神と転生者達が送る自作自演(仮)   作:晴天桜花

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セツナ視点言うたがあれは次回にするね。
先に先生視点を見てもらおうかな。


先生視点 物語は加速する

 

 

 

 意識が浮上する。

 鈍い頭痛と共に目を開けると、そこはミレニアムサイエンススクールの特異現象捜査部の部室、その一角に設けられた仮眠用ベッドの上だった。

「おや、お目覚めですか。流石の先生も、顔面へのクリーンヒットとなると数時間は起きられなかったようですね。……全く、超天才病弱美少女ハッカーである私の心拍数まで、異常な数値に跳ね上がってしまったじゃないですか」

 “……ヒマリ”

 車椅子に乗った特異現象捜査部部長、明星ヒマリが、並べられたモニター群から視線を外してこちらに微笑みかけた。いつもの冗談めかした口調だが、その顔には隠しきれない疲労と、未知への警戒感が張り付いている。

 私が身体を起こそうとすると、隣のベッドから苦しそうな呻き声が聞こえた。見れば、包帯を巻かれたネルが横たわっている。

「……先生、無事だったか」

 “ネル! 身体は……”

「平気だ。肋骨が数本イカれたのと、内臓が少し揺さぶられただけだ。……アタシとしたことが、あの『セツナ』って奴に完全に後れを取っちまった」

 ギリッと、ネルが悔しそうに歯を食いしばる。

 彼女の眼差しには、純粋な敗北感と、自分の無力さへの怒りが渦巻いていた。あの好戦的なネルが戦う前から『負け』を悟り、そして実際に赤子のようにあしらわれたのだ。殺気も、戦術の機微すらも超越した、絶対的な『暴力』の化身のような一撃。そして何より、自分の背後にいた先生を守りきれなかったという事実が、ネルのプライドを深く切り裂いていた。

「先生。まずは現状の共有と、私の見解からお話ししましょう。キヴォトスのあらゆる情報に通じているこの私でさえ、今回の事態にはひどく頭を悩ませているのですから」

 ヒマリは表情を引き締め、手元の端末を操作して空中にいくつものホログラムウィンドウを展開した。そこには、大量の複雑な数式、古びた文献のデータ、そしてあのマネキン型機械の残骸の写真が映し出されている。

「先日のアリスの事件……その裏で、リオが密かに調べていたデータです。彼女は失踪する直前、私にこれらを託していきました」

 “それは……”

「ええ。古い文献の記述と、廃墟の奥深くで極めて短時間だけ観測される異常なエネルギー反応。それらを結びつけ、リオはある恐ろしい仮説を立てていました。キヴォトスには、私たちがいる世界と表裏一体の『反転世界』が存在すると」

 ヒマリの指先がホログラムを弾く。

「当初、私は彼女のパラノイア的な妄想だと疑っていました。ですが、廃墟に現れた五体のマネキン型機械……あれはカイザーPMCの技術でも、ミレニアムのオーパーツでもありません。キヴォトスの物理法則から僅かにズレた、未知の物質で構成されていました。おそらく、その『反転世界』からこちらの世界へとこぼれ落ちてきた脅威です。そして……」

「アタシらが着いた時、アイツは、すでに四体をぶっ壊して残骸を回収してた」

 ネルが重い口を開き、言葉を継ぐ。

「あいつ、自分で言ってたぜ。『お前らの平和な青春を守る番人だ』ってな」

 “守る番人……”

 私がその言葉を反芻していると、ヒマリが深くため息をついた。

「連邦生徒会の強固なデータベースにすら、彼女の存在は記録されていませんでした。私の検索から逃れられる存在など、このキヴォトスにはいないはずなのに。ですが……ネルの証言と、残された状況証拠を繋ぎ合わせれば、一つの仮説が成り立ちます」

 ヒマリの瞳に、鋭い知性の光が宿る。

「彼女は私たちに敵対する侵略者ではなく、むしろあの得体の知れない脅威から、この世界を秘密裏に防衛している……そう解釈するのが自然でしょう。あの圧倒的な暴力も、マネキンの回収も、すべては『防衛行動』の一環。ですが、なぜ彼女がそんな過酷な役目をたった一人で背負っているのか。誰が彼女にそれを強いているのかは、全くの謎ですが」

