OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
前回冒頭のドロシーのイメージです。これに背を向けっぱなしに出来たモブ君…………!
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モブ君とトーク中の顔です。嬉しそうで何より。
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※なお後ろのは悶絶しているセト店長の内心イメージです。あわれ。
彼の…………フツオくんのことを尋ねられて、思い出す。
そう。彼は、初めて出会った時から強かった。
共鳴を持っていない。
なのに――――縛り手とは到底思えないくらいに。
あの《教授》――――闇ファイターの中でも伝説の一人だって、本当はフツオくんが倒したのだ。
内緒にしてほしいって言われたから、対外的には
そして、その教授を倒した当時の彼のデッキ…………《エニグマ》を、初めて見せてもらった時もそうだった。
一つずつ説明されれば、理解はできた。
――――理解は、できたのだ。
それでも。
元十二聖座だった自分が、思わず
あの少年の組み上げたものは、当時から自分の常識の外にあった。
そして今日。
以前とは、カードもコンボもまるで違う《エニグマ》で。
彼はまた、同じように勝っている。
ならば。
カードを入れ替えても、コンボを組み替えても。
そのデッキを《エニグマ》として成立させる、骨子となる理論がある。
けれどセトもまた。
今日語られた、その根幹までは知らなかった。
それでも、少なくとも。
あの強さは、運でもなければ。
カードパワーに任せたものでもない。
そして、もちろん――――共鳴でもない。
構築とプレイング。
それらを支える
共鳴という、その人間の資質に依存する才能ではなく。
一つずつ辿れば、他人にも理解できる
それを積み重ねて、彼が勝っていたことだけは。
セトも、とっくの昔に知っていた。
「…………」
一瞬。
その場が静まった。
「…………お主でもない、か」
カドが、ぽつりと呟く。
ロウドではない。
セトまで違う。
フツオと以前から交流があり。
なおかつ、世界最高峰まで登った経験を持つ二人。
彼を育てた者として、真っ先に疑われる立場のその二人が。
揃って、知らない。
それなのに。
――――彼は、その技術を当然のように持っている。
「…………いや、待て」
ふと。
カドが何かに気づいたように眉を寄せる。
「そもそも…………セトも共鳴使いではないか」
「…………あ」
誰かが、間の抜けた声を漏らした。
「そういや、そうだったな」
「…………吾ら、十二聖座の域にまで育てられる実力者ということばかり考えておったな」
カドが、額へ手を当てる。
思えば。
先ほどロウド自身が言っていたではないか。
自分は共鳴使いだから。
共鳴を使わないことを前提とした構築もプレイングも、教えようにも教えられない、と。
そして、それは地柩セトでも同じだった。
「となると…………」
誰かが呟く。
「共鳴を使わず、彼に教えられるだけの実力者……?」
その条件を満たす人間は、いる。
少なくとも。誰もが真っ先に思いつく、分かりやすい候補が一人。
しかも、その本人は今、この場にいた。
「…………」
視線が。一斉に、一人へ集まる。
「…………俺を見るな」
第四位が、露骨に顔をしかめた。
共鳴を用いず、それでも
「いや、条件だけならお主が最有力じゃろ」
「だから今日が初対面だっつってんだろ。
さっきまで俺がジジイに何言ってたか忘れたのか?」
第四位が、苛立たしげにロウドを視線で刺す。
「こんなの身内にいたなら、もっと早く俺に紹介しとけって話してただろうが」
「カッカッカッ! そりゃそうじゃ」
「愉快そうに笑ってんじゃねぇよ…………!
テメェが違うっつってこっちに飛び火してんだぞ」
確かに、それでは整合性が取れない。
第四位がフツオを育てたのなら。
今日初めてその存在を知って、ロウドへ食ってかかる理由がない。
だが。その言葉で。
最後の、分かりやすい候補まで消えた。
「…………じゃあ誰が?」
誰かが、そう口にした。
答えは。…………当然、返ってこない。
「…………あの」
少しして。
セレヴィアが、ロウドとセトへ顔を向けた。
「二人とも…………本当に知らないのですか?」
「知らんと言っとるじゃろ。あんなもんわしが知るかい」
「ボクもです。少なくとも、今フツオくんが話してる理論は、今日初めて聞きました。
《
「いや…………なら逆に話が早ぇだろ」
飛び火したことへの苛立ちは残したまま。
第四位は、すぐに次の可能性へ思考を切り替えた。
「教えたわけじゃなくても、付き合いは長ぇんだろ?
