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ミレニアム廃墟で先生との邂逅から数刻。
無事に灰色の【裏】世界でカラスと合流したセツナは、インカムでカムロを呼び出し、キヴォトス制圧の最終目的地である『サンクトゥムタワー』へと向かっていた。
道中、崩壊したビル群の陰からマネキンに似た通常個体が幾度となく奇襲を仕掛けてきた。だが、それらはもはや彼女たちの脅威にはなり得ない。セツナが無言で振るう鉄の棒の一撃によって、次々と単なる鉄クズへと粉砕されていく。
一切の色彩を持たない灰色の街を抜け、ついに三人はキヴォトスの中枢――巨大なサンクトゥムタワーの入り口へと到達した。
しかし、そのエントランスを塞ぐように、『それ』は立ち塞がっていた。
「……おいおい、冗談だろ。神のジジイ、どんだけ面倒なギミックボスを置きやがったんだ」
セツナが忌々しそうに鉄の棒を構え直す。
体長は五メートルに迫る巨大なケンタウロス型の特殊個体。全身を分厚く無骨な重装甲で覆い、右手には己の身の丈以上の長さを誇る巨大なランスを構え、左手にはその巨体に合わせた規格外のソードオフショットガンが握りしめられている。
いくらセツナの身体が異常に頑丈とはいえ、あの質量と火力をまともに食らえば無事では済まない。
「……セツナは前でヘイトを取って。私は特殊弾で隙を伺う。カムロ、安全圏から援護して」
リーダーであるカラスの静かで的確な指示。
それに呼応し、セツナは獰猛な笑みを浮かべてコキキッと首を鳴らした。
「了解だ。派手に暴れてやるよ」
『こちらカムロ、配置につきました。射線が通った瞬間、躊躇なく撃ち抜きます』
遥か後方、瓦礫の陰にプローン(伏せ)の姿勢で身を潜めたカムロからの通信を聞き、カラスは無言で側面に回り込む。神から支給された一マガジン分しか存在しない特殊弾を、愛用のマグナムに装填した。
「オラァッ!!」
セツナの咆哮とともに、激しい攻防が幕を開けた。
ケンタウロスが振るうランスは空気を圧縮し、暴風を巻き起こす。セツナはまともな打ち合いを避け、義手と鉄の棒を使って軌道を逸らし、弾き、ギリギリで直撃を防いでいく。
火花が散り、灰色のコンクリートが抉れる。
(デカい分、大振りだ。懐に入り込めばあのランスは無力化できる……!)
ランスが大きく薙ぎ払われた瞬間。セツナはそれを最大の『隙』と判断し、一歩前へ踏み込み、渾身の力を込めて鉄の棒を敵の顔面に叩き込もうと懐へ飛び込んだ。
だが、それは罠だった。
「なっ――」
ガラ空きになったはずの死角から、左手の巨大なソードオフショットガンがセツナを狙いすましていた。
轟音。
放たれた散弾の衝撃で、セツナの突進は完全にキャンセルされ、空中で無防備に仰け反ってしまう。
そこに、振り抜かれたはずのランスが恐るべき速度で戻ってきた。
回避不能の刺突が、セツナの腹部に直撃する。
「ガハッ……!?」
凄まじい衝撃波が弾け、セツナの身体はボールのように吹き飛ばされた。
周囲に放置されていた廃車や土嚢を次々と巻き込み、粉砕しながら地面に数回バウンドし、最後はサンクトゥムタワーの入り口に物凄い音を立てて突っ込んでいった。もうもうと土煙が舞い上がる。
しかし、セツナが身体を張って敵の動きを完全に止めたその瞬間。
側面で息を潜めていたカラスは、絶対に見逃さなかった。
「……そこ」
ドォォォンッ!!
