OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
※Web掲載版の公式スピンオフ『災禍に祈りは届かない』を受けて、
本作内の一部設定をアップデートしました。
朽木先生の、モブ君を見た十二位の反応イラストです。
https://x.com/3RcKuvPs7an4Stq/status/2087824913361223741
若かりしモブ君の”せいちょうしたすがた”。
初見じゃわからないかもですねぇ。
https://pbs.twimg.com/media/HOrvGtJaUAAusH2?format=png&name=orig
――――しばらく、誰もその言葉を呑み込めずにいた。
強くなるために、ありとあらゆるカードを研究した。
そこまではわかった。
まだ、想像できる範囲内だった。
そして、そのためには共鳴を諦めるしかなかった。
強大な才能を捨ててでも、自分の信じた強さを追い求めた…………苦渋の選択。
もしくは、縛り手となり共鳴を失い。
それでも強さを諦めきれず、死に物狂いで強くなれる道を探した…………不屈の結果。
きっと、そんな話なのだと思っていた。
だが。
その先は、彼らが想像していたような話ではなかったらしい。
いろんなカードを使いたかったから、使った。
知らないカードがあれば覚えた。
それを繰り返していたら――いつの間にか、今の彼が出来上がっていた。
(((えええー…………)))
「…………ええと」
ようやく口を開いたユウキが、何とも言えない顔をする。
「つまりモブさんって」
「うん?」
「強くなるために他の人のカードを使ってたんじゃなくて――単に、使いたかったんですか?」
「そりゃそうだよ」
何を当たり前のことを、とでも言いたげに彼は答えた。
「ユウキちゃんだって、〈焼刃〉欲しいーって言ってただろう? アレと同じだよ」
「…………あ!」
確かに、あの〈ヒーローゴブリン〉で猛威を振るう〈焼刃〉を見たとき。
あれが自分のデッキにも入ったら――と、散々欲しがった記憶が蘇る。
「フリプで十連勝したらあげるって約束、達成できてないけど…………
自前で引いたの使ってるでしょ?」
そう言って、少し楽しそうに笑う。
「やっぱ他の人のカード、使ってみたくなるよねぇ。TCGの醍醐味だよ」
身に覚えがある例を出されれば、あまりにも単純な答えだった。
本人にとっては、本当にそれだけのことなのだろう。
そして、そこまで聞けば。
思い当たることのある者は、この場にもいた。
彼が多種多様なカードを使いこなすことは、近しい者なら知っている。
今回のエキシビションでお披露目された〈エニグマ〉だけではない。
ヒーローゴブリン、童話死神、その他のデッキ。
他にも、彼が手にしてきたデッキを挙げ始めればきりがない。
そして、テーマに関わらず、そのどれを握っても。
彼は、決して付け焼き刃とは呼べないだけの強さを見せていた。
そして――――
その異様さを、誰よりも昔から知っている者がいた。
妹分であるマリカが、何かを思い出したように目を細める。
別の席では、ロウドもまた、顎髭を撫でながら同じような顔をしていた。
二人には、思い当たる節があった。
気門道場では、門下生が大きな試合を控えている時。
対戦相手を想定した仮想戦を行うことがある。
速攻なら速攻を。
墓地利用なら墓地利用を。
特殊なギミックを使う相手なら、それに近いデッキを。
もっとも。
テーマが違えば、共鳴できる者も違う。
以前はそのたびに適性の合う門下生を探し、時には何人も駆り出して。
道場総掛かりで仮想敵を用意していた。
それが――――彼が来てから、ずいぶんとスマートになった。
必要なデッキさえ渡せば、彼が回してくれる。
