OVA:共鳴を使わない男を、共鳴最強の世界三位にぶつけてみた 作:檻@102768
(硬ってぇぇぇぇぇぇぇ…………!)
ここまで繰り返された攻防。
今なお届いて弾かれる切先の感触に、思わず胸の内で呻く。
(
パーミッションと言えど、どんだけ凌ぐんだ…………!)
一般的なパーミッションなら、とっくに押し切っている自信がある。
こちらのアクションを咎める妨害は、基本的に万能だ。
だが、所詮は単発でもある。
一度の仕掛けを潰したところで、盤面に残った秘宝とクリーチャーが、次のルートを生み出す。
途切れた勝ち筋は、別の勝ち筋へ換装される。
一枚を止めても、場に残ったパーツが、また別の暗号を組み上げる。…………それがエニグマだ。
複数のコンボに、複数のコンボパーツを共有させることで、一つの妨害では勝ち筋そのものを断ち切れない。
コンボらしからぬ圧倒的な継戦能力と、どのルートをケアすべきかの比類なき読みづらさ。
しかも、こっちはただ愚直にコンボを押しつけているわけじゃない。
コンボ完成を妨害してくるコントロールが天敵であるなら、それを見越して、コンボパーツに
現に、〈スルト〉を召喚した時の〈強襲〉のように、秘跡のカードだって既に何枚も切っている。
ただのコントロールなら、とっくの昔に轢き潰されている。
ただのデッキ相性なら、とっくに決壊している。
だというのに。
(凌ぐのか、ここまで……!)
特に厄介なのは、
無限にバーンを撃てるなら、本来はライフだけでなく盤面も焼ける。
クリーチャーのタフネスをゼロにして破壊し一掃。そのままライフも削り切れる。
盤面に〈ネヴァー・エンド〉がいたとしても、その処理とライフゼロを一つのルートで達成できるなら、勝ち筋として成立する。
だが、それすら幾度となく凌がれていた。
負けが確定する瞬間に妨害を打ち込むだけなら、極端な話、素人でもできる。
見えている敗北に、温存していた妨害を刺せばいいだけだからだ。
だが、
妨害だけではカバーしきれない穴を防げる代わりに、腐るタイミングが山ほどある上に重い
共鳴は強い。
望んだカードを引けるというのは、間違いなく
だが、それは万能ではない。
何を引けば凌げるのか。
何を引けば裏目にならないのか。
何を引けば、次のターンまで生き残るだけではなく、こちらの勝ち筋そのものを遠ざけられるのか。
それを読み切る腕がなければ、共鳴はただの自爆装置になる。
ただ強いカードを引けば勝てるわけじゃない。
正しいカードを引かなければ、むしろ負け筋を自分から踏みに行くことになる。
だからこそ、戦慄とともに納得するしかなかった。
(これが、当代一の共鳴使いか……!! ……精度が、余りにも高すぎる。
こちらの手に対する読みと、共鳴で引くカードの取捨選別、プレイング能力がずば抜けている……!)
背筋が冷える。
なのに。
(やべぇ。超楽しい……!)
口元が緩みそうになるのを、必死で噛み殺す。
ビートを相手にした時みたいに、相性有利を押しつけて悠々と轢き潰すのも面白い。
だが、やっぱり一番熱くなるのは、こういう瞬間だった。
こんなハイクオリティの
この駆け引きこそが、カードゲームの醍醐味だ。
おそらく彼女も、このひりつく寒気と、身を燃やす熱量を存分に楽しんでいるだろう。
(一体、いつまで食い下がってくるのですか、この方……!)
内心で漏れた悲鳴は、しかし表情には出さない。
出せるはずもない。
盤面を見る。
手札を見る。
相手の墓地を見る。
残された山札の枚数を見る。
まだ、終わっていない。
まだ此方は負けていない。
まだ彼も勝っていない。
それはつまり、此方の読みは外れていないということ。
少なくとも、ここまでは当て続けているということ。
ここまで相手の思惑を封じ続けて。
(ここまで凌いで、まだ終わらないのですか……! 本当にコンボデッキなのですかこれは!?)
決定打さえ凌げれば、コンボは瓦解する。
その原則がある以上、パーミッションはコンボに対して相当に有利なはずだった。
少なくとも、理屈の上ではそうだ。
コンボは、必要なカードの種類が少なければ少ないほど良い。
理想は、たった二種。
それだけ揃えば勝ちまで押し切れる形こそが、最も美しい。
デッキはまず、その二種を上限まで積む。
次いで、それを早く揃えるためのドローソースやサーチ。
相手の妨害に対抗するための妨害。
墓地に落ちた時の回収札。
揃うまでの時間を稼ぐロックカードや壁クリーチャー。
そうしたもので、残りの枠を埋めていく。
だからこそ、コンボはコントロールに厳しい。
コンボを成立させなければ勝てない以上、キーカードを徹底的にマークされれば頓挫する。
まして、コンボデッキに搭載されている妨害の枚数が、コントロールより厚いわけがない。
パーミッションならば、なおさらだ。
並のコンボデッキであれば。
ここまで凌げば、とっくの昔に勝ち目が失せているはずだった。
(本当、其方以外のコンボであれば、既に勝ち筋を枯らして詰ませていますよ)
呆れたような、嘆くような、形容しがたい声が漏れた。
その場しのぎは、パーミッション使いには慣れたものだ。
苦しい局面を薄氷の一手で繋ぎ、次に望みを託すことなど、何度も経験している。
(ですが、これは…………余りにも心臓に悪い……………!!)
