OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
そのカードが盤面に降り立った瞬間、会場の空気がわずかに揺れた。
観客席のあちこちで、息を呑む音が漏れる。
ざわり、と広がるざわめき。
それは歓声ではない。
驚愕と、そしてどこか怯えにも似た動揺だった。
誰かが、信じられないという声を上げる。
そのカードを見た誰もが、戦慄を隠せなかった。
だって。
それは。
勝利と敗北を封じるそのカードは――――――
「ドアの
「いや、それどころか――」
「能力じゃ完全に上位互換じゃん……!」
誰かが、呻くように言った。
「あんなカードがあっていい、のか…………!?」
ざわめきが一段と大きくなる。
それも無理はない。
勝利や敗北を歪めるルール介入型クリーチャーというだけで異例。
だと言うのに、このカードは――――能力で、昨年のチーム戦優勝者のエースの
天儀ドロシーの《天界龍エンジェルハウンド》を
あの大会を見ていた者なら誰でも知っている。
全国制覇を成し遂げたその能力が、どれほど特異で脅威なのかを。
〈ネヴァー・エンド〉は、それを凌駕していたのだ。驚くのも無理はない。
(カド市長がドアに言ってたのって、こういうこと!?)
ギャラリーとはまた別の角度から、驚愕するドロシー。
確かに、これには一見の価値があった。
ここまでのプレイングと流れから、開幕のアドバイスが一気に輪郭を帯びる。
そうして、各々が驚愕と混乱のなかにあるギャラリーを脇に。
彼だけが、冷静に視線を敵へと向けていた。
「…………」
これが相手の切り札か。
〈縛なるもの
そんな、打って変わって楽観的とも言えるものだった。
いや確かに強いよ? 比較対象が比較対象だから。
相性も悪いよ? コンボデッキであんなのに居座られたら勝負にならないし。
だが無敵じゃない。
少なくとも、盤面から消すだけなら容易い。
ルール介入型の系譜として見れば破格だが、カードパワーは逸脱してない。
最初に作られた〈律たるもの
召喚前に負けたり、召喚できた段階じゃ手遅れで、負けないまま負けの盤面覆せず姿焼きにされるとかザラだったしな。
加えて、再利用不能というデメリットまでついてる。
その上位互換である〈戒するもの
こっちは結構軽くなって小回りが効いてた。瞬間発動もついてたし。
何より、敗北だけじゃなく相手の勝利も封じれる点が画期的で。
そして今いる〈縛なるもの
今度は瞬間発動も盤面での耐性も消えて、代わりに追放不可がついた。
要するに、瞬間発動の手軽さをコストの軽さとトレードして、耐性から再利用に全力で振ったデザインになっている。
まぁ流石にこの軽さに
あらかじめ秘宝みたいに設置しとくか、それこそ低スタックを召喚する瞬間発動の呪文とかで、決定機にしれーっと出すのがベスト。
貧弱なスタックだが、コスト相応の範囲内。
流石に天界龍の次の次のデザインなだけあって、単体のコスパで言えば満点を越してるだろう。
逆に貧弱すぎて自分で勝負を決めに行けるボディはないけど、そういう用途のカードじゃないしな。
むしろその軽量さとスタックで、多数のサーチや墓地召喚呪文に対応。
そして追放されない。デッキ・手札・墓地。そのどこかにはある。
なのでさっくり除去されるサイズのくせに、粘り強く展開が可能。
むしろ火力や除去との1:1交換を相手に強いるという意味で、よりコントロール向けになっていた。
とにかく取り回しの良さが売り。このサイズならデッキに2枚以上積んでも負担にならないだろう。
(これはもうデッキはパーミッション判定でいいな。コンセプトの大枠が判明した)
〈ネヴァー・エンド〉が出る前、たしか当時の環境を席巻してたのがコンボだったから。このカードの収録されてたテーマがコントロール系を多数抱えて着弾したんだったか。
その最後がどうなったかは…………うん。
カードゲーマーって悪用ばっかするよなって感じだったな。
頭を振って意識を切り替える。
やることは単純だ。
居着かれる限り大半のコンボは通しても勝てないんだから、どかして隙を見てコンボをねじ込む。
別ルートでもいいけど、ブラフ抜きでパーミをすり抜けて通すのはちょっと現実的じゃない。
幸い、多数のサーチに対応する低スタックなだけあって、処理自体も容易いし。
普通の火力で焼いてしまえる。天界龍の破壊耐性も消えてるし。
このクリーチャーは“無敵”ではない。無敵すぎないよう設計されている。除外はできないが、破壊は容易い。
だからこそ、何度も戻ってくることを前提にしたカードデザイン。鉄壁ではない。
そういう意味でも、コントロールの中じゃロックじゃなくパーミッションに近いデザインなんだよな。ルール介入系なのに。
なら小手調べ。相手のクリーチャー召喚が成されたので、それまで腐っていた火力除去の出番になる。
「〈スルト〉を破壊の対象にして〈灰燼は天蓋へ舞う〉をプレイ。通りますか?」
プレイ時に自身のクリーチャーを破壊することで、スタック分のコストを軽減できる火力。
高スタックで破壊耐性のあるスルトを
耐性持ちとシナジーする、コンボパーツの一つだ。
「妨害します」
「…………えっ?」
「何か? そちらも妨害を?」
「い、いえ。対応はなしです。〈灰燼は天蓋へ舞う〉は墓地に」
思わず、変な声が出た。
なぜここで妨害を切った?
