作者はゲーム未履修です。
キャラの口調、解釈不一致等が発生した場合は感想で具体的に教えて下さい
直します。
まばたきをする。
目を開ける。
気がつくと、俺は真っ白な空間に立っていた。
周りを見渡すと、俺の他にも二人の男がいる。
「は?」
「?」
「???」
間抜けな声、首を傾げる仕草。そして吊り革に掴まるポーズのまま固まっていた俺――しがない大学生――は、間違いなく一番多くの疑問符を頭に浮かべていた。
皆、立ったまま困惑した顔を見合わせ、何もない周囲を確認してはさらに首を捻っている。それもそうだろう。いつもの日常を過ごしていて、何の前触れもなく、ただまばたきをしただけなのだから。
誘拐された? 違う。手品? 違う。
それらを否定するように、身をもって経験した実感から言うならば、超常的現象――まさに神隠しに遭ったとしか思えない。
全員の頭を不安、困惑、恐怖といった様々な感情が駆け巡り、誰も声を出せずにいた。
パンッ!!
不意に、三人の後ろで何かが破裂するような音が鳴った。
驚いて一斉に振り向くと、そこにはさっきまで存在しなかった【異形のなにか】がいた。
顔はヤギ、身体は屈強で身長は二・五メートルほど。手からはおどろおどろしい粘性の液体が滴り、足は無く宙に浮いている。
「@/#axotf/#☆○¥%3」
この世の者とは思えないおぞましい姿と、脳を直接引っ掻くような未知の言語。
全員が根源的な恐怖を味わい、背筋が凍りついた。もしかして、これからクトゥルフ神話のような名状しがたい狂気の世界に連れて行かれるのか。俺たちは絶望的な予感に震え上がった。
「+×°%☆2:×+☆°」
「#//@@?! ☆×#3〒+☆〒%☆♪」
異形は、首らしきものを傾げた。
「……そうであった、この言語だったな」
突如、ノイズ混じりの流暢な日本語が聞こえてきた。
「おっと、この姿では話もできやしないか」
異形は身体に纏った粘性の形をグチャグチャと変えていき、やがて、渋くて厳格そうな六十代くらいのお爺さんの姿に変わった。
「こちらの方が話しやすく、話も聞いてくれるだろう? 自己紹介をしておこう、私は【外なる神】。何故君たちがこの空間にいるのか、目的は何か知りたいであろう?」
今流行りの異世界転生だろうか? でも俺たちは死んでいないし、何か恐ろしい要求でもされるのだろうか。固唾を呑んで次の言葉を待つ。
「君たちをここに連れて来たのは無作為であり、私のお願いを聞いてもらうためだ。君たち、『ブルーアーカイブ』というゲームを知っているかね?」
流れが変わったな、と俺は内心でツッコミを入れた。
見た目から察するに「異世界に行って世界を混沌に陥れろ」みたいなヘビーなお願いかと思ったのに。
「いや」
「知らないっすね」
「X(旧Twitter)のタイムラインで流れてくるのを見たことあるくらいで……」
「ふむ、そうか」
神と名乗る老人は顎を撫でた。
「端的に言えば、ブルアカとは透き通った世界観の中で、『先生』という主人公が生徒の悩みを解決していく青春ゲームだ。ワシの願いだが……ワシは今封印されていてな、とにかく娯楽が欲しいのだ」
神様は悪びれもせず続けた。
「だから使える範囲の力を行使して、飲み込みとノリが良さそうな日本人を拉致した。君たちには、物語に意味は無くとも意味深な事を言って先生を困らせて、あわよくば『曇らせて』欲しいのだよ」
欲望に満ち溢れた身勝手極まりない願いに、全員が困惑する。しかし、このまま強制的に変な場所へ転移させられる恐れがあったので、全員瞬時に頭を切り替え、強気な姿勢で聞きたいことをぶつけていく。
「は?」
「なるほど、つまり嫌がらせですね」
「その願いを叶えたとして、俺らになんかメリットあんの? というか早く帰してくんない?」
「願いが叶ったのなら、お前達の願いも叶えてやろう。元の世界に戻るのは前提として、頭が良くなるとか、大金持ちになるとか、ブルアカ世界に留まりたいでもいいぞ」
