獅子の名を持つ相方の軌跡   作:厄介な猫さん

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予選。そして邂逅

「やあ、シノン。遅かったね。遅刻するんじゃないかと心配してたよ」

 

オレとキリト、シノンの間に流れていた不穏の空気を破るかのように、銀髪の少年アバターの人物が此方へと近寄って来る。その人物を目にしたシノンは先程の表情を引っ込め、柔和な表情で応じていく。

 

「あら、シュピーゲル。ちょっと予想外の用事で時間を取られちゃって……シュピーゲルはどうして此処に?今回は参加を見送るんじゃなかったの?」

「うん。参加しに来たんじゃなくて、シノンの応援に来たんだ。迷惑だったかもしれないけど」

 

シノンとシュピーゲルと呼ばれたプレイヤーのやり取りからして、二人はそれなりに親しい仲のようだ。ちょっと場違いな感じを覚えてしまうな。

 

「それで……そこの人達は?」

「その予想外の用事となった馬鹿二人よ」

 

オレとキリトに気付いたシュピーゲルの問い掛けに、シノンが罵倒混じりで返した。つか、まだ馬鹿呼ばわりするのかよ。

 

「まだそのネタを引っ張るのかよ」

「純然たる事実でしょ。ロマン装備でBoBに参加するんだから」

「ロマン装備でも、通用するなら別にいいだろ」

「それが通用するのはアンタくらいよ」

 

別にオレだけじゃないぞ。隣にいるキリトもすぐに出来るようになるだろうし。

そんなオレとシノンの遠慮のないやり取りに、シュピーゲル躊躇いながらも会話に割って入る。

 

「えっと……貴方と、そこの()()もシノンの知り合い、なのかな……?」

「「「ブッ!」」」

 

シュピーゲルのその問い掛けにオレとシノン、キリトが揃って吹き出す。オレとシノンは笑いからだが、キリトは女扱いされた事に対するショックだからだ。

そんなオレ達の反応に困惑したシュピーゲルに、シノンが笑いを堪えるようにキリトの正体を教えていく。

 

「シュピーゲル……ブフッ。そこの黒髪長髪の馬鹿は、男よ」

「……へ?ええっ!?」

 

キリトが女ではなく男と知ったシュピーゲルは再び驚いてキリトを二度見する。本当に見た目は女子だからな。男要素が微塵もないし。

 

「いっそ、髪型を女子っぽくして写真に残すか?ツインテールやお団子ヘア……似合ってるってキャイキャイ騒ぐぞ?」

「それはマジで止めてくれ!俺の男としての尊厳が、粉々になっちまう!!」

 

オレの冗談にキリトは若干涙目となって拒否する。いやー、本当にからかい介のある見た目だよな。後、その男の尊厳云々も説得力がないからな?

 

「男の尊厳?アンタにそんなものがあったのね。初対面で人の誤解を利用しようとしていたのに?」

「それに関してはマジですみませんでした!」

 

シノンの嫌味にキリトは素直に頭を下げる。いつもならイタズラ心からの言葉の一つが飛ぶところだが、今回はオレがシノンの味方側に付いているからな。男同士の揉みくちゃで《ハラスメント・コード》に引っ掛からないから、髪型を弄るくらいは容易い。シノンも参加するだろうから、本当に撮影会になったらキリトが圧倒的に不利というわけだ。

 

「そう言えば自己紹介がまだだったな。オレはレオンハルトで、こっちがキリトだ」

「……キリトです。こんな見た目ですがちゃんとした男です」

 

オレとキリトがシュピーゲルに自己紹介したタイミングで、開催を知らせるような猛々しい音楽が響いた。

 

『大変長らくお待たせしました。ただ今より、第三回バレット・オブ・バレッツ予選トーナメントを開催致します』

 

バレット・オブ・バレッツ―――BoBの正式名称の開始のアナウンスが流れると同時に、ドーム内にいたプレイヤー達から拍手と歓声が沸き起こる。雑談はここまでだな。

 

「レオンハルト」

「何だ?」

「絶対に決勝まで勝ち抜きなさい。その頭―――今度こそ撃ち抜くから」

 

シノンのその宣戦布告に、オレは無言で肩を竦める事で返す。その直後、オレの身体は青い光に包まれて予選の待機エリアへと転送される。

転送されるフィールドは……砂漠のフィールドか。幾つか岩場があり、銃撃から逃れられる場所もある。

オレは自身の装備である光剣《マサムネG4》とサブマシンガン型光学銃《シリウス》を装備する。そして、プラズマ・グレネードも腰にぶら下げると、対戦フィールドへと転送された。

 

 


 

 

第三回BoBの予選を観戦するプレイヤー達は呆れたような、馬鹿にするような笑みでモニターを見ていた。

 

