OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた   作:檻@102768

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 大変お待たせしました。
 終盤に向けて凄くいいネタが思いついたので、そちらを煮詰めてたら時間がかかってしまいました…………
 その分納得のいく展開に仕上げられそうなので、続きもどうか気長にお待ち下さい。


 あと、ノアのデザインイメージ再掲です。
 『FGO』のモルガンのカラーリングを変更したイメージで。
https://pbs.twimg.com/media/HTNPAVdaIAAL7hR?format=jpg&name=orig

 衣装はこちらを参考にしています。
https://pbs.twimg.com/media/GdUJxk-aoAA6j0c?format=jpg&name=orig


 あと朽木先生によるセト店長のイラストがこちらです。
https://pbs.twimg.com/media/G_MaqnEXsAAISJB?format=png&name=orig
https://pbs.twimg.com/media/G15Z45Ya0AArPCl?format=png&name=orig

 黒髪童顔のオッドアイで、おっちょこちょいなところもある、ナイスバディな年上ボクっこ。
 しかも世界トップレベルのファイター。これは明らかメインヒロインの貫禄…………!





エピローグ19 書を閉じてなお、輪郭は遠く

 

 

 

「あ、あのさー?」

 

 

 

 

「え?」

 

 

 不意に横から声をかけられて、我に返った。

 振り向くと、そこにはセト店長がいた。

 

 もじもじとして、奥歯になにか詰まったような顔をしている。

 …………なんだろう。

 

 僕が首を傾げていると。

 

 

「…………フツオくんもノアも、いつまで手を握ってるの?」

 

「…………あ」

 

 

 店長の視線が、僕の手元へ落ちていて。

 

 その視線をなぞるように追うと。

 ノアさんは、まだ僕の右手を握っていて。

 その両手の上には、僕の左手。

 

 …………そういえば。

 お互い、手を離すタイミングを完全に逃していた。

 

 触れている指先は細く、しなやかで。

 その肌は、どこかひんやりとしていた。

 

 

 …………今まで、そんな感触にさえ気を留めていなかったのに。

 

 ちょっと意識してしまうと、指摘されたことも相まって、なんか照れくさいな。

 

 

「いや、ほら。もうお話、終わったんだよね?」

 

「あ、はい」

 

「だったら、ね?」

 

 

「確かに。…………すみませんでしたノアさん」

 

「…………いえ。こちらこそ、失礼しました」

 

 

 ノアさんも、ようやく気づいたらしい。

 どちらからともなく手を離す。

 

 すると、ノアさんは僕に小さく会釈してから、店長へ向き直った。

 

 

「地柩セト。取り次ぎ、感謝いたします。

 おかげで、有意義な時間を過ごせました」

 

「あ、うん。どういたしまして」

 

「あなたとの話は、いずれ改めて」

 

「……………………あぁ、うん…………」

 

 

 店長の返事が、なんか歯切れの悪いものになってた。

 

 

 …………まあ。

 

 二人の間にも、何か積もる話があるんだろう。

 旧知の仲って話だし。

 

 

 そんなことを考えていると。

 もう一度、ノアさんが僕の方へ向き直った。

 

 

「最後に…………連絡先を交換しておきたいのですが構いませんか?

 もし解きたくなった時に、私へ繋がるように」

 

「あ、確かに。そうですね。しちゃいましょう」

 

 

 言われてみれば。

 連絡手段もないのに、いつでも相談してくれと言われても困るよな。

 

 ほどなく、番号の交換を終えて。

 

 

「それでは、茂札フツオさん。どうか、お健やかに」

 

「はい。ノアさんも」

 

 

 そうして。

 彼女は、さっきまでいたロウド師範達が集まっている方へと戻っていった。

 

 それを見送ってから、改めて店長にお礼を言う。

 

 

「僕からも、ありがとうございます店長。

 いい人を紹介してくれましたね」

 

「…………正直、脇で見ててハラハラはしたけどね。

 仲良くなれたんなら、紹介した甲斐があったよ」

 

 

 そう言って、安心したように笑った店長だったが。

 

 

 

「…………………………………………それにしても、さ」

 

 

 

 ふと、ノアさんが立ち去った方へ視線を向けて。

 

 セト店長が、どこか不満そうに口を開いた。

 

 

「ずっと手を握り合うなんて、ちょっと距離近くなかった?」

 

「…………はい?」

 

