かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜 作:西谷慎一郎
「やってやれや、真田」
「な⋯っ!?」
意外にも乗り気の鬼塚は、真田に対して余との勝負を促した。
「馬鹿な⋯こんな配下だの征服だの宣う狂人の相手をしろと言うのですか⋯っ」
「狂人、結構な事じゃねぇか。それによ⋯テメェが勝ちゃいいだけの話だろ?難しく考えんな」
む、狂人扱いは遺憾である。あと余が負けるはずがなかろうが。
「し、しかし⋯」
「ウダウダ言ってんじゃねぇ、いいからやれ」
尚も渋る真田に鬼塚は命令する。
「⋯分かりました。先生がそこまで仰るならば」
ようやく覚悟を決めたらしい真田の言葉に、鬼塚はニィと笑う。
「決まりだ」
鬼塚は満足気に言い、真田の肩を叩きーー
「気張ってやれや。じゃないとテメェ⋯負けるぜ?」
「⋯っ」
そう言い放ち、場を離れていく。
「⋯何者なんだお前は」
ふむ?聞きたいか?そうかそうか!では答えてやろう!
余はどこからともなく取り出した冠とマントを装着し、高らかに叫ぶ。
「余の名はアレクシア・九条!人呼んでアレキサンダー大王よっ!!」
ふっ⋯決まったな。
「⋯⋯十五分後に始める。必要な物は貸し出すので準備をしておけ」
そう言い残し、真田は場を離れていった。
何だ、無反応とはつまらぬ奴。鬼塚よ、壁際で大笑いするでないわ。
「⋯何やってんの、アレクシア」
真田と入れ替わりに夏美達がやってくる。
「見ての通りだぞ?」
「うん、分かるけど分かんない。ってかそれどこから出したのよ⋯」
うむ、それは⋯秘密である。
「また懲りずにそんな格好して⋯ほら皆も呆れてーー」
「いや⋯かっけぇなそれ⋯!」
「うん、かっこい〜よ〜!」
「⋯悪くありませんね」
「えっ?嘘でしょ?ってか茅野さんまで?」
其方達、分かっておるではないか⋯これぞ王の装いよ。
「おかしい⋯いや、もしかしておかしいのは私だった⋯?」
ふむ、何やら夏美がブツブツ言っておるが⋯まぁよかろう。余は準備をせねばな。
その後、余は部員の手も借りて剣道着と防具一式を装着した。ふむ⋯思ったよりも重量があるな。多少動きは鈍るであろう。
この面とやらは思った程視界の邪魔にはならぬな。これならば問題あるまい。余がそうやって感触を確かめていると、阿久津が声をかけてきた。
「なぁ⋯本当にやるのかよ?主将に勝てる訳ないだろ⋯そもそも征服とか意味分かんねぇ⋯」
「ふむ⋯其方はそう思うか。だがそれは違う」
余は立ち上がり、竹刀を持つ。
「余は負けぬ。欲しいものは征す。余が王である限り、それは当然の理なのだ。そこに意味などない」
余はそれだけ言い残し、真田の待つ戦場へと向かう。
「⋯分からねぇよ。もしかしてお前はーー」
微かに聞こえた阿久津の言葉は、全てを聞き取ることは出来なかった。
「真田よ、待たせたな」
「⋯ああ。早速始めよう、くだらない時間は早く終わらせたい。⋯蜂須賀!審判を頼む!」
「承知仕ったでござる」
そうして互いに位置につく。
「九条殿に確認でござるが⋯制限時間五分、三本勝負、二本先取したほうが勝利にござる。宜しいか?」
余は頷いた。
「それでは⋯礼っ!ーー始めっ!」
開始の合図と共に、真田が動いた。
「悪いが、早々に決めさせてもらう!ヤァァァァッ!!」
真田が踏み込み、余との距離を一瞬で縮めーー
「メェェェェンッ!!」
余の脳天に衝撃が走った。
「メンあり、一本でござる!!」
道場内がざわつく。ふむ⋯中々の一撃であったな。
「⋯やはり素人だな、警戒するまでもない」
ほう、言いよる。随分と余を舐めてくれよるわ。
ーー掛かったな
「始めっ!」
余は号令と同時に踏み込みーー
「なっ!?」
「ハァァァァッ!!メンッ!」
真田の脳天に向けて、竹刀を振り下ろす。ーー道場内に乾いた打撃音が響いた。
「⋯おい、蜂須賀。ボーッとすんじゃねぇよ。今のはどうなんだァ?」
「⋯はっ!?め、メンあり!一本でござるっ!」
真田の時とは違い、道場内は静まり返っている。はっ、どうやら余の力を見て言葉もないようであるな?
