OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
「ねえ、あなたさぁ。なんでそんなに、いろんなテーマのカードの
十二位の問いに、室内の視線が一斉に集まった。
冷静に考えれば、もっともな疑問だった。
カードのテキストなら読める。
過去の対戦記録も調べられる。
採用理由や基本的な動かし方なら、表面的になら学ぶこともできる。
だが、
実際に手札へ引き込み、使うかどうかを迷い。
そして通したときの強さと、腐らせたときの重さを経験しなければわからない。
その経験を、一体どうやって積み上げたのか――――――
「? …………普通に、使ったことがあるからですが?」
あっけらかんと。
彼は、そう答えた。
今度は、問いかけた十二位の方が目を瞬かせた。
「いやいや、そこがおかしいって言ってんの! そんな当然みたいな顔しないでよ」
何を当たり前のように言っているのかと、十二位が身を乗り出す。
その拍子に。
豊かな胸元が、どたぷん! とテーブルの上へ乗った。
「強くなりたいなら、自分のテーマを使い込むでしょ?
共鳴を使わなくても強くなれるって理屈は、もうわかったってば。そこを聞いてるんじゃないの」
言いながら、十二位は見た。
向かいに座る彼の視線が、ほんの一瞬だけ。
自分の顔から、その下へ落ちるところを。
もっとも、それは本当に一瞬だった。
彼はすぐに視線を戻し、何事もなかったような真面目な顔で話を聞いている。
けれど、その一部始終を見逃さなかった者がいた。
「…………」
彼の隣で、天儀ドロシーの瞳がすっと細められる。
何を見ていたのかと問い詰めるようなジト目が、その横顔へ突き刺さっていた。
当人が気づいているのかはわからない。
少なくとも、表情には出ていなかった。
(……へぇ。そういうところは、普通の男子なんだ)
少しだけ意外だった。
世界第三位を破った少年であっても、目の前へあれだけ派手に飛び込んでくれば、反射的に視線くらい落ちるらしい。
年頃の男子としては、ごく普通の反応だ。
だからこそ、なおさらわからない。
目の前にいるのは、異常者めいた雰囲気を纏った怪物でもなければ、自分の才能を疑ったこともない傲慢な天才でもない。
こうして見れば、ごく普通の男の子だ。
それなのに。
ひとたびカードを握れば、世界ランカー達の思考の外側を歩き。
誰もが使い道を見いだせなかった寄せ集めを、世界第三位すら食い破るデッキへ組み上げてしまう。
普段の姿と、卓上で見せる腕前だけが。
まるで別人のもののように、懸絶している。
(……だから聞いてるんだけどね。
何をどう積み上げたら、こんな普通の子が、そこまで行けるのかって)
普通なら、強くなるために歩む道は決まっている。
カードは、使い込むほど共鳴の精度が増し、デッキもまた使い手を学習していく。
だからこそ、自分のテーマと向き合い、同じカードを繰り返し使う。
それこそが、共鳴使いの歩む王道だった。
もちろん、一つのテーマに留まらない者もいる。
今ここにいる第四位や、不在の第一位、第二位がそうだ。
新しいデッキへ持ち替えるたび、異なるカードを学び直し、手札へ引いた感触から、プレイの呼吸まで作り直していく。
十二位には、彼らがそれを繰り返せる理由も、正直なところ理解できなかった。
そして目の前の彼もまた、別の形で彼らに劣らない試行を重ねている。
これほど精密な形へ辿り着くまで、最初から正解だけを引き当て続けたはずがない。
「……ねえ。今の形にするまで、いったい何枚試したワケ?」
使えるかもしれないと加えられ、噛み合わずに抜けていったカード。
別の勝ち筋を形作りながら、最終的には残らなかった組み合わせ。
採用された一枚の背後には、比較され、試され、選ばれなかった何枚ものカードがある。
完成したデッキに残っているカードだけが、彼の扱ってきたカードではない。
むしろ、このデッキの完成度が高いほどに。
今の形へ厳選される以前に、彼が触れてきたカードプールの広さまで推し量れてしまう。
第一位と第二位には、共鳴がある。
新たなデッキを使い込めば、共鳴は深まり、デッキもまた使い手を学習してくれる。
費やした時間は、そのまま
第四位にしても、学び直したカードは、新たに組み上げたデッキの一部として実戦で使われる。
「でもぉ、あなたは全然違うでしょ?」
十二位の目が、彼をまっすぐに捉えた。
「カドちゃんから聞いたんだけどさぁ……あなた、縛り手なんでしょ?」
彼には、共鳴の精度が高まることも、デッキに自分を覚えさせることもない。
そればかりか、試したカードの多くは、選別の末にデッキから抜けている。
費やした時間のすべてが、目に見える形で強さへ返ってきたわけではない。
役に立つ保証さえないまま、今のデッキには残らなかったカードの感触まで、膨大に自分の中へ蓄積してきたという。
そこまで考えて、十二位はさらに嫌な可能性へ思い至った。
彼は、アンチシナジーすら使いこなす。
噛み合わないカードを、プレイングによって噛み合わせる技術。
それを身につけるには、噛み合う組み合わせだけでなく、
完成したデッキに採用されたカードではなく、選別の過程で試した組み合わせまで含めるなら。
その試行の幅だけは、第一位達すら凌いでいるかもしれない。
「絶対、モチベ保たないでしょ……」
だからこそ、何が彼をそこまで続けさせたのかわからない。
十二位は、呆れたように息を吐いた。
「最終的に使わなかったカードの感触まで覚えるなんて、一朝一夕で身につくものじゃないじゃん?