「いや、ノアがすごい美人なのは分かるよ? 分かるけどさ」

 

「はぁ」

 

「フツオくんだって、もうお年頃なんだから。もうちょっと、こう…………節度というか!」

 

「…………そんな色気のある話でしたっけ??」

 

 

 (一応)歳上なのに、ときどき思春期みたいなこと言うよなーこの人。

 

 いや、握手が長かったのは確かだけど。

 

 あれは、ノアさんが僕のことを気遣ってくれたわけで。

 僕だって、それが嬉しかったから応えただけで。

 

 

 それに。

 

 

 

「美人さんっていうのなら、店長だって負けず劣らずですけどね」

 

 

「…………えっ」

 

 

 

 目を丸くする店長。

 

 いや、何をそんなに驚いているんだろう。

 事実を言っただけなんだけど。

 

 

 タイプは全く違うけど、間違いなく二人とも絶世の美女と呼んで差し支えないぞ。

 

 

 

「あと、僕的には店長の方が好みですけどね」

 

 

 

「…………えっ?」

 

 

 …………うん。

 ノアさんも、確かに美人さんだった。

 

 それも、ただ綺麗というだけじゃない。

 

 立ち居振る舞いからして、なんというか。

 ひと目で偉い人だと分かるような、凛とした威厳がある。

 

 世界第五位。箱舟教会最強。

 そして、導き手。

 

 なるほど。

 それらの肩書に相応しい人だと思う。

 

 

 …………ただ。

 

 

(…………気後れするくらい『ちゃんとした人』だったからなー、ノアさん)

 

 

 

 嫌いとかじゃないんだけどね。

 

 美人すぎるというか。

 完成されすぎているというか。

 

 一緒にいるだけで、自然と背筋が伸びてしまうタイプの人だ。

 

 

 その点、店長はこう気さくで。ちょっと…………いや、かなりおっちょこちょいで。

 面倒見がよくて。でもそれ以上に世話の焼ける人でもある。

 

 …………まあ、だからって、見た目まで子供っぽいわけじゃない。

 

 顔立ちは文句なしの美人だし、スタイルだって抜群だ。

 黙って立っていれば、もっと大人びて見えるんだけどなぁ。

 

 

 …………黙っていれば。

 

 

(…………うん。僕的には、店長のほうがよっぽど”いい”と思うなぁ)

 

 

 そういうところも、魅力的なんだけどね。

 

 

 …………まあ。

 そもそも僕は、あんな美人さん二人を比較してあれこれ言える立場なのか、という話ではある。

 

 人の容姿に点数をつける趣味もない。

 だから、あくまで個人的な好みの話なんだけど…………

 

 そこまで考えて、ふと店長の方へ視線を戻すと。

 

 …………あれ?

 なんか、顔赤くない?

 

 

「そ、そっか…………ボクの方が…………」

 

「…………はい?」

 

「い、いや! なんでもないよ!?」

 

 

 慌てたように首を振る店長。

 けれど、その口元はどうにも緩みっぱなしで。

 

 視線を合わせようとすると、さっと目を逸らされる。

 

 …………なんだ?

 何かおかしなこと言ったかな。

 

 

「…………えへへ」

 

 

 …………いや、なんで笑ってるんだろう。

 さっきまでちょっと機嫌が悪そうだったのに。

 

 

 …………まあ。元気になったなら、いいか。

 

 

 ――――と。

 結論づけたその時だった。

 

 

「…………セト。いい年して浮かれないで。みっともない」

 

 

 横合いから飛んできた声。

 

 そちらを見ると。

 いつの間に近づいてきたのか、サレンが立っていた。

 

 

「う、浮かれてなんてないし! 何を言ってるのかなサレンちゃん!

 っていうか、いい年してって何!? ボクだってまだ二十そこそこだよ!?」

 

「じゃあ『もっと年上っぽい振る舞いして』に変える。見てるこっちが恥ずかしい」

 

「…………!」

 

 

 あ、ピシッと固まった。

 サレンのあまりの物言いに、店長が思わず絶句してる…………!!

 

 これは…………流石にちょっと見てられないな。

 

 

「こら、サレン」

 

「…………なに?」

 

「流石に口が過ぎるだろ、それは」

 

「別に。事実を言っただけ」

 

 

 つーんとした態度で、そっぽを向くサレン。

 

 …………が。

 なぜか、一度だけ僕の方をちらりと見て。

 

 ますます不機嫌そうに、唇を尖らせた。

 

 …………いや。

 僕、何かしたっけ?

