OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
2 通らない壁を、貫く一手
バトルボードが、淡く発光する。
先攻後攻の決定。
光が灯ったのは――――――
「
(……様子見か。それとも構えるタイプ?)
共鳴使いがドローにアドバンテージがある以上、初手の手札事故の可能性は考えづらい。
それで動かないってことは、高速コンボの可能性はだいぶ低くなる。
こっちの仕掛けを警戒してマナを温存しているのか?
「よく見ておくが良いぞ。天儀よ」
ファイトが始まると同時に、静かな声が、観客席の一角で落ちた。
カド市長が、ドロシーへと声をかける。
面識はあれど、さほど親しいとは言えない相手からの助言に、ドロシーは困惑した。
「ド、ドアですか?」
「うむ。あやつはお主の発展型――――このまま進めば行き着く”果て”の一つじゃ。
大いに参考になるじゃろう。見逃さぬようにな」
それを聞いたドロシーは、わずかに目を細めた。
今はその言葉の意味はわからないけど。
それでも耳にいれる価値があると、心の何処かで直感した。
まだ盤面には、何も起きていない。
だが、その一手の意味を理解している者は、この場に確かに存在していた。
「僕のターン。レディ、アップキープ、ドロー。
色彩をセットし、『災火の前触れ』をプレイ」
盤面に置かれたそれを、対戦相手は一拍置いて見つめる。
「除去を合わせます。着地と同時に破壊」
「通ります。『前触れ』は墓地へ」
コンボの最初の種火、『前触れ』は風に吹かれたかのように、あっさりと消えた。
(……開幕からコンボの起点を潰してきたか)
先行で何も展開せず、除去を構えていた。
つまり、序盤の盤面の構築より“芽”を潰すことを優先している。
「此方のターン。ドロー。……色彩をセットし、エンドです」
また動かない、か。
「僕のターン。ドロー。色彩をセットし、『終局へ至る歯車』をプレイ」
「妨害します」
「……通します」
今度は盤面にいつく間もなく、コンボパーツは墓地へ落ちた。
(開幕から除去と妨害。
しかも両方とも、惜しまず切ってくる)
(ここまでのエキシビションマッチでも、エニグマが複数のルートを持つコンボデッキというのは見せてきた)
だからパーツを端から即対処も間違いじゃない。
が……違和感がある。
(搭載数が限られてるなら、決定機かその直前まで温存する。
それを、まだ二ターン目であっさり二枚。デッキに潤沢に積まれている証拠だ)
……コントロール要素あり、どころじゃないな。
最後の最後でド不利対面引いたか?
(……ま、十人もいれば、コントロールだって二、三人はいる計算だもんな。
それにコントロールなら、前世でも何度も相手にしてきた)
(今世でも、ドロシーと何度もファイトしてる。
レベルは違うだろうけど――やること自体は変わらない)
(……ただ。エニグマでこの相手は、普通に不利だな)
それからも、似たような応酬が続いた。
僕が仕掛け、相手が潰す。
何度か試すようにコンボパーツを投げる。
そのたびに、除去と妨害が飛んでくる。
秘宝は盤面に残らず、クリーチャーも並ばない。ただの更地のまま。
だが、ターンは確実に進み。
互いの前には、使えるマナだけが増えていった。
(こっちから除去や妨害を打つまでもなく、相手の盤面は空っぽっていうのも引っかかるね)
相手は殴り勝つタイプのデッキではない?
