OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた   作:檻@102768

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 モブ君の強さの理論、その後半のご開帳です。


 共鳴を使わないものの真価、どうかお楽しみ下さい。





エピローグ5 乱れた旋律で、勝利を奏でる

 

 

 

 

 

「――――と、ここまでがデッキの出力(・・)の話だ」

 

 

 

 

 

 そう言って、僕は一度言葉を区切った。

 

 その間に、テーブルを囲んでいた面々の表情が、驚愕から復帰する。

 

 

 だが、その顔にはすぐに、再び困惑が宿った。

 

 

 共鳴を使わず、共鳴使いに迫る、時には追い越す出力を出す方法。

 テーマに縛られず、複数の勝ち筋を内包するデッキ。

 

 共鳴によってカードプールが狭まる者達に対して、カードプール全体から勝ち筋を拾えるという強み。

 

 

 そこまで聞けば、普通は結論に辿り着いたと思うだろう。

 

 だからこそ。

 

 

 

「えっ」

 

 

 

 真っ先に声を上げたのは、ユウキちゃんだった。

 

 

「まだ、あるんですか……?」

 

「あるんだな、これが」

 

 

 僕は思わず笑ってしまった。

 実に予想通り。そして期待通りのリアクション。

 

 共鳴を追求していくことこそが強さ。

 それが常識であるこの世界では、その常識に待ったをかけた今の段階で、話は全部終わったと思っても不思議ではない。

 

 

 でも、実際には――――

 

 

「共鳴を使わない強みは、ここまでで半分。もう半分、残ってる」

 

「半分……?」

 

「うん。別に、ここまでの話が嘘だったわけじゃない。

 

 僕のデッキ(エニグマ)が複数の勝ち筋を持っていることも、テーマを跨いだカードプールを扱えることも、間違いなく強みだよ」

 

 

 けれど。

 

 そこで僕は、少しだけ声を落とした。

 

 

「それでも、付けられる差は僅かに一点の話だ」

 

 

 共鳴使いの上限が八十点。

 僕のデッキの上限が八十一点。

 

 それは確かに、優位を作る差だ。

 

 

 だが、決して圧倒的な差ではない。

 

 

 本命は、そこではない。

 

 

共鳴使いだからこそ(・・・・・・・・・)踏み込めない(・・・・・・)アドバンテージ(・・・・・・・)

 

 実は……今から語る方が、共鳴を使わない強さの真髄と言ってもいい」

 

 

 何人かが、無言で息を呑んだ。

 

 再び、空気が変わる。

 

 

 僕はその反応を見て、少しだけ口元を緩めた。

 

 

「ただ、共鳴使いには刺激が強い話かもしれないね」

 

「……刺激が強い?」

 

「うん。共鳴を極めてきた人ほど、たぶん受け入れづらいと思う」

 

 

 それから、僕は視線の向きを変えた。

 

 

「あ、ドロシー。君は特によく聞いておいてね」

 

「…………(ドア)、ですか?」

 

「うん。僕と同じで、共鳴を使わない君(・・・・・・・・・)には、参考になると思う」

 

 

 それを聞いたドロシーは一瞬だけ目を丸くして、それから静かに姿勢を正した。

 

 何一つとして、聞き逃すまいとするように。

 

 

 その様子を嬉しく思いながら、僕は続ける。

 

 

 デッキからカードを取り出して、既に晒しているカードに追加した。

 

 

「一度、僕のデッキの勝ち筋(ルート)を列挙してみようか。

 

 一つ目。フィニッシャー、〈終焉の巨人 スルト〉の踏み倒し召喚。

 二つ目。破壊耐性を持つ〈スルト〉を経由した無限バーン。

 三つ目。逆に、クリーチャーが存在しない状態で成立する無限バーン。

 四つ目。デッキ破壊をループしてのデッキデス。

 五つ目。ターン追加をループさせての無限ターン」

 

 

 そこで一拍置いてから、僕は最後に付け足した。

 

 

「そして裏ルートとして、相手に無限ターンを押し付けるロック」

 

 

 並べられたカードと、語られたルートを前に、何人かが小さく眉を寄せた。

 

 第十二位から始まったエキシビションマッチ。

 第四位までを制してなお、まだ晒していなかったエニグマの底。

 

 最後の最後。

 第三位との一戦で、ようやく引きずり出された真価。

 

 

「こうして並べたらわかるんだけどさぁ…………

 

