美女の多い世界に転生した 作:インフェルノ
ミラジェーンが現役に完全復帰した。
それからの彼女の勢いは凄まじかった。まるで失っていた時間を取り戻すかのように、ミラは瞬く間に最前線へと舞い戻り、今では当たり前のようにS級クエストを受注するようになっていた。
そんなギルドの巨頭となったラクサスやミラジェーンに、俺自身が追い抜かれてしまうわけにはいかない。
周囲からは「S級を軽く超える実力」などと噂されている俺だが、彼らの天才的な戦闘センスと成長速度は恐怖すら覚えるレベルだ。だから俺は、皆が見ていない影で、血の滲むような修行を必死に続けていた。
最近の俺の日課は、修行の合間を縫って、エルザやミラにS級クエストへ同行させてもらい、共に任務を完遂することだ。
自然と、最近ではミラ、エルザ、そして俺の3人でチームを組んでクエストに出向くことが多くなっていた。
「ハァッ!!」
クエストの道中、立ち塞がる巨大な魔獣を、悪魔の翼を広げたミラが凄まじい速度で一刀両断にする。
その戦いぶりを見つめながら、俺は内心で息を呑んでいた。
(……本当に、ミラの戦術の上達速度は早すぎるな)
俺の魔力を貸して感覚を掴ませたとはいえ、それを完全に自分のものにして応用するスピードは異常だ。全盛期以上の強さを完全に我が物にしている。
そのミラの戦いぶりを、隣に立つエルザもまた、じっと真剣な眼差しで見つめていた。
エルザはふっと表情を緩めると、剣を鞘に収めながらミラに声をかける。
「凄いなミラ、ここまで強くなるとは。私も負けていられないな」
「ふふっ、エルザ。今度は私があなたを追い越すわよ?」
不敵に笑うミラに対し、エルザもまた、負けじとフッと不敵な笑みを返す。そのまま2人で顔を見合わせて、どこか楽しそうに笑い合っていた。
(確か、幼少期の2人は顔を合わせるたびに喧嘩ばかりで、犬猿の仲だったらしいが……)
現在の2人のやり取りを見ていると、かつてのトゲトゲしさは消え、互いを認め合う戦友のようにも見える。だが、言葉の端々には、今もなお決して譲れない、心地よいライバル心が確かに残っているのだろう。
そんな2人の、眩しいほどに強くて美しい背中を後ろから見つめながら、俺はふと思う。いつか、この2人の隣に、本当の意味で肩を並べて立てるようになるために――もっと強くならなければ、と。
だが、そんな俺の視線に気づいたのか、エルザが不意にこちらを振り返った。
その瞬間、彼女の凛とした瞳の奥に、ほんの一瞬だけ、何かをすがるような、ひどく不器用で淡い光が揺れたのを、俺は見逃さなかった。
ある日、いつもなら賑やかなはずの道中が、少しだけ静かだった。
その日はミラが久しぶりの休日を取っていたため、俺はエルザと二人だけでS級クエストを受注していたのだ。ミラがいないだけでチームの空気はどこか引き締まり、エルザもいつも以上に「頼れる先輩」として凛とした態度で任務をこなしていた。
無事にクエストを達成し、夕暮れ時のギルドへと帰還した俺たちだったが、一息つく間もなくマスター・マカロフから奥の部屋へと呼び出された。
「すまんが二人とも、ちょっとした頼み事を聞いてくれんか」
パイプの煙をくゆらせながら、マカロフは酷く億劫そうな顔で、机の上に山積みにされた書類の束を叩いた。
「評議院から招集がかかっておってな。……いや、招集という名目の、我がギルドの連中がやらかした破壊活動の『始末書』の提出じゃ。本来ならワシが行くべきなんじゃが、どうしても外せない用事ができてしまっての。代わりに評議院(ERA)へ赴き、これを提出してきてほしい」
「分かりました、マスター。私たちが責任を持って届けておきます」
エルザは即座に居住まいを正し、深く頷いた。俺もそれに同意し、マカロフからずっしりと重い書類の束を受け取る。妖精の尻尾(フェアリーテイル)のメンバーがどれだけ街を壊したのか、その重みが両手に伝わってくるようだった。
こうして俺とエルザは、評議院の本部がある『ERA』へと向かうことになった。
魔法評議院の本部『ERA』。
