まだ本編始まってないですが、ここで閑話キャラの深掘り回
感想や評価お待ちしてます。
【1】二つの顔を持つ装い
ここで過ごしてから数日が経ち探索の途中、クローゼットの奥から「日常用」と書かれたダンボールが発見された。
中に入っていたのは、SRTとアリウスを掛け合わせたようなゴツい戦闘用装備とは打って変わって、柔らかい生地で作られたセーラー服ベースの制服だった。
メモ書きには制服改造も頼めばOKだそうだ。
「こっちは戦闘しない時用ってことか。ありがてぇ、あのタクティカルベスト、結構肩が凝るんだよな」
セツナは早速着替え、用意されていたオーバーサイズのパーカーを羽織った。フロントのジッパーを開け放ち、袖をまくり上げたラフな着こなしは、彼女の活発な雰囲気に実によく似合っている。頭上の燃え盛るヘイローも相まって、活動的な生徒そのものだ。
「ですね。生地も良くて肌触り最高です。休む時はこっちに限ります」
カムロはゆったりとしたニットセーターを選択していた。いわゆる「萌え袖」状態になっており、黒髪ロングの清楚な見た目と合わさって、どこからどう見ても大人しい優等生にしか見えない。頭上のシンプルなヘイローが、さらにその印象を強めていた。
「うん。動きやすい」
カラスはセーラー服の上から、冷えやすい身体を温めるように厚手のカーディガンを羽織っている。元々着痩せする体質らしく、こうして服を着込むと、それなりにあるはずの胸の膨らみもすっぽりと隠れてしまっていた。
全体的に少し服が余っており、白黒のヘイローがチカチカと明滅する下で、長めの袖口を小さく引っ張る姿には小動物のような愛らしさがある。
◇
【2】静と動の訓練所
校舎横に併設された射撃訓練所。
三人は戦闘用制服に着替え、己の身体能力と武器の感触を確かめていた。
「オレから行くぞ」
セツナはハンドガンを抜かず、背中に背負っている鉄の棒も使わず、その辺に転がっていた鉄パイプを拾い上げた。
機械仕掛けの無骨な左腕でそれを握り締め、大きく踏み込む。空気を裂くような風切り音と共に鉄パイプが振り抜かれると、数十メートル先の的が衝撃波だけで粉々に吹き飛んだ。
「おっしゃ。パワーのノリが最高だな」
「……えっぐ」
「ゴリラですね」
カラスとカムロは、その人間離れした破壊力にドン引きして顔を見合わせた。
「次は自分ですね」
カムロは自分の背丈ほどもあるスナイパーライフルを構えた。流れるような動作でボルトを引き、スコープを覗き込む。
パンッ、と乾いた発砲音が響いた瞬間、遥か遠くに設置された小さな的の中心が正確に撃ち抜かれていた。
「ふむ」
彼女は何かを呟くと、端の方へ歩いていき、考え込むように腕を組んだ。
「さて。私の番」
カラスは二丁のマグナムを取り出し、的へ向けて引き金を引いた。
ドンッ! と重い音が響き渡る。だが直後、強烈な反動がカラスの肩を打ち据え、彼女は小さく咳き込んだ。
「おい、大丈夫かよ」
「……平気。立ち回りを変える」
カラスの身体は、無理をすればすぐにガタが来る。彼女はすぐさま姿勢を変えた。
壁に背中を預けて反動を逃がす姿勢。地面に伏せるプローン射撃。全身のバネを使って衝撃を吸収する構え。
数十発の試行錯誤の末、カラスは「一切の無駄な動きを捨て、最小限の反動で急所だけを撃ち抜く」という静かな射撃フォームへと辿り着いた。これなら、数分間は咳が出る程度で抑えられる。
◇
【3】天才の指先と深夜の決戦
夜のPCルーム。モニターの青白い光が、カムロの顔を照らしていた。
「なにしてんだ、お前」
セツナが背後から覗き込むと、画面には緑色の文字列が滝のように流れていた。カムロの指は残像が見えるほどの速度でキーボードを叩き続けている。