この除去を止めたところで――〈スルト〉がいる。
〈スルト〉の『俯瞰』。アンタップ状態であろうと、空中であろうと叩ける。
攻撃を咎められなければ、馬鹿げたスタック差で押し潰す、脅威の制圧能力。
(ここで温存していた妨害を切る? …………今引きか? だが……)
除去を通そうが、通すまいが、破壊されるという結果は同じはずだ。
そして
だと言うのに。
なんというか。
(落とし穴を見落としているかのような嫌な気配が消えないぞ……何が来るんだ?)
だが今は踏み込むしかない。
「バトルに入ります。〈終焉の巨人 スルト〉で〈縛なるもの
スルトが踏み込む。
巨体が盤面を揺らし、拳が振り下ろされる。
盤面を揺らす一撃。
――――――――粉砕。
敵の切り札は、抵抗らしい抵抗もなく、砕け散った。
あまりにも、あっさりと。
一瞬、会場の空気が止まる。
誰かが、ぽつりと声を漏らした。
「……え?」
それを合図に、観客席がざわめき始める。
「終わり……?」
「いや、
「こんなあっさり退場するのか……?」
どよめきが止まらない。
石を落とした水面のように、不可解の波紋が広がっていく。
――――確かに能力は異常だった。
勝利と敗北を歪める、ルール介入型クリーチャー。
だが。
スタックは低い。
破壊耐性もない。
タップしていないクリーチャーも殴れる、高スタックの〈スルト〉の前にみすみす召喚すれば、こうもなる。
ゲームとしてはむしろ当然の処理だった。
ざわめきの色が、少しずつ変わっていく。
戦慄から、困惑へ。
そして。
わずかな安堵へ。
(……軽い)
拍子抜けするほど、軽い。
盤面を見つめたまま、小さく眉を寄せた。
あまりにも何事もなく
理屈はわかる。スタックは低い。破壊耐性もない。
だから、
カードゲームとしては何もおかしくない。
思考を中断して、視線を上げる。
相手を見る。
(………………動かない)
とっておきの切り札を破壊された当人が。
まるで、何も起きていないかのように。静かに盤面を見ている。
観客席はざわめいている。
こちらも、困惑している。
だが。相手だけは。まったく動揺していない。
まるでこの展開が――最初から、予定通りだったかのように。
困惑が拭えないまま、ゲームは進む。
もう一つの処理。
バラバラと鳴った音に引かれて視線を向けると、山札が削れていた。
カードが、墓地へ落ちていく。
一枚。
二枚。
三枚。
四枚。
静かな崩落。
これが『巨人』シリーズであるスルトの持つデメリット。
相手を跳ね飛ばす圧倒的なスタックを備えるが、その行使にある種の回数制限がつくデザインになっている。
終焉は互いにもたらされるもの。敵を敗北に押し込もうとする度に、こちらは寿命が削れていく。
設計上の対価。強大な破壊力の裏に仕込まれた、明確な代償。
通常のデッキに組み込んでいれば、コスト踏み倒しで早くから出せたとしても、2,3回ブロックされただけでデッキが危険域になるだろう。
〈スルト〉はそういう巨人だった。
苦労して召喚した後、破壊されないようケアする必要がある一般的なフィニッシャーと異なり、倒しにかかる露払いにサポートが必要なタイプのフィニッシャー。
しかしエニグマはただでさえ枚数が多い。〈スルト〉のデメリットであっても、数回殴る程度なら許容域。
なにはともあれ排除はできた。
仕掛けたいが、あのクリーチャーを使う相手には、
幸いコストは潤沢。なら、いま仕掛けられる別のコンボは――――
「メイン2。秘宝〈自転式の砂時計〉を設置します。通りますか」
「通します」
「続けて、〈星を裂く
「そちらはいけません。妨害します」
(…………??)
