かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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第7話「余、真の名を示す」

 

入学式を終え外へと出ると、数名の大人達が新入生の群れをまとめ始めていた。

 

「A組の皆さんはこちらに。私に着いてきてくださいね。」

 

 ふむ、どうやら振り分けた組毎に別れるようだな。察するに、あの者が余の指導者なのであろう。

 

 余はその者の声に従い、移動を開始した。

 

 移動の最中、不意に肩を叩かれ余が振り向くとーー

 

  余の頬に人差し指が刺さった。

 

「⋯何をしておるのだ、夏美」

 

「へへっ、ちょっとやってみたくなっちゃって」

 

 そこには、したり顔でにやけた夏美の姿があった。

 

「久しぶりね、アレクシア。と、言っても⋯数日前に会ったけど。この並びに居るって事は、もしかしてA組?」

 

「いかにも。夏美もであるか?」

 

「うん、一緒だね」

 

 そうか、夏美もまたA組に選ばれし者であったか。

 

「ふふ⋯流石、余が見込んだ者よ⋯やるではないか」

 

「うん、相変わらずの様子でむしろ安心感さえあるわね」

 

 夏美と話しながら進んでいると、また別の大きな建造物が見えてきた。

 

「夏美よ、目的地はあそこか?」

 

「ちょっと待って⋯ええ、そうね。あそこに私達の教室があるわ。教育棟Aっていうらしいわ。」

 

 資料にある、学園案内という紙を確認しながら夏美はそう答えた。

 

「成程な⋯そこが余の主戦場となる訳か」

 

「そういう事ね、知らないけど」

 

 そうこうしてる間に、余達は教育棟Aとやらに辿り着いた。

 

「それじゃあ、ここで靴を上履きに履き替えて。脱いだ靴は靴箱に入れてくださいね」

 

 ここで指導者から新たな指示が入る。

 

「ふむ⋯夏美よ、これはどこへ入れればよいのだ?」

 

「えーと⋯こっちね、名前が書いてあるわ」

 

 夏美が指し示す場所には、確かに余の名が刻まれていた。

 

「おお、大儀であるぞ」

 

「どーも」

 

 余達はそれぞれの場所へ靴を収めた。その時ーー

 

「あっ、シアちゃんだ〜!」

 

 なんとも間の抜けたような声が聞こえてきた。余をシアちゃんと呼ぶのは⋯

 

「心春か」

 

「えへへ〜さっきぶり〜」

 

 ぴょこぴょこ歩きながらこちらへとやってきた。まるで小動物のようである。

 

「えっと⋯知り合い?」

 

 夏美が不思議そうな顔をして尋ねてきた。

 

「うむ。駅で難儀しておったところを助けてもらってな。」

 

「そうそう、それでお友達になったんだよ〜」

 

それを聞いた夏美は、少し考え込むような仕草をする。

 

「そうなんだ⋯ねぇ、私も友達?」

 

どうした夏美よ、藪から棒に。

 

「ふむ⋯そうだな、夏美も友であるぞ」

 

「えー?何かついでって感じに聞こえるけどぉー?」

 

 余の返答に不満を漏らしながらも、どこか満足気な表情であるな。

 

「まーいいわ。⋯えっと、心春さん?私は夏美。杉浦夏美よ。宜しくね?」

 

「心春でいいよ〜。私は柊心春、よろしく〜!」

 

「うむ、では互いに名も知れたところで⋯そろそろ参ろうか!」

 

「おーっ!」

 

「あっ、ちょっと!置いてかないで!」

 

 そうして余達三人は、A組の教室へ向かい歩き出した。

 

 

 目的の場までの道中⋯ふと疑問に思ったのか、心春がこのような事を言い出した。

 

「そういえば、席ってもう決まってるのかな〜?」

 

「多分決まってるでしょ?最初だしね」

 

 ふむ、席⋯それぞれの配置か。

 

「戦において、兵をどこへ置くかは極めて重要である。そこを気に掛けるとは、心春もやるではないか」

 

「えへへ〜でしょ〜?」

 

「いや、戦じゃないからね?心春も何で受け入れてるの?」

 

「ん〜⋯楽しいからかな〜?」

 

「うむ、何事も楽しんでこそよ。寛容な心は個人の戦意を高め、それは全体の士気向上にも繋がる。夏美も楽しむがよいぞ?」

 

「いや、だから戦じゃないって⋯でも、そうね。理にはかなっているのかも⋯」

 

 余の言葉に何か思うところがあったのか、夏美は思案を始めたようだ。

 

「あ、教室あそこみたいだよ〜」

 

 心春が指を指す先を見るとーー教室へと入っていく生徒達の姿と、入口上部に備え付けられた“1ーA”の文字が刻まれた板。

 

「どうやらそのようであるな⋯よし、余が先陣を切る。其方らは遅れず後に続け!」

 

「はいはい⋯おおせのままにー」

 

