今日はここまでにします。
あんまり見てくれる人少ないけどタイトルがよくないのかしら?
地下三階の最奥付近。
ネルが、ヒマリから預かった端末を見ながら立ち止まる。なんでも【廃墟】の中をリアルタイムでマッピングしているらしく、何かあっても迷子にならず目的地に辿り着けるように、とのことだ。
「先生。この先はちょっとした広場になっている。目的地は広場を抜けた奥だ」
端末から顔を上げ、先の方を警戒するネル。視線を向けると、彼女らしくない険しい顔をしており、額には冷や汗が浮かんでいた。
まさか、さっきの戦いで負傷を? もしそうなら、生徒の異変に気付けなかった私の失態だ。
“ネル、大丈夫?”
「ん? ああ……。先生。この先の広場にいる奴、相当強いぜ。このアタシが戦ってもいないのに、脳裏に『負け』がよぎったのは初めてだ」
驚いた。あの好戦的なネルが、戦う前に弱音を吐くなんて。先日、トキのチートとも言える特殊兵装にすら真っ向から勝てたのに。
“もし戦闘になるとしたら、負ける?”
こちらを振り返り、彼女は不敵な笑みを浮かべた。
「勝つさ」
◇
広場手前の入り口まで近づき、遮蔽越しから中の様子を覗き込む。
そこには、中央にまとめられた見るも無残なマネキンの亡骸の山に腰掛けている、一人の少女がいた。全身真っ黒な制服を着崩し、顔は見えないが深くフードを被っている。どうやら誰かとスマホで連絡を取っているようだ。
『4体は壊したが、あと一体が見つからない。この階層は全部見たが居なかった』
『こいつらの存在を知られちゃまずいだろ。此処のやつら、こいつらの事知らねぇしパニックになる』
『助けなんていらねぇ。全部自分達で解決すれば済む話だ。偽りの平和な世界で楽しく青春を謳歌すればいいさ』
「おい」
“ちょっ!”
隣にいたはずのネルが広場に出て行き、少女の前へと歩を進めた。
少女はスマホの通話を切り、ネルの方へ顔を向けてゆっくりと立ち上がる。
「……やっとか」
こちらの存在に気付いていたかのような。いや、どちらかと言うと違う。その一言と態度に、何とも言い表せない異質な感情を覚える。
ネルは武装せず、手ぶらのまま少女の目の前まで歩み寄った。私は飛び出して行く前に、【シッテムの箱】のアロナにお願いをする。
“(アロナ、あの生徒の事を調べてくれる?)”
『スーパーアロナちゃんにお任せください!』
ネルは少女の足元に転がっているマネキンを指差しながら問いかける。
「その足元に転がってる鉄クズについて知ってるよな? 良ければ教えてくれねぇか?」
「教えるわけないだろ」
「あ? こっちが穏便に話を進めてる間に、話しちゃくれねぇか?」
「はっ、まるでそこらのヤンキーだな」
「テメェ……」
一触即発。主にネルがだが。相手は挑発を取り合わないため、このままではネルが飛び出してしまう。
“ちょっと待って!”
慌てて物陰から飛び出し、穏便に話を進めるために私が間に割って入る。
“ネル、ここは私に任せて欲しい”
「チッ……先生が言うなら」
渋々といった感じだが、引き下がってくれた。
“ありがとう。それで、君の名前と所属を聞いてもいいかな?”
「その態度、気に入らなぇな。何でもかんでも質問すれば答えが返ってくると思ってる、傲慢な考えが透けて見える」
少女の声には、こちらへの疑心と嫌悪の感情が表に出ていた。フードの奥から常にこちらを睨みつけているように思える。
ますます調べないといけないことが増えた。子供にこんな顔をさせる大人がいたという事実に、表には出さないが私は内心で憤慨していた。
“私は、そんな意図があって君の名前を聞いたんじゃないよ!”