特殊弾を装填したマグナムが火を噴く。一撃必殺の弾丸はケンタウロスの分厚い頭部装甲を紙のように貫通し、その頭を丸ごと吹き飛ばした。
首から上を失った巨体が痙攣し、やがて地響きを立てて崩れ落ちる。戦闘終了だ。
『あー、カラスさん。セツナさんが無事か確認をお願いします。まあ、多分無事でしょうけど……あ、別に急がなくてもいいです』
インカム越しに聞こえてきたカムロの声は、仲間が派手に吹き飛ばされた直後とは思えないほど、微塵も心配していない平坦なものだった。
カラスもカラスで、一切焦ることなく、ゆっくりとした足取りでタワーの大穴が開いたエントランスへと歩いていく。
土煙が晴れた先には、瓦礫の山に座り込み、自ら腹に雑な包帯を巻いているセツナの姿があった。
「怪我した? 無事?」
「無事は無事なんだがな……。あの一撃で装備が壊れて、制服もボロボロだ」
セツナが立ち上がると、着ていたタクティカルベストはひどく破損し、制服も破れて白いお腹が丸出しになっていた。普通なら致命傷だが、異常なタフネスを持つ彼女はピンピンしている。
カラスはインカムでカムロに無事を報告し、セツナに視線を向けた。
「どっちが先行する?」
「軽傷なオレが行く方がいいだろ。お前はゆっくりこい」
そう言うと、セツナは勢いよくタワーの階段を駆け上がっていった。念のため言っておくが、キヴォトス全土の権限を掌握するこのタワーは、なぜか現在エレベーターが機能停止しているため、自力で登るしかないのだ。
◇
タワー内部。制御室を目指して先行していたセツナだが、中層あたりで足を止めざるを得なかった。
通路に立ち塞がったのは、無数の通常個体と、装甲を削ぎ落として壁や天井を跳ね回る『機動力特化』の特殊個体。一撃の威力を重んじるセツナにとって、素早く飛び回る敵は最も相性が悪い。
「チッ、ハエみたいに飛び回りやがって……当たらねぇ!」
苛立ちながら鉄の棒を振り回すが、敵の攪乱に手を焼いていた。
そこへ、自身の身体に負担がかからないよう、後方からゆっくりと慎重に階段を登ってきたカラスが合流する。
「……邪魔」
カラスは短く呟くと、通常弾を装填したマグナムを無造作に向ける。
ドンッ!
的確な未来予測に基づく一撃が、空中で軌道を変えようとした機動特化個体の急所を撃ち抜き、一撃で機能停止させる。
さらに迫り来る通常個体に対しては、マグナムを仕舞い、一切の無駄を省いた静かで洗練された格闘スキルを披露した。最小限の動きで関節を外し、急所を打つ。あっという間に残りの敵は地面に転がり、動かなくなった。
そのあまりに鮮やかな手際に、セツナは鉄の棒を構えたまま呆けてしまう。
カラスはそんなセツナとすれ違いざま、わざと歩みを緩め、耳元で囁いた。
「ださ。ゆっくりこいとか言っておいて……ざっこ♡」
「……は?」
普段の無口で儚げなキャラクターからは想像もつかない、あからさまに『メスガキ』を意識した挑発的な煽り。
セツナは一瞬固まり、顔をしかめた。
「うっせ、素早く動く敵は苦手なんだよ。……あと、そのメスガキ風に煽るのやめてくれ。変な気持ちになる」
「ふふっ」
軽口を叩き合いながら、二人はタワーの最上階を目指して歩みを進めた。
◇
最上階の制御室。
静まり返った部屋の中央には、メインコンソールが鎮座していた。カラスがコンソールを調べると、中心に長方形のタブレット端末がぴったりと嵌まるような不自然な窪みがあることに気づく。
二人はカムロが到着するまで、壁に寄りかかって雑談しながら休憩することにした。
数分後。
「ハァ……ハァ……! ちょっと、どんだけ階段あるんですかここ! 基本スペック最弱の身にもなってくださいよ……!」
肩で息をしながら、カムロが恨みがましい愚痴をこぼしながら転がり込んできた。