 

 

 あのさぁー。

 

 

「君、僕と同い年だろ? 

 人に年上らしい振る舞いをって言うなら、君だってもう少し年下らしく振る舞いなよ」

 

「それを言うなら、同い年のモブにそんな説教される筋合いもないし。偉そうにしないで」

 

 

 

「――――サレン」

 

 

「…………っ」

 

 

 

 少しだけ。

 声の調子を変えて、名前を呼んだ。

 

 するとサレンは、何かを警戒したように背筋を伸ばした。

 

 そんな彼女へ向かって。

 僕は、少しだけ人差し指を立てて――――

 

 

 

「めっ!」

 

 

 

 

「…………っ!」

 

 

 ちょっと勢いを強めに叱ると。

 ぴたっと、サレンが固まった。

 

 

 

◇

 

 

 

 ――――なに、それ。

 

 

 …………いや。

 なに、それ!?

 

 てっきり、また小言でも口にされるのかと思った。

 

 

 でも、そんな、年下っていうか、子供をたしなめるみたいな言い方…………!

 

 

(…………反則じゃない? 今の!)

 

 

 モブのそういうところ…………なんか………………なんか!

 危うく、そのまま口に出しそうになって。

 

 

 …………落ち着け、私。

 

 

 そう自分に言い聞かせてから。

 なんとか、声だけでも平静を装って――――

 

 

「…………モブ。そういうの、ずるくない?」

 

「? 何が?」

 

「だから、そういうところが」

 

「??」

 

「これだからモブは…………セト、どう思う?」

 

 

「あーうん。わかるよ。フツオくんそういうトコあるよね…………」

 

「だよね」

 

 

「あの、マジでなんの話??」

 

 

 …………はぁ。

 ほんとに、もう。

 

 さっきまでしょげていたセトまで、思わず私に同意してしまうくらい。

 モブって、本当にモブだった。

 

 …………まあ。セトをしょげさせたのは私なんだけど。

 

 

「…………あ。でも、店長も元気になったみたいでよかったです」

 

「…………いや、まだ傷ついてるんだけどね…………?」

 

 

 ちらり。

 モブが、こっちを見る。

 

 …………何も言われてないのに、なんか責められているような気がする。

 

 

「…………まあ、店長。あんまりへこまないで大丈夫ですよ。

 サレンが敵に回った時には、僕が店長側につきますから。安心して下さい」

 

「フツオくん…………!」

 

 

 セトの顔が、またしてもぱあっと明るくなった。

 さっきまで落ち込んでたくせに。モブがちょっと優しくするだけで、これだ。

 

 …………なんだか、面白くない。

 

 

「…………そうやってモブが甘やかすから、セトがいつまでもセトのままなのでは?」

 

「サーレーンー?」

 

「わかったってば。…………もう」

 

 

 まったく。

 

 ほんと、気が置けない関係といえば聞こえはいいけど。

 そういう所が見てて恥ずかしいって言ってるのに。

 

 …………それに。

 さっきから、セトの肩ばっかり持って。

 

 …………いや。

 別に、なんでもないけど。

 

 

 

     ◇

 

 

 

「…………でもさ、モブ。本当に良かったの?」

 

「ん?」

 

「共鳴。戻さなくて」

 

「いいんだよ。僕は別に」

 

 

 共鳴が単なる才能や能力じゃなく、祝福だって分かった。

 

 それでも。

 

 

「やっぱり僕にはない方が都合いいかな」

 

「解呪してもらえるって話なら、してもらっておけばよかったのに」

 

「仮(・)想(・)敵(・)とやり合うことを考えたら、むしろ戻さない方が得なんだよね」

 

「仮想敵?」

 

 

「闇のファイターと事を構える時とか」

 

 

 そう口にした瞬間、空気がピリッとなった。

 

 

「…………闇のファイターって一応秘密の筈なんだけど。いいのそれ?」

 

「ここにいるメンバーには公然の秘密じゃないの? なら別にいいだろ」

 

 

 全国大会優勝メンバーと十二聖座、その関係者一同。

 知る人ぞ知る話だけど、まさに知る人しかいないような状況だし。

 

 今さらこの面子の前で伏せたところで、何が変わるんだか。

 