一般的なロック系のように、腰を据えて盤面を抑え込むデッキとは違う。
此方のデッキは、立ち回りの軽さと対応力に振ったパーミッションだ。
だからこそ、ここまで捌けている。
だが同時に。
その対応力ゆえに、盤面を恒久的に押さえ込む力では劣る。
(
このテーマに収録されていた妨害達の
だから、まだ耐えられている。
だから、まだ勝負になっている。
(此方はまだ、ミスを一度もしていません……)
彼のデッキは、コンボでありながら、単純なコンボではない。
既に見えているだけでも、組み込まれている勝ち筋は五つ。
ターン追加にループの秘宝を重ねての無限ターン。
クリーチャーを召喚後に破壊する呪文を、破壊不可能の
その〈スルト〉を破壊対象にすることで、コストを消し飛ばした火力による無限バーン。
逆に、自陣にクリーチャーが存在しない時に真価を発揮する、別ルートの無限バーン。
そして、デッキをループで余さず削り取る、デッキデスコンボ。
いくらデッキ枚数が多いとはいえ。
これだけのギミックを搭載し、そのうえで互いに
それどころか。
〈スルト〉を経由するルートと、〈スルト〉を経由しないルート。
そのアンチシナジーさえ織り込んだうえで、此方にどちらの脅威を受けるかという選択を押しつけてくる。
このうち、通した瞬間に勝敗が決まらないルートは、実質的に〈スルト〉の踏み倒しだけ。
そして通しても、勝敗ロックと修復と再召喚のループで抑え込める。
だからこそ――――あの〈スルト〉の着地を許した。
(痛かったですね。あれは)
そして何より。
あの〈スルト〉を、このゲーム中に召喚阻止し続けるのは、おそらく不可能だった。
秘跡によって妨害をすり抜け、盤面に着地する破壊不可能の巨人。
除去が通らず、戦闘でも容易に止まらず、存在しているだけで全ての計算を歪ませるフィニッシャー。
普通のコントロールなら、あれを通した時点で詰みがチラつく。
だが、此方にとっては違った。
デッキ切れが勝ち筋である此方にとって、攻撃のたびに自ら山札を失っていくあのフィニッシャーは、彼の残り時間を一気に数ターン縮めてくれる。
召喚された瞬間に負けるカードではない。
攻撃によるダメージでも、経由してのバーンでも、踏み倒し成功後に決めきれない。
押し切るまでに、必ずラグがある。
それだけではない。
仮に〈スルト〉の着地前に〈ネヴァー・エンド〉を置いていたなら、彼はおそらく〈スルト〉を召喚しなかった。
自陣にクリーチャーが存在しない時にコストダウンを得る火力と、
そのルートを使って、〈ネヴァー・エンド〉ごと此方のライフを焼き切りに来たはずだ。
〈スルト〉を経由する無限バーンより、そちらの方がまずい。
場に残り続ける〈スルト〉は、彼にとって切り札であると同時に、あの無限バーンとは噛み合わない蓋にもなる。
だから、先に〈スルト〉を出させた。
そのうえで、踏み倒し成功後。
攻撃にも、バーンにも、次の接続にも移る前の、わずかなラグ。
そこへ〈ネヴァー・エンド〉を後出しする。
苦肉の策だった。
だが、最善でもあった。
〈スルト〉未使用の最大火力ルートを塞ぐ。
〈スルト〉そのものは〈ネヴァー・エンド〉と〈デッキ修復〉、そして共鳴による再展開のロックで受ける。
さらに、彼が〈スルト〉を動かすたびに、彼自身の山札は削れていく。
脅威に身を晒していることに変わりはない。
けれど、これ以上の受けはなかった。
(あのタイミングが、〈ネヴァー・エンド〉を出す絶好の機会でした)
パーミッションは空中戦が主体だ。
妨害と除去をメインにするその性質上、基本は一対一交換になる。
相手の一手に、こちらの一手をぶつける。
ゆえに、アドバンテージを極めて生みづらい。
守りながら勝つ、というのは簡単ではない。
守り続けるだけでは、勝利には届かない。
どこかで、自分の一手を置かなければならない。
そして、〈スルト〉が着地したあの瞬間こそが、その隙間だった。
あの一手は、此方にとって最善だった。
せっかく出した切り札で押しきれず、逆に限りあるデッキを削っていく。
心理的にも、ダメージは大きいハズで。
見通しは、上手く嵌まったはずだった。
だというのに。
(本当、何度仕掛けてくるんですか……!
コンボでここまで攻め手が途切れないデッキなんて、此方ですら聞いたことがないです……!)
