OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
「よろしければ――――あなたの縛り手の呪い、解いて差し上げましょうか」
世界第五位。
箱舟教会が擁する最強のファイター。
そして教会内では、”
彼女は僕を真っ直ぐ見つめながら、そう告げた。
「…………え?」
返事より先に、疑問符だけが声になる。
そしてその場には――――それすら声にできなかった者が一人いた。
「…………!」
近くで、息を呑む気配がした。
地柩セト店長。
彼女がノアさんを見つめるその顔には――――僕とは違う種類の驚きが、はっきりと浮かんでいる。
そして、その驚きの理由は――――
(話したいことがあるって言ってた内容…………こういうことだったの!?)
――――少し前。
「地柩セト。――――少々、よろしいでしょうか」
「………………、…………”
セトの表情が、ほんの僅かに強張った。
それを悟らせまいとするように、一度だけ小さく息を吐いて。声のした方へ視線を向ける。
そこにいたのは、白に近い色彩を纏った一人の女。
世界第五位。箱舟教会が擁する最強のファイター…………”導き手”、空葬イドラ。
(…………来た)
セトは、無意識に身構えた。
正直に言えば、先ほどからずっと気まずかった。
少し前。第四位がフツオくんについて問い詰めに来たことで。
彼が縛り手であり、共鳴を使わないこと。
そして――――その彼が、この世界の常識から大きく外れた理論を、いくつも持っていることまで話は広がった。
その時、第四位に続くように、ノアもボクとロウド師範の近くまで来ていた。
だからてっきり、彼女も何かを聞きに来たのだと思っていた。
けれど、第四位が次々と問いを重ねる傍らで。
ノアは一度として口を挟まず、ただ交わされる話を静かに聞いていた。
共鳴を神聖視する箱舟教会が、フツオくんにまったく思うところがないはずもない。
そして――――ボクに対しても。
ボクがまだ箱舟教会にいた頃。ボクらは同期で。
そして十二聖座に上り詰めるまで、周囲からは競い合うライバルとして見られていた。
だけど、アルマーを失い。十二聖座から退き。
そのまま、箱舟教会からも去って。
そしてアルマーを取り戻してなお。…………十二聖座にも教会にも戻ることなく、今の生活を続けている。
そんな自分へ、ノアが何も言いたいことがない――――とは、とても思えなかった。
だから当然――――何かを聞かれるか、言われるかと思っていた。
けれどノアは、今の今まで問い質すことも、責めることもなく。
久方ぶりの再会について、口にする様子もなくて。
だからこそ。こうして向こうから声を掛けてきた今。
セトは、嫌でも身構えずにはいられなかった。
(…………さて。何を言われるかなぁ)
そんなセトの心境など知ってか知らずか。
ノアは、いつもと変わらぬ静かな調子で。
「久しいですね、地柩セト」
「…………うん。久しぶり、ノア」
(…………そこからなんだ)
ようやく触れられた再会に、ほんの少しだけ肩の力が抜ける。
「あなたには言いたいことが多々ありますが」
「…………」
やっぱりあるんだ。
「まあ――――今はいいでしょう」
穏やかな声音で、まったく穏やかではないものを先送りにされて。
思わず固まるセトに、ノアは続けた。
「旧知のよしみで、一つ。頼みたいことがあります」
「ボクに?」
「ええ」
ノアはほんの僅かに、フツオくんの方へ視線を向けた。
「彼に、私を紹介していただけませんか」
「…………フツオくんに?」
「ええ。
やっぱり来たか。
セトは、ほんの僅かに眉を寄せた。
「こっちも一つ。確認してもいいかな?」
「どうぞ」
「…………フツオくんに、何を言うつもり?」
「…………」
「あの子、共鳴を使わないし。
教会から見たら色々と思うところはあるのかもしれないけど…………」
それでもセトは、言葉を選びながら。
保護者として、譲れない一線だけははっきりと示した。
「…………あの子に、無理に何かをさせるつもりなら、」
「ありません」
即答だった。
「あなたの懸念は察しています」
ノアは怒るでもなく、気分を害した様子もなく、静かに告げた。
「ですが、杞憂ですよ。…………悪いようにはしません。そこは断言いたします」
――――で、現在。
(悪いようにしないって、そういう意味かぁ…………!)