 サレンの呆れ顔を横目に、僕は話を続ける。

 

 

「闇のファイターには、共鳴を奪ってくる奴もいる。

 

 …………要は、コントロール奪取の使い手の亜種と思っていればいい。

 なら展開しないのも手だろ」

 

 

 奪われると分かっているものを、使いもしないのにわざわざ盤面へ置いておく必要はない。

 

 どうせなら、奪(・)わ(・)れ(・)る(・)共(・)鳴(・)そ(・)の(・)も(・)の(・)を(・)持(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)。

 …………それだけでも、一つの対応策にはなる。

 

 相手に空振りさせてる分、ファイト前から勝ち筋を一つ潰せる。

 

 

 

 闇のカードと言えば。

 

 昔はあんなカードに手を出す神経が心底理解できなかったが…………

 今となっては随分と、わかることが増えた。

 

 

 

 思えば、闇のカードの立ち位置は本当に独特だ。

 

 

(共鳴に縛られない僕でも使えないカードの片(・)割(・)れ(・)だもんな。そりゃ変か)

 

 

 適(・)性(・)で(・)は(・)な(・)く(・)、所(・)有(・)と(・)い(・)う(・)意(・)味(・)で(・)。

 

 デッキに入っていないカードが引けないように、持(・)っ(・)て(・)い(・)な(・)い(・)カ(・)ー(・)ド(・)は(・)使(・)え(・)な(・)い(・)。

 闇のカードに縁がない僕には、使う機会が訪れないだろうカード。

 

 

 …………とはいえ。

 

 今となっては、その価値が理解できる。

 

 

「考えてみれば、闇のカードって凄いよね」

 

「…………どういう意味?」

 

「共(・)鳴(・)適(・)性(・)に(・)縛(・)ら(・)れ(・)ず(・)、デ(・)ッ(・)キ(・)パ(・)ワ(・)ー(・)を(・)上(・)積(・)み(・)で(・)き(・)る(・)っ(・)て(・)こ(・)と(・)」

 

 

 Tier.2や、それ以下のテーマにしか適性がなければ。

 どれだけプレイングを磨いたところで。

 Tier.1の共鳴使いには、相性有利でもないとほぼ勝てない。

 

 パワー格差で勝率が大きく偏るくらいなら前の世界でもそうだけど…………

 運の要素がマッチングに集中してる共鳴世界では、特に顕著で致命的だ。

 

 

(…………闇のカードって、共鳴適性の外側から強さを持ち込める『抜け道』になるんだろうな)

 

 

 真っ当に上まで登るのが厳しい、そんな人達にとって。

 その『抜け道』が、どれだけ魅力的に映るか。

 

 

「闇のカードに手を伸ばす人達の気持ちが、今ならわかる気がするよ」

 

「…………!」

 

 

 …………ん?

 なんだろう。

 

 また、空気が変わったような。

 

 

 ふとサレンの方を見ると。

 何やら、ひどく真剣な顔をしていた。

 

 そして…………少しだけ言い淀んでから。

 慎重に、こちらの真意を確かめるように口を開く。

 

 

「…………モブ」

 

「なに? 改まって」

 

 

 

「もしかしてだけど――――闇のカードに…………興味あるの?」

 

 

「は?」

 

 

 

 …………興味?

 

 いや。なんでそうなる?

 

 

「だって今、自分で言ったじゃん。気持ちがわかるって」

 

「…………あー」

 

 

 確かに…………誤解しそうな発言だったか。

 自分の言葉足らずに呆れて、思わず溜息が漏れる。

 

 …………これは、はっきり否定しておかないとな。

 

 

「率直に言うけど、興味はないよ。…………むしろ、僕に一番需要がないカードだと思うけど?」

 

「え?」

 

「だってさ。僕なら、別のデッキに組み替えればいいだけじゃん。

 適性を無視して、好きなカードを使えるわけだし。

 

 僕にとっては、強くなるための選択肢なんて――――他にもいくらでもあるんだから」

 

「…………なーる」

 

 

 あくまで、『自分の限界を超えて強くなりたい』という気持ちがわかるようになった…………ってだけなんだが。

 

 闇のカードが救いになるのは、他の選択肢が閉ざされているからだ。

 デッキの上限の8点かそれ未満に、+αできるから意味がある。

 

