かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜 作:西谷慎一郎
「地稽古、始めっ!!」
「お願いしますっ!!」
恐らく部の主将であろう男が号令をかける。すると部員達が礼をするやいなや、構えたままその場にしゃがみ込んだ。
「む、あの動作はなんだ⋯?」
「⋯あれは蹲踞、といいます」
余が疑問を口にすると、真冬がそれに答えた。
「蹲踞とな?」
「はい。心を鎮め集中力を高めると共に、相手への敬意を表す礼法の事です。」
成程⋯戦の前に行う儀式的なものという事か。
「ヤアァァァッ!!」
「⋯⋯ッ!!」
「メンッ!!メェェェンッ!!」
蹲踞なる動作の後立ち上がり、部員達が動き出した。互いに牽制し合う者達や、ひたすらに打ち込んでいく者⋯それを見て、余は新たな疑問が湧いた。
「真冬よ。剣道とはどのようにして決着となるのだ?どちらかが倒れるまでか?」
「⋯違います」
視線で呆れを伝えるという器用な真似をしながら、真冬は言葉を続ける。
「試合は原則として三本勝負、時間内に有効打突を二本先取した方が勝ちとなります」
「成程⋯有効打突とはどのようなものなのだ?」
この際である。未知の部分は聞いてしまうとするか。
「充実した気勢、適正な姿勢、竹刀の刃部による部位への正確な打突、残心。これら気剣体が一致する事で有効打突となり、一本と認められます」
「ふむ。⋯ざ」
「残心とは、打突後も油断せず反撃に備える、身構えと心構えの事です」
食い気味で答えるでないわ。
「まぁ当然の事であるな。戦場で油断などしようものなら即、死あるのみよ」
「同感です」
「えっ」
夏美が何故か驚いた様な顔でこちらを見た。
「しかし、なんとも温いものよな。実戦であれば骨は砕かれ、四肢は切断され、臓物が溢れ出すであろうに」
「仮に真剣でやったとすれば、そうなるでしょう」
「会話が物騒過ぎない?」
何かに耐えかねたのか、夏美がツッコミを入れてきた。
「そもそも剣道とは、単純に勝敗を決める為だけの武道ではありません。修練を重ねる事で心身を鍛錬し、礼儀を尊ぶ。“人間形成”を目指す事こそがその本質」
成程⋯ただの戦ではないという事か。強さと共に自己の内面も鍛え上げる⋯競技的な側面が強いようであるが、その実中々に奥が深いものよ。
余は真冬の説明を踏まえて、今一度地稽古を観察する。
型。
間合い。
足運び。
面。胴。小手。
⋯残心。
ーー概ね把握した。
あとは実際に竹刀とやらを試したいところだがーー
「そこまでっ!!」
「ありがとうございましたっ!!」
主将の号令で、部員達は即座に地稽古を止め礼をする。どうやら終わったようであるな。
散開する部員達の隙間を縫って、主将の男がこちらへやってくる。
「剣道部主将、三年の真田だ。道場まで足を運んでもらい礼を言う。」
ほう⋯筋骨隆々のその姿は、まさに戦士の風貌であるな。それにこの気配⋯恐らくは、先程の蜂須賀以上か。
「この見学で剣道とは何か、朧気にでも理解してもらえたのであれば僥倖だ」
真田は言葉を続ける。
「見るだけというのも味気が無いだろう。これから皆には実際に竹刀を持ち素振りをしてもらおうと思う。おい、持ってこい!」
真田が部員に指示を出し、人数分の竹刀を持ってこさせた。指揮官としての素質も持つか、よいぞ。
「すまないが、俺は少し席を外す。そうだな⋯阿久津!暫く見ててやってくれ!」
真田に呼ばれやってきたのは、例の男。確か⋯阿久津秋人であったか。
「俺まだ仮入部なんすけど!?」
「仮でも入部は入部だ。同じ一年なのだから気心も知れるだろう?」
「いや、知らないヤツばっかり⋯ん?」
阿久津の視線がこちらへと向く。どうやら奴も気づいたようであるな。
「はぁ⋯りょーかいっす」
「なんだその気の抜けた返事は!気合い入れろ!!」
「押忍!了解っす!!」
主将の叱咤に、阿久津は背筋を伸ばし気合いの入った返事をした。主将が離れていくのを見届けた後、余達は阿久津に声をかける。
「久しいな、阿久津よ」
「この間はありがとね」
「ありがと〜!」
「お前ら、この間の⋯まぁ気にすんな。俺がそうしたかっただけだしな」
ほう、中々謙虚な奴⋯いや、違うなこれは⋯信念、か?
「それより、素振りするんだろ?ほら、竹刀」
阿久津は余達一人一人に竹刀を持たせていく。⋯ふむ、軽いな。
「へぇ⋯竹刀って初めて持ったわ。こんな感じなのね」
「思ったより軽いんだね〜」
「持ち方はこうだ。それじゃ、振ってみな?」
阿久津の指導の元、まず夏美が竹刀を振る。
「やっ!はっ!け、結構難しいのね⋯?勢いで全身が持ってかれそうだわ⋯」
ふむ、どうやら夏美はまだまだのようであるな?心春のほうは⋯
「めぇ〜ん!ど〜う!こてぇ〜!」
ブンブンと竹刀を振り回しておる。いや、竹刀に心春が振り回されておるのか⋯?