しかも本人は嫌がるどころか。
知らないカードなら喜んで覚え。
知らないデッキなら、何度も回して感触を確かめ。
やがて仮想敵として十分なところまで仕上げてくる。
共鳴できるかどうかなど、最初から当てにしていない。
だから、テーマを選ばない。
以前なら何人もの門下生で賄っていたものを、普夫一人でかなりの範囲を担えるようになった。
――――気門道場には、表には出てこない“秘蔵っ子”がいる。
様々なデッキを、高い水準で扱うファイターが。
外部でそんな噂が立っていることも、マリカとロウドは知っていた。
もちろん、その“秘蔵っ子”が誰なのかも。
だから。
今になってマリカの腑に落ちたのは、別のことだった。
「…………なるほどぉ」
思い返してみれば。
ずっと、そうだった。
縛り手となった後だけではない。
まだ共鳴を失っていなかった頃から。
彼は、面白そうなカードがあれば使い。知らないデッキがあれば触り。
仮想敵を頼まれれば、自分の適性とは関係のないデッキまで喜んで握った。
共鳴を失ったから、そうなったのではない。
共鳴を捨てて、その道を選んだわけでもない。
――――最初から、そういうファイターだった。
「兄ぃ、そういえば……昔から何にも変わってないんだねぇ」
共鳴があった頃も。なくなった後も。
彼にとって、カードを使うのに適性なんて関係なかった。
今にして思えば。
兄ぃは昔から。
どんなカードを渡しても、楽しそうに使っていた。
――――でも。
「……あれぇ?」
そこで、ふと別の疑問が浮かぶ。
マリカが、じとっと普夫を見る。
「ん? マリカ、どうかした?」
「思えばぁ…………フツ兄がこんな理論持ってるとか、
それを聞いた周囲は、怪訝な顔をする。
言われてみれば。
彼の身内であるマリカすら、その理論を知らない。
今日が初対面の世界ランカー達と、まったく同じ反応をしていたのだ。
少し頬を膨らませた妹弟子に、普夫はきょとんと瞬いた。
これだけの強さに到達できる理論を、近しい者にも一切伝授していない?
――――そんな不自然さへの疑問の回答は、実にサラッともたらされた。
「いや…………別に言う必要なかったし」
「えー? 教えてくれてたら、もっとプラスになってたかもなのにぃ」
「だって、マリカに限らず大抵のファイターって共鳴使いだろ?
共鳴使ってる人に『共鳴使わなくても強くなれる方法あるよ?』……なんて言わないだろ普通。
多分聞いても使わないだろうし。
下手したら『共鳴は使わないほうが強い』って主張と誤解されかねない。
僕、そんなノンデリじゃないよ流石に」
――――使わないほうが強い僕は、だいぶ例外なんだよ?
とでも言いたげに肩をすくめる。
「えぇー…………」
「それに、そもそも」
普夫は、テーブルの上のカードへ視線を落とした。
「今こうして、僕が実際に共鳴なしで世界ランカーに勝って。
初めて“聞くに値する理論”って評価になったからだろう?
それ以前に、『共鳴を使わなくても強くなれる』なんて口にするのは…………
言いたくないけど、負け惜しみにしか聞こえなくないか?
だから、黙ってたんだ」
それは確かに一理ある。
共鳴を使えない縛り手が、共鳴を持たないが故の強さなど主張しても、普通なら一笑に付されて終わるだろう。
その判断は、理屈として間違っていない。
しかし、その判断には、理はあっても
「…………?」
そして。
マリカが引っかかっているのは、そこではなかった。
「別にぃ」
「ん?」
「使うとかどうとかじゃなくってぇ――――兄ぃの言うことなら、何でも聞くよぉ?」
「…………」
普夫が止まった。
ほんの一瞬。
何かを考えるように、妹弟子の顔を見る。
…………いや。
それはちょっと、危ない言い方じゃないか?