 これ、コンボのパーツを共有するという面でシナジーしている。

 けど、コンボ同士は(・・・・・・)殆ど噛み合ってない(・・・・・・・・・)むしろ相反するのも(・・・・・・・)入ってる(・・・・)ってわかるかな?」

 

 

 それを聞いた周囲の視線が、並べられたカードを追う。

 

 たぶん、そこでようやく気づいたはずだ。

 

 コンボを形成するパーツ同士は当然シナジーで繋がっている。

 そしてコンボ同士も、パーツを共有するという意味では、まったく無関係ではない。

 

 同じカードが別のルートへ分岐し、別の勝ち筋へ繋がっている。

 

 

 

 けれど、少し距離を置いて全体を眺めるなら。

 

 コンボ同士が美しく噛み合っているかと言えば、まるで違う。

 

 

 

 盤面が更地の時に使える無限バーンは、〈スルト〉がいると機能不全に陥る。

 〈スルト〉を経由する無限バーンと、〈スルト〉が存在しないことを条件にする無限バーン。

 

 この二つは、前提からして相反している。

 

 

 無限ターンとデッキデスもそうだ。

 

 自分に無限ターンを与えるルートは、こちらから攻め立てるための時間を確保するルート。

 だが相手に無限ターンを押し付けるロックは、相手を完封した状態で立ち往生させるルートだ。

 

 分類するなら、デッキデスの亜種に近い。

 

 

 自分が動き続ける無限ターン。

 相手を動けないまま歩かせ続ける無限ターン。

 

 同じ無限ターンという言葉を使っていても、勝ち方はまるで違う。

 

 

 そして無限ターンの押し付けなど、相手のライフを詰めて勝利するバーン二種とも、〈スルト〉で殴り倒すビートダウンとも、致命的に噛み合わない。

 

 

 ルートという枝の中ではシナジーを形成している。

 

 しかし、別方向に伸びた枝同士では、シナジーしないものの方が多いのだ。

 

 

「じゃあ、これらは相反するから弱いのか?

 もっとコンボ同士でシナジーするコンボに換装した方が強いのか?」

 

 

 それを聞いた者たちは、思わず頷きそうになった。

 

 普通に考えれば、そうだ。

 

 デッキ内のカードは噛み合っていた方がいい。

 勝ち筋は一貫していた方がいい。

 

 余計な不純物は削ぎ落とし、主題を明確にし、最短で勝利へ向かう方が美しい。

 

 

 少なくとも、共鳴の道理に従うなら。

 

 

「実は、そんなことはないんだ」

 

 

 僕は首を横に振った。

 

 

「これは意図的なものだ。僕は狙って(・・・・・・)、噛み合わないコンボ同士を搭載してるんだよ」

 

 

 その瞬間。

 

 共鳴使い達の表情が、わずかに強張った。

 

 

 無理もない。

 

 

 共鳴とは、シナジーを最高効率で扱う力だ。

 

 テーマに沿ったカード。

 テーマに沿ったプレイング。

 デザイナーズコンボ。

 

 同じ旋律を重ねて、より強く、より美しく響かせる力。

 

 

 だからこそ、共鳴使いは強い。

 

 だからこそ、この世界で頂点に立つ者達のほぼ全てが、共鳴使いなのだ。

 

 

 その道理を知っている者ほど、噛み合わないものを(・・・・・・・・・)意図的に抱える(・・・・・・・)という発想は、違和感を覚えるだろう。

 

 

「けれど、これは相手に駆け引きを(・・・・・・・・)要求する(・・・・)という点では、ものすごく有効なんだ」

 

 

 もし〈スルト〉を処理しないのなら、処理できるカードがデッキにないのかもしれない。

 あるいは、処理した結果、クリーチャー不在での無限バーンを防ぐ手段がないのかもしれない。

 

 無限ターンを妨害するということは、以降を手札や墓地起動で凌ぎきれる確信がないのだろう。

 逆に、抑え込めるという算段なら、無限ターンであっても、妨害があったとしてもスルーされることもある。

 

 デッキ修復を備えたデッキなら、デッキデスは対処できる。

 だからこそ、相手は山札を削られる負けへの警戒を一段下げる。

 

 

 この繰り返しで、相手の手札とデッキの輪郭を少しずつ露わにしていく。

 

