の前では何の意味もなさないのではないかとさえ思わされた。

 

そんな中、ギルドである驚くべき噂が駆け巡る。

獣王(ビースト)の暴走により心を痛め、戦線から退いていたエルフマンが、全身テイクオーバーを『復活』させたというのだ。一体何が原因なのか、どうやってあのトラウマを克服したのか、私には見当もつかなかった。ただ、ギルドに小さな希望の光が差し込んだことだけは確かだった。

 

だが、その光を無惨に踏みにじる男がいた。ラクサスだ。

 

ある日、ラクサスは公然と、戦闘力を失い牙を抜かれたミラを嘲笑った。それだけにとどまらず、彼は私のことまでをも冷酷な言葉で射抜いた。

 

悔しかった。だが、奴の言葉は半分正解だった。私の力など、グリアの足元にも及ばない。私に彼を導く資格などないのかもしれない。

それでも、歪んだ思想を持ち、力だけを信奉するラクサスの下に、グリアを渡すわけには絶対に決していかなかった。もしグリアのあの規格外の力がラクサスと結びつけば、このギルドは内側から崩壊してしまう。

 

しかし、ラクサスの傲慢な言葉は止まらなかった。ミラへの侮辱を続ける奴に対し、ついに怒りを爆発させたエルフマンが殴りかかった。

だが、結果は惨憺たるものだった。ラクサスは、エルフマンの復活した力すら圧倒的な暴力で捻じ伏せ、容赦なくその身体を床に叩きつけた。

ミラの悲痛な叫びがギルドに響き渡る。

ラクサスは倒れたエルフマンを一瞥し、鼻で笑いながらその場を去っていった。

拳が血がにじむほど強く握りしめられていた。なのに、私は何も言い返せなかった。圧倒的な実力差の前に、言葉を失うしかなかったのだ。

 

このままでは、心を完全に折られたミラやエルフマンは、ギルドを去ってしまうかもしれない。

重苦しい絶望が胸を支配する。だが、私の恐怖はそれだけではなかった。

 

もしも――もしもグリアが、私の無力さに愛想を尽かし、あの強大なラクサスの下についてしまったら。

 

私は、この温かいギルドも、そして私を新しい景色へと連れ出してくれたあの絶対的な背中すらも、すべて失ってしまうのではないか。

最悪の結末が脳裏をよぎり、私は冷たい冷汗が背中を伝うのを止められなかった。

 

 

 

 

その後、奇妙な静寂がギルドを包んだ。

ミラもエルフマンも、そしてグリアまでもが、示し合わせたようにほとんど姿を見せなくなったのだ。あの事件以来、ラクサスは思い通りにいかない何かに苛立つように、常に不機嫌なオーラを撒き散らしていた。

一体、彼らの間で何が起きているのか。私には何も分からなかった。ただ、嵐の前の静けさのような不気味な予感だけが、胸の奥で燻り続けていた。

 

――だが、その答えを知る時は唐突に訪れた。

 

あれから数週間が経った、ある日のことだ。ギルドの裏手に広がる深い森から、大気を激しく震わせる地響きと、凶悪な魔力の衝突が伝わってきた。間違いなく戦闘が始まっている。一方は、あのラクサスの雷の魔力だ。

 

 

「何事じゃ!?」

 

 

異変を察知したマカロフマスターを筆頭に、仕事に出ずギルドに残っていたメンバーと共に、私は一斉に森へと駆けつけた。

 

木々をなぎ倒して開けた場所へ飛び出した瞬間、私の目はその光景に釘付けになった。信じられないものを目撃し、思考が完全に停止する。

 

ラクサスと真正面から渡り合っている、もう一つの魔力の正体。

それは――ミラだった。

 

 

「嘘……だろ……? ミラが、戦っている……!?」

 

 

誰が呟いたか。いつの間にか、彼女は完全に復活を遂げていた。それだけではない。今のミラから溢れ出ている魔力は、かつての彼女の全盛期すら、いや、目の前で猛り狂うラクサスをも遥かに凌駕していたのだ。