「……気持ちは嬉しいけど」
少しだけ困った顔で言った。
「そういうセリフ、迂闊に言うのダメだからね?」
「?」
マリカが首を傾げる。
本気で意味がわかっていない顔だった。
女の子が男の人に「何でも言うこと聞く」……なんてキラーワード、迂闊に向けちゃいけません。
そうたしなめようとする前に、
「兄ぃ以外に言うつもりないけどぉ?」
「………………」
今度こそ、普夫は黙った。
――――そういうところなんだよなぁ。
本人には、どれだけ危ういセリフを口にしたのか、たぶん自覚がない。
幼い頃から知っているとはいえ。
すっかりスタイル抜群の美人さんになったのに、この変わらない距離感と、ガードの低さはなんなのだろうか。
関わる男の子の初恋を、片っ端から奪い去る罪深いムーブをしてやしないだろうな…………
こんな思わせぶりなセリフを軽々に言うとか、困ったものだ。
僕じゃなかったら勘違いしてそうだ。危なかった……
なお、そのやり取りを眺めていた周囲は……
普夫へ一斉に、なんとも言えない視線を向けていた。
「…………?」
ふと周囲の視線に気づくと、なんか四方八方から妙に責めるような雰囲気を感じる。
…………なんなんだ一体。
――――ただ。
その中で一人だけ。
同じように普夫を見つめながら――――まるで違うことを考えている少女がいた。
「…………」
“
彼女は、じっと普夫を見つめていた。
――――最初に引っかかったのは、全国大会で優勝した彼の顔が大きく映し出された時だった。
(…………あの人と、似てる?)
数年前まで近所に住んでいた、一人の少年。
カードで全然勝てなかった自分と遊び。
確率やデッキの組み方を教え。
カードの向こうには物語があるのだと教えてくれた――――あの“おにーさん”。
確かに面影はある。
けれど、顔つきも体つきも、纏う雰囲気さえ昔とは違う。
同一人物だと先に聞かされていれば納得できる。だが、何も知らず外見だけで見抜けるほどではなかった。
だからこそ。
もしかしたら、とエキシビションマッチまで提案した。
一対一で向き合い。
カードを握れば、何かわかるかもしれない。
――――だが。
当の本人は、リオを見ても何の反応も示さなかった。
懐かしむでもなく。
驚くでもなく。
まるで、本当に初対面であるかのように。
(…………やっぱ、違う人なのかな)
もう会えないのかな。
そんなことまで考えていた。
――――けれど。
今となっては、もう疑いようがない。
『ユウキちゃんだって、〈焼刃〉欲しいーって言ってただろう? アレと同じだよ』
『やっぱ他の人のカード、使ってみたくなるよねぇ』
いろんなカードを使って。
自分で確かめて。
その経験を、自分自身に蓄積していく。
マナカーブ。確率。構築。
共鳴するかどうかではなく、必要なカードを自分の頭で考える。
昔。
『君は、必要なカードが自分の手元に来るための努力をしなきゃいけない』
そう言って、共鳴が出来なかった自分に、共鳴以外のカードの見方を教えてくれた人。
顔が変わっていても。
雰囲気が変わっていても。
――――そこだけは、何一つ変わっていない。
(…………こんなの)
リオは、目の前の少年を見つめる。
(おにーさん以外なわけ、ないじゃん)
「ねぇ」
「…………はい?」
普夫が振り向く。
「何ですか? 十二位」
それでも、その瞳に懐かしむ色は浮かばない。
そして、他人行儀な口調と呼び名を向けられたことに、少しだけ胸が痛んだ。
けれど――――もう、確かめるしかない。
「ねぇ……
「え?」
いつもの、からかうような笑みはなかった。
冗談でも。
軽口でもない。
ただ真っ直ぐに。
どこか縋るような目で、普夫の答えを待っている。
そんな十二位の様子に。
事情を知らない周囲にさえ、今の問いが彼女にとって軽いものではないことだけは伝わった。
みるみるうちに、その場の空気が張り詰めていく。
そして。
昔と同じ呼び方で。
「――――
「………………」
その呼び方を聞いた瞬間。
今度は、普夫の中で何かが引っかかった。
白い髪。
幼い少女。
カードを抱えて、何度も遊びに来た女の子。
『また負けたー!』
『このデッキもダメだぁ!』
『じゃあ次、これ使ってみよーっと!』
負けては膨れ。
それでも懲りずに、また別のカードへ手を伸ばして。
『ねーねー、このカードとこっちのカード、同じ人じゃない?』
『ほら! こっちが昔の姿で、こっちが大人になった後とか!』
カードの性能以上に。
描かれた絵と、その向こう側にある物語へ目を輝かせていた少女。
「…………あ」
その瞬間。
縛り手になって以来、どこか輪郭を失っていた記憶が、一つの呼び方を起点に繋がっていく。
道場。
そこにいた人達。
あの頃、自分の周りにいた人間。
そして――――。
「…………リオ、ちゃん?」
「――――っ」
リオの瞳が、大きく見開かれた。
一瞬。
何かを堪えるように。
唇を結んで。
けれど。
「…………あー、もぉぉぉぉぉぉっ!」
「うわっ!?」
次の瞬間には。
全部吹き飛んだ。
「覚えてるんじゃん! やっぱりおにーさんだったんじゃん!!