 過程でコンボ完成で勝ちきってしまっても当然いい。

 だが、凌がれたとしてもただでは転ばない。

 

 どの音に反応して、どの音を聞き逃したか。

 エニグマはそこから、相手の手札とデッキの輪郭を拾っていく。

 

 

「これは、ただの初見殺しじゃない。

 

 相手の応手を見て、情報を吸い上げながら、同時にこちらの情報を(・・・・・・・)押し付ける(・・・・・)ための構造でもある」

 

 

 もっとも、言うほど簡単な話でもない。

 

 

 エニグマは、決して扱いやすいデッキではない。

 

 

 勝ち筋が複数あるということは、裏を返せば、自分自身も判断を間違える余地が多いということだ。

 

 今の手札で走るべきルートはどれか。

 見せるべきカードはどれか。

 伏せるべき情報はどれか。

 

 

 その読みを外せば、こちらの噛み合わなさがそのまま事故になる。

 

 

 普通のデッキなら、主旋律(メイン)は最初から決まっている。

 

 何を引けばいいのか。

 何を守ればいいのか。

 どこへ向かえばいいのか。

 

 構築の段階で、デッキの方が教えてくれるだろう。

 

 

 だが、エニグマは違う。

 

 

 手札と盤面と相手の反応を見て、その場で奏でるルートを選ばなければならない。

 

 少し選び間違えれば、ただの噛み合わない紙束になる。

 

 

 

 

 けれど。

 

 

 僕は、それが嫌いではなかった。

 

 

 

 

 むしろ、そのピーキーさにこそカードゲームの面白さがあると思っていた。

 

 最初から譜面が決まっているわけではない。

 その場で相手の音を聞き、こちらの音を選び、繋ぎ、ずらし、時にはわざと濁らせる。

 

 

 エニグマとは、そういう楽しみ方ができるデッキだ。

 

 

「特に、共鳴デッキはシナジーに特化している分、マスカンが見えやすい。

 ここに吸い上げた情報で補完すればダメ押しだ。……プレイングの輪郭は、ほぼ掴めるようになる」

 

 

 何を狙っているのか。

 どこへ向かっているのか。

 どこを止めれば、その旋律が崩れるのか。

 

 テーマが明確であるということは強みであると同時に、構えどころが露出しているという事実と隣り合わせだ。

 

 

 もちろん、実際に止め切るのは簡単ではない。

 

 

 シナジーを用いて最高効率で駆け抜けられたなら、対処法がデッキにあっても間に合わないことはあるだろう。

 だから強い。

 

 けれど。

 

 

「シナジー特化のデッキは、止めるべき一点が見えやすい。その事実は変わらない」

 

 

 ただでさえ扱うテーマで扱えるカードが決まっている関係上、テーマ内のカードは大枠で把握される。

 事前にそのテーマを熟知していれば、一層容易い。

 

 仮にそのテーマ自体を深く知らなくとも、シナジーに特化している分、急所はだいたいパターン化して推測できる。

 

 

 

 対して、エニグマはそうではない。

 

 

 

 テーマが混在している。

 カードの出所が違う。

 時代も違う。

 

 本来なら、同じデッキに入る想定すらされていないカード達が並ぶ。

 

 つまり、一枚のカードの意味が、最後まで確定しない。

 

 

 それが序奏(しこみ)なのか、変奏(ブラフ)なのか、主旋律(ほんめい)なのか。

 

 その判別の選択を、相手に強いることができる。

 

 

 

 

 

 ――――ある者は、エニグマを星座に例えた。

 

 

 夜空に散らばる星々。

 一つ一つの星を見ただけでは、それはただの輝く点でしかない。

 

 だが、星と星の間に線を引けば、初めて意味が生まれる。

 

 

 離れたカード達。

 異なるテーマ。

 異なる時代。

 異なる役割。

 

 それらを繋ぐ線を見つけた時、初めてエニグマという形が見えてくる。

 

 

 

 

 

 またある者は、エニグマを言語に例えた。

 バベルの塔が崩れる前、世界が一つの言葉で通じていたという神話。

 

 

 だが、エニグマはむしろその逆だ。

 

 

 すでに分かたれた言葉。

 別々の文脈を持つカード。

 本来なら同じ文章の中に並ぶはずのない単語達。

 

 それらを拾い集め、別の文法で繋ぎ直す。

 

 意味の通じない断片に、新しい意味を与える。

 

 

 それは、暗号に近い。

 