「ば、馬鹿な⋯動きがまるで違う⋯」
「おう、どうした?早く位置に戻らぬか」
「くっ⋯!」
奴が平静を取り戻す前に決めねばな。
「は、始めっ!」
先程と同じく、余は踏み込み間合いを詰める。
「くっ!な、なんなんだ⋯一体なんだお前はァ!!」
真田が思わず竹刀を振り上げたところをーー
「ーー大王よ」
余の一撃が、胴を薙いだ。
「ど⋯胴あり、一本⋯勝者、九条殿でござる⋯」
「ば⋯かな⋯」
ふむ、まぁこんなものであろうな。よい訓練になったわ。
互いに位置へ戻り、礼をする。するとそこへ鬼塚がやってきた。
「真田、テメェ⋯負けたな」
「⋯すいません」
「あーあ、だから気張れっつったのによォ⋯」
小指で耳をほじりながら、鬼塚が呆れたように言った。
「いいか、テメェの敗因はたった一つだ。相手を舐めた事。ちゃんと全力出せてりゃ、勝てねぇ相手じゃ無かったはずだぜ?」
「⋯返す言葉もありません」
⋯そう、鬼塚の見立ては正しい。実際剣道の練度だけで言えば、真田は余よりも遥か上の者よ。
まともにやり合えば勝ち目は薄い。故に、策を弄する必要があった。
「⋯まぁ、コイツはそれを理解した上で⋯色々と企んでやがったようだがな?」
⋯やはり気づいておったか。鬼塚、こやつもまた紛れもない強者であろう。
「そうか⋯俺の油断と動揺を誘う為に⋯まさか最初から⋯?」
「そういうこった。みすみす敵の術中にハマりやがってよォ⋯これを教訓に、更に精進しろよ?」
「⋯押忍」
「声が小せェ!!」
「押忍っ!!」
⋯さて、肝心な話をしたいところであるが⋯この格好は些か窮屈であるな。
「すまぬが、これを脱いできても構わぬか?暑くて敵わん」
「ん、ああ。もう終わったんだ、好きにしろ」
そうして余が防具を脱ぎ終わった時、丁度夏美らが余の元へやってきた。
「お疲れ様。勝っちゃったわね⋯」
「シアちゃん凄かったよ〜」
「余は余であるからな。当然の結果よ」
「⋯」
む、どうした阿久津よ黙り込んで。変な奴であるな。
「でもあの人って凄い強いのよね?もしかして運が良かったとか⋯」
「いいえ、それは有り得ません」
夏美の疑問を否定した真冬が、そのまま言葉を続ける。
「彼もまた、全国大会にその名を連ねる者。その実力は確かなものです。運だけで勝てる相手ではありません」
「そう⋯なんだ。じゃあ何でアレクシアは勝てたの?」
「それは⋯私にもまだ、分かりませんが」
そう言いながら真冬は余をチラリと見る。
「⋯今はまだいいでしょう。それでは、失礼します」
そう言い残し、真冬はこの場を去っていった。
「よく分かんないね〜」
「そうね、アレクシアはよく分かんないわ。きっと変態なのよ」
「辛辣過ぎであろう?」
全く、夏美ももっと余に対して敬意というものをだな⋯おっと、のんびりと話しておる場合ではないな。
「余は戦後処理をしてくるが、其方らはどうする?」
「そうね⋯すぐ終わるんでしょ?なら待ってるわ」
「行ってらっしゃ〜い」
「うむ、承知した」
真田達の居る場へ戻った余は、早速話を切り出した。
「真田よ、余は其方に勝利した。故に今後剣道部は、余の配下という事構わぬな?」
「いや、流石にそれは⋯」
「あー⋯まぁいいんじゃねぇか?約束は守んねぇとなァ、真田」
「⋯先生がそれで構わないとおっしゃるのであれば」
おぉ、よい援護であるぞ鬼塚。
「別に配下になるといってもよ、特に何かしろって訳じゃねぇんだろ?王様よォ」
「平時はそうであるな。だが、有事の際は余の役に立ってもらうぞ?」
「おぉ、怖ぇな。何させられるのやら。」
「⋯全く、大した女だ。お前は」
うむ!これにて剣道部、征圧完了である!
と、思ったのだがーー
「待ってくれ」
突然声がしたほうに振り向くと、そこには阿久津の姿が。奴から感じるこれは⋯敵意?
「次はーー俺の番だ」