 ヒマリはミレニアムの総力を挙げて『反転世界』に繋がるゲートの継続的な観測と、マネキンの残骸が発していた微弱な波長の解析を進めることを約束してくれた。

 私はネルの回復を祈りつつ、重い足取りでシャーレへと帰路についた。

 

 ◇

 

 すっかり夜の帳が下りたキヴォトス。

 シャーレへの帰路、人気のない道を歩いていると、不意に街灯がチカチカと明滅し、周囲の喧騒がすっと消え失せた。

「クックックッ……。おや、奇遇ですね、先生。少しばかりお顔の色が優れないようですが」

 闇の中から、見慣れたスーツ姿の男——ゲマトリアの『黒服』が姿を現した。

 “黒服……”

「先日の騒動での貴方の選択、大変興味深く拝見しておりましたよ。古い遺物を巡る一連の事件……いやはや、やはり貴方という存在はキヴォトスにおいて特異点だ。我々ゲマトリアにとっても、非常に魅力的な変数ですよ。これからも、貴方の導きがどのような結果を生むのか、期待しております」

 黒服は芝居がかった身振りで、余裕の笑みを浮かべて語りかけてくる。

 だが、今の私に彼の回りくどい賞賛に付き合っている余裕はなかった。

 “……一つ聞きたい。ミレニアムの廃墟に現れたマネキン型の機械と、それを追っていた『竜宮院セツナ』という生徒について、君たちは何か知っているか? ”

 もし、あの子の過酷な境遇がゲマトリアの非人道的な実験のせいだとしたら。私は絶対に彼らを許さない。

 だが、私の問いを聞いた黒服は、心底不思議そうな顔で小首を傾げた。

「マネキン……? 竜宮院セツナ? クックックッ、何のことやら。少なくとも、私やマエストロたちの関与するプロジェクトではありませんよ。そのような無骨で美しさの欠片もない機械など、私の美学に反しますからね」

 “本当か? ”

「ええ。ゲマトリアは嘘をつきませんよ」

 黒服は肩をすくめ、そして何かを思い出したように、その一つ目のような顔の歪みを細めた。

「ですが……そうですね。少し前から、『我々の観測できる範疇を超えた』不可解な歪みが生じているのは事実です。ええ、あれは不快だ。我々ゲマトリアのような真理の探求者とは違う。もっと高次元から、盤面を乱暴に引っ掻き回すような……ひどく悪趣味で、理解し難い気配がします」

 黒服の声のトーンが一段下がり、周囲の闇がより濃くなったように錯覚する。

「先生、せいぜいお気をつけなさい。貴方の信じる『世界』の理(ことわり)や、我々が愛する神秘の法則すら通じない、理不尽な遊戯が始まっているのかもしれませんからね」

 それだけを遠回しに言い残し、黒服は闇の中へと溶けるように消え去った。

 ゲマトリアですら全容を掴めない、不可解で悪趣味な黒幕。事態は私の想像以上に深く、暗い闇の中に落ちているのかもしれない。

 

 ◇

 シャーレの執務室に戻った私は、ドアを閉めた途端、デスクに倒れ込むようにして深く息を吐いた。

 気が張っていた外では抑え込めていたが、安全な場所に辿り着いたことで一気に緊張の糸が切れ、顔面の鈍痛と全身の疲労がどっと押し寄せてくる。ヒマリに応急処置はしてもらったが、顎から脳を揺らされたダメージはそう簡単に抜けるものではない。

『先生、おかえりなさい! お怪我の具合は大丈夫ですか!? 』

 “ありがとう、アロナ。大丈夫、痛みはだいぶ引いたよ。少し休めば平気だ”

 シッテムの箱の画面の中で、アロナが涙目でオロオロと心配してくれている。彼女の優しさに触れると、自分が『日常』に戻ってきたのだと実感できた。

 私は重い身体を引きずってコーヒーサーバーへ向かい、苦いブラックコーヒーをマグカップに注ぐ。カフェインで無理やり頭を覚醒させると、私は執務室の端にあるホワイトボードの前に立った。

 “……アロナ。セツナの事なんだけど”

『はい。連邦生徒会の機密ファイルについては、今もロックの解除を試みていますが、かなり複雑な暗号化がされており、まだ時間がかかりそうです……』

 “その事じゃないんだ。彼女の『行動』と『言葉』について、どうしても拭いきれない違和感があってね”

