OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた   作:檻@102768

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エピローグ1 勝者の片鱗、その根幹へ

 

 

 

 

 

 

「エキシビジョンマッチ最終戦!

 

 世界第三位との激闘を制したのは――――茂札普夫選手だぁああああああああッ!」

 

 

 

 

 

 

 勝負の余韻が支配する、束の間の静寂。

 

 そこからいち早く立ち直った司会の絶叫が、会場に残っていた熱を爆発させた。

 

 

 割れるような拍手。

 地響きのような歓声。

 

 誰かが勝者の名前を称えるように叫び、別の誰かが立ち上がり、興奮のあまり隣の人間と抱き合っている。

 

 

 世界第三位。

 当代最強の共鳴使い。

 

 久遠セレヴィア。

 

 

 その彼女を、共鳴を使わない高校生が下した。

 

 

 決着の瞬間を、その目で見届けた観客達でさえ。

 誰もが歓声を上げながら、どこか夢から醒めきらないような顔をしていた。

 

 

 

「――――――――」

 

 

 

 天井を仰ぎ、深く息を吐く。

 

 決着まで張り詰めていた空気。

 最後に選んだ一手。

 そして、勝者として呼ばれた自分の名前。

 

 現実感のなかった一つ一つが、ようやく「勝利」という結果へ結びついていく。

 

 

 

「……勝った」

 

 

 

 口から零れた呟きは、歓声に呑まれて消えた。

 

 

 世界第三位に、勝った。

 

 もう一度、胸の内で言葉にした途端。

 理解していたはずの結果が、遅れて実感に変わった。

 

 口元が、自然と緩む。

 カードを握っていた指から、ようやく力が抜けた。

 

 

 

「フツさんっ!!」

 

「モブさーん!」

 

「フツ兄ぃー!」

 

「モブ!」

 

 

 

 ――――その直後、聞き慣れた声が歓声を突き抜けた。

 部活やショップの皆が駆け寄ってきて、抱きつかれ、肩を叩かれ、もみくちゃにされる。

 

 

「おめでとうございます! 本当に……本当にすごかったです!

 フツさん、カードの使い方が巧すぎますって!」

 

「ありがと。…………でも、僕だけの力で勝てたわけじゃないよ」

 

「え?」

 

「君と何度もファイトした経験も、間違いなく今回の勝ちに繋がってる。

 “強い”パーミッションを相手に、実戦経験を積める機会なんてそうそうないからさ」

 

「…………ドアとのファイトが、ですか?」

 

「うん。君が何度も本気で止めに来てくれたから、妨害を踏まえた手順を身体で覚えられた。

 今日、土壇場で冷静に考え続けられたのも、その経験があったからだよ」

 

 

 ドロシーは目を瞬かせたあと、ほんの少し俯いた。

 

 

「……そういうこと、勝った直後に言うの、ずるくないですか」

 

「ずるい?」

 

「嬉しいのに、どう反応したらいいかわからなくなるじゃないですか……」

 

 

 伏せられた顔から覗く耳が、わずかに赤い。

 けれど、口元には隠しきれない笑みが浮かんでいた。

 

 

「…………でも、ドアはあの詰ませ方(ルート)を見たことないですよ?」

 

 

 顔を上げきらないまま、上目遣いにこちらを見る。

 

 

「そりゃ仕方ない。あれを切るところまで追い込まれたの、今回が初めてだから」

 

 

 マジの虎の子のルートだからな、アレ。

 

 

 理論上は成立するものとして、デッキに組み込んでいた。

 あの形が真価を発揮する局面も、確かに想定していた。

 

 けれど、実戦で選ぶ日が来るとは、僕自身思っていなかった。

 

 

 通すのも、通した後も、極限の綱渡り。

 

 それでも――相手が第三位だからこそ、最後まで刺さった。

 

 

「それに――」

 

 

 少し意地悪く笑って、付け加える。

 

 

「僕のブラフを完全に見切るのは、君にはまだちょっと早いね」

 

 

 ドロシーは一転、肩を落とした。

 

 

「先は長いですね…………」

 

「目標が見つかってよかったと、前向きに思っておこう。僕ならいくらでも練習に付き合えるしさ」

 

「あのー!なんで世界第三位に勝った直後まで、モブさんはそんなにいつも通りなんですか!

