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【表】のミレニアム廃墟で先生と邂逅したオレは、いつもの灰色の【裏】世界へと戻ってきた。
背後の『裂け目』がピキピキとヒビ割れ、完全に閉ざされる。これで向こうへ行くことも、こっちへ来ることもできなくなった。
「おかえり」
戻ってきたオレの目の前には、体調の悪そうなカラスが待っていた。
「ただいま」
「どうだった?」
先生への感想か? それとも……。
「会った感想は、純粋に癪に障る奴だな。知識としては知ってたが」
オレは顔をしかめ、忌々しそうに吐き捨てる。
「『気持ち悪い』の一言に尽きる。どうしてあんな奴が、生徒たちに好かれて尊敬を集めているのか全く分からない」
「……」
「あれはなんなんだ? 生徒を無条件に信じ、酷いことをされても殺されかけても、最後には許して助け導く。だが、最後は『生徒の自主性』とやらに任せて放置する。あいつの本質は偽善と自己満足だ。生徒を助けて悦に浸る、気持ち悪い存在でしかない」
先生から滲み出す狂気と異常な思考に、初対面にも関わらず、柄にもなく語気が強くなってしまった。
それに拍車を掛けたのが、あの空間にいる間、常に肌に纏わりついていた『プレイヤーサイドの視線(カメラ)』だ。気心知れたカラスを前にして、オレの中で滝のように先生に対する嫌悪の感情が溢れ出した。
「おい」
オレはカラスに向けてではなく、何もない空中に向かって視線を鋭く向けた。
「見てんだろ。気持ち悪い視線を送り続けやがって。気づいてないとでも思ったのか? 傍観者気取りのゴミどもめ」
オレは中指を立てて、画面の向こう側の連中を威嚇した。
◇
時間を少し戻す。
これは、先ほどの『邂逅』の裏側のお話。
【表】の【廃墟】に入り、マネキンの掃討と探索が終わった頃。
オレはインカムでカムロに連絡を取っている時、ふと『スマホで連絡を取っているフリをしたら、物語のテキストやプレイヤーの視点はどう騙されるのか』を知りたいと思った。
『ってわけなんだけど』
『いいんじゃないですか? 何の意味もありませんけど』
『それと、先生と邂逅したらカムロとの会話も物語のテキストに組み込まれるのか気になる。こっちではシリアスっぽく適当に話しかけるから、カムロは状況指示とか報告してくれ。雑談でも構わない』
『確かに気になりますね。了解です!』
意味はないかもしれないが、試す価値はある。
これで『スマホで黒幕と通信している謎の存在』という演出が反映されるなら、意味深な会話が作り放題だし、曇らせの幅がグッと広がる。
オレはスマホを取り出し、耳に当てた。
『今、セツナさん以外の端末を気づかれない様にハッキングしてるんですけど。美甘ネルっていう人が、そちらに小走りのペースで近づいて来てます』
『こっちも気配を感じた。上手く気配を隠しているが……もう一人、多分先生だな。こっちは丸わかりだ。そろそろ接敵するから、次喋り掛けた時が物語上での合図だ』
『了解です』
というわけで対峙したわけだが……。
まず、オレは何故先生にあんな激しい態度をしてしまったのか。
初めましての段階では、そこまで嫌悪はしていなかった。むしろ「知識として知っているゲームの主人公」としてフラットに見ていた。だが、所々に出る行動と言動に思わずイラッと来てしまったのだ。
まずこれ。
ーーー
“ちょっと待って!”
慌てて物陰から飛び出し、穏便に話を進めるために私が間に割って入る。
“ネル、ここは私に任せて欲しい”
「チッ……先生が言うなら」
渋々といった感じだが、引き下がってくれた。
“ありがとう。それで、君の名前と所属を聞いてもいいかな?”
ーーー
……??? 意味が分からない。
ネルの行為を止める為だったら、物陰から顔だけ出して大きな声で制止を求めればいい。なぜわざわざ、得体の知れない敵(オレ)の目の前に出て来る?
絶対に撃たれないという謎の自信の表れなのか、それとも「生徒の前に出て身体を張る俺かっこいい」とでも思ってるのか?