「どうだかな。教えるかは分からないが、先にお前の名前と所属を言え。それが礼儀だろ?」
“! そうだね、すまない。会う人皆が私の事を知っているから、後からの自己紹介になることが多かったけど。改めて、連邦捜査部【シャーレ】所属、皆からは先生と呼ばれているよ”
「……名前ぐらいはいいか。どうせ調べても何も出てこないしな」
“それってどういう――”
「竜宮院セツナ」
私の言葉を遮るように名前を告げられた直後、【シッテムの箱】を通じてアロナから検索結果が報告された。
『先生。この生徒さんですが、キヴォトスのデータベースで検索しても、名前どころかどこの学園にも存在しません』
頭を殴られたような衝撃が走る。
つまりセツナは、この世界に存在しない。もしくは、誰かが秘匿してデータを消した可能性がある。これがもし悪い大人の手によるものだとしたら、許せるはずがない。
アロナからの報告はこれだけではなかった。私はとりあえず、怪しまれないようにセツナとの会話を試みる。
『ただ、連邦生徒会の機密ファイルの中に、行方不明の連邦生徒会長にしかアクセスできないロックされたデータを発見しました。代行のリンさんでも開けられないため、この中に彼女の秘密が隠されていると推察します』
「おい、お前。さっきから下の名前で気安く『セツナ』って呼ぶな。気持ち悪い。親しくもない初対面の、ましてや大人に」
“っ! ごめんよ。生徒との距離を縮めるためにも、親しみを込めて下の名前で呼んでいるから”
「いつ誰がお前の生徒になった」
“あまねく生徒は私の生徒だと、自信をもって言える。そして、君が抱えている問題も一緒に解決したいと本気で思ってるよ”
次の瞬間。強烈なプレッシャーが身体を包み込み、周囲が底冷えするかのような悪寒が背筋に走った。一瞬だが、隣のネルがビクッと身構える程だ。
「……黙れ。そもそも助けなんて求めてない。たかがお前の協力で、一学園が助力したところで死人が増えるだけだ。足手纏いだ」
“それでも、私だけでもいいから事情を話してくれないかい”
「お前に話して、何が解決する」
「セツナっつったか。そんな突き放した言い方すんなよ。譲歩って言葉しらねぇのか?」
私の後ろから、痺れを切らしたネルが押し問答を一刀両断する。
「さっきから言ってんだろ、こっちはマネキンの情報が知りてえって。テメェの事情は今置いておくとして、今はミレニアムが危険になるかもしれない要因を知りたいだけだ。そっちのことは話さなくていいから、情報だけ教えろ」
だが、セツナの懐からスマホが鳴り、ネルの言葉を無視して電話に出た。
『あー、なんかめんどくさいのに捕まってる。先生だとかと、チビのヤンキーメイドに』
『! それはまずいな。直ぐ帰る。残り一体どうする? こっちとしては持ち帰りたいが……そうか。分かった』
通話が終わり、スマホを懐に仕舞う。
「お前らが言ってるマネキンの情報が知りたいなら、この【廃墟】でもう一体彷徨ってる。捕獲するか壊して連れ帰って、研究でもするんだな」
セツナは不機嫌そうに、どこからともなく取り出した大きな収納袋にマネキンの残骸を次々と放り込んでいく。
そしてもう一つの入り口、最奥へと足を運ぼうと後ろを振り返り、歩き出した。
“待って! 君のことを聞くまでは!”
何故と聞かれたら分からない。ただ、私はこの時走り出していた。この瞬間を逃せば、二度と彼女に会えなくなる気がして。放って置けなくて。
セツナは歩みを止めないし、振り返らない。明確な拒絶だ。だが、あんな目をした生徒を放っておけるはずがなかった。
我慢の限界だったのか。セツナが振り返った。
その瞬間、私の目に映ったのは、青筋を浮かべて激怒し、頭上のヘイローが燃え盛るように激しく光り輝く姿だった。
「ついてくんな! 平和ボケしてるゴミめ!!」
その言葉と共にセツナの姿がブレて掻き消え、凄まじい風圧を伴った拳が私の目の前に現れた。
私は『死』を覚悟した。
「やっぱりな! 待機してて正解だな、こっちの方が早いぜ!」
直後、獰猛な笑みを浮かべたネルが横から蹴りでセツナの拳を弾き、軌道を逸らす。そのまま引き抜いた二丁のSMGをゼロ距離で全弾ぶっ放し、追撃として腹に強烈な蹴りを入れて、セツナを後方の壁まで吹き飛ばした。
「先生、大丈夫か?」
“大丈夫だよ。……セツナを怒らせてしまった。先生として失格だ”
