かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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第12話「余、剣道を知る」

 

「地稽古、始めっ!!」

 

「お願いしますっ!!」

 

 恐らく部の主将であろう男が号令をかける。すると部員達が礼をするやいなや、構えたままその場にしゃがみ込んだ。

 

「む、あの動作はなんだ⋯?」

 

「⋯あれは蹲踞、といいます」

 

 余が疑問を口にすると、真冬がそれに答えた。

 

「蹲踞とな?」

 

「はい。心を鎮め集中力を高めると共に、相手への敬意を表す礼法の事です。」

 

 成程⋯戦の前に行う儀式的なものという事か。

 

「ヤアァァァッ!!」

 

「⋯⋯ッ!!」

 

「メンッ!!メェェェンッ!!」

 

 蹲踞なる動作の後立ち上がり、部員達が動き出した。互いに牽制し合う者達や、ひたすらに打ち込んでいく者⋯それを見て、余は新たな疑問が湧いた。

 

「真冬よ。剣道とはどのようにして決着となるのだ?どちらかが倒れるまでか?」

 

「⋯違います」

 

 視線で呆れを伝えるという器用な真似をしながら、真冬は言葉を続ける。

 

「試合は原則として三本勝負、時間内に有効打突を二本先取した方が勝ちとなります」

 

「成程⋯有効打突とはどのようなものなのだ?」

 

 この際である。未知の部分は聞いてしまうとするか。

 

「充実した気勢、適正な姿勢、竹刀の刃部による部位への正確な打突、残心。これら気剣体が一致する事で有効打突となり、一本と認められます」

 

「ふむ。⋯ざ」

 

「残心とは、打突後も油断せず反撃に備える、身構えと心構えの事です」

 

 食い気味で答えるでないわ。

 

「まぁ当然の事であるな。戦場で油断などしようものなら即、死あるのみよ」

 

「同感です」

 

「えっ」

 

 夏美が何故か驚いた様な顔でこちらを見た。

 

「しかし、なんとも温いものよな。実戦であれば骨は砕かれ、四肢は切断され、臓物が溢れ出すであろうに」

 

「仮に真剣でやったとすれば、そうなるでしょう」

 

「会話が物騒過ぎない?」

 

 何かに耐えかねたのか、夏美がツッコミを入れてきた。

 

「そもそも剣道とは、単純に勝敗を決める為だけの武道ではありません。修練を重ねる事で心身を鍛錬し、礼儀を尊ぶ。“人間形成”を目指す事こそがその本質」

 

 成程⋯ただの戦ではないという事か。強さと共に自己の内面も鍛え上げる⋯競技的な側面が強いようであるが、その実中々に奥が深いものよ。

 

 余は真冬の説明を踏まえて、今一度地稽古を観察する。

 

 型。

 

 間合い。

 

 足運び。

 

 面。胴。小手。

 

 ⋯残心。

 

 ーー概ね把握した。

 

 あとは実際に竹刀とやらを試したいところだがーー

 

「そこまでっ!!」

 

「ありがとうございましたっ!!」

 

 主将の号令で、部員達は即座に地稽古を止め礼をする。どうやら終わったようであるな。

 

 散開する部員達の隙間を縫って、主将の男がこちらへやってくる。

 

「剣道部主将、三年の真田だ。道場まで足を運んでもらい礼を言う。」

 

 ほう⋯筋骨隆々のその姿は、まさに戦士の風貌であるな。それにこの気配⋯恐らくは、先程の蜂須賀以上か。

 

 「この見学で剣道とは何か、朧気にでも理解してもらえたのであれば僥倖だ」

 

 真田は言葉を続ける。

  

「見るだけというのも味気が無いだろう。これから皆には実際に竹刀を持ち素振りをしてもらおうと思う。おい、持ってこい!」

 

 真田が部員に指示を出し、人数分の竹刀を持ってこさせた。指揮官としての素質も持つか、よいぞ。

 

「すまないが、俺は少し席を外す。そうだな⋯阿久津!暫く見ててやってくれ!」

 

 真田に呼ばれやってきたのは、例の男。確か⋯阿久津秋人であったか。

 

