かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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第4話「余、外界へ踏み出す」

 

「⋯よし、支度はこれでよいな。」

 

 これより予定通り、余は早朝の走り込みを行う。やはり体力がないと遠征もままならぬからな。

 

 服装は体操着という物を着用した。これが中々に動きやすく、機能美に優れておる。

 

 しかし、このままでは些か肌寒い。季節は恐らくデュストロスの時期であろうか⋯?日本では3月と言うようだが⋯余が分かりにくいのが欠点だな。

 

 体操着の上からジャージとやらを着込み、玄関へと向かう。そして余は履き物⋯スニーカーという物らしいが。記憶を頼りにそれを装着する。

 

 ⋯ふむ。軽く、しなやかで動きを阻害しないよう設計されている。実に素晴らしい履き物だが⋯惜しむらくは、耐久性があまり備わっておらぬ事だな。長期に渡る行軍には適さぬだろう。

 

 余が玄関でスニーカーの履き心地を確かめていると、突然声を掛けられた。敵襲か?

 

「やぁアレクシア、おはよう。こんな朝早くにどうしたんだい?」

 

「む、父上か⋯おはよう。」

 

 この御仁はアレクシアの父⋯つまり今世における余の父上らしい。失礼ではあるがあまり強そうには見えない⋯兵士にはなれぬが、執務官辺りに最適やもしれぬ。

 

「いやなに、少々身体を鍛えようと思ってな?余はこれから走り込みを行うところだ。」

 

 余がそう言うと、父上は笑ってこう返した。

 

「⋯いやぁ、やっぱり良いねその口調⋯まるで本当に大王が降臨されたようだ。実を言うと、アレクシアは前々から大王の素質があるんじゃないかって思ってたんだ⋯ついに、覚醒したんだね⋯我が王よっ⋯!」

 

 父上よ⋯年頃の娘に向かってそれは余、どうかと思う。あとうっとりするな、気色悪いぞ。あながち的外れでもないのが逆に恐ろしいわ。

 

「う、うむ⋯それでは余は出掛けるとする。父上はしっかり勤めを果たせよ。」

 

「⋯ははっ、我が王の御心のままにっ!」

 

父上は跪き、臣下の礼をとった。⋯うむ、忠義は素晴らしいな。父としてはどうかと思うが。

 

 そして余はついに、外の世界へと足を踏み出した。

 

 

外の光景は正に異文化のそれであった。余とて数多の国を征服してきた王、見慣れているつもりではあったが⋯ここは記憶にあるどの国とも一致せぬ。

 

 住居の建築様式は見たところ木造か⋯?しかし石材等は使われておらぬように見えるが⋯吹けば飛んでしまうのではないか?

 

 この地面⋯なんだ?石畳とは違う⋯見た目は黒い砂利のようにも見えるが、それも違う⋯⋯平坦で滑りにくく、それでいて滑らか⋯行軍には適しているな。

 

 道の端には等間隔に石柱が並んでいる。神殿のように見えなくもないが⋯石柱同士は複数の黒い紐で繋がれているな⋯うむ、分からん。

 

 まぁアレクシアの記憶を辿れば分かる事なのであろうが⋯今はまだよい。今日の目的は走り込みゆえな。

 

 そうして余は黒い地面の上を走り出した。

 

 バテた。

 

「はぁ⋯っ、はぁ⋯っ!な、なんだこの貧弱な身体は⋯っ!」

 

 ここまで体力が無いとは、流石の余も想定外だ。もっと速度を落として慣らしていくしかあるまい⋯

 

「すぅー⋯ふぅ⋯よし、落ち着いてきたな⋯では再開といこう」

 

 息を整え、余は先程よりも数段遅い速度で走り出した。⋯うむ、このくらいであれば問題無さそうだ。

 

 暫く黒い地面を道なりに走っていると、周りの風景とは一変した木々に囲まれた場所が見えてきた。

 