確かに。
ノアにしてみれば、これは文字通り善意なのだ。
縛り手という、本来なら人生から多くの選択肢を奪いかねない呪い。
それを解いてあげられるというのなら、断られるなんて、まず想定してないだろう。
でも、彼は――――
「あ、別に大丈夫です」
そうなんだよねー!
あの子、前にカドさんから提案された時も断ってたもんねー!
だから今言われても断るだろうなってことは、先に言ってくれてれば予想できたよ正直!
「…………」
あまりにもストレートに「大丈夫」とばっさり切り捨てられたノアが止まる。
ついでに…………どうやら聞き耳を立てていたらしい何人かまで、一緒になって固まった。
その反応を見て、セトは一人だけ肩を落とす。
一方で。
そんな周囲の反応を眺めながら、僕はむしろ首を傾げていた。
…………何がそんなに意外なんだろう。
「…………大丈夫? …………解呪が、必要ないと?」
「まあ…………そうですね。今のところ、困ってないので」
「…………」
ノアさんが僕を見ている。
なんだろう。予想していた回答と違ったのだろうか。
「…………理由を、伺っても?」
「色んなカード使いたいからですね」
「…………はい?」
「僕、
何を使うか決めたつもりでも。
実際に回してみれば、思った通りにはいかない。
確率を織り込んだ採用枚数にしているはずなのに、その確率をぶっちぎっての事故が多発してたんだよな…………
「それがなくなってから、わりと気楽なんですよ。
今日はこれ使おう、次はあれ試そう、こっちとこっち組み合わせたら面白そうだなー、とか。
そういうのを何の引っかかりもなく選べる」
だから、と肩を竦める。
「戻せるって言われても、今のところは別にいいかなーって」
「…………」
ノアさんがしばらく黙った。
やがて。
「…………では」
「?」
「
一度、僕の答えを受け止めて。
それでもなお別の道筋を探すように、ノアさんは言葉を継いだ。
「共鳴を用いることを望まないのであれば、普段は今まで通りに。
そして、使いたくなれば共鳴を用いる。
解呪さえしてしまえば、それらを適時選べるようになります。
…………あなたが先ほどまで語っていた、両面カードと同じです」
「あー…………」
そこに持ってくるかー。
筋は通っている。
というか、僕がさっきまで散々似たようなことを話していた。
「共鳴を持つあなた。共鳴を用いないあなた。
…………その双方を、状況によって切り替えればよいのでは?」
「いやぁ…………それでも、遠慮しておきます」
「何か問題が?」
「いや…………それ、似てるようでちょっと違うんですよ」
「違うのですか?」
「両面カードって、一枚のカードに二つの使い道があるじゃないですか」
表で使うか。裏で使うか。
どちらにしても…………一つのデッキ。一つのプレイスタイルの中で、対応できる範囲を広げているだけだ。
「でも、共鳴を使う時と使わない時を切り替えるって…………それとは別でしょう?