白亜の巨塔が聳え立つその聖殿に、俺が足を踏み入れるのはこれが初めてだった。天井が高く、どこか冷徹な空気が満ちた厳かな廊下を、俺はマカロフから預かった書類を抱え、エルザの隣を歩く。
エルザはずっと黙っていた。
いつもならギルドの風紀について小言を言う彼女が、今はまるで見えない敵に警戒するかのように、唇を固く結び、ただ前だけを見つめている。彼女にとって、この評議院という場所は、かつて幼少期に引き裂かれた記憶や、ジェラールとの因縁が複雑に絡み合う、最も息苦しい場所に違いないのだ。
長い廊下を抜けた先にある応接室で、俺たちを待っていたのは、魔法評議院のトップ――議長クロフォード・シームだった。
「ご苦労だね、わざわざ悪いね」
恰幅のいい身体を揺らし、好々爺のような笑みを浮かべてクロフォードが言った。
「いえ、我がギルドの者が起こした不始末です。この度は本当に、申し訳ございませんでした」
エルザが深く頭を下げる。俺もその隣で、彼女の真似をして丁重にお辞儀をした。
「はっはっはっはっ、そう賢まることはないよ。君たちは実に面白いギルドにいる。また何かあったら面白い報告が聞きたいところだ。用が済んだら、またいつでも来るといい」
議長はそう言って、俺の手から始末書の書類を気さくに受け取った。一見すれば、ギルドを温かく見守る優しい老人。
だが、その笑顔を間近で見つめながら、俺の背中にはゾワリとした冷たいものが走っていた。
(……この老人が、ずっと後の話になるが、あの『冥府の門(タルタロス)』編でギルドを、いや世界を裏切る男なんだよな……)
未来の破滅を知っているのは、この場にいる中で俺ただ一人。笑顔の裏にある底知れない歪みに内心で舌を打ちながらも、俺はエルザと共に「失礼します」と告げ、応接室を後にした。
用事は済んだ。張り詰めていたエルザの肩から、ほんの少しだけ力が抜けたのが分かった。このまま早く、あの騒がしくて温かい、俺たちの『妖精の尻尾(フェアリーテイル)』へ帰ろう。
そう思いながら、正面玄関へ続く廊下を歩き出した、その時だった。
カツン、と鋭い靴音が響き、俺たちの前に一人の評議院の使者が立ち塞がった。その衣服には、一般の兵士とは違う紋章が刻まれている。
使者は冷徹な眼光を俺に向け、厳かに口を開いた。
「グリザイア・エーテリアス。……上級評議員の方が、お前を呼んでいる。同行せよ」
「……っ!?」
突然の呼び出しに、俺は思わず足を止めた。
隣にいたエルザの身体が、一瞬で戦闘時さながらの緊張感で強張る。その凛とした瞳に、明確な『焦燥』と『拒絶』の色が浮かんだのを、俺は見逃さなかった。
「エルザ、外で待っていてくれ」
俺がそう告げると、エルザは弾かれたように何かを言おうと口を開いた。その瞳には、かつてないほどの激しい動揺と拒絶の色が浮かんでいる。評議院の奥へ大切な仲間を行かせたくない――そんな本能的な恐怖が彼女を支配しているようだった。
俺は何も言わず、彼女の金属の肩当てにそっと手を置いた。ただ一瞬、安心させるように掌に力を込める。それだけでエルザは息を呑み、辛うじて言葉を飲み込んでくれた。
使者の後を追い、冷たい廊下を進む。
重厚な扉の前に着くと、そこには白い衣服を纏った、青髪の青年評議員が佇んでいた。右目の周囲に刻まれた奇妙な紋様、そして底の知れない美貌。
「初めてお目にかかるな、グリザイア・エーテリアス。俺の名はジークレインだ。ジークと呼んでくれて構わない」
「……どうも」
俺は内心の動揺を押し殺し、至って平穏な旅の魔導士を装って一礼した。
原作の知識を持つ俺だからこそ、目の前にいるこの男の正体が『ジェラール・フェルナンデス』であり、この姿が思念体であることも、その目的が『楽園の塔』の完成であることもすべて知っている。だが、今はそれを絶対に表に出してはならない。
「噂はかねがね聞いているよ。相当に腕が立つらしいな。我が国でも次なるS級魔導士の有力候補だと耳にしている」
「……いえ、俺はまだまだです」
当たり障りのない返答を返しながら、俺は奴の出方を窺った。ジークレインはフッと目を細めると、ゆっくりとした足取りで俺へと近づいてくる。その距離が、不気味なほどに近い。