「森⋯?いや、整備されておるな。意図的に自然を残し管理しておるのか。」

 

 どこぞの庭園か何かかと思ったが⋯どうやら出入り自由のようだ。それならば、と⋯余は中に足を踏み入れた。

 

 この場所⋯どうやら公園というらしい。中は適度に木が生い茂り⋯道は先程までの黒い地面と違い、土を歩きやすいように整地されている。奥には池のようなものも見えるな。思ったよりも広いのかもしれぬ。

 

 余は走り込みを再開した。見れば、多くは無いが疎らに人の姿が見受けられる。恐らくこの町の民なのであろう。⋯この光景を目にして、余が思ったのは一つ。

 

 平和だ。争いもなく、民が怯えることなく生活する世界。⋯まるで理想郷だな。

 

 余が、物思いにふけりながら走っていると、すぐ側を一際目の引く女子が走り抜けていった。

 

「お先っ!」

 

 女子はそう言うと、余よりも数段早い速度で駆け抜けていく。

 

「⋯待てっ!」

 

 余を抜き去るとは何たる不敬、王とは如何なる時も先頭に立たねばならぬ存在である。余はそれまで抑えていた王の力を解放し、全身全霊をもって女子を追撃した。

 

「⋯っ!?」

 

 余がまさに抜き去ろうとした時、女子の驚愕した表情が見えた。ふ⋯勝った。余の前を行こうなど十年⋯いや二千年早いのだ。

 

 だがその直後、余はバランスを崩しーー

 

「危ないっ!」

 

 豪快に地面へとその身を叩きつけられようとしたその時⋯かの女子が余の腕を、間一髪のところで掴み引き寄せた。

 

「せ、セーフっ⋯!ヒヤッとしたぁ⋯⋯ちょっとあなた、駄目よあんな急激なペースアップしちゃ⋯今みたいに足がついてこなくなるわよ?」

 

「う、うむ⋯すまぬ、助かった⋯礼を言うぞ。」

 

 やれやれ、まだ意識に身体が着いてこぬ⋯今の華奢な身体では、あのまま地面に叩きつけられていればタダでは済まなかったろう⋯この女子には感謝せねばなるまいな。

 

 見れば中々に美しい顔立ちをしておるな⋯黒く艶やかな髪は後ろに纏めて結われている。身体は細身だがしっかりと引き締まっており、よく鍛え上げられておるようだ。

 

「ふぅ⋯丁度いいし、ちょっと休憩しようかな。⋯あなたも一緒にどう?足プルプルしてるし、休んだ方がいいわよ?」

 

 む、自分では気づかなんだが⋯かなり負荷がかかっておったようだ。

 

「うむ、それでは余も共に休むとしよう」

 

「うん、それがいいわ。それじゃあそこのベンチで一休みしましょ。飲み物買ってくるけど、あなた何がいい?」

 

「む、余か?⋯まぁ、毒でなければ何でもよい」

 

「毒⋯?まぁいいわ。それじゃあ何か適当に買ってくるわね」

 

そう言って女子は走り去っていった。

 

 ふむ⋯?この辺りに飲み物が売っている市場があるのだろうか⋯?それならば、一度ワインでも見繕いに行きたいものよ。久しく飲んでおらぬゆえ、な。

 

⋯水ならば目の前の池に山ほどあるが、あれは飲めんのか?

 

 色々と考えてるうちに、女子が戻ってた。随分と早いな。

 

「おまたせ、はいコレ。」

 

 そういって渡されたのは、何やら見慣れぬ筒状の物。壺に見えなくもないが⋯しかし質感が陶器のそれではない。それに何故か⋯とても冷えている。妙だ⋯

 

「その方、これはなんという物だ?」

 

「何って⋯ただのスポーツドリンクよ?やっぱ運動の時はこれよね〜」

 

 そう言うと女子は筒状の先端にある細い部分を回転させ取り外し、そのまま口を付けて中身を飲み始めた。

 

 ⋯成程、そうするのか。余は同じように先端を取り外したが⋯よく見るとこの筒、外側が透けて中身が見えるようになっているな⋯なんとも奇っ怪な。そして肝心の中身だが⋯白く濁っておる。これは⋯飲めるのか⋯?

