かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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第11話「余、紅き男を追う」

 

「夏美よ、気になるとは思わないか?」

 

「何がよ?」

 

 体育の時間ーーグラウンドを走りながら余は夏美に話しかける。

 

「この間の紅髪だ」

 

「紅髪⋯?あぁ、もしかして“竹刀百本取り”の?」

 

 夏美の言葉に、余は頷く。

 

「そう、それよ」

 

 突如現れ、余達を救った男。名前は⋯何であったか?

 

「あの時は助かったわね。でも気になるって⋯何が?」

 

「うむ、余にもまだよく分からぬが⋯何か感じるものがあってな」

 

 まだそこまで強者の気配は感じぬが⋯奴には、別の何かがあるような気がしてならぬ。

 

「何よ、感じるものって⋯あ、もしかしてぇー⋯ピンチを救われて好きになっちゃったとか?」

 

 夏美が距離を詰め、ニマニマした顔で余に問いかけてきた。⋯いきなり何を言っておるのだ?こやつは。

 

「残念ながら、余の好みではないな」

 

 答えながら、余は速度を上げた。夏美もそれに合わせる。

 

「えー、つまんないなぁ⋯じゃあアレクシアの好みってどんな人?」

 

「ふむ、そうさな⋯」

 

 余は前世の頃から男もいける。が、当然それは誰でもいいと言う訳ではない。余が求むもの、それはーー

 

「魂の在り方が確かな者、だな」

 

「⋯ふーん、成程。魂ね⋯」

 

 決して自己の信念を曲げず、確かな覚悟を持って生きる⋯そういう者を、余は好む。

 

「冠やマント着けてる人が好きなんだ?」

 

「違う、そうではない」

 

 

 

 グラウンドを三周走り終わり、余達は軽く息を整える。

 

「ふぅ⋯この程度ならまだまだ余裕であるな」

 

「そうね、正直物足りないくらい」

 

 早朝の鍛錬も引き継ぎ行っておるからか、体力もそれなりに上がってきておるな。

 

 他の皆が戻ってくるまでの間、少し休んでおると⋯遅れて心春も戻ってきた。

 

「はぁ⋯はぁ⋯はひぃ〜⋯!ふ、二人共なんでそんな平気なのぉ〜っ?」

 

「私はほら⋯陸上やってるし?」

 

「余は余であるからな。鍛錬が足らぬぞ、心春よ?」

 

「な、なんかずるぅ〜い⋯」

 

 そう言うやいなや、心春は地面にへたり込んでしまった。バテ過ぎではないか⋯?

 

その時ーー

 

「くおぉぉぉらァッ!!」

 

 腹の底に響く、まるで戦時の雄叫びのような声が聞こえた。

 

 ビクッ、と心春を含めた座り込んでおる生徒の肩が跳ねる。まぁ余は前世での慣れがあるからどうという事もないが⋯

 

 「勝手に座るなァッ!!」

 

 グラウンドの中央へ目を向けると、そこに立っているのはーー体育担当の轟。

 

 見た目はジャージ姿の大柄な男。腕を組み、燃えるような瞳でこちらを見ている。⋯うむ、実に暑苦しいな。

 

「お前らァ!!大事なのは走り終わった後だァ!!立てェ!!背筋伸ばせ!!呼吸整えろ!!」

 

 ビシィッ!!と座り込む者達に向かって指を指す。

 

 その声に押されるように皆立ち上がり、前を見据えた。轟はそれを見て、大きく頷く。余も頷く。

 

「体育ってのはなァ!!ただ運動する授業じゃねぇ!!“自分の限界を知る”授業だァッ!!」

 

 拳を握り、熱く語る轟。皆の息を飲む音が聞こえる。余も拳を握る。

 

「よおぉぉしッ!!今から水分補給して来いッ!!⋯ただぁしッ!!」

 

 ビシィッ!!と今度は天に向けて指を指す。

 

「ダラダラ歩くなァ!!背筋伸ばしてシャキッと動けェ!!」

 

「うへぇ……」

 

 誰かが小さく声を漏らすのが聞こえた。

 

「聞こえてるぞォ!!」

 

「すみませんッ!!」

 

 その者は、即座に返事を返す。

 

「ハッハァ!!いい返事だァ!!」

 

 轟は満足気に笑った。暑苦しいだけの輩かと思ったが⋯生徒達の限界を見極め、指示を出しておる。⋯優秀な教官ではないか。

 

 「三分後集合!!遅れた奴は追加でもう一周だァァァ!!」

 

「マジかよ!?」

 

轟の言葉に、一斉に駆け出す生徒達。余はそれを見届けながら、前に出る。

 

「それだけか?つまらぬな⋯期待外れよ」

 

「なぁんだとぉぉぉッ!!」

 

 余の言葉が気に触ったのか、轟はドスドスと音を立て目の前にやってくる。

 

「よおぉぉしッ!!よく言った九条ぉッ!!ならお前は追加で五周だぁッ!!今すぐ行けぇッ!!」

 

「ハッ!!望むところよっ!!」

 

 それを聞いた余は即座に駆け出す。ふっ、轟よ。中々ノリが分かるではないか。

 

「青春ってのはなァ!!汗かいてなんぼだァァァ!!」

 

 ⋯あぁ、懐かしいぞ。訓練とは、こうでなくてはな。

 

 遠くから轟の叫びを聞きながら、余は青空の下を走るーー

 

 

 

 放課後ーー

 

「アレクシア、剣道部の見学に行かない?」

 

 夏美が唐突にそんな事を言い出した。

 