「俺まだ仮入部なんすけど!?」

 

「仮でも入部は入部だ。同じ一年なのだから気心も知れるだろう?」

 

「いや、知らないヤツばっかり⋯ん?」

 

 阿久津の視線がこちらへと向く。どうやら奴も気づいたようであるな。

 

「はぁ⋯りょーかいっす」

 

「なんだその気の抜けた返事は!気合い入れろ!!」

 

「押忍!了解っす!!」

 

 主将の叱咤に、阿久津は背筋を伸ばし気合いの入った返事をした。主将が離れていくのを見届けた後、余達は阿久津に声をかける。

 

「久しいな、阿久津よ」

 

「この間はありがとね」

 

「ありがと〜!」

 

「お前ら、この間の⋯まぁ気にすんな。俺がそうしたかっただけだしな」

 

 ほう、中々謙虚な奴⋯いや、違うなこれは⋯信念、か?

 

「それより、素振りするんだろ?ほら、竹刀」

 

 阿久津は余達一人一人に竹刀を持たせていく。⋯ふむ、軽いな。

 

「へぇ⋯竹刀って初めて持ったわ。こんな感じなのね」

 

「思ったより軽いんだね〜」

 

「持ち方はこうだ。それじゃ、振ってみな?」

 

 阿久津の指導の元、まず夏美が竹刀を振る。

 

「やっ!はっ!け、結構難しいのね⋯?勢いで全身が持ってかれそうだわ⋯」

 

ふむ、どうやら夏美はまだまだのようであるな?心春のほうは⋯

 

「めぇ〜ん!ど〜う!こてぇ〜!」

 

 ブンブンと竹刀を振り回しておる。いや、竹刀に心春が振り回されておるのか⋯?

 

「やってみると中々上手くいかないだろ?構えがしっかりしてねぇとそうなるんだよ」

 

 成程な⋯では余も試してみるか。そうして竹刀をーー構える。

 

「⋯は?」

 

 そう⋯こうだ。そして竹刀をーー振り下ろす。

 

「フンッ!!」

 

 ビシュッ、と余の斬撃が空気を切り裂く音が響いた。

 

「っ!?嘘だろ⋯?」

 

 ふむ⋯結構しなりよるな、この竹刀というやつは。軽さも相まって、思うようにいかん。少し修正する必要があるな。

 

 そうやって余は何度も素振りを繰り返す。

 

「すご⋯様になってるわね」

 

「シアちゃんかっこい〜!」

 

 ⋯よし、こんなものか。

 

「いや⋯すげぇなお前」

 

 余が素振りを止める頃合を見計らって、阿久津が声をかけてくる。

 

「うん?何がだ?」

 

「初心者でそこまで出来るやつは普通居ねぇよ。もしかして経験者なのか?」

 

「いや?竹刀に触るのもこれが初めてであるが?」

 

「マジかよ⋯」

 

 なにやら驚愕しておるようだが、そんなに驚く事でもあるまいに。

 

「期待の新人現る!ってやつか⋯お前が入部したら、女子の方も全国狙えるかもな」

 

 む?何やら勘違いしておるようだが⋯

 

「余は入部せんぞ?」

 

「⋯はぁ!?」

 

 なんだ、先程から何度も驚きよって。忙しいやつよ。

 

「いや、お前!そんだけやれるのに入部しないのかよ!?」

 

「当然だとも。元よりここへは其方に会いに来たのだ、入部するつもりなど無いわ」

 

「マジか、勿体ねぇ⋯って俺に会いに来た?そりゃまた何でだよ?」

 

 うむ、気になるであろうな?ならば答えてやろう。

 

「それはだな⋯余にもよく分からんっ!」

 

「いやホント何しに来たんだよ!?」

 

 おぉ、阿久津よ。良いツッコミであるぞ。夏美の好敵手になれるやもだぞ?