「おせぇよカムロ。カラス、こいつにこれ見せてやれ」
「……ん。カムロ、この窪み、何を入れるか分かる?」
カラスに促され、カムロは乱れた息を整えながらコンソールを覗き込む。
「形状と端子の位置からして、間違いありません。先生が持ってる……『シッテムの箱』が必要です」
「ってことは、先生から直に奪うしかないってことだな。シャーレ襲撃か、面白ぇ。ついでに表の世界を観光出来るな!」
セツナが獰猛に笑うが、カムロは冷静に指摘した。
「でも、どうやって本島(キヴォトス)まで行きます? 裏から表ゲートは前哨基地の島ですよ。歩いて海を渡る気ですか?」
「あ」
移動手段がない。その事実に気づき、セツナが間の抜けた声を出す。
すると、カラスが半年ほど前の神との会話を思い出した。
「……神様が言ってた。『カイザーコーポレーション』が、ゲートがある表の島の土地を巡って交渉を持ちかけてきてるって」
「ああ、なんか言ってたな。神が納得する提案を出せなくて、嫌がらせみたいに近海で軍事演習し始めたとかいう」
「ええ。今も島を取り囲むようにカイザーの艦隊が停泊していますから。……まさか」
カムロが嫌な予感に顔を引きつらせる。セツナはニヤリと笑った。
「その艦隊、強襲して乗っ取ろうぜ。そんでそのまま本島に乗り込んで、シャーレにカチコミだ」
「む、無茶苦茶ですよ! カラスさんからも何か言って……」
カムロが助けを求めるようにリーダーを見るが、カラスは少し考えた後、小さく頷いた。
「……効率的。賛成」
「カラスさんまで!」
リーダーの決断により、方針は決まった。
そうと決まれば、セツナの服もボロボロのままだし、シャーレに突っ込むためのガチの武装(カムロのパワードスーツ含む)を準備する必要がある。
三人はタワーの外に落ちていた、朽ちてはいるがエンジンが生きている車に乗り込み、カムロの運転で拠点であるプレハブ校舎へととんぼ返りすることにした。
車内では、キヴォトス中枢への侵入という大仕事に向けた作戦会議が行われていた。
「周囲に気づかれずに侵入するルートはどうする?」
「一時的に防衛システムを盲目にするのは自分がやります。問題は、見つかってシッテムの箱を奪った後の逃走ルートです」
「奪った艦艇を海に待機させておいて、そこまで地上をどう逃げるかが鍵だな……」
そんな真面目な悪巧みをしている最中、ハンドルを握るカムロが、何でもない世間話でもするかのように口を開いた。
「あ、そういえば。二人と合流する前に、ミレニアムでこっちの世界への行き方やセツナさんの情報を集めようとする動きがあったので、片手間ですけどデータを削除しておきました」
「……は?」
「あ! あと、神様が先生と接触したって上機嫌に報告しに来ましたよ。余程嬉しかったんでしょうね、私たちと接触するのは半年に一度、表で物資の受け渡しをする時だけって自分で決めたルールを破って、急に転移で目の前に現れて自慢してくるくらいですから」
「…………」
カムロからの突然の爆弾発言。
それは、表の世界で先生たちが死に物狂いで防衛し、恐怖し、そして『得体の知れない強大な存在』に戦慄していたという、物語の根幹に関わる超重要情報だった。
後部座席で聞いていたセツナとカラスの顔が、同時に引きつる。
「「先にそれを報告しろ!!」」
「ひぃ〜んっ!?」
二人の盛大な怒声が車内に響き渡り、カムロは情けない鳴き声を上げた。
先生がセツナを救うために悲壮な決意を固めていることなど露知らず、三人を乗せた車は、灰色の街を猛スピードで走り抜けていった。
次回 シャーレ襲撃編
全部出来上がったら投稿するので待っててね。
タグにアンチヘイト付けて先生敵対と申してるのだから徹底的にやるよ!
歌•毒茸伝説さんの感想を受けて前回のタイトル変更しました!
あざす!!