 私はマーカーを手に取り、今日起きた出来事とセツナの言葉を、一つ一つ時系列順に書き出していく。

『助けなんていらねぇ。全部自分達で解決すれば済む話だ』

『お前に話して何が解決する』

『好奇心は猫を殺すって知らないのか?』

『お前らの平和な青春を守る番人だと思っとけ』

 殴り書きの文字を眺めながら、私は顎に手を当てて思考の海へと沈んでいった。

 “彼女は最初から最後まで、私やネルを酷く嫌悪し、敵対しているように見えた。……だが、あの戦闘の最後、私がアロナに頼んでシールドを展開した時のことを思い出してほしい”

『はい。セツナさんが先生に鉄の棒を振り下ろそうとした瞬間ですね。私が全力で防御を展開しました』

 “そう。あの時、彼女はシールドの存在に気づくと、即座に棒を捨てて素手で私を殴った。……なぜだと思う? ”

『えっ? それは……素手なら、私のシールドの防護判定(攻撃の脅威度)をすり抜けられるからでは……』

 “戦術的な判断としてはその通りだ。だが、本当に私を『殺す』つもりなら、あの無骨で強力な左腕で、棒を持ったまま何度もシールドを殴りつければよかったはずだ。いずれシールドの限界値を突破して、確実に私を排除できた”

 私はホワイトボードの『素手で殴った』という一文を赤のマーカーで丸く囲む。

 “それに、ネルへの攻撃もそうだ。ヒマリの診断によれば、ネルの怪我は『肋骨の骨折と内臓への衝撃』に留まっていた。あれほどの力を持つ彼女が、急所を意図的に外したとしか思えないんだ。もし本気で邪魔な私たちを排除するつもりなら、あんな面倒な手心は加えない”

『つまり……セツナさんは、先生やネルさんを本気で傷つける気はなかった、ということですか?』

 “そうとしか考えられない”

 私はマグカップのコーヒーを飲み干し、確信を持って頷いた。

 “彼女は、私たちを『遠ざけるため』に、わざと敵対的な態度をとり、圧倒的な力を見せつけたんだ。自分一人で、あの恐ろしい反転世界の脅威から、このキヴォトスを守るために”

 そう仮定すると、彼女のすべての言葉の裏返しが痛いほどに見えてくる。

「平和ボケしてるゴミ」という手酷い侮蔑は、私たちにこの平和な世界で生きていてほしいという痛切な願いの裏返し。

「ついてくるな」という明確な拒絶は、これ以上私たちを危険な戦いに巻き込まないための、彼女なりの不器用すぎる優しさなのだ。

 そして、私を殴る直前に放った「好奇心は猫を殺す」という冷たい問いかけ。あれは殺意ではなく、これ以上深入りすればお前たちも命を落とすぞ、という悲痛な警告だった。

 “あの子は、悪い子なんかじゃない。得体の知れない脅威にたった一人で立ち向かい、暗闇の中で戦い続けている……不器用で、誰よりも優しい生徒なんだ”

『お前らの平和な青春を守る番人』。

 最後に彼女が残したその言葉が、私の胸を締め付ける。どれだけの孤独と恐怖を味わえば、そんな過酷な十字架を背負えるというのか。

 大人として。教師として。

 そんな理不尽な運命を、子供に背負わせたまま安全圏でぬくぬくと生きているなど、絶対に許されることではない。

 彼女の怒りに満ちた瞳の奥にあった、見えない悲鳴。誰にも頼れない孤独。私はそれを、絶対に救い出すと心に決めた。

 “アロナ。ヒマリと連携して、反転世界の情報を徹底的に集めるんだ。セツナを必ず私たちが助け出す。二度と、あんな悲しい目をして戦わせたりはしない”

『はい、先生! アロナも全力でサポートします! セツナさんを、一緒に助けましょうね!』

 私の生徒を、これ以上理不尽な遊戯の駒にはさせない。

 あまねく生徒は、私の生徒だ。

 私は決意の炎を胸に燃やし、残る痛みを忘れたかのように、立ち上がった。





今日はあと一本投稿したら終わります。

評価あざす!寝て起きたら15人に増えてて驚きっす!
感想も増えてくれると嬉しいっす!
見れくれてる人も増えて徐々にニコニコしてきたっす!
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