一つの剣術で色んな間合いに対応できるようになるのと。
剣術と槍術を両方修めて、状況によって持ち替えるようにするのは、全く別の話です」
二つのスタイルを身につけるなら。その分、一つに集中していたリソースを割らなきゃいけない。
共鳴ありの僕と、共鳴なしの僕。
両方とも今と同じくらい使いこなせるまで鍛えられるなら、そりゃ強いだろうけど…………
現実的かと言われれば…………正直厳しいな。
何よりエニグマは元々、相手や状況に合わせてルートを入れ替えるデッキタイプだ。
つまり…………既に両面カードに近い。
そこへさらに共鳴という別のスタイルまで足すのは――――選択肢を増やすというより、別のゲームプランをもう一つ抱え込むようなものだ。
(こういうの、サレンなら得意というか、平然とやるんだろうけどな)
毎回違う動きをするヴァイスファングを、毎回あれだけ強く回してるし。
僕じゃ多分抱え落ちするなー。
「…………あなたは、それでいいのですか」
返ってきた声には、先ほどまでよりも僅かな強さがあった。
「共鳴は、望めば得られるものではありません。天より賜る、祝福なのですよ」
静かな口調そのものは変わらない。
けれど。
その言葉には、それまでになかった熱が籠もっていた。
「あなたは――――自らが授かった、天より与えられた才能を、祝福を。
無為にしてもよいと…………そう言うのですか」
「え? …………
「…………………………え??」
僕の返答がよほど予想外だったのか。
愕然とした表情のまま、ノアさんが固まった。
…………そんなに意外な答えだったんだろうか。
才能があったとして。
(そもそも僕の場合、その才能の先に待ってたのが”あの”マグラだったしな……)
才能が
(悪霊に取り憑かれることが才能の結果なら、そんな才能いらないだろ普通)
あんなものまで「授かった才能なのだから大切にしろ」と言われても。
悪いけど、ありがたがる気にはなれない。
「いや。本人が使いたいなら使えばいいと思いますけど。
才能があるからって、絶対使わなきゃいけないものでもないでしょう」
「いえ、ですが…………」
「それに僕、『自分しか強くなれない強さ』に、あんまり興味ないんですよね」
ノアさんの眉が、僅かに動いた。
「僕が何か凄いことできても、僕にしかできないなら、それで終わりじゃないですか」
渡せない。教えられない。残せない。
僕に才能があっても、それは僕だけのもので。
僕がいなくなったら、そこで終わる。
「それより、こっちの方が強いよとか、こういう組み方があるよとか、この状況ならこうした方がいいよとか。
そういうものを積み上げていく方が、僕には性に合ってるんですよね」
誰かに教えたら、その人も使える。
その人がまた別の誰かに教えたら、その人も使える。
「僕にはカードと共鳴できるかより、人と共有できるかの方が重要なんですよ。
そっちの方が大事なんです」
それに、共有するというのは、何もこちらから誰かへ渡すことだけじゃない。
逆もある。
先に歩いた誰かが残したものを、自分が受け取ることだってそうだ。
「あなたもそうだったんじゃないですか? 第三位。
――――世にも希少な、
そう言って。僕は、少し離れた場所にいる第三位へ目を向けた。
矛先を向けられたセレヴィアが、僅かに目を見開く。
(…………人と共有できるかが重要、ですか)
なるほど。
(本当に…………よく見ていますね)
確かに、そうだ。そうだった。
十二聖座でも別格とされる、
そこへ至るまでの歩みが、最初から順風満帆だったわけではない。
シナジーではなく、カウンターを主軸とするテーマへの適合者。
共鳴の才がなかったのではない。
むしろ逆。才能はあった。
ただ、その才能が、あまりにも
前例がなく。故に教わる相手も、辿るべき足跡もない。
だから何もかもを、手探りで積み上げるしかなくて。
そのため芽が出るまでには、随分と時間を要した。
だが。その手探りが
そこからも、僅かな期間で
けれど。
「もし、あなたより前に同じことをやった人がいたら…………多分、もっと早かったでしょう?」
「…………そうですね。間違いのないことでしょう」
「ですよねー!」
洗練とは試行錯誤の先にある。
なら――――前の人の失敗を踏まないで済む。成功したところから、その続きを始められる。
「僕には、そういう事ができる強さの方が魅力的なんです」
彼は少しだけ笑って。そう告げた。
…………そう引き合いに出されれば、否定はできなかった。
「…………」
ノアさんは何も言わない。
否定もしない。
けれど、納得したようにも見えないな。
「…………ですが」
やがて、彼女は口を開いた。
「それでも、共鳴を取り戻せば、其方は今より強くなれるかもしれませんよ?