「今、ちょっと表世界(キヴォトス)のネットワークに裏口を作って潜り込んでみたんですけど。ミレニアムっていうサイバー特化の学園の防壁、5分で抜けちゃいました。これで向こうの情報は抜き放題ですね」
「すごい。本当にすごい」
「ふふん、もっと褒めていいですよ? あ、ついでに学園の生徒の身体測定データも抜いておきま――」
ガンッ。
カラスがマグナムの銃底でカムロの後頭部を躊躇なく殴り落とした。
その数十分後。
場所を娯楽室に移し、大画面モニターの前でカラスとカムロがコントローラーを握りしめていた。
プレイしているのは、格闘ゲーム。
「そこだ!」
「甘いですよ!」
カラスは持ち前の反射神経と先読みで的確に攻め立て、カムロは異常な分析力と指の回転速度でそれをギリギリで捌き切る。画面上では、キャラクターが目で追えない速度でコンボを応酬していた。
「お前ら、動き速すぎて見えねぇよ!!」
開始十秒でカラスに瞬殺されたセツナが、ソファで寝転びながら叫ぶ。
「いけー! カラスー! そいつをボコボコにしてやれ!」
「右からのフェイント……読んでる」
「くっ、なら下段から……しまっ、パリィされた!?」
「もらった。……奥義」
画面に派手なエフェクトが走り、カムロのキャラクターが崩れ落ちた。
「あーっ! 負けました! 悔しい!」
「私の、勝ち」
小さく息を吐きながらコントローラーを置くカラスの背中を、セツナがバンバンと叩いて称賛した。
◇
【4】大自然の洗礼と湯けむり
「……マジで最悪だ」
深夜。茂みに隠れた外の和式トイレから出てきたセツナが、心底嫌そうな顔で愚痴をこぼした。
「虫はいるし、寒いし、音は響くし……。オレ、絶対にここでは大はしねぇ」
「そう言わずに。野外での開放感もオツなものですよ?」
「お前、さっきオレが入ってる時に隙間から覗こうとしてただろ。義手で顔面粉砕するぞ」
カムロが「ひぃっ」と首をすくめるのを横目に、カラスは静かにトイレへと入っていった。
過酷な環境だが、尊厳を保つためにはここで用を足すしかない。カラスは極力音を立てず、かつ最短時間で済ませる技術をこの数日で身につけつつあった。
用を済ませてプレハブ校舎に戻ると、最後は三人の入浴タイムだ。
広い浴槽に温かいお湯。この過酷な反転世界における唯一のオアシスと言っていい。
「はぁ〜、生き返るわ」
「お風呂の設備だけは神様に感謝ですね」
セツナが豪快に手足を伸ばし、カラスは静かに肩までお湯に浸かる。
「……で。なんでカムロは、さっきから距離を詰めてくるの?」
カラスが冷ややかな視線を向けると、カムロはにじり寄るのをやめず、ニヤニヤと笑った。
「いやだなあ。折角の女の子同士の裸の付き合いじゃないですか。背中、流してあげますよ?」
「断る」
「セツナさんはどうですか? 義手の方、洗いにくくないですか?」
「あ? 別に平気だぞ。……って、どこ触ってんだ!」
「うーん、セツナさんは見事なまでに何もないですね。でもこの引き締まった腹筋は魅力的です」
ドゴォン!
盛大な水柱が上がり、カムロが湯船の底に沈められた。
「ぷはっ! げほっ、ごほっ! 殺す気ですか!」
「テメェが悪いんだろうが!」
「ひどい……。ならカラスさん、カラスさんのお胸は……おおっ、やはり将来性がありますね! 手に吸い付くような柔らかさが――」
パァンッ!!
乾いた平手打ちの音が浴室に響き渡った。
カラスは冷めた瞳のまま、暴走するカムロを湯船の底へと物理的に沈め直した。
ブクブクと泡を立てて沈んでいくカムロを見下ろしながら、カラスとセツナは深くため息をつく。
明日になれば、命懸けの戦闘が待っているかもしれないのに。それでも、今はただ、この騒がしくも奇妙な日常を楽しむことにした。
制服の色はあえて決めてません