かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜 作:西谷慎一郎
「夏美よ、気になるとは思わないか?」
「何がよ?」
体育の時間ーーグラウンドを走りながら余は夏美に話しかける。
「この間の紅髪だ」
「紅髪⋯?あぁ、もしかして“竹刀百本取り”の?」
夏美の言葉に、余は頷く。
「そう、それよ」
突如現れ、余達を救った男。名前は⋯何であったか?
「あの時は助かったわね。でも気になるって⋯何が?」
「うむ、余にもまだよく分からぬが⋯何か感じるものがあってな」
まだそこまで強者の気配は感じぬが⋯奴には、別の何かがあるような気がしてならぬ。
「何よ、感じるものって⋯あ、もしかしてぇー⋯ピンチを救われて好きになっちゃったとか?」
夏美が距離を詰め、ニマニマした顔で余に問いかけてきた。⋯いきなり何を言っておるのだ?こやつは。
「残念ながら、余の好みではないな」
答えながら、余は速度を上げた。夏美もそれに合わせる。
「えー、つまんないなぁ⋯じゃあアレクシアの好みってどんな人?」
「ふむ、そうさな⋯」
余は前世の頃から男もいける。が、当然それは誰でもいいと言う訳ではない。余が求むもの、それはーー
「魂の在り方が確かな者、だな」
「⋯ふーん、成程。魂ね⋯」
決して自己の信念を曲げず、確かな覚悟を持って生きる⋯そういう者を、余は好む。
「冠やマント着けてる人が好きなんだ?」
「違う、そうではない」
グラウンドを三周走り終わり、余達は軽く息を整える。
「ふぅ⋯この程度ならまだまだ余裕であるな」
「そうね、正直物足りないくらい」
早朝の鍛錬も引き継ぎ行っておるからか、体力もそれなりに上がってきておるな。
他の皆が戻ってくるまでの間、少し休んでおると⋯遅れて心春も戻ってきた。
「はぁ⋯はぁ⋯はひぃ〜⋯!ふ、二人共なんでそんな平気なのぉ〜っ?」
「私はほら⋯陸上やってるし?」
「余は余であるからな。鍛錬が足らぬぞ、心春よ?」
「な、なんかずるぅ〜い⋯」
そう言うやいなや、心春は地面にへたり込んでしまった。バテ過ぎではないか⋯?
その時ーー
「くおぉぉぉらァッ!!」
腹の底に響く、まるで戦時の雄叫びのような声が聞こえた。
ビクッ、と心春を含めた座り込んでおる生徒の肩が跳ねる。まぁ余は前世での慣れがあるからどうという事もないが⋯
「勝手に座るなァッ!!」
グラウンドの中央へ目を向けると、そこに立っているのはーー体育担当の轟。
見た目はジャージ姿の大柄な男。腕を組み、燃えるような瞳でこちらを見ている。⋯うむ、実に暑苦しいな。
「お前らァ!!大事なのは走り終わった後だァ!!立てェ!!背筋伸ばせ!!呼吸整えろ!!」
ビシィッ!!と座り込む者達に向かって指を指す。
その声に押されるように皆立ち上がり、前を見据えた。轟はそれを見て、大きく頷く。余も頷く。
「体育ってのはなァ!!ただ運動する授業じゃねぇ!!“自分の限界を知る”授業だァッ!!」
拳を握り、熱く語る轟。皆の息を飲む音が聞こえる。余も拳を握る。
「よおぉぉしッ!!今から水分補給して来いッ!!⋯ただぁしッ!!」
ビシィッ!!と今度は天に向けて指を指す。
「ダラダラ歩くなァ!!背筋伸ばしてシャキッと動けェ!!」
「うへぇ……」
誰かが小さく声を漏らすのが聞こえた。
「聞こえてるぞォ!!」
「すみませんッ!!」
その者は、即座に返事を返す。
「ハッハァ!!いい返事だァ!!」
轟は満足気に笑った。暑苦しいだけの輩かと思ったが⋯生徒達の限界を見極め、指示を出しておる。⋯優秀な教官ではないか。
「三分後集合!!遅れた奴は追加でもう一周だァァァ!!」
「マジかよ!?」
轟の言葉に、一斉に駆け出す生徒達。余はそれを見届けながら、前に出る。
「それだけか?つまらぬな⋯期待外れよ」
「なぁんだとぉぉぉッ!!」
余の言葉が気に触ったのか、轟はドスドスと音を立て目の前にやってくる。
「よおぉぉしッ!!よく言った九条ぉッ!!ならお前は追加で五周だぁッ!!今すぐ行けぇッ!!」
「ハッ!!望むところよっ!!」
それを聞いた余は即座に駆け出す。ふっ、轟よ。中々ノリが分かるではないか。
「青春ってのはなァ!!汗かいてなんぼだァァァ!!」
⋯あぁ、懐かしいぞ。訓練とは、こうでなくてはな。
遠くから轟の叫びを聞きながら、余は青空の下を走るーー
放課後ーー
「アレクシア、剣道部の見学に行かない?」
夏美が唐突にそんな事を言い出した。