 僕の場合は違う。

 やりたいことがあったら、別のカードを探せばいい。

 足りないものがあったら、デッキを組み直せばいい。

 もっと強くなりたければ、構築もプレイングも磨けばいい。

 

 厄介な禁じ手に頼るまでもなく、デッキを強くする方法がいくらでもある。

 

 

(僕にとっては大半の闇ファイターって、ほぼ普通のファイターと同じかそれ以下だしなぁ。

 まぁカード性能に頼りっきりになればそうもなるか)

 

 

 適性超えて積めるからって、デッキコンセプトもまとめずに『パワカ追加すれば前より強い』とかいうのは紙束デッキの考えなんだよ。

 第三位の〈ネヴァー・エンド〉だって、レガシーカードで文句なしのパワーカードだったけど、あれビートとか自爆要素ないコンボに雑に積んでも全く強み活かせないだろ。あほらしい。

 

 今のところは《教授》と、あのロスロスうるさい奴くらいか? 闇のカード使いで腕に一癖あったのって。

 

 

(そもそも、強いカードを一枚増やすことと、強いデッキを組むことは別の話なんだよな)

 

 まぁこの世界、共鳴優先でテーマでまとめるから、構築テクってほぼ見かけないしなー。

 好きなカードをある程度選んで引けるから、事故要因満載にしか見えないデッキでもどうにかなってる。

 

 だから共鳴を奪ってくる闇ファイターが天敵になる訳だが…………僕には何の意味もない。

 

 …………そもそも。強くなるために、社会のレールからドロップアウトする気もないしな。

 

 カードゲームで強くなりたいからって、カードゲームを楽しめる日常まで手放してどうするんだ。

 それじゃ本末転倒だろうに。

 

 

「それにさ。闇のカードって、対策がなかったらほとんど勝ち確定みたいなものなんだろ?」

 

「まあ、そういう性質もあるけど」

 

「何(・)が(・)楽(・)し(・)い(・)ん(・)だ(・)よ(・)、そ(・)れ(・)」

 

 

 マッチングだけで勝敗が決するゲームなんて願い下げだ。

 

 せっかくカードゲームをしているのに。

 相手との読み合いや駆け引きが、介入する余地がほぼ消える。

 

 それは対戦ではない。対戦が始まる前に勝敗が決まるのなら、僕にとってはゲ(・)ー(・)ム(・)で(・)す(・)ら(・)な(・)く(・)な(・)る(・)。

 

 

 

 

「対戦相手でガチャする趣味とかないよ、僕。つまんな」

 

 

「身も蓋もない言い方!!」            ...

 

 

 

 …………おお。

 

 サレンが、すごい勢いで突っ込んできた。

 

 

「いや、何!? が、ガチャ!?」

 

「え? 『マッチングで勝敗がほとんど決まる』を一言で言えばそうなるだろ?」

 

「分かる! 意味は分かるけど!!」

 

 

 直球でわかりやすい例えだと思うんだけど。ダメか?

 

 ま、闇のカードに興味ないってことも伝わっただろうし。大丈夫だろ。

 

 

 

「……………………はぁぁぁ…………」

 

 

 

 …………ん?

 

 どこからともなく、やたらと長い溜息が聞こえてきた。

 

 見れば、セト店長がドロシーとも競えそうなデッッッかい胸を撫で下ろしている。

 手のひらに押さえられた胸元が、むにゅっと柔らかそうに形を変えていた。

 

 

(…………こういうところを見ると、やっぱり見た目はちゃんと大人の女性なんだよなぁ)

 

 

 …………うん。

 実に眼福である。

 

 溜息ついてるのは…………なんかあったのかな。わからんけど。

 

 

 …………とはいえ。

 ここまで話していて、もう一つ納得できたことがある。

 

 

「レガシーカードがあれだけ重宝される理由も、今ならわかるな」

 

 

 闇のカードと同じように、共鳴適性の壁を超えられる。

 それでいて、闇のカードみたいに社会的にアウトな代物じゃない。

 

 つまり、”真っ当に”デッキパワーを上積みできる希少(レア)なカードなわけだ。

 

 …………そりゃ、皆欲しがるよな。

 

 

(しかも〈天界龍〉とか〈飛虎〉とか〈ネヴァー・エンド〉とか。

 特異な能力持ってるかエース級のパワカばっかだし)

 

 

 適性ではなく所有の問題で、僕にも使えないカードの片割れ。

 

