かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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余はこの世に未練など無い

マケドニアにて生を受け、数多の戦場を同胞達と共に駆け抜けた

次々と異国の地を支配し
 
美味いものを食い
 
女を抱き
 
同胞達と酒を飲み交わす

そこに一片の後悔などあろうはずも無い

未知の病に侵され、同胞達を置いて先に逝ってしまったのが若干気に病まれるが

しかし、それも含めての人の世というものよ

余はこの世に未練など無い

だというのに

「なっ⋯ななななっ、なっ」

何故、このような事に

「な、何故余が⋯女子の姿に⋯っ!?」

ここは余の生きた時代から遥か後年の、日本という島国

余はそこの、女子高生なるものに生まれ変わってしまったらしい
 


第1話「余、新たな生を得る」

 

「ん⋯むぅ⋯」

 

 朝日が差し込む部屋の中、余は目覚めた。

 

「⋯ふわぁぁぁぁ〜⋯」

 

 豪快な欠伸をし、余は身を起こす。うむ、これこそ王の欠伸よ。

 

 身体はすこぶる快調であった。昨晩まで高熱にうなされておったのがまるで嘘のようではないか。なんという回復力、これも余が王であるがゆえであろう。

 

 おぉ、そうだ。アラビアへの遠征について軍議をせねばいかぬな、早く支度をせねば⋯⋯しかし、ちと喉が乾いた。誰ぞに持ってこさせるか。

 

「誰かおらぬか?水を持ってまいれ」

 

 ⋯しかし、返事は来ず。

 

「なんだ⋯誰もおらぬのか?」

 

 仕方がないので自分で取りに赴こうかとも思ったが⋯そこで余は気づく。

 

「ここは⋯何処だ?」

 

 見渡せば、見覚えの無い天井、淡い色の壁、何やら装飾の施された机。

 

 壁には衣服が掛けられているようだが、あの様な意匠の服は終ぞ見た事がない。

 

 用途の分からぬ黒い箱や板⋯人一人映せるであろう大きな鏡⋯どれもこれも、余の知らぬ物ばかりであった。

 

「もしや、病に伏せてる間に敵の手に落ちたか⋯?ここが異郷の地の文化だとすれば納得も⋯ん?」

 

 そこで余は初めて気づいた。

 

 この声は、余のものではない。

 

 あの太くも逞しく、豪快でいて尚且つ優美さを兼ね備えた余の美声ではなかった。今の声はまるでそう、余が愛する妻ロクサネのような⋯

 

 しかし、余の身に起きている異常はそれだけではなかった。腕は華奢で細く、それだけではなく全体の線が細くなったよう。

 

「なん⋯だ⋯これは⋯?」

 

 恐る恐る胸元に手をやるとそこには柔らかな感触。うむ、余が好んだ感触だ。⋯いや、そうではない。余の逞しく厚い胸板は何処へ行ってしまったのだ⋯?

 

 まさか、いやそんなはずはと思いつつ⋯股間へと手を伸ばす。

 

 ⋯いや、もう何も言うまい。余とて優れた知識と軍略を持って数多の戦場を勝利へと導いた智将。自身の身に何が起きたかは薄々察しがついておる。

 

 余は意を決して、姿鏡にその身を映した⋯

 

 そこには、流れる金の髪が美しく⋯碧眼で顔立ちの整った、見目麗しい女子の姿があった。

 

「⋯馬鹿な」

 

 余が暫しの間呆然と立ち尽くしていると⋯部屋の扉らしきものが開かれ、これまた美しい、鏡に映った女子とよく似たご婦人が現れた。

 

「アレクシアちゃん起きたの?はい、お水。⋯どうしたの、鳩が豆鉄砲食らったような顔して」

 

 ご婦人はそう言いながら余に水を差し出した。なんとも不敬な態度である⋯本来ならば厳罰に処すところではあるのだが、この異常事態の前にその程度は些細な事であった。

 

「う、うむ⋯ご苦労であった。下がってよいぞ」

 

 余がそう伝えるやいなや、ご婦人はムッとした表情をして言った。

 

「駄目よアレクシアちゃん、こういう時はありがとうって感謝の気持ちを伝えないと。はいご一緒に、あーりーがーとーう?」

 

「あ、ありがとう⋯」

 

 余は何故か、このご婦人に逆らうことが出来なかった。解せぬ。

 

「よく出来ました、アレクシアちゃんはいい子ねぇ〜⋯⋯そういえば、その口調どうしたの?もしかして、アレキサンダー大王の真似?」

 

「アレキ、サンダー⋯大王⋯」

 

 それは、余の異名だ。

 

 余の名はアレクサンドロス3世。人々は余の事を恐れ、時に敬意の意味を込めて余をアレキサンダー大王と呼んだ。

 

「パパがアレキサンダー大王の大ファンだものねぇ⋯アレクシアちゃんの名前もそこからあやかった物だし。だからって、口調まで真似する事ないのよ?パパは喜ぶかもしれないけど⋯」

 

パパ⋯ファン?とはなんの事やら分からぬが⋯推測するに、余の名をもじって子へ名付けたらしい。これも余の王としての威厳がそうさせたか。

  

「しょ、承知した⋯委細気を付けることとしよう⋯」

 

 余がそう言うと、ご婦人は微笑をたたえながら部屋を後にした。再び部屋を静寂が包む。

 

「⋯敵という訳では、ない⋯か?この水⋯毒ではなかろうな?」

 

 そう言いつつも、何故か余はあのご婦人が敵では無いと確信していた。渡された水に口をつける。

 

「⋯美味い」

 

 なんという澄み切った水であろうか、しかも程良く冷えてもいる。余は思わず一気に飲み干してしまった。

 

「ふぅ⋯⋯まずは状況を整理すべきよな。昨晩まで余は高熱にうなされていたが、起きると状態は回復⋯しかし身体は女子のそれになり、場所も何処やらか分からぬ異郷の地⋯⋯成程、分からぬ」

 

 流石の余でも、このような摩訶不思議な出来事は理解出来ぬ。かのオデュッセウスでも無理というものだろう。

 

「しかしあのご婦人、余をアレクシアと呼んでおったな。ん⋯?アレク⋯シア⋯」

 

 直後、余が⋯アレクサンドロス3世のものではない記憶が頭の中を駆け巡った。

 

 日本という国で産まれ、育ち。現在齢15歳、これから高校なるものへ入学を控えているアレクシアの記憶が。

 

「成程⋯そうか」

 

 余は、全てを理解した。

 

「余は⋯余はあの時に死んで、生まれ変わったのだな⋯」 

 

 この時の余は、これから第二の人生という戦いが始まってしまった事を

 

 まだ実感出来ずにいた。

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