OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた   作:檻@102768

6 / 7
 前話の終盤に、ルーターの描写を追加しました。

 その影響でちょっと状況にアプデが入っています。


6 紙一重の攻防と、その裏側

 

 

 

 

 

 

 誰もが、声を失っていた。

 

 

 

 終焉を謳う巨人。

 

 終局を拒む魔性。

 

 

 

 互いの切り札が相まみえているが、その表情は対照的だ。

 

 圧倒的にパワーで上回る側が戦慄していて。

 その気になれば即座に踏み潰される側が、明らかに空気を掴んでいる。

 

 

 

 その光景に、誰かがぽつりと呟いた。

 

 

 

「……これ、どうやって勝つんだ?」

 

 

 

 踏み潰すことはできる。

 

 焼き尽くすこともできる。

 

 盤面から消し飛ばすことさえ、おそらくは難しくない。

 

 

 

 だが、それは勝利ではない。

 

 終局を拒む魔性は、倒されることを敗北としない。

 

 ゆえに、終焉の巨人を前にしてなお、盤面はまだ終わらない。

 

 

 

 だからこそ。その問いに、答えられる者はいなかった。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

 そこからは、怒涛の仕掛けの連続だった。

 

 

 

「〈灰燼は天蓋へ舞う〉をプレイ。〈スルト〉を破壊の対象に、ループを開始します」

 

 

 クリーチャーを破壊の代償に指定することで、火力を上げコストダウンするバーン。

 

 破壊できない巨人と組み合わせてループが成立すれば、勝敗を阻む悪魔ごと焼き尽くす火力の連鎖。

 クリーチャーもライフも、いくら残っていようが意味を成さない。

 

 

 

「対応して、〈白銀の静域〉をプレイ」

 

 

 だが、セレヴィアは静かに告げる。

 

 

「次の此方のターンまで、此方と此方のクリーチャーが受けるダメージをすべてゼロにします」

 

 

 

 ――――――通らない。

 

 

 

 

 

「〈時渡りの階段〉をプレイ。解決されれば、追加ターンを得ます」

 

 

 プレイヤー一人に追加ターンを与えるカード。

 場の秘宝とのコンボが通れば、無限のターンが成立する。

 

 

 相手に手番を渡さず、そのまま盤面を詰め切れる。

 

 

 

「妨害します」

 

 

 

 ――――――時間も、奪えない。

 

 

 

 

 

「〈終焉の巨人 スルト〉でアタック。〈縛なるもの 終焉未達体(ネヴァー・エンド)〉を破壊します」

 

 巨人の一撃が、結末を拒む魔性を踏み潰す。

 

 

「続けて、〈閉ざされる未来の扉〉をプレイ」

 

 

 今度はデッキデスコンボ。

 

 相手の未来そのものを削る。

 

 山札という、選択肢の束を。

 

 削る。

 

 削る。

 

 削り切る。

 

 

 

「エンド時、〈停滞の祝福〉をプレイ」

 

 

 

 ――――――けれど、それも届かない。

 

 

 

「墓地を山札に戻し、ライフを回復。……ドロー。

 墓地から〈停滞の祝福〉を回収し、〈ネヴァー・エンド〉を召喚します」

 

 

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

 焼き切れない。

 

 時を奪えない。

 

 削り取れない。

 

 

 

 もう何度、繰り返されただろう。

 

 必殺の仕掛けは尽くがいなされ、残り時間だけが刻々と削れていく。

 

 

 

 無限火力は、ダメージ無効で捌かれた。

 

 追加ターンは、妨害で断ち切られた。

 

 山札破壊は、デッキ修復によって露と消えた。

 

 

 

 幾度となく重ねた応酬。

 

 けれど、決定打は通らない。

 

 

 

 そして、その代償だけが確実に積み上がっていく。

 

 

 

 ターンごとのドロー。

 

 そして――〈スルト〉の代償。

 

 

 

 巨人が破壊を振るうたび、山札が削れる。

 