だったらお前らから聞きゃいいじゃねぇか」
そのまま、今度はロウドとセトへ顎をしゃくる。
一度口を開けば、そこで止まるつもりもないらしい。
「つーか、お前らだって気になってんだろ。
あいつがどこで、こんな訳分かんねぇ技術身につけたのかくらい、」
「…………逆に聞きたいんじゃが」
ロウドの声音が。
少しだけ低くなった。
「お主ら。
「…………何?」
「技術のことなら、教えて欲しいと言えば結構教えてくれるぞ」
ロウドは腕を組んだまま。
少し離れた場所へ視線を向ける。
「――――まさに、今みたいにな」
「今話したのは、ゲームを長引かせるためのアンチシナジーだ。
相手に裏目を意識させて、攻めを遅らせる。
そうやって、自分の得意なゲームレンジまで引っ張ってくる。
これこそがコントロールの真髄! って言いたくなる
「…………確かに、コントロールらしい技術だと思います」
相手を直接止めるのではなく、こちらを警戒させることで攻めを鈍らせる。
カードの効果ではなく、カードの使い方一つで、コントロールが得意とする長期戦へ。
「でも当然、どんな相手でもその目論見に付き合ってくれるとは限らないよね?」
「それは……そうですね」
だが、それでも通じない相手はいる。
裏目を恐れて足を止めるのではなく。
これ以上、裏目の可能性が増える前に決着を急ぐ。
警戒したからこそ、止まるのではなく踏み込む。
当然…………そういう答えに辿り着く相手だっている。
「裏目なんて知ったことかって、さっさと攻めてくる相手だっている。
非公開情報がある以上、裏目の可能性なんて完全には消せないんだから。
そこを割り切って速度を優先するのも、それはそれで合理的だ。
だったら今度は――――
「…………そんなこと、できるんですか?」
できるのだろうか。
長期戦を得意とするデッキへ、短期戦用の役割まで足してしまえば。
それこそ、デッキの軸そのものがブレてしまいそうだが。
そんな疑問が、どうやら顔に出ていたらしい。
「アンチシナジーっていうくらいだからね。逆向きの役割を入れたからって、それだけでデッキがブレるとは限らない。
むしろ芯さえ一本通ってれば、対応できる幅が広がる」
そこでフツオは、少しだけ悪戯っぽく笑った。
「たとえば、序盤にはすごく強いんだけど、中盤以降になると腐り気味になるカードってあるよね?
逆に、終盤なら強いけど、序盤に引くと困るカードもある」
「ありますね」
「そういうカードを共鳴無しで両方デッキに入れると――序盤用のカードを終盤に引いたり、終盤用のカードを序盤に引いたりする」
「……まあ、当然そうなりますね」
「そんな時には――――これ!」
普夫は、ぺしっ、と一枚のカードをテーブルに置いた。
「両面カード!」
「通販番組ですか?」
「表面には序盤に有効な効果!
裏面には中盤以降に有効な効果!
二つの役割がセットになって、これ一枚で幅広い状況に対応できる優れもの!」
「通販番組ですよね?」
「デッキの枠を圧迫しないうえ、引くタイミングによって役割を変えられる!
もう『今欲しいのそっちじゃない…………!』と、手札を見て頭を抱える必要もありません!」
「完全に通販番組ですよね??」
「しかも今なら――――」
「何が付いてくるんですか?」
「――――サービスとして、僕直々のアンチシナジーの指南までセットでお付けします。
構築の相談から、実戦での使い方までアフターサービスも万全です」
「…………それは、すごく、お買い得ですね?」
「お客様にもご満足いただけたようで何よりです」
とうとう堪えきれなくなって。
口元を押さえながら、ドロシーがくすりと笑う。
それにフツオもつられるように笑いながら、芝居がかった調子で頭を下げた。
「両面カードって、一枚の表裏に違う役割を持たせてるでしょ?