もー! もー! もぉぉぉぉぉぉぉぉおお!!」
もう我慢ならない、とばかりに。
溜まりに溜まっていた不満を、一息にぶつけてくる。
「なに!? なんで私を見て今までずっと
「いや、僕も今思い出したんだよ!」
「今ぁ!?」
「本当に今! ほら、僕が縛り手っていうのは聞いてたんだろう!?」
「……………………それは、聞いてるけどぉ…………」
先ほどまでの勢いが、目に見えて削がれる。
縛り手。
この世界で、その言葉が指すものはあまりにも重い。
さすがのリオも、そこへ軽々しく踏み込む気にはなれなかったらしい。
「そのあたりの事件のせいでさ。一時期、昔の記憶が結構飛んでたんだよ。
……大分戻ったと思ってたんだけど、その名残みたいだ」
「…………えー、何それぇ?」
事件から随分経ったし、記憶も大分戻ったと思って油断していた。
(あー、これ……他にもまだ、思い出せてない記憶あるな。きっと)
少し困った問題ではある。
けれど――――それを考えるのは、今じゃない。
普夫は思考を切り上げ、今一度、目の前の少女へ向き直った。
「うん。もう大丈夫。君のこと、ちゃんと思い出したよ」
ぶー、と頬を膨らませ。
リオはテーブルに顎を乗せたまま、じとぉっと普夫を睨む。
「…………」
「…………」
恨みがましい視線に、普夫は気まずそうに眉尻を下げた。
「…………ごめん。本当に」
「…………」
自分から忘れたわけではない。
とはいえ、忘れられた側からすれば、そんな事情で簡単に割り切れるものでもないだろう。
それでも。
本当に申し訳なさそうにしている相手を、いつまでも責め続ける気にもなれなかったらしい。
リオはまだ少し不満げな顔を残しながら、それ以上は追及しなかった。
普夫は、こほんと一つ咳払いして。
「改めて――――久しぶり、リオちゃん。元気そうで何よりだ」
「そーいうおにーさんは波乱万丈っぽくってご愁傷さまー」
「久々の再会で結構ズケズケ言うね君……」
口ではいつもの調子に戻ったものの、膨れた頬はまだ元に戻っていない。
「…………まあ。
ちゃんと私のこと思い出したみたいだし、許してあげる」
「そう言ってくれるとありがたいな」
苦笑する。
そこで何かに気づいたように、リオが普夫の両隣を見比べる。
「あ、おにーさん。隣座っていい?」
「ん? ああ、いいよ。おいで」
そう答えてから、普夫は自分の両隣を見る。
右にドロシー。
左にマリカ。
どちらかに少し詰めてもらわなければ、一人分の場所は作れない。
「ドロシー、ちょっと――――」
「…………」
「…………なんでもない」
やめた。
なぜか知らないが。
今、そちらへ話を振るべきではない。
本能がそう告げていた。
「マリカ。悪いんだけど、ちょっとそっち詰めてもらっていい?」
「んー? いいよぉ」
言われたマリカが、素直に椅子をずらす。
とはいえ、それだけではまだ少し狭い。
なので普夫自身も椅子を動かし――――ドロシー側へ少し寄った。
「…………」
先ほどまで漂っていた剣呑な気配が、嘘のように消えた。
(…………なんだったんだ、今の)
「それじゃ、おじゃましまーす!」
そんな事情など知る由もなく。
リオは空いた場所へ椅子を持ち込み、当然のように普夫の隣へ収まった。
そこでふと、思いついたことを口にする。
「ちなみにだけどさ」
「うん?」
「もし今、僕が思い出さなかったらどうしてた?」
「え? えー…………たぶんね?」
それを聞いたリオは、手刀を構えて、振り下ろすようなジェスチャーを――――
「こうしてた」
「何をする気だ!? やめなさい!」
「いやー。忘れてても、衝撃加えたら思い出すかなって」
「穏やかじゃない真似はやめよう!? 古いテレビじゃないんだから!」
「あはははっ」
「笑い事じゃないよ!? ……っていうか、もし僕じゃなくて、本当に別人だったらどうするの?」
「
「穏やかじゃない!!」
「あとさぁ」
リオは。
手刀を作ったまま、にひひと笑う。
「もし本当は覚えてるのに、『知らないなー』ってとぼけてたら。
クレームも兼ねて、一発くらい叩いていいかなーって」
(思い出せてよかった……!)