2枚目の妨害? 今引きじゃなかった?
少なくとも、1枚は〈金貸し〉の時にプレイし、召喚を妨げられたはず。
温存したものをこっちで使う理由は何だ? ……わからない。不気味さだけが増していく。
気にはなるが、一旦おいておこう。
これを止められたなら今のところ、仕掛けられるコンボはない。コンボパーツの秘宝も置けて、盤面も取ってるし……
「対応はなし。…………僕はこれでエンドです」
「ではエンド時に〈停滞の福音〉を瞬間発動でプレイ。墓地を全てデッキに戻し、此方はライフを5回復します」
知ってる。
勝敗を歪め、決して除外されない、再利用可能なクリーチャー、〈縛なるもの
バーンとデッキ破壊を跳ね除けるライフゲインと、もう一つ能力がついたデッキ修復、〈停滞の福音〉。
そして、
盤面を秘宝や制限系クリーチャーでガチガチに固めるヘヴィロックに対し、適時手札からのプレイでいなすソフトロック。
必殺のコンボを封じ込める、その対応力は圧倒的。
場況に応じて放たれる除去や妨害をくぐり抜けるのは至難の技。
これで〈ネヴァー・エンド〉もデッキに戻るわけだ。
相手は墓地を空にし、山札とライフを回復。
「此方のターン。ドロー」
相手が静かにドローする。
その直後。
「墓地にある〈停滞の福音〉のもう一つの効果を起動します」
その宣言と同時に、墓地に置かれていたカードのテキストが表示される。
〈停滞の福音〉
――――――――――
瞬間発動
あなたの墓地のカードをすべて山札に戻す。
あなたはライフを5回復する。
このカードが墓地にある時、あなたはこのカードを手札に戻してもよい。
そうした場合、あなたは手札を一枚選び、それを追放する。
――――――――――
そう言って、彼女は選択したカードを宣言した。
「此方が追放するのは――――――〈縛なるもの
「――――――は?」
〈ネヴァー・エンド〉は追放されない。
破壊不可能な〈スルト〉を破壊対象に取るのと同じ。
対象には選べる。
処理も始まる。
だが、最後の結果だけが成立しない。
つまり。
何事もなく〈停滞の福音〉は手札へ戻り。
〈ネヴァー・エンド〉は手札に残る。
手札は、減らない。失われるものは何もない。
「続けて〈空位の補白〉をプレイします」
白にはあまり見かけない、手札を一枚追放し二枚引くカード。
共鳴で手札事故を回避できるこの世界で使われるのが珍しい、
単純に2:2交換でアドは得られない上、追放という取り返しのつかない要素まである手札操作カード。
その分ドローソースよりかは軽量だが、使い所は難しい。
やってることが白向きじゃないってことで、ターン中に一枚しか使えない制約もある。
それを――――――
「追放対象は〈ネヴァー・エンド〉を選択。……追放はされず、此方は二枚ドローします」
「 は ? 」
「そして、手札から再び〈ネヴァー・エンド〉を召喚。…………エンドです」
「…………はァ??」
思わず、間抜けな声が出た。
一瞬、理解が追いつかない。
あ、〈縛なるもの
もしくは二枚目が手札にあった?
いやでもあれ、
じゃあ今引いたんだ。サーチもなく即ドローとは随分と都合がいい…………それとも共鳴か。それなら――――
…………んんん!? ちょっと待て。
最強の共鳴使い。それがもし
………………
………………
(………………おいおいおいおいおいおい)
冷や汗が、頬を伝った。
(これはちょっと、マズいことになってきた……!)
「失ったものは取り戻せる。――拾う間は、前にも進めなくなるが」
―――――〈停滞の福音〉
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面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、
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次回更新は土曜日の予定です。楽しみにしていただければ幸いです。