 

「まぁなんだ、其方に何か感じるものがあったのは事実よ。それが何かは分からぬがな?」

 

「意味わかんねぇ⋯で、それじゃもう帰るのか?」

 

 阿久津の問いに、余はニヤリと笑う。

 

「いいや。図らずも別の目的が出来てしまったわ」

 

「なんだよ、別の目的って⋯?」

 

「この剣道部で一番の強者は、奴か?」

 

 余は真田へと視線を向ける。

 

「主将の事か⋯?俺もまだよく分かんねぇけど⋯多分そうだと思うぜ?」

 

「なら、奴を倒せばよいな」

 

「は?お前何言って⋯ちょ、おい!」

 

 そうして余は、離れた場所に居る真田の所へと向かった。

 

 

「真田とやら。少し構わぬか?」

 

 真田は蜂須賀と何やら話しておるが、構わず余は声をかけた。

 

「ぬ、どうした?もし入部希望ならばまずは届を⋯」

 

「いや、そうではない。入部はせぬ」

 

 余がそう言うと、真田は怪訝そうな顔をした。

 

「⋯ならばなんだ?悪いが今忙しいんだ。後にしてくれないか。」

 

「余と勝負しろ」

 

「⋯なに?」

 

 真田の目つきが鋭くなる。

 

「余と勝負をしろ、と言っておる」

 

「⋯バカを言うな。素人と勝負など出来る訳がないだろう」

 

「余が勝ったら、この剣道部を余の配下とする。よいな?」

 

「何を言ってるんだお前は⋯」

 

 余の発言が理解出来ぬのか、困惑した顔で真田は言った。

 

「ふざけるな、冗談に付き合ってる暇はない。」

 

「ふざけてなどおらぬ、大真面目よ。もしや⋯負けるのが、怖いのか?」

 

「何だと⋯っ」

 

余の挑発に真田は激昂する。ふむ、もう一押しか?

 

「情けない奴よ。よもや敵前逃亡とはな⋯これでは剣道部自体もたかが知れておるな?」

 

「この⋯っ!!言わせておけば⋯っ!!⋯すぅーっ⋯ふぅ⋯」

 

 今にも掴みかからん程に激昂していた真田であるが、呼吸を整え、平静を取り戻し余に言った。

 

「⋯帰ってもらおう。この神聖な道場には、貴様のような者は相応しくない。」

 

 ⋯ふむ、挑発には乗らぬか⋯どうしたものかと余が思案しているとーー

 

「おぅ、テメェら!ちゃんとやってんのかァ!?」

 

 やたら乱暴な口調の男が道場に現れた。あやつはーー

 

「「押忍!!お疲れ様です!鬼塚先生!!」」

 

 あぁそう、鬼塚であったな。

 

「どうしたァ!止まってんじゃねぇぞォ!動けや!!」

 

「「押忍!!」」

 

 鬼塚がそう檄を飛ばすと、こちらの様子を伺っていた部員達が一斉に練習を再開した。そして鬼塚は、こちらへと向かってくる。

 

「よぉ、真田。何してんだテメェ?」

 

「押忍!!い、いえ⋯この者が何やらふざけた事を言い出しまして⋯」

 

「⋯あん?」

 

 余の存在に気づいた鬼塚は、こちらへと振り向く。

 

「テメェは⋯一年A組の九条じゃねぇか。何してんだ、こんな所で」

 

「鬼塚か。其方こそ何故ここに?」

 

「呼び捨てしてんじゃねぇよアホ。俺はここの顧問だぜ?居たって不思議じゃねぇだろうが」

 

 なんと、この者が剣道部の顧問であったか。ならば丁度よい。

 

「鬼塚顧問よ。この剣道部、余の配下とする。そこの真田とやらを倒してな」

 

「こいつ⋯!まだそんな事を⋯っ!」

 

「待ちな、真田。⋯おい、九条よォ。配下ってなぁ、どういう事だァ?何企んでんだテメェ」

 

 余に食ってかかろうとする真田を制し、鬼塚は余に問う。

 

「知れた事。ここを学園征服の足掛かりにする為よ」

 

「⋯へェ、征服、ねぇ⋯⋯」

 

 一拍置き、ニヤリと笑い鬼塚は言う。

 

「ーー面白れぇじゃねぇか」

 

 

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