「んな事ねぇと思うけどな。あいつにどんな事情があるか分かんねぇけど、とりあえず適度にボコってから話を聞く方針でいいよな」
“いいんだけど、手加減してあげてね”
「出来る相手だといいんだがな」
もうもうと舞う土煙。吹き飛ばされた壁の瓦礫の中から、セツナがゆっくりと歩み出て来る。
服の埃を払う動作すらしない。あれだけのゼロ距離射撃と蹴りを受けたというのに、衣服の乱れ一つなく、完全に無傷だった。
「チビ。お前の得意なやり方でやってやるよ」
「あ?! チビじゃねぇ! ぶっ潰す!」
ネルは銃のリロードを終え、私は戦術指揮に移行する。
セツナは右手に、ただの鉄の棒を一本握りしめ、構えた。
「テメェ、アタシを舐めてんのか?!」
「銃なんて野蛮だろ。……殴り潰す」
合図はない。
両者は弾かれたように一瞬で間合いを詰め、殴る、蹴る、撃つという目で追えないほどの激しい攻防を繰り広げる。鉄の棒とサブマシンガンが激突し、火花が散る。
ネルは思い切ってバックステップを踏み、緩急をつけた動きで相手の懐に入り直そうとした。
だが、それは悪手だった。
先の短い攻防で、セツナはネルを脅威対象から外し、攻撃の優先順位を『指揮官である私』へと切り替えていたのだ。
ネルが距離を置いた一瞬の隙を突き、セツナはネルとすれ違うように私の方へ向かって一直線に駆け出した。
「バカが! 先に指揮官を潰すのが戦いの定石だ!」
「なっ! テメェ! 待ちやがれ!」
セツナが振り上げた鉄の棒。空気を切り裂く音が鳴る。ヘイローを持たないただの人間である先生など、掠っただけで即死だ。
一瞬遅れてネルも走り出し、SMGを構える。しかし射線上に私がいるため、引き金を引くのを躊躇ってしまう。
セツナは一切の躊躇なく、私へ向けて棒を振り下ろした。
「死ね!!」
「先生!」
“(アロナ!)ネルは構わず撃って!”
『お任せ下さい! 先生は私が守ります!』
ガキーーーン!! ガガガガガガ!!
間一髪、アロナへの指示が間に合い、【シッテムの箱】から展開された薄い青白の膜(シールド)が私を護った。同時に、ネルの銃弾がセツナの背中に降り注ぐ。
セツナは目を見開き、驚愕する。だが、それは一瞬のこと。
彼女はすぐさま手元の鉄の棒を放棄してその場に屈み込み、背後からのネルの銃撃を完全に躱す。そして前傾姿勢のまま、バネが弾けるような猛スピードでネルへと突進し、機械仕掛けの無骨な左腕を振り抜いた。
「――っ!」
咄嗟の判断で防御の構えを取るネル。しかし。
その一撃は、防御ごと、容易く粉砕した。
「ゴハッ……!!!」
くの字に身体が折れ曲がり、ネルの口から夥しい量の血が吐き出された。
そのままネルの身体は凄まじいスピードで吹き飛び、ドガーーン!! と、まるで大砲でも撃ち込まれたかのように、【廃墟】の分厚い壁を何十枚もぶち破って後方へと消えていった。
「ネル!!」
セツナは振り返り、無機質な目で「次」と呟きながら私に近づいてくる。
「……素手なら、攻撃判定にならないだろ」
シールドの特性を一瞬で見抜き、セツナは銃弾を弾くはずのシールドを素手ですり抜け、私の胸ぐらを掴み上げた。
「好奇心は猫を殺すって、知らないのか?」と冷たく問いかける。
“それでも”
私は、答えた。
直後、セツナは右手で私の顔面を殴り飛ばし、意識を刈り取った。
◇
気絶した先生を床に転がし、セツナはスマホを取り出して「今から帰る」と連絡を入れる。
「先生、か……」
見下ろしながら、小さく呟く。
「今はその時じゃない。来たるべき時、来たるべき瞬間に必要になる。今、知られるわけにはいかない。だから、黙っててくれ」
左を向き、ネルが吹き飛んでいった大穴を見る。
そこには、ボロボロになったネルが壁に手を着きながら、こちらを睨みつけていた。
「さ、最後に、きかせろ……。テメェは、何者なんだ……」
「何者でも無いが……そうだな。強いて言うなら、守護者か? お前らの平和な青春を守る『番人』だとでも思っとけ」
「なんだ、それ……」
「理解しなくていい」
そう言い残すと、セツナの姿は廃墟の奥深くへと消えていった。
ネルはかろうじてヒマリに緊急信号を送り、そのまま壁にもたれかかって意識を手放した。
戦闘描写って難しいのね。
さ、意味ありげだけど意味はあるのかしら?
次回はセツナ視点 物語の裏側