もちろん、序盤の展開はひたすら咎めて、中盤以降に大型フィニッシャーを妨害と除去でサポートするタイプって可能性もあるが。
(それでも、間違いなくコントロール系のカードは山盛りだ。
コンボ主体のデッキで、このまま空中戦に引きずりこまれるのは上手くない)
(なら――――――盤面だけでも先行させてもらおうか)
ここからが中盤。
小細工の牽制は終わり。偵察用の札は十分切った。
戦局を動かす一手を――通せるか、叩き落とされるか。
次の一手に向けて、静かに呼吸を整えた。
「僕のターン。〈自身も危うい金貸し〉を召喚。通りますか?」
宣言したのは、新たなコンボパーツ。
コスト関連での飛び道具。
〈自身も危うい金貸し〉
――――――――――
これは利子カウンターが3個置かれた状態で戦場に出る。
あなたのアップキープの開始時、
またはあなたが望むとき、
利子カウンターを1個取り除く。
利子カウンターを取り除いたとき、
次にあなたが唱える呪文1つのコストは{1}少なくなる。
利子カウンターが0個になったとき、これを破壊する。
――――――――――
数ターン分のコストを前借りするカード。
ただし期限付き。上手く使い切れなければ抱え落ちで自壊する。
つまりコンボデッキで素通しすれば、この数ターンで
よって――――――
「妨害します」
「妨害は通ります。『金貸し』は墓地に」
淡々とした宣言。
これまでと同じ、静かで熱量を含まない声。
(やっぱり、即潰しに来るか)
金貸しは場に出ることなく消えた。
だが、それで顔色は変わらない。
(想定内だ)
「再び、『自身も危うい金貸し』を召喚。通りますか?」
「! …………対応を考えます」
今度は、相手の反応がわずかに遅れた。
(…………二枚目を引いていましたか)
対応は三種類。
妨害か、除去か、あるいはスルーか。
なまじ、どの選択肢も取れるからこそ悩ましい。
本音を言えば妨害を打ちたい。着地なんてさせず消し飛ばすのが最適解なのはわかってます。
けれど、ここまでにもひっきりなしに妨害を打ち込んだ手前、手札の妨害は残り僅か。
この妨害は相手の仕掛けを止めるためではなく、
スルーも厄介です。このまま野放しにすると『金貸し』のアドが残っている早期、おそらく次のターンで畳み掛けに来る。
そこで温存した妨害を注ぎ込んだとしても、使えるコスト差で上を取られたら詰みかねません。
なら――――――
「お待たせしました。対応はなし。着地どうぞ」
「はい。『自身も危うい金貸し』が盤面に着地します」
「着地と同時に除去をプレイします。『金貸し』を破壊」
一瞬の着地は許しますが、効果起動前に排除を。処理は妨害ではなく除去で。
呪文にも対応できる妨害は惜しいですが、クリーチャー用の除去なら使っても構いません。
何より、除去は
(――――その選択を、待っていた)
狙い通りのそのアクションを見た瞬間、即座にカードを叩きつける。
「対応します。その除去に呪文『一時しのぎの強襲』をプレイ。効果は――――――」
「覚えています。自身のクリーチャーを1体破壊し、代わりに手札からクリーチャーを召喚。
そのクリーチャーはエンド時に破壊される……ですね?」
「そう。その
『一時しのぎの強襲』はかなりのアド損呪文だ。
代わりに、軽く、妨害されない。
…………普通の運用なら、こんなカードには目もくれない。
莫大なデメリットを、アドではなくコストの軽さと通りやすさとトレードしている。
しかしせっかく召喚したクリーチャーが、ターン終了時に破壊されるような呪文など、わざわざ妨害するまでもない。
これほどにピーキーな呪文、普通なら不採用だろう。
だから。
もし使われるとすれば、そのデメリットを丸ごと踏み倒せるような。そんなギミックが仕組まれているに違いないのだ。
「…………対応は、ありませんね?」
「無論です。どうぞ召喚なさってください」
「では、遠慮なく。『自身も危うい金貸し』を破壊し、手札からクリーチャーを召喚」
能力を使う前に。除去が刺さる前に。『金貸し』は砕けた。
そして―――――その残骸を踏みしだきながら、怪物が君臨する。
「召喚するのは――――――《
宣言とともに、バトルフィールドが、揺らぐ。
次の瞬間。
隕石が眼前に落ちたかのような衝撃が、会場すべてを襲った。
「貧乏人は物取りに遭う心配がなくていいなっ!」
―――――《自身も危うい金貸し》
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