漆黒の悪魔の衣を纏ったミラは、鋭い眼光でラクサスを圧倒し、猛烈な一撃をその顔面に叩き込んだ。あの傲慢なラクサスが、ミラの拳によって無惨に吹き飛ばされ、地面を転がっていく。

 

そして、ミラの背後には、すべてを見届けるように静かに佇むグリアの姿があった。

 

復活したミラの放った渾身の大技が、眩い閃光となってラクサスを完全に呑み込んだ。轟音が止み、土煙が晴れた強固な地面には、あの最強の一角と謳われたラクサスが、信じられないことに膝をつき、倒れ伏していた。

 

言葉が出なかった。私の知るミラは、確かに強かった。だが、あのラクサスをここまで完璧に圧倒するほどではなかったはずだ。なぜ、これほどの短期間で、これほどの力を……?

困惑する私の目の前で、全ての魔力を使い果たしたかのように、ミラの身体がガクリと崩れ落ちた。それを後ろから素早く支え、優しく受け止めたのはグリアだった。

 

だが、悪夢は終わっていなかった。凄まじい執念で、満身創痍のラクサスが再び立ち上がったのだ。怒りに我を忘れた奴は、グリアに抱えられた無防備なミラに向けて、容赦のない雷撃を突き出した。

 

 

「危ない――!」

 

 

私が叫び声を上げるよりも早かった。

グリアが、ただ片手を軽く一閃した。それだけで、ラクサスが放った必殺の雷撃は木端微塵に弾き飛ばされ、ラクサス自身の身体が強烈な衝撃波で後方へと文字通り吹き飛んだ。

 

尚も血走った眼で睨みつけてくるラクサスに対し、グリアが静かに『それ』を解放した。

 

――その瞬間、世界から音が消えた。

 

ドサッ、と近くにいたギルドメンバーの誰かが、腰を抜かして地面に崩れ落ちる音が響く。押し寄せてきたのは、圧倒的な、文字通りの『暴力的な魔力』。

息ができない。身体が金縛りにあったように一歩も動かせない。全身の細胞が、本能的な恐怖で悲鳴を上げていた。

それは、目の前にいるマスターマカロフを軽く超越していた。いや……今、長期クエストでギルドを不在にしている、あの『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』最強の男、ギルダーツすらも凌駕しているかもしれない。底がまるで見えない、あまりにも巨大で深淵な魔力。

 

その絶対的な絶望の圧力を前に、さっきまで狂犬のように吠えていたラクサスの瞳から、完全に光が消えた。明確な『戦意喪失』。抗うことすら許されない圧倒的な差を前に、奴はただ恐怖に震えることしかできなかった。

 

マスターが制止をかける。

グリアはすっと魔力を収めると、気絶したミラを優しく抱え上げ、私たちを一瞥することもなく、静かに森の奥へと去っていった。

 

残された私たちは、ただ立ち尽くすしかなかった。

私の心臓は、早鐘のように激しく脈打っていた。恐怖だけではない。私の脳内は、ある一つの狂おしい『気付き』によって支配されていた。

 

 

(そうか……そうだったのか……)

 

 

エルフマンの全身テイクオーバーの復活。ミラが、ラクサスを圧倒するほどの力を取り戻した奇跡。

それら全ての裏にいたのは、あの後輩――グリザイア・エーテリアス、ただ一人。

 

彼なら、他人の壊れた心を、閉ざされた過去を、完全に作り直すことができる。

去っていく彼の絶対的な背中を見つめながら、私の胸の奥で、決して人には見せられない頑なな『鎧』の隙間から、ドクンと何かが跳ねた。

 

もし……もしも、あの底知れない青年なら。

誰も触れることのできない、私のこの深い楽園の塔の闇から、私を……私をも、救い出してくれるのではないだろうか。

 

そんな、あまりにも甘くて切ない、淡い期待が、冷たい鎧の奥の心臓をじわじわと侵食していくのを、私は止めることができなかった。

 

 

メインヒロイン誰が良い?

  • ミラジェーン
  • エルザ
  • ルーシィ
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