 

 

 

 

 そして…………エニグマという発想の始原(はじまり)に近いものとして。

 

 楽譜(・・)に例える見方がある。

 

 

 エニグマの原型。

 三つのルートを詰め込んだデッキ、【三重奏(トリオ)】。

 

 そこから連なる、一つの見解。

 

 

 

「共鳴は、シナジーを扱う上で最高の能力だ」

 

 

 

 僕は改めて言った。

 

 

「同じ旋律を重ねて、より強く、より美しく響かせる。

 テーマに沿ったプレイングを最高効率で扱える。

 

 ファイトを自分のベストを尽くす競技(・・)として見るなら、共鳴使いは間違いなく最強だよ」

 

 

 最も美しい旋律を奏でる。

 最も純度の高いテーマを組み上げる。

 最も効率のいいルートを、最も高い精度で通す。

 

 その一点を競うなら、共鳴使いは圧倒的に強い。

 

 

 けれど。

 

 

「けれど。――――ファイトは、独奏(きょうぎ)じゃない。

 

 対戦相手とゲームを作っていく合奏(たいせん)なんだ」

 

 

 その場の空気が、わずかに変わった。

 

 

「相手がいる。

 相手もまた、自分のデッキを持ち、自分のゲームプランを持ち、自分の勝ち筋を持ってくる。

 

 互いにコンセプトを持ち寄って、盤面の上でゲームを作っていく」

 

 

 それは、個人の演奏ではなく重奏と呼ぶのが正しい。

 

 ただし、あらかじめ譜面が決まっている訳ではない。

 

 

 相手の音を聞き、こちらの音を重ねる。

 相手が強く鳴らしたなら、こちらも強く鳴らす。

 相手が間を作ったなら、そこへ踏み込む。

 

 時には合わせる。

 時にはずらす。

 時には、相手の旋律そのものを断ち切る。

 

 

「そういう意味では、ファイトは譜面通りの合奏じゃない。

 相手の呼吸を読み、場の流れに合わせて組み替える即興演奏(セッション)だ」

 

 

 もっと言えば、格闘技やダンスにも近いだろう。

 

 

 相手が踏み込んでくる。

 こちらが受ける。

 受けたところから返す。

 相手がこちらの動きを読めば、その読みの外へずらす。

 

 力だけではない。

 速さだけでもない。

 美しさだけでもない。

 

 相手がいるからこそ、意味が変わる。

 

 

「共鳴が、同じ旋律を重ねて強める力だとするなら」

 

 

 僕は言った。

 

 

「カウンターは、相手の音を消す力だ。

 ……自分の音を追求しないからこそ、共鳴と噛み合いが悪いんだろう。

 

 そこに今、例外もいる訳だけどね?」

 

 

 冗談めかしてそう付け足すと、第三位がわずかに目を細めた。

 

 怒っているわけではない。

 ただ、自分が例外扱いされたことを、否定も肯定もしない顔だった。

 

 

 消音(カウンター)

 

 

 相手が鳴らそうとした主題を、盤面に響く前に止める力。

 相手のシナジーを打ち消す力。

 

 だから原則として、共鳴とは噛み合いにくい。

 自分の旋律を高める力と、相手の旋律を消す力は、向いている方向が違うからだ。

 

 

 第三位。

 

 

 パーミッションのテーマに共鳴できる、あまりにも特殊なファイター。

 相手の音を消すことそのものを、自分の旋律として成立させている例外。

 

 

 けれど、彼女は例外だ。

 

 

 そして例外であっても、テーマ内で扱うカードの制限がある。

 なら……そこから情報を絞り込めるという点は変わらない。

 

 

 

 エニグマが抱えているのは、その逆の性質。

 

 

 

 コンボ自体の噛み合いが悪いということ。

 

 それは、対応幅を相手に強いるという意味で強みになる。

 

 

 噛み合わなさを、強さに変える。

 

 

 それを言葉にするのなら――――

 

 

 

 

 

「アンチシナジー。

 

 それを使いこなせることこそが、共鳴を用いない者の真の強みだ」

 

 

 

 

 

 不協和音(アンチシナジー)

 

 

 綺麗には響かない。

 美しくは重ならない。

 

 自分の中でさえ、すべてが一つの旋律として噛み合っているわけではない。

 

 だからこそ。

 

 

 

「相手の対処も噛み合わない」

 

 

 