「ふむ、剣道部とな⋯?剣の道⋯実戦的な部と見たぞ。しかしまた急に何故だ?」
「ほら、気になるって言ってたじゃない例の彼。竹刀持ってたから剣道部と関係あるんじゃないかと思って」
あの棒切れ⋯竹刀というのか。剣にしては耐久力が無さそうであるが。
「成程⋯では行ってみるとしよう。剣道とやらも気になるしな」
「なになに〜?どこ行くの〜?」
これから帰るつもりだったのだろう、鞄を持った心春が現れた。
「これから剣道部の見学に行こうと思って。心春も来る?」
「ん〜、じゃあ行こうかな〜!」
「うむ、それでは共に参ろう。戦場へとな。」
「戦場ではないわよ?」
こうして余達は道場へと向かった。
道場に着くと、外まで気迫の籠った叫びが聞こえてきた。なんと言ってるかは分からぬが。
「⋯戦場だったわね」
「で、あるな」
「凄い迫力だね〜⋯」
「では中へ入るとしよう。二人共、一礼を忘れるでないぞ?」
二人は頷き、余と共に一礼をし中へと入る。そこにはーー
「メンッ!」
「「メンッ!」」
前進と後退を繰り返しながら、素振りを行う者達にーー
「ヤァァァァッ!!」
「メェェン!!」
「オラァァ!!」
ひたすら脳天めがけ打ち込みを行う者達ーー
「どうした!声が小さいぞっ!!そこ、構えが高い!もっと腰を落とせっ!!」
恐らくこの剣道部の指揮官であろう者が、部員達へ指導の声を上げていたーー
「凄い熱気ね⋯想像以上だわ」
「うむ、実に良い気迫よ。余も滾ってきおったわ」
「うん、滾らないで?」
「ほぇ〜⋯」
ただひたすらに、打ち込みの音が連続して鳴り。床を踏み込む音が後から追いかけてくる。
余達がその場で訓練の様子を眺めていると、一人の部員と思しき者がこちらへとやってきた。
「其方らは見学者でござろうか?」
「あ、はい⋯そうなんです」
「其方は?」
余が訊ねると、その者は頭部の防具を外し答えた。
「これは失敬した。拙者、二年の蜂須賀と申す者。この剣道部にて副主将を務めているでござる」
ふむ、この気配。こやつ⋯中々できるな。
「間もなく稽古の区切りがつく故。終わり次第、見学者達には素振りを体験していただく予定でござる。あちらで暫し待たれよ。」
蜂須賀とやらが指差す先には、見学者と思われる者達が複数人床に座っていた。余達も指示に従いそちらへ向かう。
「しかしあの者⋯妙な口調であるな?」
「うん、あなたもね?妙よ?」
「なんと⋯解せぬ。」
「面白いから大丈夫だよ〜?」
心春は優しき者であるな⋯あまり慰めになっておらぬ気もするが。
床に座って鍛錬を眺めていると、見覚えのある紅い髪が見えた。
「あっ、あそこにこの前助けてくれた人がいるよ〜」
「ホントだ、やっぱりここに居たのね。」
「ふむ、名前は⋯うぅむ、出てこぬな⋯」
確か下衆共が奴の名を言っていた気がするが⋯思い出せぬ。竹刀百本取りしか浮かばんわ。
余が思い出そうと悩んでいるとーー
「⋯阿久津秋人。彼が気になりますか?」
不意に声を掛けられ、隣を見るとーーそこには、いつから居たのやら真冬が座っておった。
「な、なんだ⋯居たのか其方」
「今しがた来ました」
それなら普通に声を掛けんか。気配を断つでないわ。
「茅野さん、彼の事知ってるの?」
「ええ、武で優秀な成績を収めた者は一通り覚えていますので」
一拍置いて、真冬は続ける。
「彼は中学の全国剣道大会で、個人戦三位になった程の実力者です。得意技は上段の構えからの一閃。中学時代からの異名は“竹刀百本取り”だとか」
「ほへぇ〜⋯」
心春が感嘆の声を上げる。いや、これはよく分かっとらん顔だな?
「恐らく、この学園へもその実力を買われてやって来たのでしょう。⋯彼に何か興味が?」
真冬は全てを見透さんとするような瞳で、余に問いかける。
「元々、奴の実力は感じ取っておったが⋯何か、気になってな⋯余にもよく分からぬのだ」
「⋯そうですか」
もう話す事は無いとでも言いたげに、真冬は視線を外し⋯それ以降喋らなくなった。うぅむ、相変わらず何を考えておるのかよく分からん奴よ⋯
「あっ、何か向こうで始まるみたいだよ〜」
心春の声で、余達はそちらへ視線を向けるとーー
「二人向き合って⋯試合?かしら⋯えっと⋯」
夏美が鞄からスマホを取り出し操作し始めた。
「多分、あれは地稽古ってやつだと思う。実戦形式でやる稽古なんだって。まぁ試合みたいなもの⋯?なのかな」
「ほう、実戦形式ときたか。面白い⋯血が滾るわ」
「まぁ、なんか言うと思った」
さて、剣道が如何様なものか⋯
ーー見せてもらおうではないか。