OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
…………自分で言っておいて、少し大げさだったかな、とも思った。
けれど。
テーブルの上に並んだカード達を見下ろしても、その考えは変わらない。
〈終焉の巨人 スルト〉。
〈自転式の砂時計〉。
〈絡まった命綱〉。
どれも、同じテーマのカードではない。
一見しただけでは、とても互いに噛み合うカードには見えない。
共鳴の道理に従うなら、本来なら一つのデッキに収まることのないカード達だ。
けれど、それらは試合の最後で決定的に噛み合った。
「共鳴使いは、デッキの強さが8点。
でも共鳴を使わない僕の
「9点?」
サレンが小さく首を傾げた。
「そう、9点。……ちょっと不思議に思わなかった?
満点ではないとしても、
言われてみれば、と。
サレンの表情がわずかに変わる。
共鳴できるテーマに寄せたデッキが8点。
全てのカードを扱える理論上の最強が10点。
ならば、その
「満点の10点は、全てのカードを使える状態。さっき話してたバベル使いだね。
それに対し共鳴使いの上限を8点って説明したのは、この9点が間に入る余地があるからなんだ」
では、その8点にプラスされた1点はどこで生まれるのか。
「共鳴使いは、共鳴できるテーマでデッキを組む。
対して、共鳴を使わないならその制約がない。
共鳴できるかどうかではなく。
そのカードが、勝ち筋に繋がるかどうか。
そのカードが、別のテーマのカードと噛み合うかどうか。
その基準だけで、カードを選べる」
複数のテーマを跨ぎ、本来なら同じデッキに入らないカード同士を、同じ勝ち筋へ向けて繋げられる。
そこに、共鳴使いを明確に上回る余地が生まれる。
だから、共鳴を使わない僕は、10点と8点の間――――9点を狙うことができる。
ただし、と。
そこで一度、言葉を切った。
「その代わり――――プレイングの方で明確に落ちるんだけどね。共鳴を使わないから」
共鳴によるプレイングの再現性では、共鳴使いに及ばない。
それは事実だ。
共鳴使いのデッキに8点という上限があるのと同じように。
共鳴を使わない僕にも、どうしても超えられない上限がある。
「つまり、共鳴を使わない僕が、共鳴抜きで迫れるプレイングの上限は9点。
10点には届かない。どうやっても、デッキの力を100%引き出すことはできない」
共鳴使いは、望むカードを引き寄せる。
必要な瞬間に、必要な札へ手を伸ばせる。
山札の奥にある答えを、自分の意思で掴み取れる。
対して僕は、どれだけ読んでも、どれだけ構築しても、最後は引いたカードで戦うしかない。
その一点だけは、共鳴使いに絶対に劣る。
「つまり――――共鳴を使わない者の上限は、デッキの9点にプレイングの9点を掛けて、81点。
これが、僕に届きうる最高値になる。
そして現実の共鳴使いの上限が80点である以上、僕のほうが一歩だけ上回る余地ができる」
81点。
80点に対し、リードはたった1点。
けれど。
その1点があるからこそ――――共鳴使いの上限を、たった一歩だけ踏み越えられる。
「もちろん、誰でもできるわけじゃない」
そこは、誤魔化してはいけない。
むしろ
ただでさえ、この世界には前世ほど整った土台もない。
全カードの効果を誰もが即座に検索できるデータベース。
同じコンセプトを試した先人たちの戦術記事。
使用感を持ち寄り、構築を磨き上げるコミュニティ。
そういうものが、当たり前に揃っているわけではない。
共鳴という才能があるからこそ、誰もが自分の
だから、己の
今まで戦ってきた多くの共鳴使い。
そのほぼ全てがそうだった。
「9点が狙えるからって、まず『9点のデッキ』を組む時点で難しい。