 そこが重要だった。

 

 

「ただ噛み合わないカードを入れているだけなら、それは構築ミスか、シナジーを二の次にして対策札へ枠を割いているという状況になる。

 けれど、ルート単位で勝ち筋が成立しているなら話は別になる」

 

 

 ルートの中では噛み合っている。

 通れば勝てる。

 

 しかし、別のルートとは噛み合っていない。

 

 

 だから相手は、すべてを同じ受け方で処理できない。

 

 

「自分の中ですら噛み合っていない。だからこそ、相手の対処も一筋縄ではいかなくなる。

 

 それがアンチシナジーの本領だ」

 

 

 

 カードの効果で自然に噛み合うなら、それはシナジーだ。

 アンチシナジーは、その逆。

 

 カードの効果だけを見れば噛み合わないものを、プレイングで噛み合わせる。

 

 

 

 たとえば、場にある限り互いのクリーチャーが攻撃できない秘宝。

 そしてコストが重い切り札のクリーチャー。

 

 普通に考えれば、これは噛み合わない。

 切り札で殴り倒したいのに、秘宝が攻撃を止めてしまうからだ。

 

 

 

 だが、時間軸(・・・)を分ければ話は変わる。

 

 

 

 切り札を出すまで秘宝で相手の攻撃を防ぎ、召喚と同時に秘宝を破棄する……なら成立する。

 

 攻撃を止めるカードが、切り札を着地させるまでの時間を稼ぐカードになる。

 噛み合わなかったはずの二枚が、プレイングによって一つの勝ち筋へ繋がる。

 

 

 エニグマも同じだ。

 

 

 無限バーンや、フィニッシャーである〈終焉の巨人 スルト〉の踏み倒しは、こちらから相手を倒しにいくための攻撃ルートだ。

 

 対して、無限ターン押し付けは、相手を動けない状況に閉じ込めるロックルート。

 

 

 これらもまた、普通に見れば噛み合わない。

 

 

 

 同じ勝ち方を見ていない。

 

 

 だが、倒せる相手はそのまま倒せばいい。

 

 それを完璧にいなせる相手は、防御にリソースを割いているのだろうから。「攻めてこなければ勝てない」側に回す。

 プレイングを段階(フェーズ)で分けることによって、噛み合わないはずの勝ち筋が噛み合う。

 

 

 

「カードの効果で自然に噛み合わせるのがシナジーなら。

 

 噛み合わないカードを人為的に(プレイングで)噛み合わせるのがアンチシナジー。

 

 使いこなせれば――――本来一つのデッキに収まらない、噛み合わないルート同士が、勝利へと一貫したゲームプランへ変貌する」

 

 

 

 構築に制限がかかる共鳴使いには、これが難しい。

 

 

 攻撃を咎める秘宝は、主にロック系のコントロールのテーマに収録されているだろう。

 対して重いクリーチャーは、基本ビートダウンか、踏み倒しやマナブーストを搭載したコンボ枠のテーマになる。

 

 噛み合わない強みを、採用できる余地がもともと狭いのだ。

 

 

「…………まぁ、どんなデッキでも成立する理屈じゃないんだけどね、これ」

 

 

 たとえばビートダウンでこれをやろうとすれば、強みが分散する。

 

 大量展開して全体強化で押し込むデッキと、単騎フィニッシャーに強化を集中して殴り倒すデッキ。

 その二つをごちゃ混ぜにすれば、展開したいのか、一体を守りたいのか、デッキの圧力そのものがぼやけてしまう。

 

 

 無論、サブプランとして片方を添える構築はある。

 

 だが、それは主軸を支えるための補助であって、互いに噛み合わない勝ち筋を同格に抱えるのとは違う。

 

 

 エニグマでそれが成立するのは、ルートの大半がコンボ(・・・)だからだ。

 

 

 コンボは原則、通れば勝つ。

 

 ならば、強みは分散してもいい。

 

 分散した上でなお、相手を倒し切れるだけの出力が残るなら。

 何も問題はない。

 

 一点集中した過剰火力を、ストレートに叩き込む必要はない。

 

 一撃の威力を落としてでも、攻め筋の角度を増やす。

 それでもなお致命傷になる一撃を、相手が受けられない角度から通せばいい。

 

 同じ大量展開を三度繰り返すデッキなら、全体除去やロックの秘宝が三度とも刺さる。

 

 

 だが、エニグマは違う。

 