 三位ですよ!? あの世界第三位に勝ったんですよ!?」

 

 

 そこにたまらずツッコミを入れてくるユウキちゃん。元気だなぁこの子。

 

 

「わかってる! けどまだ受けとめきれてなくてね……僕も今、理解しようとしてるところだから。

 逆に冷静になっちゃってるんだ」

 

「だからってもう指導と反省会に入るのはどうなのぉ?」

 

 

 マリカが呆れたように言った。

 

 

「勝った直後くらい、余韻に浸ったらどぅ? おめでとうって言いに来たのにぃ。

 フツ兄はもうちょっとブレた方がいいと思うー」

 

「反省会じゃなくて、今後の課題の共有ね。あと余韻には浸ってるよ、これでも」

 

「どの辺がぁ?」

 

「さっきから、最終局面を頭の中で何度も再生してる」

 

「それ、検討の予習じゃないのぉ?」

 

「勝った実感が湧くたびに、ちょっとずつ嬉しくなってるから。余韻だろ」

 

「余韻の浸り方までカードバカなんだぁ……」

 

「褒め言葉として受け取っておくよ」

 

「褒めてないよぅ。ほんと自由人ー」

 

 

「モブ」

 

 

 不意に、サレンが僕の袖を引いた。

 

 

「ん?」

 

「私も一回ファイトしてみたい。デッキ出して」

 

「今から?」

 

「…………いや、待って」

 

 

 サレンは何かに気づいたように、ひとりで首を横に振った。

 

 

「その前に、どうして勝てたのか教えて。

 

 デッキの構築意図と、最後のルートを選んだ理由。

 他には……それまでに潰された勝ち筋とか、第三位(セレヴィア)の手札をどこまで読んでたのかも」

 

「ずいぶん畳み掛けてくるね君」

 

「全部知りたい。洗いざらい白状して」

 

「白状って……まあいいけど。じゃあ――――」

 

「いやいやいやいや!」

 

 

 話し始めようとしたところで、ユウキちゃんが僕達の間に割って入った。

 

 

「サレンさん! 世界第三位に勝った直後なんですよ!?

 最初に言うことが対戦要求と事情聴取でいいんですか!?」

 

「おめでとう、モブ。すごかった」

 

「そんな取ってつけた感じに!?」

 

「祝った。ほら、教えて」

 

「切り替えが早すぎません?!?」

 

「っていうかフツ兄も、なんで普通に説明を始めようとしてるのぉ?」

 

「……聞かれたから?」

 

「モブさんも大概だった!」

 

「そこはもう、諦めた方がいいと思いますよ。ドアも人のこと言えませんけど」

 

「じゃあ、検討は後でまとめてやろう。僕も確認したいことが山ほどあるし」

 

「わかった。絶対だから」

 

「結局やるんですね……」

 

 

 その騒ぎを少し離れたところから眺めながら、ロウド師範が豪快に笑っている。

 

 セト店長は、未だに信じられないものを見る目で僕を見ていた。……ちょっと傷つく。

 

 

 いや、僕だって勝てる可能性があると思ったから、あの席に座ったんだけどな。

 

 

 

 

 ――――占光高校、エウレシス団体戦二連覇。

 

 その祝勝の余興として始まったはずのエキシビジョンマッチは――誰一人として予想しなかった、十二聖座十人抜きという結末を迎えた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 歓声の中心で、仲間達に囲まれるモブ。

 

 その姿を、去年の優勝メンバーでもあるジグ部長とリナが、少し離れた場所から見つめていた。

 

 

 

 ――――強いことは、知っていた。

 

 

 

 昨年度の全国優勝者である自分達を下し。

 優勝チームの大将だったドロシーさえ打ち破るところを、リアルタイムで目の当たりにした。

 

 彼の強さを疑ったことなどない。

 

 

 強いことは知っていた。

 

 本当に、知っていたのだ。

 

 

 けれど。

 

 

 

 

――――これほどとは思わなかった。(・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 その実力の一端を知っていた自分達でさえ、想像できるはずがない。

 

 

 今の今まで無名だった同世代のファイターが。

 

 世界ランカーと渡り合うどころか。

 世界最高峰の十二人を、次々に打ち破るほどの実力を備えていたなどと。

 

 

 測り切れるはずもなかった。

 

 

「…………茂札くんが強いっていっても、ボクらの数歩先を行ってるくらいの距離だと思ってたんだけどね」

 

 

 ジグは呆然と呟く。

 リナは答えなかった。

 

 ただ、歓声の中心にいる彼から、目を離すことができずにいた。

 

 

 自分達は、彼とそう遠くない場所に立っていると思っていた。

 

 少なくとも、その背中が見える程度には近くにいるのだと。

 

 

 けれど。

 