「ままにー!」

 

 余達が教室の扉をくぐると、そこには指導者と複数の生徒達の姿があった。⋯ふむ、ここがこれから余が様々な事を学んでいく場か。

 

 床は道場に似た板材が敷き詰められており、その上には机と椅子が等間隔で並べられておる。既に何人かの生徒が席に着いておるようだ。

 

 向かい側の壁には大きく広がる窓。あの透明なガラスには未だ慣れぬな⋯どのような技術を用いればあのように透けるというのか。

 

 右側には教台があり、壁には深き緑の板⋯確か黒板というのであったか。繰り返し書き消しを行える蝋板のようなものであろう。

 

「それでは、自分の名前が書かれた席に着いてくださいね」

 

 指導者から次の指示が出る。

 

「夏美よ、余の席はどこであろうか?」

 

「何で一々私に聞くの⋯?えっと⋯ほら、あそこよ。私はあっちみたいね。」

 

「私はこっち〜」

 

 夏美と心春はそれぞれの席へと移動した。余も示された席へ着こうとしたがーー

 

「其方は⋯先程の」

 

「⋯貴女もA組だったのですね」

 

 余の隣の席ーーそこには道場で手合わせを行った銀髪の女子が居た。

 

「うむ、余であるがゆえな。其方もA組とは⋯流石であるな?」

 

「⋯意味が分かりかねます」

 

 そう言いながら、女子は余から視線を外す。相変わらず、感情が読めぬやつよ⋯そういえば名を聞いておらぬかったな。

 

 余は席へ腰を下ろし、女子へと問いかける。

 

「其方、名は?」

 

 女子は再度視線だけこちらへ向けるが、直ぐに戻し言った。

 

「⋯今は答える必要がありません。直に始まります」

 

「む、そうか⋯」

 

 若干腑に落ちぬが⋯女子はこれ以上語ることは無い、とでも言いたげに静かに正面を見据えている。

 

 ⋯まぁよい。いずれ分かることであろう。

 

 余もそれに習い正面を向く。そういえば、これから何が始まるのか全く把握しておらなかったな⋯

 

 程なくして、教台に指導者が立ち話し始めた。

 

「はい、お静かに。各自、席に着きましたね?まずは改めて⋯新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。これから一年間皆さんの担任を務めさせていただきます、橘静莉と申します。宜しくお願いしますね?」

 

成程⋯一年間この組の統率を担う者、という事であるな?

 

「それでは、最初のLHR(ロングホームルーム)を始めます。」

 

 ロングホームルームとはなんであろうか⋯?現代の戦術名か⋯?

 

「まずは皆さんに、自己紹介をしていただきます。名前と⋯簡単な一言で構いません。では出席番号順に⋯」

 

 ふむ⋯一人づつ名乗りと口上を述べよ、か。粋なことをしおるわ。

 

 指導者⋯橘の言葉に生徒達がざわつく。

 

 「えー緊張する…」

 

 「何話せばいいんだろ…」

 

どうやら皆は言葉に悩んでおるらしい。⋯無理もない。余も初めての出陣前には、激励の言葉に大層悩んだものよ。

 

 ーーここだな。入学式ではついぞ機会が無かったが⋯ここしかない。順に生徒達が名乗りを上げていく中、余は自身の番を今か今かと待ち望んでいた。

 

「⋯茅野真冬です。趣味等は特には。宜しくお願いします。」

 

 む、あの銀髪の女子⋯真冬というのか。先程名乗らなかったのも、この事を見越していたという訳であるか⋯やりおる。

 

 真冬はちらりと余を見て、再び席に着いた。⋯ふふ、まるで“次はお前の番だ”とでも言いたげのようではないか。

 

 ーー良かろう、しかと見届けよ。

 

 口角を上げ、笑みを浮かべながら⋯余は席を立つ。

 

 そして持参した紙袋を持ち、ゆっくりと、前へと出る。

 

 何事かと再びざわつく生徒達。

 

「えっと、九条さん⋯?自己紹介はその場で⋯」

 

「すまぬな、橘よ。少々場を借りるぞ」

 

「は、はい⋯?」

 

 混乱する様子の橘を置き、紙袋から余の魂とも呼べる装いを取り出す。

 

 

 頭には、月桂樹の冠を

 

 

 肩には金の装飾が施された深紅のマントを

 

 

 そして余は振り返り

 

 

 ーー告げた

 

 

「ーー余の名はアレクシア・九条⋯真の名は、アレクサンドロス三世!人呼んで、アレキサンダー大王であるっ!!」

 

 

 余の名乗りに、生徒達は静まり返る。

 

 ふふ、余の威光を前に言葉も無いと見える。

 

 

「同胞達よ、余が其方を導こう!そして宣言するーー余は、この学園を征服する者なり!!」

 

 

 教室内は

 

 

 時が止まったかのような静寂に包まれた。

 

 

 

 

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