「そうか。……ところで、俺から一つ質問があるのだが」
ジークレインの声音が、低く冷たいものへと変わる。
「君は、エルザ・スカーレットとどんな関係だ?」
(――そこを突いてきたか)
俺の背中に緊張が走る。だが、できる限り平常心を保ち、声が震えないよう細心の注意を払って答えた。
「彼女はギルドの先輩です」
「よく一緒に依頼へ行っていると聞くが?」
「たまたま最初に頼ったのが彼女だっただけです。それ以降はただの成り行きです」
俺の答えを聞くと、ジークレインはしばしの間、無言のまま俺の目を見つめてきた。品定めをするような、あるいは嘘を見破ろうとするような蛇の視線。だが、やがて満足したように、その薄い唇の端が歪に吊り上がったのを俺は見逃さなかった。
「そうか……。ならば、俺からお前に一つ忠告がある」
「……なんですか」
ジークレインはさらに一歩、俺の耳元へと顔を寄せた。
「エルザとは、これ以上関わらない方が良い」
俺は演技として、少しだけ目を見開いて見せた。奴は俺の反応に気を良くしたのか、芝居がかった陰鬱なトーンで言葉を続ける。
「奴は過去に大罪を犯している。悪の組織から逃亡する際、仲間を裏切って置き去りにし、自分だけがのうのうと逃げ出したのだ。……俺の身内も、その被害者の一人でね」
吐き気がするほどの欺瞞だった。本当は逆だ。エルザを追放し、仲間を縛り付け、今も地獄の苦しみを味わわせているのはお前だ、ジェラール。
だが、俺は敢えて無言を貫いた。何も言えず、ショックを受けて立ち尽くす哀れな後輩を演じきったのだ。ジークレインは私の沈黙を「話が効いている」と誤認したのだろう、最後に冷酷な笑みを浮かべた。
「彼女とチームを組むのはやめた方が身のためだ。いつかお前にも、その薄汚い過去の火の粉が飛ぶだろうからな。……忠告はした。俺の言葉を、よく覚えておくように」
それだけを言い残し、ジークレインは身を翻して去っていった。俺はしばらく立ち尽くすフリを続け、奴の気配が完全に消えたのを見届けてから、ゆっくりと評議院の外へと歩き出した。
眩しい太陽の光が差す玄関前で、エルザが俺を俺待っていた。俺の姿を見つけるや否や、彼女は張り詰めていた表情を崩し、大股で駆け寄ってくる。
「大丈夫だったか、グリア?評議員に 何を言われたんだ?」
ジークレインの陰謀も、彼が自分を貶める嘘を吹き込んだことも、何も知らないエルザが、ただ純粋に俺の身を案じて話しかけてくる。その必死な顔が、ひどく痛々しかった。
「何も、大した事はありませんよ。……さあ、ギルドに戻りましょう」
「そうか……。なら良いのだが」
俺の言葉にホッとしたように胸を撫で下ろすエルザと共に、俺たちはギルドへと歩き出した。すれ違いざま、ちらりと評議院の窓を見上げる。そこには、上階のガラス窓から冷徹な眼差しでこちらを見下ろしているジークレインの姿があった。
俺はそれを完全にスルーし、エルザの隣を歩く。ただし、ジークレインからの視線がある間は、敢えて彼女との間に少しだけ不自然な距離を空けておいた。あいつに「忠告が効いている」と思わせるためのカモフラージュだ。
やがて街の建物の影に入り、評議院からの視線が完全に遮られる位置まで来ると、俺はエルザとの距離を元の近さに戻した。
「……? グリア?」
不思議そうに俺を見上げてくるエルザ。その横顔を見つめながら、俺は胸の奥で静かに闘志を燃やしていた。
何かが始まろうとしている。
そしてそれは、近いうちに、エルザにとって最も残酷で辛い嵐となって襲いかかるだろう。
だが―俺は絶対に裏切らない。その過去ごと、お前を必ず救い出してみせる。
そう心に誓いながら、俺は彼女の隣で、力強く一歩を踏み出した。
メインヒロイン誰が良い?
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ミラジェーン
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エルザ
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ルーシィ