それで強くなれるっていうのはわかっても――そこまでできた
「…………ああ」
そこでようやく、彼は十二位が何を疑問に思っているのか理解したらしい。
「そういうことですか。うん。言いたいことがわかりました」
十二位は、役に立つ保証もない修練を、なぜそこまで続けられたのかと尋ねている。
おそらく、この場にいるランカー達も同じなのだろう。
僕が共鳴を使えない代わりに、膨大なカードを研究した。
共鳴使いとの差を埋めるため、使う予定のないカードまで試し続けた。
そう考えている。
けれど、それは少し違う。
僕にとって、いろいろなカードを使うことは、耐えて続けた修練ではなかった。
これが苦行だと思うこと自体が、既に共鳴ありきの前提だった。
「多分。知識として知ってるのと、使った感触として
「理由?」
「うん。きっと、僕とあなたでは、『自分のデッキに入っていないカード』への認識が、根本から違うんです」
そこで、少しだけ考え込む。
(…………前世の話をするのは、さすがになしだな。話す必要もないし。それに……)
「いろんなカードを試行錯誤するモチベーションが保てるの、僕にとっては不思議じゃないんです。
……というか。僕には
「……逆ぅ?」
「こっちのほうが強くなれるからって、頑張ってモチベーションを維持してるんじゃないんです――――」
そう。僕は強くなるために、
むしろ。
「僕は、共鳴を使わないことを我慢してるんじゃないんです。
共鳴のために、
「…………はぁ?」
十二位が、今度こそ理解できないものを見る目を向けてきた。
「いや、もちろん。
一つのテーマとずっと向き合って、極めていく楽しさもわかりますよ?」
新しいカードが加わるたびに、構築を調整する。
同じ相手、同じ状況でも、以前より洗練された答えを出せるようになる。
一つのデッキを長く使い続けた者にしか辿り着けない境地があることは、僕だって否定しない。
「でも僕は、知らないカード、新しいカードを見たら自分でも使ってみたくなるんです。
面白そうなカードを見つけたのに、今のテーマと関係ないからって触らないままでいる方が、よっぽど我慢してる感じがするというか……」
「それじゃ、いつまで経っても共鳴が深まらないじゃん。強くなりたい人のやることじゃないでしょ……」
「共鳴使いとして強くなるなら、共鳴できるテーマに一途でいなきゃいけないんでしょうね。
でも僕、新しいもの好きの浮気性なものでして」
茶化しながら返すと、十二位の声から、呆れよりも困惑が滲んだ。
――――共鳴使いにとって、使うカードを頻繁に入れ替えることは、単なる気分転換ではない。
デッキが使い手を学ぶために必要な試行を散らし、自ら共鳴の成長を鈍らせる行為だ。
強くなろうとする者なら、普通は避ける。
けれど、僕にとっては逆だった。
使ってみたいカードを諦め、同じカードだけを使い続ける方が、よほど我慢に近い。
(これが共鳴使いの視点、か。
この場を設けてもらって正解だったな。
カルチャーギャップを感じてるのは
共鳴を前提に話している限り、きっと何を言っても噛み合わない。
(……本当に、共鳴のあるなしだけで、同じゲームで遊んでいるとは思えなくなるなぁ。
僕から見ても。きっと、向こうから見ても)
…………だったら。もっと手前から説明してみよう。
僕にとっては、あまりにも当たり前だったところから。
「というか、人のカードを見て、自分でも使ってみたいと思う。
だったら、自分も使ってみる。
それって、そんなにおかしなことですか?」
「だからさぁ。人のカードって共鳴出来るとは限らないじゃん。
合わないテーマのカードなんて使っても、」
「僕たちの遊んでいるLifeは――――
「――――――…………」
あんぐりとする十二位。
だがここは譲れない。
プレイスタイルや好み、適性によって向き不向きがあり、使いこなせないことはあっても。
共鳴できないというだけで、『自分には使えないもの』として切り離す必要はない。
誰が手に取っても、そこに記された性能は変わらない。
少なくとも、僕が知るカードゲームとはそういうものだった。
他人が使っている一枚に憧れたなら、探して、手に入れて、自分でも使ってみる。
交換してもらってでも欲しいと思えるカードがあり、その欲求を実際のプレイへ繋げられる。
僕にとって、トレーディングカードゲームとは、そういう遊びだった。
僕にとっては常識のはずのそれが、十二位には暴論のように聞こえているらしい。
共鳴できないカードを、最初から自分の選択肢に入れていない。
他人のカードに強さや面白さを感じ、憧れを抱いても、適性がなければそこで終わる。
興味や憧れと、自分が実際にプレイするカードが、ほとんど切り離されている。
そして。
共鳴によって切り離されているものは――それだけではないのだろう。
「神より与えられた道を進むことが、天意。
示された未来へ辿り着くことこそが、理想。
そう信じているのだろう?
ならば今度は、私が道を与えよう。
お前が疑いもせず選び取る――――絶望への道を」
――――〈閉ざされる未来の扉〉 シークレット版
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