OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
『巨人』シリーズ。
日本、ギリシャ、北欧など、多くの神話で登場する怪物をモチーフにしたカード群。
「~の巨人」という名称がつくそれらは、いずれもがフィニッシャー級のサイズと、巨人特有の『
『俯瞰』はその巨体の視点から、あらゆる対象を攻撃できるという能力。
それがアンタップ状態であろうと、飛行していようと、あるいは、自身のクリーチャーであろうと攻撃を仕掛けることができる。
『屹立』はその巨体から、他の全てへの攻撃を阻む能力。
巨人がフィールドに存在している限り、巨人以外の他のクリーチャーやプレイヤーに攻撃することはできない。
その2つに加え、更に各々の巨人固有の能力まで兼ね備える。
神話において、巨人とは時に神そのもの、時に神の母体ですらある頂上の存在。
まさにフィニッシャーに相応しいデザインのクリーチャーといえる。
同時に。神話の神々の多くが完全無欠でないように、巨人もまた完全ではない。
必ずデメリットのある能力を一つ備え、そしてコストも極めて重い。
そのサイズ故に、何らかのコストブーストか踏み倒しギミックを活用しなければ、プレイすることすらままならない。
早期に出せればそのままゲームエンドにまで持ち込めうるが、召喚にまごつけばその前に押し切られる。
そして、召喚が叶ってなお、デメリット能力で常に転覆の危機を備える、
《国生みの巨人 ダイダラボッチ》なら、毎ターン大量のマナを生み出す。ただし相手も毎ターン、その半分のマナを得られる。
《大地の巨人 アンタイオス》なら、マナが一定量残っている限り破壊も除外も生贄も通さず、フィールドから離れない。ただしマナが足りなくなれば即追放。
《貪りの巨人 キュプロクス》なら、毎ターン敵のクリーチャーを破壊。ただし相手の盤面が空なら次は自分のクリーチャーを、最後には自分を破壊していく。
この〈スルト〉もまた、その一つだった。
※※※
視界が、世界が、赤く染まる。
召喚された巨影が、盤面を覆った。
――――その正体を、誰もが理解する。
《終焉の巨人 スルト》
全てを攻撃できる『俯瞰』。
全ての攻撃を受ける『屹立』。
そして、そのスタッツは驚愕の10/10。
灼けた空気が、対戦卓を挟んで揺らぐ。
空まで届く、人の形のただれた溶岩の岩壁。その表面を、真っ白な灰が覆い尽くしている。
ほとばしるエネルギーは、この存在は神にも並ぶ領域にあるのだと、察するに余りある。
ああ――――この巨人が、終焉をもたらすのだと。ひと目で確信できる威容をしていた。
その巨人が今まさに。戦うまでもなく、その真価の一端を発揮する。
「これで僕のターンは終了。……《一時しのぎの強襲》の破壊効果は、スルトを破壊できません。スルトはそのまま盤面に」
クリーチャーを犠牲に、コスト踏み倒しで召喚する『一時しのぎの強襲』だが、それはスルトには意味をなさない。
出したクリーチャーを墓地へと引きずり込む手は、スルトの巨体を動かすにあまりに儚い。
そう。これがスルト固有の能力――――『破壊不可能』。
除去も戦闘破壊も受け付けない、圧倒的な場持ち。
着地後の対処は非常に困難。
《大地の巨人 アンタイオス》と異なり破壊耐性のみだが、その耐性に制限がない堅牢さ。
鎮座するその威容に、ギャラリーが息を呑む。
そのうちの一人、聖座が6位が、強く拳を握った。
(これだ……! 俺はこの怪物に押し潰された……! )
6位、”
『延焼』と『氷蝕』という、相反する2属性のトークン生成、その2つをシナジーさせるフィールド系置物の使い手。
一度始まれば盤面を埋め尽くして止められない灼熱と極寒の激流。
それをただ一つの岩塊が押し留め、攻め筋を尽く押し潰した。
ただ一体で盤面を”完結”させる巨躯。
その脅威はこの会場にいる誰もが、身を持って思い知ったことだろう。
「此方のターン……」
だからこその、違和感。
(
ここまで相手は、徹底して展開を咎めてきた。
盤面を作らせない。
定着させない。
それがあちらのデッキの本質のはずだ。
ならば。
(盤面の構築をしないなら、スルトの召喚が決定打になることくらいわかるだろう。
耐性持ちのフィニッシャーをコントロールで相手取る苦労を、知らない訳でもないだろうし)
《金貸し》からの《強襲》での踏み倒し展開だって、ここまでの対戦で既に見せてしまっているのだ。
まして、《強襲》はコスト軽減するまでもないほどの軽さ。
ここまでのプレイで、相手のデッキが置物で有利を築くロック系ではなく、そもそもの定着を咎めるパーミッション系に近いものとは推測できた。
だからこその不可解。
破壊に耐性を持つスルトへの着地後の対処は困難を極める。
基本的には召喚時の妨害がマスト。次点で、攻撃を咎めるロック系置物で金縛りにするのがベター。
共鳴で望んだカードを引けるのなら、妨害を引いておいて捌くのがマストだろう。
仮に
逆に。破壊不可能な能力を持っていても、召喚時に妨害されれば破壊されずに撃ち落とされる。
秘跡持ちの呪文を経由することで妨害をすり抜け、破壊できないクリーチャーを安全に着地させるギミック。
この手順を既に披露しているのに。彼女はそれを許した。
前者の妨害も通じず、ロック系の置物の様子も薄いまま、壁クリーチャーもなくフィニッシャーが君臨。
(――――――ブラフだと思った?)
その線はある。確かに、手札にキーカードが揃っていないと〈スルト〉は召喚できない。
相手に妨害や除去を吐き出せるため、多面的に勝利へアクセスできるエニグマでは、ブラフも立派な手札だ。
だが。それでも。これは決定打になりうる。仮にブラフだったとしてもケアすべきだろう。
なのに。
(焦りが、感じられない)
しかし、三位の表情は変わらない。
むしろ、静かだった。まるでここまで織り込み済みだとでも言いたげの……
それを見て、ランカーの男が小さく呟く。
(あーあー……これは、止められないな。デカブツを出すのにコストを使い切ってる)
〈スルト〉を召喚するのに、クリーチャー2体を呼び出し呪文まで唱えた。
つまり、もう彼に妨害を撃つ余力はない。
別のランカーが目を伏せる。
(してやられたなぁ。ビートダウンの弱点が浮き彫りだ。出して終わりじゃないってのがな。
この勝負――――ここからが本番だぞ)
差がついているのは情報アドバンテージ。
互いの切り札の正体。
彼が気づいていないこと。知らないこと。
彼女が気づいていること。知っていること。
ここまでで打ち筋を見せているものと、隠しているもの。
その残酷なまでの2つの差は――――――まだ、彼だけが気づいていなかった。
「その拳は天をも砕く。
そして踏み出した足で、世界が削れる。
それでも進む者だけが、勝利に辿り着く」
―――――《終焉の巨人 スルト》
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