 〈スルト〉を止める札。

 バーンを止める札。

 デッキ破壊を止める札。

 ターン追加を止める札。

 ロックを崩す札。

 

 それらは、似ているようで要求されるタイミングも役割も違う。

 

 同じ妨害札でも、撃つ場所を間違えれば、別の旋律がそのまま通る。

 

 そして一度通れば、それが致命傷になる。

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 誰も、すぐには口を挟まなかった。

 

 理屈が難しかったからではない。

 

 むしろ逆だ。

 

 理解できてしまったからこそ、言葉が遅れている。

 

 

(そりゃ、驚くよね)

 

 

 僕は内心で苦笑する。

 

 

「…………やっぱりこっちじゃ、銀弾より純度、か」

 

 

 小さく呟いた言葉に、何人かが怪訝そうな顔をした。

 ……やっぱり耳慣れないワードだったみたいだ。

 

 共鳴を前提にした構築では、こういう発想はどうしても優先度が落ちる。

 

 

 共鳴は、主旋律を強く美しく響かせる力だ。

 なら、その主旋律に直接絡まない音は、どうしても候補に上がらない。

 

 

 振り返れば、エニグマの噛み合わないルートは、一種の銀弾にも近い。

 

 

 

 銀弾が採用されるのは、主に自由枠だ。

 

 勝ち筋の中心(マスト)となるカードを積み切ったあと。

 本命の五枚目以降を入れるのか。

 サーチやドローで安定性を上げるのか。

 妨害、除去、ハンデスで対応力を広げるのか。

 

 

 その選択肢の一つとして、特定の相手や状況にだけ強烈に刺さる一枚を採用する。

 

 それが銀弾。

 

 

 銀弾が特異なのは、シナジーや汎用性を期待して入れる枠ではない……ということだ。

 

 特定の相手、特定の状況に対して、デッキの対応可能範囲を広げるための数枚。

 

 

 

 だが、エニグマにおける銀弾は、数枚のカードを意味しない。

 

 

 

 ある勝ち筋が通じない相手に対しては、本来なら噛み合わないはずの別の勝ち筋が、ルートごと銀弾になる。

 

 無限バーンが通じないのなら、デッキを削る。

 デッキ破壊が通じないのなら、切り札を踏み倒す。

 こちらの攻撃をすべて受け切る相手なら、無限ターンを押し付け、相手の側から攻めなければ勝てない状況に変える。

 

 

 カード単位では噛み合わない。

 

 だが、一つのルートでは倒せない相手を、別のルートが倒す。

 カード単位ではアンチシナジーでも、戦略単位ではシナジーになる。

 

 

 

 

 

 エニグマとは、単に複数の勝ち筋を積んだデッキではない。

 

 

 勝ち筋同士が、互いを銀弾として補い合うデッキだった。

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 それを踏まえて、第三位のデッキに一つだけ意見を挟むとすれば。

 

 

(仮に、火力の一枚でも銀弾で積まれていれば、僕のプレイングに大分影響出てただろうなぁ)

 

 

 勝ち筋がデッキ切れのデッキに、火力をピン挿しする。

 

 誰がどう見ても、噛み合ってはいない。

 

 

 一枚や二枚の火力でライフを詰め切れるはずもなく、デッキ破壊を進める助けにもならない。

 ライフゲインを繰り返す彼女の戦術とも、方向性は一致しない。

 

 だが、火力はクリーチャー除去の代用になる。

 

 そして何より……相手がライフを(・・・・・・・)資源(リソース)にする(・・・)ことを牽制できる。

 

 

 こちらのライフを削る手段がない相手なら、自傷効果はいくらでも使えるだろう。

 

 だが、デッキ修復で再利用できる火力が一枚でも見えていたら、話はガラリと変わる。

 

 

 火力の射程内まで自分のライフを減らした瞬間。

 妨害を連打されながら、その一枚を叩き込まれて詰められるかもしれない。

 

 持っているという事実だけで、相手は自傷を躊躇する。

 

 

 そして今回の場合。

 

 火力を撃って、デッキ修復で戻す。その繰り返しをされたら負けていた。

 

 

 たった一枚。

 

 けれど、たった一枚が噛み合わない強みを備えているだけで、一気にできることの幅が増える。

 

 

 これがシナジーや汎用性を差し置いてでも、銀弾を搭載する真価。

 

 