 それは本来、勝利への踏み込みであると同時に、自滅への加速でもあった。

 

 

 

 並の相手ならば、軽く五度は屠れていたであろう度重なる仕掛け。

 

 その全てを凌がれた結果。

 

 通常の倍以上の枚数を誇るエニグマデッキも、とめどない消費の果てに、ついに半分の峠を迎えようとしていた。

 

 

 

――――――――――

 

 

 

※   ※   ※

 

 

 

「……本当、尋常じゃない攻め上がりだな」

 

 

 観客席の一角で、誰かが呆然と呟いた。

 

 

「ここまで何度仕掛けた? 無限バーンに、無限ターンに、デッキ破壊……三種もコンボ積んでるとか」

 

「三種どころじゃないだろう。〈スルト〉を召喚するギミックに、〈スルト〉や他のクリーチャーが不在で、盤面が空いてる時だからこそ使える無限バーンだってあった」

 

 

 別の声が、すぐにそれを否定する。

 声の主は第四位、”塵塚王”。

 

 先刻までモブと、コンボデッキ同士の紙一重の切り合いを演じた男。

 今ギャラリーにいる中で序列でトップに君臨する男が、そう評した。

 

 

「ここまで使われてるカードって、全然テーマでまとまってないだろう?

 一、二種類の勝ち筋に集約してシナジーさせるんじゃなく、五種もの勝ち筋をパーツでシナジーさせてまとめあげるなんて、俺でもやったことがないぞ」

 

 

 息を呑む。

 

 

シナジーだけの寄せ集め(フルスクラッチ)デッキに関してなら、人後に落ちない自負があったが……アレは、俺でも見たことがないレベルだ」

 

第四位(おまえ)にそこまで言わせるか…………」

 

 

 

――――――――――

 

 

 

「コンボって、札が揃ったら打ち込んでして終わりだと思ってた……」

 

 

 ユウキの口から、半ば独り言のような声が漏れる。

 

 

「どれだけ早くパーツを揃えて、妨害された時の予備とか、妨害に対抗する妨害とかで押し通すのがコンボって認識だったよ」

 

 

 コンボデッキは本来ならば、この半分も必要ない。

 

 デッキにあるたった一つの仕掛けが通れば、それで終わる。その鋭さが届けば勝ち。届かなければ負け。そういうものだ。

 

 

 だが、終わらない。

 

 

 決定機は尽く妨害され。

 必殺の一撃は、寸でのところで逸らされ。

 勝利に伸ばした指先は、あと数ミリのところで命綱に届かない。

 

 

 それを繰り返してまだ戦う力が残っているというのは、ユウキの常識からすれば異様が過ぎた。

 

 

「最初からモブのデッキはそういうコンセプトっぽいね」

 

「サレンさん……」

 

「妨害とか壁が相手に揃うまでどれだけ早く仕掛けるかじゃなく、防がれてもなおどれだけ深く踏み込めるかの引き出しの数に振った構築。

 デッキ全部をコンボパーツで組み上げれば(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)共鳴なしでもコンボパーツが揃う(・・・・・・・・・・・・・・・)。ああいう視点もある」

 

「あの、すごい淡々としてるけど……もしかして野良ファイトとかでも見たことあるの? ああいうデッキ」

 

「まさか。すごくびっくりしてる。共鳴を使ってないのにここまで強いだけでもおかしいのに……モブは構築の方まで頭おかしい。

 私だってあのデッキとやってみたかった。むむむ」

 

「今度私も相手してもらおっと」

 

「だめ、私が先にファイトする。先輩命令」

 

「横暴だぁー!」

 

 

 きぃー! と喚く後輩をスルーしながら思慮にふける。

 

 

 共鳴も使わずに、どうやってコンボパーツを手札に揃えるのか。

 普通に考えれば無駄に手間がかかるのを承知で、サーチやドローソースを駆使するところを、デッキ丸ごと複数のコンボで埋めるというアプローチ。

 