心の底からそう思った。
「まーだいじょーぶでしょ!
こんな変な理論とか持ってる人、他に二人もいてたまるかーって話だし」
「褒めてるんだろうな、それは?」
「褒めてるよー?」
「本当か…………?」
「なんで疑われてるの? かなしいー」
口では悲しがっているものの、顔には面白がっているのがありありと浮かんでいた。
そんな彼女を見ながら。
普夫は、記憶の中にいる少女と、目の前でけらけら笑っている少女を重ね合わせる。
………………ギャップがすごいな。
「懐かしいはずなのに、昔の君と今の君が噛み合わなくて、頭の中で手札事故起こしてるんだけど。
…………君、こんなおてんばだったっけ?」
「えー?
「うっそだぁ」
「おにーさんの中で、あたし美化されてない?」
「いや、むしろ成長する方向を間違えた可能性を考えてる」
「失礼だなぁ!?」
ぷんすかと。
頬を膨らませる。
――――その顔を見て。
「あ」
「何?」
「いや」
普夫は、少し笑った。
「その顔は覚えてる」
「…………」
「僕にカードで全然勝てなくて、よくそんな顔でむくれてたよね」
「…………ふーん」
リオは。
少しだけ嬉しそうに。
けれど。
それを悟られまいとするように、ふいっと顔を逸らした。
「じょーだんだよ、じょーだん」
「ん?」
「チョップ」
「ああ……」
「人のこと、そんないきなり叩くわけないじゃーん」
「…………」
(あれは本気の目だったぞ)
戦々恐々としながら、普夫は目の前の少女を見つめる。
改めて見れば、本当に随分と成長した。
けれど、見間違える気はしない。
顔立ちは大人びていても、表情や仕草には昔の面影がそのまま残っている。
あの頃のリオちゃんが、そのまま成長した姿だった。
そんな普夫の視線に気づいたのか。
「ふふんっ」
リオが、これ見よがしに胸を張った。
「まーでもさ! あたし、すっごいでしょ!? 見違えたでしょ!?」
「…………うん」
そう高らかにドヤ顔をするリオを、普夫は眺める。
昔の面影を残しながら、それでも確かに大人びた姿が、なんとなく微笑ましくて。
普夫は頬杖をついたまま、少し目を細めた。
「――――――しばらく見ないうちに、すごく……すごく、綺麗になったね」
「………………」
リオが固まった。
「?」
「………………」
リオの口元が、ほんのわずかに緩んだ。
かと思えば、すぐにきゅっと結ばれる。
頬も、なんだか少し赤い。
「…………?」
よくわからないまま、普夫は彼女を見る。
――――もっとも。
昔から、人目を引くくらい可愛らしい少女ではあった。
それが年月を経て、可愛らしさはそのままに美人としての華やかさまで増し――――身体つきに至っては、なんというか。
(…………随分、暴力的に成長したな)
昔のリオを、そのまま順当に超強化したような姿である。
昔と今の姿をカードイラストのように並べてみれば、リオでなくとも――――同じ“世界観”の延長線上にあることくらい、一目でわかるだろう。
「…………いや」
「?」
「そうなんだけどそうじゃなくて!」
「えっ」
「
「…………あ」
「世界十二位! 十二位だよ!? すごくない!?」
「…………あー、そっち?」
「そっちだよぉ!!」
「はは、ごめんごめん。てっきり見た目の話かと」
「もーっ!」
けれど。
昔のリオを知っているからこそ。
その言葉の意味を理解した途端、今度は素直に驚いた。
カードとは共鳴できず。
