真っ白だった視界が晴れる。足元には枯れ草の感触があり、周囲には木々が生い茂っていた。
「ここは?」
「お? 目が覚めたようだな」
声がした方を向くと、身長百六十センチくらいの赤髪で長髪、猫っぽい目つきをした勝気そうな少女が仁王立ちしていた。
しかも、全裸で。
待ってましたと言わんばかりの堂々とした態度だ。よく見ると、彼女の左手は無骨な機械の義手になっている。
「うわっ!」
俺は咄嗟に視線を横に向け、裸を見ないようにする。
「大丈夫だって。そういう羞恥心とか性的な興奮の要素、この身体にはあんまり無いみたいだからよ。自分の身体見たら分かるんじゃね?」
「……え?」
「オレもお前の身体見ても『キレイだな』くらいしか思わねぇし」
言われた通りに視線を下に向ける。
色白な肌に、産毛すら生えていない華奢な身体。胸は平均より少し大きいくらいで、チラチラと視界の端に白い髪が映る。
……マジか。俺も女になってるし、全裸だ。
不思議なことに、自分の裸を見ても欲情や興奮は全く湧かなかった。ただ事実として『そうなんだな』と受け入れている自分がいる。
「もう一人は?」
「先に行って服着て、周辺見てくるって言ってた。オレはお前が起きるのを見守ってたんだよ」
「ありがとう……。で、道って分かるのか?」
「ここから真っ直ぐ行くと竹林が見えてくる。それが目印だ。裂け目も、見りゃすぐに分かる」
ここで全裸のままグダグダしていても始まらない。
そういえば、神様から貰えるはずの【全なる書】という本が手元にない。何か知っているなら、道すがら聞こうと思っていたのだが。
「神様が言ってた本って知ってる?」
「それなら、もう一人が拠点にあるかもしれないから『中身を確認しておく』って言って先に行ったぞ」
なるほど、それなら後で合流した時に聞けばいいか。
たわいもない会話を数分数交わしながら歩くと、竹林が見えてきた。その奥の少し開けた場所に、例のひし形に歪んだ空間を発見する。空間の表面にはノイズが走っており、鏡のように周囲の景色を反射していた。
「これか?」
「分かりやすいだろ?」
俺が躊躇なく手を突っ込んでみたが、異常はないようだ。
「お前、よく得体の知れない物に手突っ込めるな。感心するわ」
「神様が作った物だし、危険は無いんじゃないかなって思って」
「それでも警戒するに越したことねぇだろ」
「確かに」
俺たちは覚悟を決め、裂け目の中へ足を踏み入れた。
◇
入った瞬間、さっきまで青かった空や緑の竹林が、すべて灰色に染まった。色が一つしかない、不気味な世界だ。
「うぇ」
「こりゃ慣れるのに時間かかるな。気味悪ぃ」
灰色の竹林をしばらく歩き、道路に出た。
「こりゃ凄い……」
「要素満載だな」
廃墟、崩壊した家屋、ひっくり返った車。地獄絵図のような街並みが広がっている。
ところどころに人型の機械の残骸や、壊れた戦車の主砲部分だけが転がっており、終焉を迎えた世界のようにビルにはツタや木が生い茂っている。道路は陥没し、幾つも水たまりができていた。その水面だけが、重苦しい空の色を反射している。
その地獄のような街の入り口付近に、比較的新しめのプレハブ校舎が建っていた。あそこが目的地であり、服が置いてある場所だろう。
「ここが拠点かな?」
扉を開けると、そこだけ色が戻った空間が広がっていた。
「お待ちしていましたよ」
「誰?」
「酷いですよ! 自分のこと忘れたんですか!」
「いや、この姿だと誰が誰だか分かんないんだけど……」
そこには、すでに服を着た黒髪ロングの美少女がいた。どことなく虐めたくなるようなオドオドした雰囲気を纏っている。
「自己紹介は後でいい。なんとなくノリで誰か分かるだろ。今は着替えと、お前が先行して得た情報の共有が先だ」
「だね」
校舎の入り口に用意されていた下着セットを手に取り、俺は鏡の前に立った。
「……ブラってどうやって着けんの?」
「知らね。オレは必要ねぇから適当で良いけど……お前はちゃんと着けた方がいいな。つか黒髪、お前ブラ着けてんのか? 着けてんなら教えてやれよ」
「着けてますよ! しょうがないですね、教えてあげましょう。まずですね……鏡の前に立ち、足を軽く広げて前屈みになり、ブラを当てます。下から胸を持ち上げて、ブラの中に肉を入れます。横からもお肉を綺麗に寄せて入れてあげます。……完成です!」
言われた通りにやってみる。
「おお、谷間がある」
「Dカップくらいですかね。上げて寄せればEに届きそうなくらいです。将来が楽しみですね! しかも下着も全員大人っぽいデザインですし」
「お前、なんで着け方知ってんの?」
「ん? そんなの決まってるじゃないですか。いつ性転換が起きてもパニックにならないように、事前に勉強していたんです!」
「普通にキモいし、ラノベの読みすぎだろ……」
そんな雑談(?)を交えながら、全員が統一された、露出少なめのミリタリー調の制服に着替え終わった。
「次は情報共有か」
「その前に、お二人には武器庫へ行ってもらい、自分の武器を選んでもらいます」
「武器? 必要か? これ学園青春ゲーだろ?」
「目が覚めた時に、知らない知識が頭に入ってきませんでしたか?」
「確かに入ってきたな。この身体のスペックが高いのか知らないけど、パニックにならず冷静に受け入れられたわ」
「つまり、そういうことなんです」
神様が言っていた「いずれ分かる」ってのはこのことか。
なんにせよ、厄災と戦うためには武器が要る。自分の身体の使い方や、俺の特性である『反転』という状態についても、不思議と理解できていた。
武器庫は校舎の外にあり、セキュリティも何もない、南京錠だけで施錠されたただの小屋だった。
「オレはどれでもいいけど、鉄の棒一本とハンドガン持っていくわ」
「俺は何でも使いこなせるっぽいから、マグナム二丁を主武器にして、あとは臨機応変に兵装を変えるようにする」
「自分は先に選んでいたスナイパーライフルにしてます」
見事に全員、ピーキーすぎる武器選びだ。
「赤髪、鉄パイプなんかでどう戦うんだよ?」
「そんなん、近づいて殴る蹴るだけだろ」
何を言ってるんだこいつ、みたいな顔しないでほしい。銃器が主流の世界で、なんでヤンキー漫画みたいな戦い方をするんだよ。脳筋すぎるだろ。
「……全員、癖の強い武器選びましたね」
俺たちは校舎に戻り、二階に上がって情報共有と自己紹介、そして今後の探検の方針を決めることにした。
各々、デスクの上に座ったり、椅子に腰掛けたり、立ちっぱなしだったりと、自由な姿勢をとる。
「始めっか」
「まずは自己紹介からですかね?」
「前世の名前とかですか?」
「んなわけないだろ。前世の名前言ったって仕方ねぇし。今の名前と、あの白い空間での自分の特徴(前世の姿)を教えろ」
「……そもそも、今世の名前を神様から教えられてませんよね。つまり」
「オレたちで決めるってことか?」
「じゃあ、しばらく黙って各々自分の名前を考える。自己紹介の時、名前がダサかったら俺らが代わりに考えてやろう」
「体感五分後に発表な」
「OKです」
セリフ改行めんどくさいので次回から無しで。
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