 共鳴なしでそんなもの回ってたまるかと言いたくなるが、実際に目の前で回っている以上は否定しきれない。

 

 

 

 しかし慄くに足るのは、仕掛ける側の腕前だけではない。捌く側の腕もまた懸絶したもの。

 

 

 それに最も身震いしていたのは、捌く側と同種(・・)の使い手こそだろう。

 

 

 

「最初にドアに言っていたのって、こういうことだったんですね」

 

 

 天儀ドロシー。

 同じくルール介入のレガシーを持つ、若手で指折りのパーミッション使い。

 

 彼女もまた、同種の頂点(セレヴィア)のプレイングに震撼していた。

 

 

「そういうわけじゃな。改めて問うが…………どう見る、天儀よ」

 

 

 カドが問う。

 

 試すように。

 けれど、茶化すでもなく。

 

 

「…………ここまで凌ぐのは、ドアにはとてもムリです。

 コントロールで相性有利ってだけで、いなせる鋭さじゃないですよこれ」

 

 

 ドロシーが、低く呟いた。

 盤面から視線を外さないまま、ゆっくりと言葉を選ぶ。

 

 

「パーミッションは、ただ防ぐだけなら理屈では簡単です。相手のプレイに合わせて1:1交換で対応すればいいだけですから」

 

 

 でも、彼相手にそれはできそうにない。

 少なくとも自分には。

 

 

「でもそうやって全てに対応するのは、現実には不可能です。

 全部に対応するってことは(・・・・・・・・・・・・)実は対処しなくても良い相手のブラフにも(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)全部食いついてしまう(・・・・・・・・・・)ってことですから。

 

 妨害も除去も、カバーできる範囲が決まっている。……今ある手札で、対応できる回数(・・)に限りがある。

 それを見せ札(ブラフ)に吐き出して、本命を通されたらもうリカバリーできません」

 

 

「ふむ。…………続けるが良い」

 

 

「はい。…………だから、通しても構わないカードは、対処できたとしても通すしかないんです(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 あとで裏目になる可能性があっても。別の勝ち筋に繋がるかもしれないカードでも、その瞬間に負けへ直結しないなら通す。

 逆に、今止めなければ負ける一点だけは、絶対に逃さない」

 

 

 それが、どれほど難しいことか。

 パーミッションを扱う者だからこそ、ドロシーには分かる。

 

 

 

 そして。

 

 

 

 世界第三位(セレヴィア)は、その針の穴を通し続けている。

 

 

「ここまで通していい札は徹底的に通して、決定的なものを止められるように手札を温存する。その見極めの方が、ずっと凄いです」

 

「いい目じゃ。あやつからライフを教わったと聞いておるが…………わかっておるな(・・・・・・・)

 

 

 嘆息する。

 

 

 

「本来は、ムリなんじゃがなこれ」

 

 

 

「…………ムリ(・・)?」

 

「知っておると思うが……パーミッションは本来共鳴ができんのだ(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。お主もそうじゃろ?」

 

「? はい。ドアも共鳴は持ってますけど、自分のデッキでは使えないですね。…………あれ??」

 

 

 天界龍が初手で手札に来た時とか。しぶしぶマリガンする羽目になって何度苦労したことか。

 かなり本気で破こうかどうか悩んだ……というか、一度は破きかけたくらいです。

 その時の苛立ちと「ア"ア"ア"ア"ア"」という悲鳴がフラッシュバックしかけたところに、疑問符が横槍を入れてくる。

 

 

「えと、じゃあどうやって共鳴を――――」

 

「あやつの共鳴するテーマの一つが、パーミッションだったんじゃよ」

 

パーミッション専用のテーマ(・・・・・・・・・・・・・)!? そんなのがあるんですか!?」

 

「あったんじゃよなぁ」

 

 

 遠い目で思い返す。

 

 

パーミッションのテーマと共鳴する共鳴使い(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)。そんな矛盾が行き着く先がこれ(・・)というわけよ」

 