 

 余がまじまじとそれを見つめていると、不思議に思ったのか女子が声をかけてきた。

 

「⋯どうしたの?飲まないの?」

 

「いや⋯ちと気になることがあってな。これは飲めるのか?毒ではないのか?」

 

「だから何よ毒って⋯私も同じの飲んでるんだから大丈夫よ、ほら」

 

 ⋯成程、確かに同じ物だ。

 

「う、うむ⋯疑ってすまぬな⋯では有難く頂くとしよう。⋯こ、これは⋯!?」

 

まず驚いたのが、そのあまりにも自然な甘み。余が知るワインなどとは違い、ほのかで雑味の無い⋯洗練された甘みだ。

 

 次に来るのは、恐らく果実由来のものであろう風味。今まで味わった事の無いものだが、不思議と身体に染み渡る感覚だ⋯悪くない。

 

 そして持った時から薄々感じていたが⋯やはりよく冷えている。母上から頂戴した水も冷えておったが⋯この国にはそこかしこに氷室があるとでもいうのか⋯?どうやらまだアレクシアの記憶を覗く必要がありそうだ⋯

 

 余が確かめるように少しずつのんでいると、不思議そうな顔をした女子が尋ねてきた。

 

「⋯もしかしてスポーツドリンク飲んだ事ないの?そういえば金髪で青い目してるし⋯外国から来たの?それにしては日本語が流暢だけど。」

 

「いや⋯余は日本生まれよ。父は日本人だが母がギリシャの出でな、ハーフという事になる。⋯らしい」

 

実感はまだ湧かぬがな。

 

「そうなんだ。⋯⋯変な喋り方してるのも、そのせいなのかしら⋯?」

 

「む、すまぬ聞こえなんだ。なんと言ったのだ?」

 

「ううん、何でもない。それじゃあこの辺りには昔から住んでるの?今まで見かけた事無かったけど⋯」

 

 質問が多いな女子よ。余に興味津々か。

 

「いや、ここには走り込みの途中で辿り着いてな?余の家はもっと向こうの方よ」

 

 そう言い、余は指で家がある方角を指す。

 

「あぁ〜⋯じゃあ学区が別なのかな?あなた歳はいくつ?」

 

「確か⋯15だ」

 

「何でそこ曖昧なの⋯?私も15よ、同い歳ね。じゃあ今まで学校で会ったこと無かったのも、そういう事になりそうね?」

 

「ふむ、成程。分からん」

 

 余、分からん。

 

「私、杉浦夏美。あなたは?」

 

む、名乗られたからには名乗り返すのが礼儀という物よ。

 

「余はアレクシア・九条という。⋯らしい」

 

「いや、何でそんな自信無さげに!?」

 

感情の起伏が激しい女子よ、実に愉快であるな。

 

「ホント⋯変な子ね。⋯ねぇ、良かったらまた一緒に走らない?毎日って訳じゃないけどね。」

 

 ⋯ふむ、一人で鍛錬するよりも効果が見込めるやもしれんな。

 

「余は構わぬぞ」

 

 余がそう言うと、女子⋯夏美は晴れやかな笑顔を見せた。愛いやつめ。

 

「ホント!?良かった⋯一人で走るのもなんだか寂しくって⋯明日はどう?」

 

「よかろう」

 

「うん、それじゃ決まりね。⋯あ、そろそろ帰らないと⋯じゃあまた明日ここで!またねっ!」

 

 夏美はそう言い残し、足早に去っていった。

 

「忙しない女子であったな⋯余も今日のところは帰還するか」

 

余は空になった筒を持ち、その場を後にした。 

 

  

 その後、道に迷い帰還が大幅に遅れたのは⋯また別の話。

 

 

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