(僕が彼女の立場なら、いっそ銀弾扱いより、除去カードの互換として入れたいくらいだ。

 

 …………もっとも、彼女は共鳴使いだから。

 その運用を思いついたとしても、共鳴を濁らせるカードを入れるかどうかは別の話になるけど)

 

 

 彼女が弱いのではない。

 共鳴使いとして正しく強いからこそ、その一枚を選びづらい。

 

 

(……本当、共鳴はアクセスできるカードプールに制限つくのが痛すぎるな)

 

 

 テーマとしてまとまっていること。

 シナジーを最大限に活かせること。

 一つの勝ち筋へ特化していること。

 

 それ自体は、間違いなく強みだ。

 

 

「繰り返しだけど、共鳴は、シナジーを最高効率で扱える。

 

 だからこそ、アンチシナジーには手を出しづらい。テーマに特化しているからね」

 

 

 そして、第三位という例外を除けば、カウンターにも適性は薄い。

 

 相手のシナジーや強みを打ち消すことに特化した力は、自分のテーマを伸ばす共鳴とは噛み合いにくい。

 

 

 自分の強みに邁進しすぎた結果、できることの幅をあまりにも狭めている。

 

 

 テーマの勝ち筋に直接絡まないカードを、別の使い方ができる一枚ではなく。

 

 ただの雑音(ノイズ)としてしか扱えない。

 

 

 

でも、共鳴使いでなくても、シナジーは使える。ただ、精度で及ばないだけだ」

 

 

 

 僕は、そこを間違えるつもりはなかった。

 

 

 共鳴は強い。

 

 

 シナジーを扱わせれば、共鳴使いの方が上だ。

 

 それは認める。

 

 

 けれど。

 

 

「共鳴使いがシナジー一辺倒になりやすいのに対して。

 

 共鳴に縛られなければ。

 

 共鳴(シナジー)

 消音(カウンター)

 不協和音(アンチシナジー)

 

 それらを余さず全部使うことができる」

 

 

 強く響かせる。

 相手の音を止める。

 

 そして――――あえて濁らせる。

 

 

 その三つを、使い分けられる。

 一つのデッキの中に押し込み、盤面の上で切り替える事ができる。

 

 

 それが、僕のデッキ。

 

 それが、エニグマ。

 

 

 綺麗な旋律だけではない。

 相手の音を消すだけでもない。

 

 噛み合わない音を、噛み合わないまま抱え込む。

 

 

 

 

 

「――――これが、僕の強みの真価だよ」

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「…………」

 

 その説明を聞いて。

 

 誰もが言葉を失う中ーーーー真っ先に口を開いたのは、ドロシーだった。

 

 

「……これ、(ドア)にも、できるってことですか?」

 

 

 ぽつりと。

 

 ドロシーがそう尋ねる。

 

 その言葉に、僕は少しだけ笑った。

 

 

「できると思うよ。というより、ドロシーはかなり向いてると思う」

 

「……向いている?」

 

「うん。君は共鳴を使わないカウンター使いだ。

 そしてコントロールのゲームレンジは、基本的に長期戦。

 

 アンチシナジーは、時間差で変わる意味を扱う。

 つまり本来は長期戦向け、コントロール向けの技術なんだ」

 

 

 そう。

 本来は、コンボである僕のデッキタイプで使う方が異端だった。

 

 

「僕のデッキは、長期戦もできるコンボだから対応してるけど。

 本来なら、君みたいなコントロール使いの土俵なんだよ。

 

 マスターできればびっくりするくらい馴染むと思う」

 

 

 そう言うと、ドロシーは小さく息を呑んだ。

 

 

「…………マスターできるまで、教えてくれるって思ってもいいです?」

 

「いいよいいよ! そのつもりで聞いてほしいって言ったんだし」

 

「…………じゃあ、それまでよろしくお願いします!」

 

「うん。任せてくれ」

 

 

 軽く頷いた僕とは対照的に。

 

 周囲の何人かは、今のやり取りを聞いて、わずかに表情を強張らせていた。

 

 

 去年、エレウシスで優勝の座を勝ち取った、共鳴を使わないカウンター使い。

 既に百命の候補にもなっているファイター。

 

 

 そこへ、アンチシナジーという新しい武器が渡る。

 

 

 その意味を、理解してしまったからだろう。

 

 

 再び、場に沈黙が満ちた。

 

 

 