 

「なに? 闇のカードには興味なくてレガシーカードには興味あるの?」

 

「いや、それほどでもないね。

 僕の場合は、無理して手に入れる必要もないからなー。

 

 他の強いカードで十分強いデッキは組めるし」

 

 

 第一。

 

 

(…………僕にとっては、全部のカードがレガシーみたいなもんだしなぁ)

 

 

 共鳴適性の制限を無視して、どんなカードでもデッキに組み込める。

 だったら、特別な一枚に頼らなくても、他のカードを組み合わせて強くすればいい。

 

 …………それに。

 

 

(何より…………レガシーはピン差しほぼ確定ってのがなー)

 

 

 それなら『世界に一枚・数枚』とかの制限のない他のカードのほうがよっぽど使いやすい。

 

 適性を超えられるのは共鳴使いには垂涎かもだが。

 所有という制限がのしかかってくる分、僕にとっては普通のカードより扱いに困る。

 

 …………

 

 …………いや、待てよ?

 

 

(もし、予期せず手札に来た時には…………

 むしろ、レガシーカードの方を先に出してしまうのもありか)

 

 

 この世界じゃ、レガシーカードはそれこそ切り札扱いだ。

 まさか、そんなカードがサブプランや銀弾でしかないなんて、普通は思わないだろう。

 

 …………なら、ブラフには最適じゃないか。

 

 相手に本命だと思わせて、対処札を切らせて。

 向こうがレガシーカードを凌ぎきったと安心したところで、本命を死角から叩き込む。

 

 

(…………悪くない。悪くないな、これ)

 

 

 もちろん、レガシーカードそのものが通るなら、それはそれで構わない。

 銀弾扱いのパワカではあるんだから。別の角度からアド稼いでくれてもOKだ。

 

 もし手に入ったら、面白い使い道はいくらでも考えられそうだ。

 …………ちょっと興味が湧いてきた。

 

 

(まあ、だからって欲しくて仕方ないってほどでもないけど)

 

 

 詳しくなかった前よりかは、魅力的に映るかな。

 

 

 

     ◇

 

 

 

(…………はぁ。よかったぁ…………)

 

 

 改めて、胸の中でだけ安堵の息をついた。

 

 フツオくんが、もし闇のカードに興味を持ったら…………なんて。

 冗談でも考えたくない。

 

 ただでさえ、第三位と張り合えるほどの腕前なのだ。どれほどの脅威になるか。

 それに、さっきは友好的だったノアだって、一発で敵に回るだろう。

 

 

(当の本人は本当に興味なさそうなのが救いだけど)

 

 

 むしろ、縛り手なんて不自由な状況にされたのなら、闇のカードに手を伸ばしたくなっても不思議じゃないだろうに。

 本当に変わった子だけど。でも彼にはいらないというのもわかる。

 

 

 闇のカードに頼らなくても、強くなる方法ならいくらでもある。

 

 そんなことを、当たり前のように言ってのけたのだから。

 

 

 …………

 

 …………ん?

 

 

(…………あれ?)

 

 

 そこで。

 

 ふと、違和感を覚える。

 

 

「…………ねえ、フツオくん」

 

「どうしました?」

 

 

 気づけば、声をかけていた。

 

 

「さっきさ。共鳴使いでも80点を取れるとは限らないって言ってたよね?」

 

「ええ。言いましたけど」

 

 

 80点という、『普通(完全なバベル以外)の共鳴使い』の満点が取れるのは、Tier.1テーマへ共鳴できる場合にのみ限られる。

 Tier.2、Tier.3だったなら、上限は70、60点と落ちていくことだってあり得る。

 

 でも、それは――――

 

 

「それは、フツオくんだって同じだよね?