中には、同じ局面では同時に必要にならないような、正反対の役割を組み合わせたものもある。
いわば、一枚の中にアンチシナジーを押し込めたようなカードなんだ」
「……なるほど。二つの効果を同時に使いたいわけじゃない。
片方が必要な時には、もう片方は優先順位が下がる。
だからこそ、一枚にまとめて使い分ける意味があるんですね」
「完全に同じ方向の効果だったら、『それ、わざわざ両面にする意味ある?』ってなっちゃうからね。
お目当ての効果がセットになっているカードを探すのは大変だけど…………使い勝手が良いのは間違いないよ」
「でも、あまり使っている人を見かけない気がします」
「まあ、共鳴使いには扱いづらいからね」
「…………そういえば」
ドロシーは、先ほどまでのファイトを思い返す。
共鳴を使わない彼のデッキには、確か――――
「フツさんのデッキには、結構入ってましたよね? 両面カード」
「もちろん。《エニグマ》は、いろんな方向から勝ち筋へ繋げられるのが強みだからね。
でも、そのぶん普通に組んだら、役割の偏ったカードが初手に固まって事故りやすい。
だから両面カードは、他のデッキじゃあまり見ないくらい入れてるかな」
たとえば。
初手に〈スルト〉が何枚も重なって、そこへ〈水面鏡〉まで固まったとする。
踏み倒すことを前提にした重いフィニッシャー。
そして、コピーする対象がなければ意味を成さないカード。
一枚一枚は強くとも。
序盤にまとめて押し寄せれば、それだけで手札が窒息する。
コンボは、強いカードを集めれば成立するわけではない。
始動札だけでも、フィニッシャーだけでも駄目。
必要な役割が、必要なタイミングで噛み合って初めて本領を発揮する。
だからこそ。
相手に妨害されるまでもなく、手札の中でパーツが偏って自分から止まる…………なんてことへのケアは、対戦以前の構築段階から重要だった。
「その点、こういう役割の違う両面カードなら――――序盤に引いても、中盤に引いても、終盤に引いても、何かしらの役割を持たせやすい。
それも、《エニグマ》がコンボデッキなのに長期戦まで付き合える理由の一つかな」
もっとも。
そのぶん今度は、『今この面で使うべきか』『反対側を使うために温存するべきか』という選択を、一枚一枚に随時問われることになる。
まぁその辺りは腕の見せ所だ。
相手のデッキに翻弄されるならまだしも、自分で組んだ暗号を自分で解けないとか世話ないし。
「それに僕としては、みんながあまり使わないおかげで、かなり助かったんだよね」
「助かった?」
「両面カードって、性能の割に安いんだよ。普通のカードと大して値段が変わらないのも多いし。
両方の面を欲しがるデッキが少ないやつなんて、投げ売りされてたりするから」
「不思議ですね…………聞いてると二枚分のお値段でもおかしくない気がしますけど」
「他の人があまり使わないのは、便利なぶん、両方の面に適性が揃ってないと共鳴が濁るからだろうね」
「…………あ」
「片方には強く共鳴できても、もう片方には適性がない。それだけで、デッキ全体の共鳴を邪魔しかねない」
両面のどちらも使いこなせてこそ、初めて一枚分の枠で二つの役割を担える。
逆に言えば。
片面しか扱えない共鳴使いにとっては、もう片面は便利な効果ではなく――――余計なノイズになり得る。
「裏と表、両方の面に共鳴できる使い手ってなかなかいないだろうね。
前にも話した通り、共鳴使いはシナジーを突き詰めるのが得意なぶん、アンチシナジーとは相性が悪い。
一つの方向へ完成度を高めるのが得意だからこそ、こういう相反する役割を一枚に同居させるカードとは噛み合いにくいんだ。
でも――――君はいけるでしょ? 共鳴を使わないカウンター使いの君なら」
そう言って、フツオは柔らかく笑った。
「…………まぁ、ああいうことじゃ」
ドロシーへ惜しげもなく自分の理論を語るフツオを横目に。
ロウドが、鼻を鳴らした。
「あやつは、カードのことなら案外隠さん。
聞けば答えるし、こっちから尋ねても嫌な顔をせん」