「元の世界に戻れる? ならいいか」
「でもよ、曇らせだろ? 俺らの今の身体で行っても、銃弾飛び交う世界じゃ死ぬか欠損するのが関の山じゃね?」
「えっ!? 銃弾飛び交うの!? やばっ!」
横にいたスーツの男が上げた素っ頓狂な悲鳴に、俺も内心で激しく同意した。言われてみれば、Xのタイムラインで見かけたイラストでも、可愛い女の子たちが平然とアサルトライフルなどの銃を構えていた気がする。そんな物騒な世界に生身の一般人が放り込まれたら、先生を曇らせる前にこっちの命が散ってしまう。
「その通りだ。面白そうではあるけど……神さんよ。俺らのモチベーションってのもあってだな。ゲームみたいに、プレイヤー視点の反応も観られるようにしてくれないと」
俺がそう言うと、他の二人も「確かに」と頷いた。実際、モチベーションは大事だ。曇らせや愉悦を自ら楽しむ狂人ならともかく、半ば強制的にやらされるのだ。先生や生徒の心情、そしてプレイヤーサイドの反応を把握して物語を進行させないと、ただの滑稽なピエロになってしまう。
「その点に抜かりはない。プレイヤーが観測している視線が君らに向くと、『見られている』と感じ取れるようにしておいた。だが、流石に先生や生徒の心情、プレイヤーの感想を直接覗き見るのはズルなので却下だ」
神はニヤリと笑う。
「代わりに、君たちのスマホを特別仕様にしておいた」
あらかじめ用意されていたかのような回答に、俺たちは畳み掛ける。
「始めから言えよ」
「どうせ身体(アバター)も用意してあるんだろ?」
「全部言え。身体、スペック、拠点、その他諸々!」
俺たちはブルアカについて断片的な知識しか持っていないため、とにかく情報を引き出そうとした。
「全部言うから待っておれ。ブルアカの最新の知識までスマホに入っておるし、身体の使い方も自然に分かるようにしておいた」
神様は「分からない単語が出て来るかもしれんが、いずれ分かるからスルーしてくれ」と前置きし、空中にホログラムのような画面を浮かび上がらせた。そこには三人のキャラクターの姿が映し出されている。
「君たちの魂は、ランダムでこの三つのアバターのどれかに入る。一人目はこれだ。常時半恐怖化して『反転』している少女。強さは、ヒナとホシノの二人がかりでようやく互角というデタラメなレベルだ。だが、強くしすぎた代償で身体にガタが来ており常に瀕死状態。銃弾を三発食らうだけで血を流すから長期戦は無理だ。薬を飲んで安静にしていれば咳程度で収まるがな」
画面が切り替わる。
「二人目。左手が機械の義手になっている人物。鉄板なら軽くパンチしただけで粉砕できるし、左手を犠牲にすれば、あのツルギにも勝てる。ただし、極端な接近戦特化で銃器はハンドガンのみ。腕前も護身用レベルだ」
さらに画面が切り替わる。
「三人目はこれ。基本能力は弱く、ヘルメット団というモブにすら勝てん。だが専用のパワードスーツを着ればネームドキャラを瞬殺でき、最強格の相手でも一分は持ちこたえる。基本は前線に出ず、後方支援を行う役目だな。PC技術に特化しており、ミレニアムという学園を一人で機能不全にできるぞ。まあ、リオ、ヒマリ、アロナが協力して防衛してくると七割の確率で負けるが」
「設定も考えてあるぞ」
神様はさらに得意げに語り続ける。
「山奥の林を抜けた先に【次元の裂け目】があり、中に入ると誰もいない灰色の世界のキヴォトスが広がっている。そこに現れる『厄災』と呼ばれる存在を倒していくのが君たちの使命だ。数々の犠牲を払って厄災を排除した結果、生き残ったのは君たち三人だけ。表の世界に厄災が進行しないよう、寝る間も惜しんで活動中……という、悲壮感漂う完璧なバックボーンだ」
「拠点もその裂け目の中にあるプレハブ校舎にしておいた。設備もバッチリだ。口調もキャラに合わせて補正が入るようにしておいたぞ」