「…………ひどくないですか?」

 

「うむ。気持ちはわかる」

 

 

 吾もそれなりに長く生きておるが、こんなケースはあやつだけじゃ。

 

 実際、相手にするならたまったものではない。

 最適な対処に必要になる最適なカードを、狙って引けるプレイヤーなどと。

 

 

「じゃが、吾が見る限りでも、ここまでの精度は初めてじゃ」

 

 

 その一言に、傍にいたセトもまた、苦笑を浮かべたまま頷いた。

 

 

「……第三位の腕前は健在ですね。いえ、下手をすると、ボクがいた頃より鋭くなってませんか?

 とてもスペアデッキ(・・・・・・)とは思えないクオリティですよ。…………ボクの本命デッキでも、突破できるかどうか」

 

 

「健在どころではないわ」

 

 

 カドは、扇子を口元にやって盤面を見据える。

 

 

「ここまでの札捌きを見せる――――いや、ここまでの札捌きを強いるほどの相手は(・・・・・・・・・・・・・・・・・・)吾も数えるほどしか知らぬ」

 

 

 それは、まごうことなく第三位への称賛だった。

 

 

 同時に。

 

 そこまでの精度を引き出さなければ抑え込めない()もまた、只者ではないことの証左だった。

 

 

 

 だが。

 

 それでも、このまま続くのなら。

 

 

 

「…………このまま行けば、先に尽きるのは、モブ(あやつ)の方じゃな」

 

「ですよねー…………」

 

 

 カドが、静かに告げた。

 セトもノータイムでそれに同意する。

 

 

「これだけ適切に対処されたうえで、デッキに上限があるかどうか(・・・・・・・・・・・・・)の差は致命的ですね」

 

「ここまでの九連戦でデッキの構成が露呈しておるのがな。

 …………もしセレヴィアのデッキも把握できておったなら、〈スルト〉を使わないバーンが主軸だったじゃろう」

 

「〈停滞の祝福〉が〈ネヴァー・エンド〉より刺さってるんですよね。

 あの一枚でバーン対策のライフゲインも、デッキ破壊も、〈ネヴァー・エンド〉の回収も全部やってくれちゃってますから」

 

 

「加えて、だ。見よ。あれほど共鳴を重ねてなお、あやつは呼吸ひとつ乱れておらん」

 

「共鳴って連発すると世界ランカー級(ボクら)でも消耗は避けられないんですけどね…………」

 

 

 共鳴とは、体内のオドを消費して行う奇跡。

 それをこれだけ重ねて、微塵も揺らぐ様子がない異常性。

 

 つくづく、長期戦をさせれば並ぶ者なき怪物だった。

 

 それは、エニグマを相手取ってもなお際立ったもの。

 

 

 エニグマは、普通のデッキより遥かに厚い。

 搭載しているコンボの数も継戦能力も、既存のコンボデッキの常識の外にある。

 

 

 だが――――それでも有限だ。

 

 

 どれほど多彩な勝ち筋を積んでいても。

 山札が尽きれば、使い切れれば、終わる。

 

 山札を修復し。

 失われた札も戻し。

 勝敗を歪める悪魔を、何度でも降臨させてくる。

 

 そんな埒外のプレイングの前には、あまりに儚い。

 

 

 勝敗を歪める悪魔がいながらも。

 確実に。ファイトは、終わりへと近づいている。

 

 

 

 そしてこのまま覆せないなら。

 

 先に終わるのは、(モブ)の方だった。

 

 

 







「大きな薪であるほど、灰は高く舞う。道理だろう?」


     ―――――〈灰燼は天蓋へ舞う〉





――――――――――




 ここまでお読みいただきありがとうございます。

 パーミ使いは嫌われると原作にありましたので、実在したらめっっちゃ嫌われる害悪レベルのプレイングにしてみました。
 こんなの実際いたら嫌だろうなぁ。勝負になんねぇ!


 面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、
 お気に入り登録・評価で応援していただけると嬉しいです。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。