 

 今になって、ようやくわかった。

 

 

 彼が歩いているのは、自分達の数歩先程度ではない。

 

 

 自分達がまだ入口さえ知らない領域へ。

 

 とうの昔に踏み込み、なおその先へ進み続けていたのだ。

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

(…………まさか、三位まで真っ向から下すとはの)

 

 

 仲間達に囲まれる少年を見つめ、常盤カドは胸中で呟いた。

 

 

 かつて。

 

 フリープレイとはいえ。

 サブデッキとはいえ。

 

 世界十三位である吾を下した男。

 

 

 このエキシビジョンマッチは想定外ではあったが、渡りに船だと思っておった。

 

 未だ測り切れぬ、あの少年の実力。

 

 十二位から始まり、より上位の者へ挑むほど。

 追い詰められるほどに、その全容も露わになるはずだった。

 

 だが。

 

 

(第三位にまで追い詰められ、あれほどの切り札を晒してなお――――)

 

 

 カドには、あの少年の全容を見切れたとは思えなかった。

 

 無論、デッキはあれで本領を発揮しきったのだろう。

 

 だが、あれほど歪なデッキを組み上げ、実戦で破綻なく操る思考原理(ロジック)の方が、まるで読めない。

 これほどの相手を下して、ようやく思考の輪郭が見えただけ。

 

 

 それなのに、その先へ続く道筋はまるで読めない。

 そんな、薄気味の悪い感覚すらある。

 

 

 

 時折、こうした異物(・・)は現れる。

 

 

 “覇主(一位)”。

 

 “魔王(二位)”。

 

 

 時代そのものの不具合としか思えぬ傑物達。

 

 今やあの少年が、その類いへ至り得る存在であること自体には驚かぬ。

 奇妙なのは――――

 

 

(まったくもって、あの怪物どもと何一つ似ておらんのは、どういうことなんじゃろうなぁ……)

 

 

 一位とも。二位とも。

 

 似た気配がない。

 重なる性質もない。

 

 

 同じ道を辿った痕跡すら、どこにも見当たらぬ。

 

 

 同じ高みへ至りかねない力を示しながら。

 まるで別の法則でそこへ向かっている。

 

 

 

 

()にも。

 

 

()にも。

 

 

 

 どちらにも属さずに。

 

 

(あの二人でもなければ、あやつの全容を引き出すことは叶わぬか)

 

 

 そこまで考え。

 

 カドは、わずかに口元を歪めた。

 

 

 

(――――いや)

 

 

 

 勝敗の話ではない。

 

 あやつらと相対したとして。

 果たして、あの少年の思考を最後まで測り切れる者がいるのか。

 

 今となっては、それすら怪しいものじゃ。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 そうして、馴染みの面々との喜びを分かち合っていた――――その最中。

 

 

「茂札選手」

 

 

 見知らぬ男性から声をかけられた。

 

 

 仕立ての良いスーツ。

 胸元には、大会スポンサー企業のロゴが入ったバッジ。

 

 気づけば、その背後には、スポンサー企業の役員章やプロチームの徽章を胸につけた大人達が並んでいた。

 誰もが高級そうな服を纏い、名刺入れを手にしている。

 

 

(わたくし)、こういうものでして。…………この後、少しお時間をいただけませんかな」

 

「あ、ええと……」

 

 

「弊社としても、ぜひ一度、今後の活動についてお話を」

 

「プロチームへの所属などに興味は?」

 

「こちらは私の名刺です。ファイター育成部門の責任者をしております」

 

 

 一人に呼び止められたと思ったら、次から次へと大人達が集まってくる。

 

 

 名刺。

 

 名刺。

 

 また名刺。

 

 

 ファイトは競技であり、娯楽であり、同時に巨大な産業だ。

 

 世界第三位を破った高校生。

 そんな存在を、企業やチームが放っておくはずもない。

 

 とはいえ。

 

 

(せっかく身内で盛り上がってるのに、野暮だなぁ。

 

 ……って思われても構わないんだろうな)

 

 

 そんな理由で足を止めるようでは、生き馬の目を抜くビジネスでやっていけない……というのもわかる。

 

 わかるのだが。

 

 突然そんな話をされても、正直、どう応対すればいいのかわからない。

 

 

 

 今後の活動。

 

 プロチーム。

 

 企業との契約。

 

 

 どれも、つい数分前まで世界第三位と死闘を演じていた高校生が、その場で答えを出せるような話ではない。

 助けを求めて周囲を見る。

 