仮に強くはなれずとも…………
「安定? …………ですか?」
「第三位との戦い。あなた自身、運が良かったと認めていたはずです」
「ああ、なるほど」
そこか。さっきリオちゃんと話してたの聞いてたんだ。
「それに先ほど、あちらの少女には――――あなたを相手に十連勝すれば、カードを譲るという約束をしているとも聞きました。
それが叶っていないということも」
つまり。ユウキちゃんに十連勝を許したことこそないものの。
その途中で、何度か連敗を喫する程度には、普段から負けてもいる。そういう戦績だということは分かる。
世界ランカーを十人抜きする男が。
世界ランカーでもない相手には、時折あっさり負ける。
共鳴使いの感覚からすれば――――その振れ幅は、あまりにも不自然なのだろう。
「共鳴は、あなたが言うところの『運』を制御する力でもあります。
欲しい札を引く。必要な時に、必要なものへ手を伸ばす。
どれほど優れた構築と理論を持っていたとしても――――手札がそれに応えてくれないことはあるのでしょう?」
「…………まあ。それは」
ある。というか、それが普通だ。
「ならば、その可能性を減らすことは、そのまま安定した強さに繋がるのではありませんか?」
穏やかな口調だった。
けれど、その問いには迷いがない。
世界第五位として。
共鳴を使い、その力で頂点近くまで登ってきた人間として。
それが当然の結論なのだろう。
「あなたの言う81点を、一度出せることと。
それを常に出し続けられることは、同じではありません」
「…………」
「運に恵まれた一戦で最大値へ届いたとしても、それを毎回再現できなければ、安定した強さとは言えないでしょう」
まあ。
それも、理屈としては分かる。
「それに――――」
ノアさんは、一度言葉を切った。
「共鳴使いであっても、ベーシックスキルを磨くことはできる。
それは、あなた自身が語っていたことではありませんか?」
「…………そうですね」
「ならばベーシックスキルを磨いたうえで、さらに共鳴によって手札事故まで減らす。
その方が、少なくとも
「うーん…………」
少し考える。なんと答えたものか。
んー…………第三位とのファイトか。
確かに、あれは運が絡んだ勝利だった。
普段のフリーファイトだって同じだ。
トッププロ相手にも勝てる時がある一方で、ユウキちゃん相手でも負ける時はある。
この人は、そういう僕の戦績を見て。
最大値の話ではなく――――その
(…………言いたいことは分かる)
欲しい札を引けない。手札が噛み合わない。
構築通りの動きができない。
そういう事故を共鳴で減らせるなら。確かに魅力的な話だ。
(…………まあ。ただ。
それは、共鳴を
そもそもエニグマは、ルートを入れ替えれば安定寄りにもできるし。
尖らせることもできる。丸くすることもできる。
僕は尖らせた分、相手に丸く対処できないようにして、ケアを散らして。
その隙間から刺すピーキーな構築が好きだけど…………
丸さが欲しいのなら、そのための構築案だって持ってるしな。
わざわざ別のスタイルをもう一つ抱え込まなくても、その部分は今のやり方である程度カバーできる。
何よりも――――
(多分だけど…………ひとつ、前提が違うんだよな)
そもそも、
そしてそれは――――
縛り手であるかどうかは、この話の本質じゃない。
共鳴は、運の要素をなくせる能力ではない。
「導く手だけが、救いとは限らない。
立ち止まりたい場所を見つけられたことこそが、
一つの福音なのだから」
――――〈停滞の福音〉別イラスト版
え? 共鳴って運ゲーを回避できる能力じゃないの??
答えはノー。実はその分、別方面の運ゲーを加速させる能力でもあるのです。詳しくは次回!
あと。エピローグ1にも追記したのですが…………
当初、エピローグは全3話で完結する予定でした。
ですが、書き進めている途中で、「こっちのエンディングの方が絶対にいい!」と思える着地点を思いついてしまいまして。
それを書き切るために予定を変更した結果…………ご覧の通り、エピローグが大幅に長期化しましたorz
流石にあと10話以内には完結する見通しです…………
ここまで長くお付き合いいただいた分、最後に「ここまで読んでよかった」と思っていただけるエンディングを目指しています。
どうか今しばらく、お付き合い頂ければと思います。
面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、
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感想もまた、モチベーションや時には新しいアイディアの源になっています!
なお、基本的に次話を書き上げてから感想返信をしているので、返信が来たら次の投稿も近いかも…………?
決着まで見届けていただけた今、特に評価の方を入れてくださると大変励みになります!