そして、あの狂犬と呼ばれる美甘ネルも何故引き下がる? 先生の平和的なやり方を見ていたんだったら、話が平行線になる確率が高いことくらい分かるだろう。押し通してでも会話を続行させて、無理やりにでも情報を得ようとするべきだ。
極めつきは、いきなり「名前と所属を言え」とのたまったことだ。
物語の強制力なのか、大半の生徒は素直に明かすのだろう。だが、名前と所属なんて、現実(リアル)なら一番明かしてはいけない個人情報だ。名前が分かればそいつの半生を徹底的に調べ上げられるし、所属が分かれば学園内の交友関係まで丸裸にできる。
見ず知らずの大人がそれを知ろうとするのは純粋に気持ち悪いことだし、虫唾が走る。何でも質問すれば答えが返ってくると思っているのだろう。
この時点で、オレの中での先生の評価は『独善的な傲慢野郎』になった。
あと、これ。
ーーー
“! そうだね、すまない。会う人皆が私の事を知っているから、後からの自己紹介になることが多かったけど。改めて、連邦捜査部【シャーレ】所属、皆からは先生と呼ばれているよ”
「……名前ぐらいはいいか。どうせ調べても何も出てこないしな」
“それってどういう――”
「竜宮院セツナ」
ーーー
『会う人皆が私の事を知っている』って、異常性が出てるぜ。
みんな知ってて当然、という傲慢な解釈ができる。さらに、『皆からは“先生”と呼ばれているよ』って。
こっちは個人名(本名)を聞いているのに、“先生”という役職名で答えるとはこれいかに? お前のパーソナリティはどこにあるんだよ。
……もちろん、オレは答えなくても良かった。だが、あえて『竜宮院セツナ』と名乗ったのは、神の奴がオレたちのバックストーリーを意味深な感じに改竄してくれていると思ったからだ。
もし改竄されていなくて、本当に生徒名簿に存在しなかったとしても、「あの生徒は何者なんだ?」と勘繰らせ、考察という名のミスリードを引き起こせる。せいぜい、手持ちの生徒たちと相談して大いに悩んでくれ。
そして、次だ。
ーーー
『四体は壊したが、あと一体が見つからない。この階層は全部見たが居なかった』
『こいつらの存在を知られちゃまずいだろ。ここのやつら、こいつらのこと知らねぇしパニックになる』
『助けなんていらねぇ。全部自分たちで解決すれば済む話だ。偽りの平和な世界で楽しく青春を謳歌すればいいさ』
『あー、なんかめんどくさいのに捕まってる。先生だとかと、チビのヤンキーメイドに』
『! それはまずいな。直ぐ帰る。残り一体どうする? こっちとしては持ち帰りたいが……そうか。分かった』
ーーー
これ。オレが黒幕(カムロ)とシリアスに話していると思われるシーンだが。
実際はこんな感じだった。
セツナ『助けなんていらねぇ。全部自分たちで解決すれば済む話だ。偽りの平和な世界で楽しく青春を謳歌すればいいさ(キリッ)』
カムロ『草。似合わないですねセツナさん! どっちかっていうとカラスさんの方が似合うんじゃないですか?www この音声録音しておいたので、後でカラスさんと一緒に聞きますねwww』
大体九割くらい、こんな感じで煽り散らかされていたのだ。
こっちは一生懸命シリアスやってるのに。
最後は、美甘ネルとの戦闘と、先生の指揮についてだ。
最強格と言われるだけはある。一発の殴りや蹴りの重さ、銃撃の威力、咄嗟の判断力。普通に強かった。
オレのステータスがイカれてるせいでノーリアクションで済んだが、実際は「ちょっと痛いかな?」くらいは感じたし、これに神秘(ガチの力)を込められたらどうなるか分からなかった。
それに、長期戦になれば先生の『未来予測に迫る戦術指揮』が猛威を振るうからな。
だからあの場では、あえて指揮官である先生を真っ先に狙い、『戦闘』というゲーム自体を強制終了させた。
こっちの底(実力)をプレイヤー側に測らせないようにしたってわけだ。
今回は先生がどう見られてるのか知識だけ知ってるセツナの感想です。
概ね作者も同意見です
タイトルやあらすじ、サブタイトルをつけるのが下手ですんません。