 先ほどまでとは違う沈黙。

 

 感心でもない。

 驚愕でもない。

 

 どちらかといえば、理解してしまったがゆえの沈黙。

 

 

 共鳴という、シナジー最高効率の力が確立された世界。

 

 

 その世界で、栄光を得た者はほとんど共鳴使いに限られる。

 

 カウンター使いですら希少だ。

 

 

 ましてや、アンチシナジーを武器として成立させるファイターなど、果たしてどれほどいるのか。

 

 

 美しく響く旋律ではない。

 相手の音を消す静寂でもない。

 

 噛み合わない音を、あえて鳴らす。

 

 

 そんなものを武器にしている、武器にできるほど(・・・・・・・・)磨き上げている(・・・・・・・)ファイターが、どれだけいるというのか。

 

 ましてや、それを人に指導(・・)できる水準にあると来た。

 

 

 

 世界ランカーとの十連戦ですら、まだ底を見通すまで足りていないかもしれない。

 

 

 

 そんな疑念すら、場にいる者達の脳裏をよぎった。

 

 

 ただ。

 

 その異常性を、別の角度から見ていた者もいた。

 

 

「ねーぇ? 質問してもいーい?」

 

 

 沈黙を破ったのは、第十二位。

 ただ、その笑みはいつもよりわずかに硬い。

 

 自分の見識の外側にあったものを、面白がっている。

 

 けれど、それ以上に、理解してしまったものへの戦慄が滲んでいる。

 

 

 

 当然だ。

 

 

 

 それは、世界第十二位である彼女の常識から見ても、大きく外れている。

 

 少なくとも、共鳴を前提に組み上げられたこの世界の構築論とは、あまりにも遠い。

 

 

「さっきの話、理屈はわかったよ。

 噛み合わないから、相手の対処も噛み合わない。うん、そこはわかる。わかるんだけどさぁ」

 

 

 そこで区切り、溜めて。十二位は続けた。

 

 

「でもさあ。それ、普通は自分のデッキが先にぐちゃぐちゃになるやつだよね?

 普通なら、共鳴できるテーマを軸にして、もっと綺麗に組むじゃん。

 

 アンチシナジー、だっけ?

 噛み合わない強みが、タイミングで意味が変わるとか。

 

 そんなの、実際に使ってないとわかんないでしょ?」

 

 

 場の空気が、わずかに止まった。

 

 

 ――――それは、この場の誰もが見落としていた問いだった。

 

 

 

 エニグマが異常なのは、構築理論だけではない。

 

 それを成立させるために必要な、カードへの理解量。

 テーマを跨ぎ、時代を跨ぎ、本来なら同じデッキに入らないカード達を、ただ知識として知っているだけでは足りない。

 

 別のカードと並んだ時に、意味が変わる瞬間。

 

 そういうものは、実際に触れていなければわからない。

 

 

 

 だからこそ――――最終戦で。

 ターン追加は相手も対象にできることを知っていたはずなのに(・・・・・・・・・・)、第三位は見落としたのだ。

 

 

 知っていることと。

 使ったことがあることは違う。

 

 テキストを読めることと。

 そのカードが別の文脈へ置かれた時、どんな意味に変わるのかを知っていることは違う。

 

 

「ねえ」

 

 

 第十二位は、僕を見た。

 

 

 

「あなた、なんでそんなに、いろんなテーマのカードの使い心地(・・・・)まで知ってるワケ?」

 

 

 







「扉の数だけ、未来が広がっているように思える。
 だが、そのすべてが未来へ通じているとは限らない。

 迷いが消えるのは、扉が尽きた時だけだ。


 さあ。迷う余地を、閉ざしてやろう」


     ――――〈閉ざされる未来の扉〉



――――――――――




 やっとエピローグの峠を超えられました! 長かった……

 エピローグは全3話の予定とか言ってたやつは何考えてたんでしょうねぇ!? 私ですが!!


 今回語った強さの理論は、『共鳴』という言葉を見て思いついた設定でした。
 音楽由来のワードなら、音楽になぞらえた別要素もあっていいよね? という感じで。

 シナジー、カウンターとは別に、音を重ねるでも消すでもない方向性。
 それを加えて、それぞれが別種の強みを持つ要素として組み立てていきました。


 モブ君の強さの本質と理論については、ここまで。

 さて次回は、第四位も気にしていた、この強さに至った経緯について明かしていきます。


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