何を使ってもなかなか勝てなくて。
それでも懲りずに、次々と違うカードへ手を伸ばしていた少女。
そんな彼女が――――世界十二位。
「見た目を言うんならおにーさんだって、だいぶ印象変わってるじゃん!」
「そうかな?」
「あたしだって、最初はおにーさんだってわかんなかったくらいなんだからね?」
「…………そうかも?」
指先で前髪を軽くいじりながら返事をする。
確かに、体は結構仕上がってるし、背もずいぶん伸びたかな。
「…………でも、世界ランカー入りは本当にすごいね」
「ふふん。でしょー?」
「昔は全然勝てないって、よく膨れてたのに。それが世界十二位か」
普夫は、少し懐かしそうに笑った。
「ああ、すごく頑張ったんだね。リオちゃん」
「………………」
今度こそ。
リオは言葉を失った。
「…………えへへ」
やがて、少しだけ俯いて。
「まーね」
けれど、それもほんの数秒。
「まあ天才ですから? 世界十二位ですからぁ? もっと褒めてくれてもいいんだよぉ?」
「調子に乗るの早くない?」
「だって十二位だもーん」
「はいはい。すごいすごい」
「急に雑になった!」
「いや、もちろんすごいとは思うけど」
「思ってる人のセリフじゃなくなーい!?
さては第三位まで倒したからって、ちょっと調子乗ってるなー? うりうり」
「いやいや。一回勝ったくらいで調子には乗らないよ。今回は運も良かったし」
「ほんとかなー? 怪しいなー??」
「なんでそんな疑われてるんだ、僕…………?」
「さっき疑ってきたののお返しー」
「根に持つね、君…………」
普夫の困った顔がよほど面白いのか。
リオはますます上機嫌に、にやにやと頬を緩める。
そして、ふと思い出したように。
「それにさー。
第三位の人、あれサブデッキだったらしいからね?
まだまだ上には上があるんだからねー?」
「…………なぜ君がドヤってるんだ」
「
「…………っていうか」
普夫が、そこで少し眉を寄せた。
「サブデッキ? …………
「らしいよー?」
「マジかぁ…………」
思わず、感嘆するような声が漏れる。
本当に紙一重で上回った一戦。
あれだけ苦戦した、歪なほどに完成度の高いデッキが。
まさか世界第三位という怪物にとっては、
「…………流石は
一筋縄じゃいかないね。奥が深いなぁ」
「でしょー?
「だから、なぜ君がドヤってるんだ…………」
「十二位なので!」
「それはさっき聞いたよ」
「もっと褒めてもいいんだよ~?」
「まだそこに戻るの??」
そんなリオの言い草に、普夫は困ったようにため息をついて。
その隣でリオは、してやったりと頬を緩めていた。
…………なんていう二人のやり取りを、流されるまま見守っていた周囲から、小さな笑いが漏れる。
十二位が問いかけた時の、張り詰めた空気からは考えられない光景だった。
一時はどれほど重苦しい再会になるのかと、見ている側まで身構えたものだが。
蓋を開けてみれば――――
そこにあったのは、気まずさでも、わだかまりでもなく。
ただ、久しぶりに昔の距離へと戻った二人の、微笑ましい再会だったらしい。
「水面の月に手を伸ばしたのは。
空に浮かぶ月の代わりと、誰が決めた?
揺らめく月影は、水底を指し示す道しるべ。
望むものが、その月の光ではなく。
光の下…………湖に眠る何かならば。
伸ばした手が求めたのは。
星より遠く、なお尊い――――月の
――――〈揺月の水面鏡〉 コレクターズ版