「ふむ、剣道部とな⋯?剣の道⋯実戦的な部と見たぞ。しかしまた急に何故だ?」

 

「ほら、気になるって言ってたじゃない例の彼。竹刀持ってたから剣道部と関係あるんじゃないかと思って」

 

 あの棒切れ⋯竹刀というのか。剣にしては耐久力が無さそうであるが。

 

「成程⋯では行ってみるとしよう。剣道とやらも気になるしな」

 

「なになに〜?どこ行くの〜?」

 

 これから帰るつもりだったのだろう、鞄を持った心春が現れた。

 

「これから剣道部の見学に行こうと思って。心春も来る?」

 

「ん〜、じゃあ行こうかな〜!」

 

「うむ、それでは共に参ろう。戦場へとな。」

 

「戦場ではないわよ?」

 

 こうして余達は道場へと向かった。

 

 

 

 道場に着くと、外まで気迫の籠った叫びが聞こえてきた。なんと言ってるかは分からぬが。

 

「⋯戦場だったわね」

 

「で、あるな」

 

「凄い迫力だね〜⋯」

 

「では中へ入るとしよう。二人共、一礼を忘れるでないぞ?」

 

 二人は頷き、余と共に一礼をし中へと入る。そこにはーー

 

「メンッ!」

 

「「メンッ!」」

 

 前進と後退を繰り返しながら、素振りを行う者達にーー

 

 「ヤァァァァッ!!」

 

 「メェェン!!」

 

 「オラァァ!!」

 

 ひたすら脳天めがけ打ち込みを行う者達ーー

 

「どうした!声が小さいぞっ!!そこ、構えが高い!もっと腰を落とせっ!!」

 

 恐らくこの剣道部の指揮官であろう者が、部員達へ指導の声を上げていたーー

 

「凄い熱気ね⋯想像以上だわ」

 

「うむ、実に良い気迫よ。余も滾ってきおったわ」

 

「うん、滾らないで?」

 

「ほぇ〜⋯」

 

 ただひたすらに、打ち込みの音が連続して鳴り。床を踏み込む音が後から追いかけてくる。

 

 余達がその場で訓練の様子を眺めていると、一人の部員と思しき者がこちらへとやってきた。

 

「其方らは見学者でござろうか?」

 

「あ、はい⋯そうなんです」

 

「其方は?」

 

 余が訊ねると、その者は頭部の防具を外し答えた。

 

「これは失敬した。拙者、二年の蜂須賀と申す者。この剣道部にて副主将を務めているでござる」

 

 ふむ、この気配。こやつ⋯中々できるな。

 

「間もなく稽古の区切りがつく故。終わり次第、見学者達には素振りを体験していただく予定でござる。あちらで暫し待たれよ。」

 

蜂須賀とやらが指差す先には、見学者と思われる者達が複数人床に座っていた。余達も指示に従いそちらへ向かう。

 

「しかしあの者⋯妙な口調であるな?」

 

「うん、あなたもね?妙よ?」

 

「なんと⋯解せぬ。」

 

「面白いから大丈夫だよ〜?」

 

 心春は優しき者であるな⋯あまり慰めになっておらぬ気もするが。

 

 

 床に座って鍛錬を眺めていると、見覚えのある紅い髪が見えた。

 

「あっ、あそこにこの前助けてくれた人がいるよ〜」

 

「ホントだ、やっぱりここに居たのね。」

 

「ふむ、名前は⋯うぅむ、出てこぬな⋯」

 

 確か下衆共が奴の名を言っていた気がするが⋯思い出せぬ。竹刀百本取りしか浮かばんわ。

 

 余が思い出そうと悩んでいるとーー

 

「⋯阿久津秋人。彼が気になりますか?」

 

 不意に声を掛けられ、隣を見るとーーそこには、いつから居たのやら真冬が座っておった。

 

「な、なんだ⋯居たのか其方」

 

「今しがた来ました」

 

 それなら普通に声を掛けんか。気配を断つでないわ。

 

「茅野さん、彼の事知ってるの?」

 

「ええ、武で優秀な成績を収めた者は一通り覚えていますので」

 

 一拍置いて、真冬は続ける。

 

「彼は中学の全国剣道大会で、個人戦三位になった程の実力者です。得意技は上段の構えからの一閃。中学時代からの異名は“竹刀百本取り”だとか」

 

「ほへぇ〜⋯」

 

 心春が感嘆の声を上げる。いや、これはよく分かっとらん顔だな?

 

「恐らく、この学園へもその実力を買われてやって来たのでしょう。⋯彼に何か興味が?」

 

 真冬は全てを見透さんとするような瞳で、余に問いかける。

 

「元々、奴の実力は感じ取っておったが⋯何か、気になってな⋯余にもよく分からぬのだ」

 

「⋯そうですか」

 

 もう話す事は無いとでも言いたげに、真冬は視線を外し⋯それ以降喋らなくなった。うぅむ、相変わらず何を考えておるのかよく分からん奴よ⋯

 

「あっ、何か向こうで始まるみたいだよ〜」

 

 心春の声で、余達はそちらへ視線を向けるとーー

 

「二人向き合って⋯試合?かしら⋯えっと⋯」

 

 夏美が鞄からスマホを取り出し操作し始めた。

 

「多分、あれは地稽古ってやつだと思う。実戦形式でやる稽古なんだって。まぁ試合みたいなもの⋯?なのかな」

 

「ほう、実戦形式ときたか。面白い⋯血が滾るわ」

 

「まぁ、なんか言うと思った」

 

 さて、剣道が如何様なものか⋯

 

 ーー見せてもらおうではないか。

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