複数テーマを混ぜれば強いなんて、そんな単純な話じゃないよ。
テーマでコンセプトが一貫していて、カードプールも制限がかかっていて。
だからこそ組み立てるのに迷う余地が少ない共鳴使いに対して、遥かに構築難易度は高くなる」
速さに優れたテーマには、速さのためのカードが揃っている。
妨害に優れたテーマには、妨害を支えるカードが揃っている。
墓地利用に優れたテーマには、墓地へ落とすカード、墓地から使うカード、墓地を守るカードが揃っている。
だからテーマで組めば、自然とデッキは形になる。
けれど、違うテーマからカードを引っ張ってくるということは、そのシナジーに異物を取り込むということでもある。
強いカードを集めたはずなのに、必要なタイミングが噛み合わない。
別々のテーマでは優秀だったカード同士が、同じ手札の中で互いに役割を奪い合う。
勝ち筋を増やしたつもりで、勝ち筋に届くための道だけが薄くなる。
だから、複数テーマを混ぜるだけでは9点にならない。
9点のデッキにするには、違うテーマのカードを同じ
自由とは、それだけで
選べるカードが増えるということは、間違える余地も増えるということで。
進むべきと定められていない道を、自分で選ばなければならないということだ。
選択肢があるからこそ迷う。
迷って、決めきれずに、瓦解する。
それもよくある話だ。
エニグマは、一見して寄せ集めだ。
本来は、そうなってもおかしくないデッキなのだ。
だが、決してただ寄せ集めただけではない。
互いに接点などないように見えるカード達を、勝利へ向かう一本の暗号として組み直したもの。
「そして、プレイングを9点まで引き出すのも難しい。
共鳴なしで、複数ルートのコンボを管理して、相手の妨害を読んで。
どの勝ち筋を見せ札にして、どの勝ち筋を本命にするかを選び続ける必要がある」
勝ち筋が多いということは、強いという意味ではない。
バベルの時と同じだ。
複数のテーマを混在させ、ルートとして使うのなら。
仕掛けを捌こうとする相手以上に、自分が先に、より深く熟知していなければならない。
無限ターンを狙う手札なのか。
バーンに切り替えるべき盤面なのか。
デッキ破壊へ向かうべき相手なのか。
踏み倒したフィニッシャーで押し切るべき瞬間なのか。
それを見誤れば、複数の勝ち筋は選択肢ではなく、ただの迷路になる。
一つのルートに集中すれば勝てた場面で、別のルートに手を伸ばして手札を散らす。
見せ札にするべきカードを本命として切ってしまう。
本命にするべきカードを、相手の妨害を誘うためだけに雑に使ってしまう。
そうなれば、エニグマは強いデッキではない。
ただ、噛み合っていないカードを詰め込んだだけの紙束になる。
でも、そこを乗り越えられれば。
共鳴を使わずとも……共鳴を使わないからこそ。
共鳴使いの上限を超える領域へ手が届く。
少なくとも、理論上はそうなる。
「これが、僕の強さの正体。
共鳴使いの上限を、たった一歩だけ上回る。
当代最強の共鳴使いにも、紙一重で届きうる」
81点。
80点に対する、たった1点のリード。
それでも確かに、届いた。
…………そう言い終えた瞬間、沈黙が落ちた。
ただし、それは一つの沈黙ではなかった。
言葉の意味を掴めず、置き去りにされた者の沈黙。
意味を掴んだからこそ、返す言葉を失った者の沈黙。
そして何より。その理屈が机上の空論ではなく。
既に彼の勝利というカタチで、現実に証明済みであることへの沈黙。
同じ静寂の中で、浮かべる表情だけが違っていた。
「……えっと」
最初に声を上げたのは、サレンだった。
彼女は困ったように眉を寄せ、それから少しだけ身を乗り出す。
「つまり……共鳴から外れることを、弱点じゃなくて武器にしたってこと?」
「そういうことだね」