「おいおい。アイツ、この大会に光学銃で挑んでいるぞ」

「ありゃ初戦敗退だな。光学銃だけじゃなく、光剣も装備しているしな」

 

そのモニターの一つ―――レオンハルトの装備が光剣に光学銃……対人戦において圧倒的に不利な装備で参加しているのだ。GGOの常識で言えば、完全にネタ武器での参加にしか見えないのだ。

 

「完全にボーナスステージだな」

「簡単に相手は一回戦突破だな。対面してすぐ、蜂の巣にして終わりだろうな」

 

誰もがレオンハルトの敗北を予想し、そのモニターから目を離そうとする。しかし、その視線はすぐに釘つけとなる。

 

「……は?」

 

レオンハルトが写っているモニターを見たプレイヤーの一人が、間の抜けた声を洩らす。そのプレイヤーの視線の先は―――すぐに負けると予想していたレオンハルトが光剣で相手の銃弾を悉く叩き落とす映像が流れていた。

 

 


 

 

比較的見晴らしの良いステージを、オレは岩場に隠れることなく堂々と歩いていく。

下手に隠れながら移動するのは、今回においては非効率だ。このフィールドには対戦相手一人しかいないなら、敢えて堂々と姿を現して攻撃を誘う。

そんなオレの思惑を知ってか知らずか、オレの視界に赤色のラインが次々と表示される。

弾道予測線(バレット・ライン)が表示されたなら、相手の銃器は狙撃銃ではない。狙撃銃は武器特性から、最初の一射だけ弾道予測線(バレット・ライン)が表示されない。加えて予測線の出現速度からして、アサルトライフルかサブマシンガンのどちらかの可能性が高い。機関銃の可能性もなくはないが、邂逅までの時間からして速度制限が掛かる機関銃の可能性は低いと見ていい筈だ。

 

意識を研ぎ澄まし、目に写るもの全てを集中して見つめる。直後、オレの目に写る世界の全てがゆっくりとなり、オレ自身も水の中にいるかのような感覚へと陥る。

オレはまるで鉛と化したかのような身体を動かし、腰の光剣を抜きながら横にずれるように弾道予測線(バレット・ライン)から離れる。オレが離れてすぐに弾道予測線(バレット・ライン)を通過するように銃弾が通りすぎ、新たな予測線が次々と表示される。

 

新たな弾道予測線(バレット・ライン)の表示は一瞬ではなくゆっくり。順番も簡単に分かるようになり、岩場の影からの一瞬のマズルフラッシュもスローモーションとなって、その明滅をハッキリと捉えられるようになる。

相手の居場所も分かり、オレは迷わずそこに向かって進んでいく。当然、相手の銃から放たれた銃弾がオレに迫るが、それをオレは右手の光剣で的確に叩き落としていく。

 

「――――なぁぁぁぁぁぁ」

 

相手の間延びしたかのような声がオレの耳に届く。これは相手の声がおかしいのではなく、オレの感覚が引き伸ばされているからだ。

システム外スキル《ゾーン》。

オレのフルダイブ不適合―――過剰すぎる集中力を利用した、自身の時間感覚を大幅に引き伸ばすオレだけの技術。一見すれば便利な技術のように見えるが、実際はそうでもない。

この症状は脳の処理速度が常に高い状態、車で例えるならアクセルを目一杯に踏み込んで全開となっている状態だ。それも少し踏み込んだだけで時速100キロオーバーになる、動作と出力が全く噛み合っていない危険なもの。慣れていなければ、その緩急差だけで立つことすら儘ならなくなる諸刃の剣だ。

 

実際、デスゲームと判明する前のSAOのフィールドでの戦闘で、ソードスキル一つ放つだけで軽く息切れを起こす程だった。そんなハンデのあるオレをキリトは見捨てることなく、ソロで戦えるようになるまで付き合ってくれた。

そんな昔が頭に過りつつも、オレは目の前に集中する。《ゾーン》によって予測線だけでなく、銃弾も視認できるオレは的確に、自身に当たる銃弾だけを叩き落としていく。どうしても光剣が間に合わない銃弾は体捌きで紙一重で躱し、同時に光剣を振るって次弾にも対処する。

まるで紙一重の如く避ける、または光剣で叩き落とされ、アサルトライフルらしき長銃から放たれる銃弾はオレの身体にダメージエフェクトを刻み込めない。

 

「クゥゥゥゥソォォォォォォォォ―――」

 

弾切れとなり、マガジンを落としてすぐに再装填するも遅い。この距離なら光学銃も十分に通用する。

オレは《シリウス》を構え、引き金を引いて無数に光弾をばら蒔く。半分以上が防護フィールドによって遮られるが、減衰しきれなかった幾つかの光弾が相手の身体に命中し、ダメージエフェクトを散らせる。