 ところが、さっきまで傍にいた皆も、企業の大人達の間へ割って入れずに遠巻きにこちらを見ている。

 

 師範に至っては、面白そうに笑っていた。

 

 

 完全に他人事だ、あの人…………

 絶対に助ける気がない…………

 

 

 

「皆様。申し訳ありませんが」

 

 

 

 

 ――――凛とした声が、名刺の群れを切り裂いた。

 

 

 声の主を察した大人達が、自然と道を開ける。

 

 その向こうから現れたのは、つい先ほどまで盤面の反対側にいた女性だった。

 

 

 久遠セレヴィア。

 

 

 激戦を終えたばかりだというのに、その姿勢にも表情にも、大きな乱れはない。

 

 

「彼は今しがた、大会に加え、十戦に及ぶエキシビジョンマッチを終えたばかりです」

 

 

 穏やかな言葉だった。

 

 けれど、その瞳には、つい先ほどまでファイト中に向けられていたものと同じ熱が宿っている。

 

 

 どうやら敗北したからといって、この得難い対戦相手を名刺の群れへ明け渡すつもりはないらしい。

 

 

「仕事のお話は、日を改めていただけますか。今しばらくは、勝負を終えた者同士の時間でしょう。

 であれば。この場はまず、対戦相手であった此方に譲っていただきたく思います」

 

 

 世界第三位からそう告げられ、企業の人達がわずかに道を譲る。

 

 そうして僕の前まで来ると、静かに口を開いた。

 

 

「――――お見事でした、普夫選手。

 

 此方が勝利へ近づくほど、貴方の勝ち筋もまた完成へ近づいていた。

 あの逆転には、心より敬意を表します。…………実に、忘れ難い一局でした」

 

 

 ――――自身が優勢だったからこそ、最後の逆転は成立した。

 

 

 彼女は、あれを窮地で拾った偶然の逆転ではなく。

 自身の勝勢まで利用して組み上げられた、一つの勝ち筋として認めている。

 

 

「よろしければ、この後、此方と感想戦をいたしませんか?」

 

「感想戦、ですか?」

 

「はい。もう良い時間ですし、お祝いもお食事も兼ねましょう」

 

 

 第三位は、僕の後ろにいる部活の皆へ視線を向けた。

 

 予想外の十連戦で大会の進行は大きく押し、時計の針はいつの間にか夕食時へ差しかかっていた。

 

 

「全国大会の優勝と、エキシビジョンマッチの制覇も祝わせていただきたい。

 ご友人の皆様も、ぜひご一緒に。

 

 今宵の席は、此方に用意させてください」

 

 

 一瞬だけ迷った。

 

 

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 プロチーム。

 

 企業との契約。

 

 

 どれも、今後の人生を左右しかねない大切な話なのだろう。

 

 だからこそ、この場で勢いに任せて答えるべきではない。

 少なくとも、一度持ち帰って考える必要がある。

 

 

 けれど、感想戦は別だ。

 世界第三位が、あの最終局面で何を考えていたのか。

 

 

 僕のどの一手を、どこまで読んでいたのか。

 

 最後のルートを、彼女の側から見ればどう映っていたのか。

 

 

 

 ――――そんなもの。

 

 聞きたいに決まっている。

 

 

 

「感想戦……いいですね! 喜んで!」

 

 

 

「そんなあっさり!?」

 

 

 背後からユウキちゃんの悲鳴じみた声が上がった。

 

 対して、第三位は満足そうに微笑んでいる。

 

 

 どうやら僕が感想戦より名刺を選ぶ可能性など、最初から計算に入れていなかったらしい。

 

 

 

 ――――いや。

 

 

 もしかすると。

 

 僕が断らない誘い方を、最初から選んだのか。

 

 

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 

 

 そしてこの時の僕は、まだ知らなかった。

 

 彼女が本当に聞きたがっていたのは、あの最後の局面についてではなかった。

 

 

 ――――その問いが、僕自身の強さの根幹にまで踏み込むものだったことを。

 

 

 

 

 そして。

 

 

 その問いへ何気なく答えたことで。

 

 誰にも測り切れないと思われていた僕の思考原理(ロジック)を、自分の口から明かしてしまうことを。

 

 

 居合わせた十二聖座も含めた、僕を除く全員が。

 

 その答えに言葉を失うことを。まだ、想像もしなかった。

 

 

 







「倒されたとしても、すべてが終わるわけではない。

 葬られなかった者は、いつか再び現れる。
 残された問いの、その続きを求めて」


     ――――〈未葬の聖櫃〉




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