クリーチャー一体が残っていれば、ターンさえあれば殴り切れるビートダウンとは違う。
コンボとは本来、勝ち筋が通れば勝つ。
通らなければ止まる。
そういうものだ。
なのに、このデッキは止まらない。
潰しても。
逸らしても。
遅らせても。
別の殺意が、次のターンには形を変えて立ち上がる。
(……ですが)
まだ、届かせない。
彼の山札は、確実に削れている。
〈スルト〉を動かすたびに。
コンボを繋ぎ直すたびに。
時間をかけるたびに。
彼自身の勝ち筋が、彼自身の残り時間を奪っていく。
ならば此方は、そこまで凌げばいい。
最後の一枚が消える、その瞬間まで。
彼の勝利が形になる、その直前だけを潰し続ければいい。
此方の勝ち筋は、派手ではない。
焼き尽くすわけでもない。
殴り倒すわけでもない。
一瞬で盤面を制圧するわけでもない。
ただ、終わらせない。
勝利を拒み。敗北を拒み。
決着を先へ、先へ、先へと押し流す。
その果てに、彼の山札が尽きる。
それが此方の勝利だ。
まだ先は長い。分水嶺はこの先にいくつもあるだろう。
だからこそ、油断などできるはずがなかった。
(――――
山札の残りをちらりと見る。
薄い。
最初の頃から、通常のデッキの倍以上の厚みを誇っていた頃に比べれば、ずいぶんと頼りない陣容だった。
けれど、まだ残っている。
(このファイト、もっと楽しんでたいなぁ)
勝ち筋は見えている。
負け筋も見えている。
相手が何を狙っているかも、もうほとんど読めている。
だからこそ、ここからだ。
――――――決着は、際の際。デッキが尽きるかその直前になるだろう。
彼女が相手なら、今すぐ首を獲りに行ったところで、どうせ凌ぎきってくれるに違いない。
(捌き合いじゃ、相手に分があるのはよくわかった)
なら、焦る必要はない。
この手合いには、コンボの鋭さに任せた、真っ向からの一刀両断など通じない。
ああ、本当に。
最高だ。最高の相手だ。
「――――感服しますよ」
「!」
…………不意に、そんな言葉が口をついて出た。
自分でも、少しだけ意外だった。
このファイトが始まってから、俺達はほとんど必要なことしか口にしていない。
何をプレイする。
何を対象にする。
何を解決する。
何に対応する。
それだけで十分だった。
言葉で揺さぶる余地などない。
挑発で崩れる相手でもない。
感情で読みを鈍らせるほど、彼女は安くない。
だからこそ、これは盤外戦術ではなかった。
ただの、本音だった。
偽りのない、賛美の声が漏れてしまった。
だけど。敵だからって、これは仕方がない。
称賛せずにはいられない。
(…………対戦中に、ゲーム内容以外で初めて話しかけられました……!)
「本当に見事です。…………僕のプレイングでは、あなたに勝てそうにない」
最強の共鳴使い。それが伊達でもなんでもない、単なる事実ということを、痛いほど理解した。
彼女のプレイングに、ミスなど期待するほうが間違っている。
「…………お褒めの言葉は嬉しく思います」
その吐露に、称えられた側は、言葉と裏腹に絶世の美貌の顔をしかめる。
静かに目を細めた。
その声に、揺らぎはない。
けれど、警戒は濃くなっていた。
「ですが、それを今言う理由はなんです?
「まさか」
笑う。
心底から楽しそうに。
一層深まる怪訝の色。
いい。
その反応でいい。
疑ってくれ。
読んでくれ。
警戒してくれ。
最後まで、正しくあってくれ。最強の共鳴使い。
でなければ、この
「プレイングで及ばずとも――――ゲームには勝ちますから」
「…………奇妙なことを仰いますね。
プレイングで及ばずして、どうやって此方に勝つと?」
「焦らずとも、今からお見せしますよ――――」
…………引き続き、存分に楽しもう。そう心に決める。
勝つ算段はついた。プランは定まった。…………勝ち筋は、もう見えている。
だがそれには、自分が最善を尽くすだけでは届かない。
「最後まで、付き合ってください」
あとは彼女が、最後まで、
それが、勝利の
「その聖域では、傷を負う悲鳴も、崩れ落ちる余韻も響かない。
あらゆる音が、沈黙を選んだ」
――――〈白銀の静域〉
気づけばお気に入り400人突破+日間ランキング17位にランクインしていました!
ここまでお読みいただきありがとうございます! すごくすごく嬉しいです。
ファンサービスと言うか、少々遊び心ということで。
「セレヴィアにどうやって勝つか。どんなデッキやプレイングなら勝てるのか」についてのヒントを。
もしよければ、ヒントを元に先の展開を考えてみると楽しいかもです。
勝ち方は二種類。
一つ目のヒントはデッキタイプ。「彼女が、〈デッキ修復〉を多用するパーミッション使いである」ということ。
二つ目のヒントはプレイング。「彼女のプレイングをカードゲームではなく、RPG、あるいはポケモンバトルの視点で解釈」してみると解けるかも知れません。
面白かった、続きが気になる、と思っていただけましたら、
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