GGOではペイン・アブソーバが少しだけ低く設定されている。痺れを感じる程度の痛みだが、思わず怯んでしまうには十分だ。相手が怯んだ隙を突き、オレは平突きの構えを取る。この動きは剣術由来ではなく、ソードスキルからだ。

 

刀重単発ソードスキル【神罰】。距離はキリトが好んで使う片手剣重単発ソードスキル【ヴォーパル・ストライク】に負けるが、威力とノックバックでは負けておらず、発動速度は【神罰】の方が勝っている。斬撃が主体の刀スキルの中では珍しい、刺突主体のソードスキルだ。

GGOにはソードスキルが存在しないので、システムアシストもない唯の“突き”である。しかし、身体に馴染んだ技は自然とソードスキルの動きを再現し、光剣の切っ先が相手の身体へと突き刺さる。

 

「――――――」

 

間延びもあって声を声として認識できないが、迷彩柄の服を着たプレイヤーは苦悶らしき声を上げている。胸の中央に突き刺さった光剣は相手のHPをゆっくりと削っていく。

そこで意識のギアを落とし、自身の意識をスローモーションの世界から帰還させる。感じられる速度が元に戻り、ゆっくりだったHPの減少速度も自然と上がる。

そのまま相手のHPがゼロとなり、勝利を告げる音楽が鳴った。

特にオレにとっては危なげなく初戦に勝ち、一息つくように息を吐く。そのまま青い光に包まれ、最初のドーム内へと戻される。

ドーム内に戻ったという事は、次の対戦相手の試合はまだ続いているのだろう。キリトかシノン、どちらかの試合の様子を―――

 

「……お前、本物、か?」

 

不意にオレの背後から、低く掠れたかのような声が聞こえてきた。その声にオレは咄嗟に距離を取りながら振り返ると、そこに居たのは黒いボロマントを着たプレイヤーだった。

 

「……本物?一体どういう意味なんだよ?」

 

オレはそう問い掛けながら、声を掛けたプレイヤーの容姿を確認していく。

顔は骸骨のような不気味なマスクで隠され、男か女かも分からない。その両目は赤く光っていて、異様な雰囲気を全身から放っている。

そんなオレの問い掛けに答えることなく、骸骨マスクのプレイヤーはウィンドウを開く。表示されたウィンドウはBoBのエントリー表。その表のプレイヤーネーム『Reonhard』―――オレのGGOでのプレイヤーネームを指先で指し示した。

 

「文字、違うが、読みは、同じ。あの、剣技……」

 

文字?確かにGGOでは意図的にアルファベットの頭文字をLではなくRにして、ALOのアバターと被らないようにしたが……

 

「……お前、本物、なのか?」

 

その綴りを気にして、オレの剣技を見て“本物”かを問い掛けるってことは……目の前の人物はオレのことを知っている……?

だが、どこで会った?ALO?いや、ALOに思い当たるプレイヤーがいない。ALO以外のVRゲームは、このGGOを除いて―――

―――いや、一つだけある。ALOでもGGOでもない、オレがプレイしたVRゲームが。

 

「質問の、意味が、分からない、のか?」

 

骸骨マスクのプレイヤーが一段低くなった声で問い掛ける。

 

「……あ、ああ。本当に何の話をしているんだよ?」

 

それに対してオレは、煙に撒いて誤魔化しに走ってしまった。

ここで“本物”と認めて相手の出方を見るべきなのに……否定したい気持ちが強くてそれが出来なかった。

もし、この骸骨マスクのプレイヤーとあのゲームで会っていたとしたら……アイツらの内の一人になってしまうからだ。出来れば二度と関わりたくなかった、あの連中の内の一人。

オレがやってしまった事実は忘れてはいない……いや、忘れていないつもりだった。

 

「なら、いい。だが、名前を、騙った、偽物か、もしくは、本物、なら……」

 

骸骨マスクのプレイヤーはそう呟きながらオレに近づき―――

 

「いつか、殺す。【黒の剣士】と、まとめて、必ず、殺す」

 

それだけ言い残して、立ち去って行った。偶然か意図的か、腕に巻かれた包帯がずれ、その下にあった笑った顔が描かれた棺桶のタトゥーを見せて。

 

「――――」

 

そのタトゥーを見た瞬間、オレは確信してしまった。

あの骸骨マスクのプレイヤー……アイツが死銃(デス・ガン)であり、デスゲームと化したSAOで《レッド・プレイヤー》と自称した殺人ギルド【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】の生き残りの一人であることを。

何より【黒の剣士】……キリトのことも知っていた。あれは単なる有名人だからじゃない。実際に相対し、少なくない因縁がある者のそれだった。

事実、オレは連中の一人をこの手で―――

 