「やってみると中々上手くいかないだろ?構えがしっかりしてねぇとそうなるんだよ」
成程な⋯では余も試してみるか。そうして竹刀をーー構える。
「⋯は?」
そう⋯こうだ。そして竹刀をーー振り下ろす。
「フンッ!!」
ビシュッ、と余の斬撃が空気を切り裂く音が響いた。
「っ!?嘘だろ⋯?」
ふむ⋯結構しなりよるな、この竹刀というやつは。軽さも相まって、思うようにいかん。少し修正する必要があるな。
そうやって余は何度も素振りを繰り返す。
「すご⋯様になってるわね」
「シアちゃんかっこい〜!」
⋯よし、こんなものか。
「いや⋯すげぇなお前」
余が素振りを止める頃合を見計らって、阿久津が声をかけてくる。
「うん?何がだ?」
「初心者でそこまで出来るやつは普通居ねぇよ。もしかして経験者なのか?」
「いや?竹刀に触るのもこれが初めてであるが?」
「マジかよ⋯」
なにやら驚愕しておるようだが、そんなに驚く事でもあるまいに。
「期待の新人現る!ってやつか⋯お前が入部したら、女子の方も全国狙えるかもな」
む?何やら勘違いしておるようだが⋯
「余は入部せんぞ?」
「⋯はぁ!?」
なんだ、先程から何度も驚きよって。忙しいやつよ。
「いや、お前!そんだけやれるのに入部しないのかよ!?」
「当然だとも。元よりここへは其方に会いに来たのだ、入部するつもりなど無いわ」
「マジか、勿体ねぇ⋯って俺に会いに来た?そりゃまた何でだよ?」
うむ、気になるであろうな?ならば答えてやろう。
「それはだな⋯余にもよく分からんっ!」
「いやホント何しに来たんだよ!?」
おぉ、阿久津よ。良いツッコミであるぞ。夏美の好敵手になれるやもだぞ?
「まぁなんだ、其方に何か感じるものがあったのは事実よ。それが何かは分からぬがな?」
「意味わかんねぇ⋯で、それじゃもう帰るのか?」
阿久津の問いに、余はニヤリと笑う。
「いいや。図らずも別の目的が出来てしまったわ」
「なんだよ、別の目的って⋯?」
「この剣道部で一番の強者は、奴か?」
余は真田へと視線を向ける。
「主将の事か⋯?俺もまだよく分かんねぇけど⋯多分そうだと思うぜ?」
「なら、奴を倒せばよいな」
「は?お前何言って⋯ちょ、おい!」
そうして余は、離れた場所に居る真田の所へと向かった。
「真田とやら。少し構わぬか?」
真田は蜂須賀と何やら話しておるが、構わず余は声をかけた。
「ぬ、どうした?もし入部希望ならばまずは届を⋯」
「いや、そうではない。入部はせぬ」
余がそう言うと、真田は怪訝そうな顔をした。
「⋯ならばなんだ?悪いが今忙しいんだ。後にしてくれないか。」
「余と勝負しろ」
「⋯なに?」
真田の目つきが鋭くなる。
「余と勝負をしろ、と言っておる」
「⋯バカを言うな。素人と勝負など出来る訳がないだろう」
「余が勝ったら、この剣道部を余の配下とする。よいな?」
「何を言ってるんだお前は⋯」
余の発言が理解出来ぬのか、困惑した顔で真田は言った。
「ふざけるな、冗談に付き合ってる暇はない。」
「ふざけてなどおらぬ、大真面目よ。もしや⋯負けるのが、怖いのか?」
「何だと⋯っ」
余の挑発に真田は激昂する。ふむ、もう一押しか?
「情けない奴よ。よもや敵前逃亡とはな⋯これでは剣道部自体もたかが知れておるな?」
「この⋯っ!!言わせておけば⋯っ!!⋯すぅーっ⋯ふぅ⋯」
今にも掴みかからん程に激昂していた真田であるが、呼吸を整え、平静を取り戻し余に言った。
「⋯帰ってもらおう。この神聖な道場には、貴様のような者は相応しくない。」
⋯ふむ、挑発には乗らぬか⋯どうしたものかと余が思案しているとーー
「おぅ、テメェら!ちゃんとやってんのかァ!?」
やたら乱暴な口調の男が道場に現れた。あやつはーー
「「押忍!!お疲れ様です!鬼塚先生!!」」
あぁそう、鬼塚であったな。
「どうしたァ!止まってんじゃねぇぞォ!動けや!!」
「「押忍!!」」
鬼塚がそう檄を飛ばすと、こちらの様子を伺っていた部員達が一斉に練習を再開した。そして鬼塚は、こちらへと向かってくる。
「よぉ、真田。何してんだテメェ?」
「押忍!!い、いえ⋯この者が何やらふざけた事を言い出しまして⋯」
「⋯あん?」
余の存在に気づいた鬼塚は、こちらへと振り向く。
「テメェは⋯一年A組の九条じゃねぇか。何してんだ、こんな所で」
「鬼塚か。其方こそ何故ここに?」
「呼び捨てしてんじゃねぇよアホ。俺はここの顧問だぜ?居たって不思議じゃねぇだろうが」
なんと、この者が剣道部の顧問であったか。ならば丁度よい。
「鬼塚顧問よ。この剣道部、余の配下とする。そこの真田とやらを倒してな」
「こいつ⋯!まだそんな事を⋯っ!」
「待ちな、真田。⋯おい、九条よォ。配下ってなぁ、どういう事だァ?何企んでんだテメェ」
余に食ってかかろうとする真田を制し、鬼塚は余に問う。
「知れた事。ここを学園征服の足掛かりにする為よ」
「⋯へェ、征服、ねぇ⋯⋯」
一拍置き、ニヤリと笑い鬼塚は言う。
「ーー面白れぇじゃねぇか」