この神、どんだけ暇だったんだろう。人物も設定も設備も全て自作して実行に移すとは。
「その『厄災』ってのは本当に存在するのか? それともあんたの手製か? あと強さと、何をすればゲームクリアになるのか教えてくれ」
俺は物怖じせずに説明を求めた。
「いい所に気づく。ワシの手製だ。約一万の機械兵と犬型個体を作っておいた。強さは人と戦う感覚と似ていて、強いというより『厄介』だな。もちろん強力なボス個体もいるが」
神様は楽しそうに指を立てる。
「クリア条件は、各自治区の学園を制圧して、最後に『サンクトゥムタワー』に行きある行動をすることだ。そうすれば【次元の裂け目】が崩壊していき、ハッピーエンドとなる」
一通りの説明が終わり、俺たちはさらに疑問をぶつけていく。
「これって所謂、俺らの自作自演だよな? 意味深な発言とかするなら、背後にそれっぽい黒幕が必要なんじゃないか?」
「俺らってブルアカの世界を観光とか出来るの? いわば裂け目の守護者みたいな役割だろ?」
「神様は観察してるだけ?」
これからの運命が決まるかもしれないため、念入りに質問する。神はその質問も想定内だったかのように、ニコニコしながら答えた。
「黒幕はワシじゃよ。ただしポンポン表には出ず、舞台を観ているかのように振る舞い、要所要所でプレイヤーサイドだけが観られる形にしようと思っている。先生や生徒には『それっぽい存在がいる』ということだけを君たちが仄めかして、最後の方でワシが出てくる感じだな。一応、ワシがいなくてアドリブに困るかもしれないから、【全なる書】という『本』を拠点に置いておく。それに書き込めば、次の行動指針が記される便利アイテムだ」
「観光は場合によるな。そもそも拠点を、飛行船で二時間かかる辺境にしておいたし、まともに戦える奴が実質一人しかいない時点で外出は厳しいだろう。担当するエリアをクリアした時には行けるかもしれんが」
「ワシは基本観察だ。たまに食料を届けに行ったり、弾薬の補充や武器のメンテをして帰るくらいだな。あとは……先生を怒らせる役回りとかか?」
◇
質疑応答タイムが終わり、数時間後。
神様と俺たち三人は、転生する前に用意された椅子に座り、お茶をしばきながらすっかり仲良く団欒していた。
「さて、そろそろ準備も終わったことだし行くか」
神は団欒している間も転移の準備を怠っておらず、早く物語が観たくてウズウズしているようだ。
「もうですか?」
名残惜しそうな声に、俺も続く。
「もうちょっと雑談してからの方が、やる気が出るんですけどね。まあ、腹は括りましたが」
「安心せい。元の身体はこちらで凍らせて安全に保存しておく。魂だけをこの魔法陣に乗せて、憑代となるアバターの身体に入れるだけだ」
「えー」
「えー、じゃない。つべこべ言わずに強制的に送り出すからな」
神が手を翳すと、俺たち三人の意識が薄れ、魂だけが身体から浮かび上がる感覚に襲われた。
「ワシの願い、どうか叶えておくれ」
神様は満足そうに微笑み、そして思い出したようにポンと手を叩いた。
「あっ、忘れておった。アバターの身体を作る時に、服を着せるのを忘れていたわ! 最初起きた時は全裸だから、校舎の入口に服を転送しておく。だが、そこに辿り着くまでは全裸のまま裂け目を移動することになる。男の魂には酷かもしれんが……すまん!」
魔法陣が激しく光り輝き、最後に俺たち三人の絶叫が白い空間にこだました。
「「「ふざけんなクソジジイ!!」」」
「ハッハッハッ!」
あとがき(設定メモ)
【厄災について】
カイザーPMCのような見た目ではなく、無骨な機械やマネキンのような人型個体、地を這う個体、犬型個体などが存在する。
種類は「通常」「特殊」「ボス」に分けられる。
・通常:上記に記した通り。
・特殊:奇襲個体、人のように思考できる個体、高性能AIによる未来予測個体など。
・ボス:? (ヤバイ)