「―――っう」

 

その瞬間、あの時の瞬間がフラッシュバックする。オレの刀に貫かれ、そのままポリゴンとなって消えたプレイヤーの顔が鮮明に。

オレは吐き気を覚えるも何とか堪え、近くの壁際へと移動して詰め寄るかのように壁へともたれかかる。

これまでもその事実は頭を過ることがあり、陰鬱な気分となっていたが……それでも、自分の“罪”と向き合えていると思っていた。

だが、実際はどうだ?もう彼等と関わることはないと楽観視した挙げ句、あのタトゥーをこの目で見るまで否定し続けた。

何より……あの骸骨マスクのプレイヤーのSAO時代の名前が思い出せない。いや、思い出せないんじゃない。記憶に残っていない。

 

「――――――」

 

あの日……【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】の討伐作戦で、乱戦となって死者を出してしまった……連中の一人を、この手で殺してしまった。

その衝撃とショックから記憶があやふやで……死の恐怖から剣を振るい続けた事しか残っていなくて……アイツらの拠点からどうやって街に戻ったのかすら朧気で……あの骸骨の言葉を聞いたかすら分からない。僅かに分かることは、剣を交えた事があるという“感覚”だけだ。

 

「――――――」

 

結局オレは……自分の犯した罪から無意識の内に逃げていた。その罪悪感から逃れる為にオレ自身を騙して……それでよく、アイツの重荷を少しでも軽くしたいと思えたものだと、嫌悪したくなる。

そんな自己嫌悪に陥っていると……背後から急に肩を叩かれた。

 

「ッ!?」

 

オレは突然肩を叩かれた事に驚き、反射的に振り返りつつ後ろに下がり―――盛大に壁と激突してしまう。

 

「……え?」

 

振り返った先にいた人物が一瞬アイツ―――詩乃の顔に見えたせいでオレは抜けた声を洩らしてしまう。だが、そこにいるのは詩乃ではなくGGOの屈指のスナイパー、シノンだ。そのシノンはというと、オレの行動に対して目を丸くしていた。

 

「な、何よその反応?そんな風に反応されると困るんだけど?」

「シ、シノンだったのか……いつの間に……」

「いつの間に、じゃないわよ。アンタを見つけて声を掛けたけど、全然反応しなかったから肩を叩いたのよ。……何か考え事でもしてたの?」

 

シノンの訝しげな問い掛けに、オレは目を逸らすしか出来ない。この話はシノンには……いや、今はキリトにすら話せない。死銃(デス・ガン)らしき人物と会い、その正体が【笑う棺桶(ラフィン・コフィン)】の元メンバーなどと言えば、キリトも普通ではいられなくなる。

 

「……悪い」

 

オレはそれだけしか口に出せなかった。直後、オレは青い光に包まれるのであった。

 

 

 




「皆さんこんにちは。後書きコーナーの時間です」
「今回のゲストはモテないサラマンダー、クラインだ」
「ちょっと待てレオの字!誰がモテないサラマンダーだ!?」
「いや、この上なく的確な表現だぞ。クライン」
「お前もかよ!キリト!!」
「今回の話題は刀のソードスキルについてです。本作品限定のオリジナルスキルが登場しましたので」
「突き技の【神罰】か。これ、完全に別ゲームの技だろ」
「それに刀のソードスキルが斬撃主体という設定も、一応は本作のオリジナルだな」
「ええ。既存のソードスキル【浮舟】【幻月】【旋車】【辻風】【緋扇】【絶空】【旋風車】……【緋扇】には一応突きがあるけど、そのほとんどは斬る動作ばかりからの判断みたいね」
「ゲームに登場した【東雲】【鷲羽】【羅刹】【散華】も同様だね」
「こうして羅列すると意外と多いよな。それでもオリジナルスキルはがっつり出すけど」
「名称不明のソードスキルに字を充てるのもあるな。例えば牛野郎に対して使ったやつとかな!」
「あれだな。一応設定としては……最初のソードスキルは刀上位単発ソードスキル【篝火】という事にする予定だな」
「【篝火】ねぇ……ちょっと安直な気もしなくはないけど、分かりやすいわね」
「名称だけなら【裂空】【帚木(ははきぎ)】【薄雪】とかもあるぞ」
「それなら【夕霧】に【夢浮橋】、【十六夜】もいいんじゃないか?語呂もいいし、何よりカッコいいしな!!」
「甘いなガキ共!そこは【廻天】に【紫電】、【時雨】だろ!」
「それもいいな!他には―――」
「だったら―――」
「ここで―――」
「完全に話の夢中になっている馬鹿三人は放置して、ここで終了のお知らせです」
「良ければ感想を送ってね!それじゃ」
「「バイバーイ!」」


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