僕はあっさりと頷く。
「ただ、そこまで大げさな話じゃないよ。80点に対して81点。たった1点だけだから」
「たった、1点…………」
「うん。たった1点」
そう。
本当に、それだけだ。
9点のデッキを、共鳴なしで9点まで引き出す。
そうしてようやく、81点。
共鳴使いが、自分のテーマを10割引き出して到達する80点を、
「共鳴使いは、自分のデッキから安定して100%の強さを引き出せる。
対して僕は、デッキを9点まで上げて、プレイングも9点まで迫って。ようやく1点だけ上に出られる
口にしてみると、なかなかひどい話だと思う。
「びっくりだろ? これだけ手間ひまかけて、やっと1点超えられる
少し茶化すように笑う。
「デッキ構築を前提から組み替えて、テーマの枠を跨いで。
共鳴の補助もなしに複数ルートを管理して、相手の妨害を読んで、見せ札と本命を切り替えて、それでようやく81点。
自分で言っていて、ちょっと笑えてくる。
共鳴使いが、共鳴できるテーマを選ぶ。
それは、この世界では当たり前のことだ。
そして、その当たり前は正しい。
望むカードを引ける。
デッキの力を10割引き出せる。
構築もテーマに沿えばいい。
なら、それを選ぶ方が自然だった。
「だから、共鳴を使わない方が強い、なんて話じゃないんだよ」
普通は使わない方が弱い。
…………というか、ほとんどの場合は弱くなる。
僕は肩をすくめた。
…………だから僕の理論は、共鳴を否定するものではない。
80点に最短で到達できる、共鳴の強さを認めたうえで。
使わずに辿り着けるのが81点。
勝ち誇るには、あまりに薄い差。
勝利を確信するには、あまりに僅かな優位。
僕にとっては、それだけの話だった。
―――――――――
けれど、その場にいた者たちは違う。
受け取った側にとっては、それを言葉通りに受け止めることなどできなかった。
その細い道を、理屈として見つけただけではない。
体系化し。
構築に落とし込み。
実戦で証明し。
そして今、当代最強の共鳴使いに届かせてみせた。
その事実を理解した瞬間、聞いた者は尽く、背筋に冷たいものが走るのを止められなかった。
――――彼が語っていたのは、単なるデッキ構築論ではない。
それは、与えられた星図を辿り、その頂へ至ろうとする者の理屈ではなかった。
共鳴使いは星を仰ぐ。
共鳴という形で己を導く、星の引力を頼りに。
その星が照らす道を進む。
だが、彼は違う。
星へ向かったのではない。
星から砕け落ちた欠片を拾い集めた。
あるテーマの端にあったカード。
別のテーマでは使い切れなかった札。
本来なら一つの星座に並ぶことのない、遠く隔たった光。
それらを集め。
繋ぎ。
巡らせ。
互いに意味を与え直す。
カードは一枚では、ただの欠片にすぎない。
だが、ひとつの欠片に結ばれる線が変われば、隣り合う欠片の意味も変わる。
意味が変われば、そこに描かれる星図もまた、別の姿を取り始める。
そうして彼は、テーマという既存の夜空をなぞるのではなく。
勝利という一点を核にして、星屑を集めた。
共鳴の引力ではない。
テーマの重力でもない。
ただ、そのカードが勝利へ届くかどうか。
その一点だけを引力として、遠く
それは、掌の中で回り始めた、未知の天球。
既存の星座には属さない。
どのテーマの夜空にも収まらない。
けれど確かに、勝利という核を持ち、星屑の欠片で形作られた新たな星だった。
星に導かれた者ではない。
星屑から、星図
「砂粒とは、砕けた星のひとかけら。
星の欠片を硝子に抱き、
自ら回り続ける砂時計。
掌に収まる、小さな宇宙。
絶え間なく巡るその器は、
星々の調べを奏でる
星屑の行方が変わるたび、
違う旋律が零れ落ちる」
――――〈自転式の砂時計〉 シークレット版