 共鳴使いの上限が80点であっても、70点しか取れない人もいるように。

 

 共鳴を使わずに81点まで取れるっていうのは、あくまで理論値で。

 大半の人はそれ以下になるよね?」

 

 

 9点のデッキと9点のプレイング。両方を備えて初めて81点になる。

 なら、7点のデッキに7点のプレイングとかで、たったの49点止まりになったりすることだってあるだろう。

 

 

「君が前から、独特な構築ができるくらいの腕だったのは知ってるんだよ」

 

 

 彼がそんなレベルじゃないってことは知ってる。

 

 テーマに縛られないデッキなんていう、共鳴使い(ボク)には意味不明なものを組み上げてたし。

 それを当たり前のように使いこなせるくらい、プレイングだって異常に上手かった。

 

 その実力は、今さら疑う余地なんかない。

 

 

「でも、さ」

 

 

 …………ないはずなのに。

 

 今日のファイトを思い出すたび、妙な違和感が残る。

 

 世界第三位を下した、あの一戦。

 勝利に至るまでのゲームメイクが、見事だったことは間違いない。

 

 

 

 …………だからこそ、不思議だ。

 

 

 

 自分がこれまで何度もファイトしてきた彼は。

 あ(・)ん(・)な(・)に(・)も(・)底知れないファイターだっただろうか。

 

 もし9点のデッキが組めたとしても。

 

 そのデッキに劣らない、9点のプレイングができるほど、巧(うま)かっただろうか。

 

 

 

 

 

「…………フツオくんって、こんなに強かったっけ?」

 

 

 

 

 







「書かれた文字を、すべて読み解けたとしても。
 問いを残した余白が持つ意味を、未だ知ることは叶わない。

――――その意味を定める一節は、続く一冊にあるのだから」


     ――――〈空位の補白〉別イラスト版



――――――――――




 闇のカードに手を伸ばす人が絶えない理由ってこういうことだろうなと思いながら仕上げてました。
 なまじ共鳴がベースになるからこそ、それに対する裏技的な存在だと。

 闇カードはレガシーと違い量産可能とのことなので(公式設定)、それも一因なのでしょうが。
https://x.com/Laiko_dain/status/2109565640164196559


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総合評価:1103/評価:8.53/連載:4話/更新日時:2026年07月27日(月) 17:00 小説情報

(ガワだけ)胡乱なカードゲームおじさん(作者:十田心也)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

【バトルワールド】▼それはただのカードゲームに非ず▼それは世界中の人々を熱狂に導き、いまだ醒まさせない▼ある国では1枚のカードを手に入れるため、世界有数の富豪が一文無しになり都市が壊滅した▼またある国では、そのカードゲームが最も強い者が皆を率いるリーダーとなった▼長年争っていた両国が、1回のカードゲームの勝負で終戦に合意したこともある▼カードゲームの枠を超え…


総合評価:5082/評価:8.47/連載:34話/更新日時:2026年10月21日(水) 18:30 小説情報

【書籍化】俺の切り札は光らない(作者:雨 唐衣)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

 カードゲームが好きだ。▼ 集めて集めてうんざりしたカードの山の中で手に取った一枚に焦がれることもあった。▼ 何度も、何十も、何百回もスリーブが擦り切るまで回した果てに出来たプレイングに自分を褒めたくなったことこともあった。▼ 練り込まれたデッキには色んなものが入っている。▼ 揃えたカード資産の金額、ひらめきと考え抜いたゲームメイク、試行錯誤に費やした時間、…


総合評価:64106/評価:8.91/連載:124話/更新日時:2026年10月18日(日) 23:01 小説情報

精霊が切り札の世界で、俺だけ孤独に成り上がる(作者:モナカパウマン)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム最高!▼全てがアニメみたいにカードゲームで回ればいいのに……そんな風に思って、日々を過ごし、気がついたらカードアニメみたいな世界に転生していた。だが問題があった。この世界においてSSRカードの証左である精霊たちが一切懐いてくれないのである。▼しかし構わない。▼俺は一人で成り上がってみせる。▼元よりカードゲームに精霊なんて、無粋なのだ。▼※他サイト…


総合評価:5843/評価:7.78/連載:20話/更新日時:2026年10月21日(水) 13:36 小説情報

カドゲ世界で「このカードが君の所に行きたがっている」屋さんになった(作者:ユ◯ギさんみたいになりたい)(オリジナル:現代/冒険・バトル)

カードゲーム世界に転生したからには、一度はやってみたいことがある。▼「このカードが君の所に行きたがっている」と言ってカードを渡して去っていくやつ。▼折角なので、いっそこれを職業にしてみよう。▼そんな思いからカードショップ「このカードが君の所に行きたがっている」を開いた俺の元には、毎日いろんな客がやってくる。▼なにしろカドゲ世界は変人の宝庫。▼そんな彼らの元に…


総合評価:5585/評価:8.18/連載:5話/更新日時:2026年10月01日(木) 07:05 小説情報


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