そこで一度、言葉を切る。
「じゃが――――それと、身の上まで探るのは別じゃろう」
「…………」
「そこから一歩踏み込んで。
あやつが自分から話しとらんところまで、こっちの都合で聞き出そうとして。
警戒されて。距離を置かれて」
ロウドは腕を組んだまま、僅かに眉を寄せる。
「今ある関係を失う危険まで冒して、聞く価値があるか?」
「それは…………」
「お主らが察しとる通りじゃ」
ロウド自身。
フツオが、何もないところから突然あの強さへ至ったなどとは思っていない。
何かはある。
それなりに親しいと自負している自分ですら知らない、何かしらの背景が。
あれだけの技術を積み上げるまでの何かが。
必ず彼の過去にあると、今日の十連戦を経て確信に至った。
「じゃがの」
ロウドは続ける。
「技術を欲しがって、技術について聞くならまだ分かる。
じゃが、技術の出どころまで知りたがって、本人が話しとらん身の上へ踏み込むのは違うじゃろ」
「…………」
技術を尋ねることと。
その技術を得るまでの人生を、掘り返すことは違う。
その境界くらいは。
聞く側が弁えておくべきだろう。
「ボクも同じです。…………気にはなってますけど」
同調するように、セトが会話のバトンを受け取った。
「第一、技術の時点であれだけの練度のものですよ?
それですらもう、秘伝って言ってもいいくらいじゃないですか」
セトもまた。
以前、《エニグマ》について説明を受けた側だからこそ。
それが、教えてもらえることを当然と思っていいような、軽い代物ではないことも分かっていた。
「既に技術を教えてもらってるのに。
そこに加えて、『気になるから教えてください』って。
その出どころも、どうやって身につけたのかまで、全部説明してもらえる――――」
セトは少し困ったように笑う。
「そんな
「…………」
そこまで言われてしまえば。
少なくとも、「仲が良いなら聞いてくれ」と、外野が気軽に押し付けられる話ではなかった。
短い沈黙の後。
「――――まぁ、難しく考えるな」
ロウドが、あっさりと言った。
「あいつも、言いたくなったら言うじゃろ」
「…………」
「聞いて欲しくなったら、あっちから話す。
その時に聞けばいい」
そして、いつもの調子で鼻を鳴らす。
「わしは、そういう付き合い方をしとる。…………文句あるか?」
それは、至極もっともな話だった。
本人が自分から語っていない過去へ、無遠慮に踏み込むべきではない。
まして、そのために今ある関係を損なうなど、本末転倒もいいところだ。
だからそれ以上、ロウドやセトへ無理を言う者はいなかった。
――――ただし。
聞けないことと、気にならないことは別である。
本人へ問わず。
その知人へ、答えを求めることもせず。
既に得られている情報だけを並べて。
そこから、自分達なりの答えを導き出す。
世界最高峰まで登り詰めたファイター達にとって。
公開された情報から、まだ見えていない相手の手を読むことなど――――日常そのものだった。
ならば当然。
伏せられた答えを、読み当てようとする者もいる。
「命綱を結んでまで求める宝には、番人がつきものだろう。
宝へと手を伸ばす前に思い出せ。
今ある命もまた、価値ある宝であることを」
――――〈絡まった命綱〉別イラスト版
次回、ランカーたちによるモブ君の正体考察会。
ピーハンが落とされても読みはできる――――という、世界ランカーらしい方向へ進みます。
面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、
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感想もまた、モチベーションや時には新しいアイディアの源になっています!
なお、基本的に次話を書き上げてから感想返信をしているので、返信が来たら次の投稿も近いかも…………?
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