かつてアレキサンダー大王と呼ばれた余が、現代日本に転生して女子高生に!?〜二千三百年後という未知の世界にて、余は再び征する〜   作:西谷慎一郎

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第8話「余、魂を奪われる」

第8話「余、魂を奪われる」

「はい、没収」

 

「なぁっ!?」

 

 余の魂の装いは、橘めにあっさりと奪われてしまった。

 

「な、なにをするっ!」

 

「なにをする、じゃないでしょう?全く、急に前に出て何をするのかと思ったら⋯漫画やアニメの見すぎですよ?こんなものまで用意して⋯」

 

 橘は余の冠とマントを、元の紙袋へと収めていく。

 

「このような物の着用は校則違反です。これは先生が一旦預かっておきますから。いいですね?」

 

「し、しかしだな橘よ⋯あたっ!?」

 

 直後、橘が持っておる“出席簿”と書かれた物で頭部を打たれた。

 

「橘先生、でしょう?教師を呼び捨てにしてはいけません。⋯はぁ、まさか入学式早々生徒に注意する事になるとは思いませんでした⋯さぁ、席に戻りなさい。」

 

「う、うむぅ⋯」

 

 橘静莉⋯なんと厳正なる教師よ。かのアリストテレス先生を彷彿とさせよるわ⋯

 

 余がすごすごと席へ戻ると、次の生徒から名乗りが再開された。

 

 しかし生徒達は何を思ったのか、真の名と征服という言葉を取り入れて名乗り始めた。

 

 これには橘も呆れ顔である。

 

「杉浦夏美です。えっと、言わないと駄目⋯?し、真の名も夏美⋯特技は陸上競技を征服する事です⋯いや何この流れ?」

 

「柊心春だよ〜。真の名はぁ〜コハルン三世!夢は料理で世界征服〜!よろしくね〜」

 

 ほぅ⋯二人共中々の野心家ではないか。それでこそ、というものよ。

 

「⋯はい、皆さん自己紹介は終わりましたね?言うまでもない事ですが⋯征服は本学園のカリキュラムに含まれておりませんので、お間違いなきように。それでは次に⋯」

 

 ーーその後は滞りなくLHRは進み、程なくして終わりを迎えた。

 

「それでは本日はここまでとします。明日からは通常授業となりますので、皆さん遅れないように。それでは解散⋯と言いたいところですがーー」

 

 む、どうした橘。生徒達がざわめいておるぞ?早く申せ。

 

「下校の際、混雑が予想されますので⋯本日はJ組から順次、となります。下校が可能になれば放送が入りますので、各自このまま待機していてください」

 

 そう告げると、橘は教室を出ていった。ふむ⋯戦場での待機と似たようなものか。余が少し思案しているとーー

 

「なぁお前!さっきのあれ中々面白かったぜ!」

 

「自己紹介であそこまでウケ狙いに行く人、あんまいないよねー」

 

「ねぇねぇ!九条さんって外国人?すっごい綺麗な金髪じゃん!」

 

「アレキサンダーってなんか世界征服した人やっけ?もしかしてファンやったりするん?」

 

 ーーいつ間にか、余の周りには人だかりが出来ておった。こやつら、次々と問いを投げかけてきおるな⋯

 

「いや、余は⋯日本とギリシャのハーフでな?あと余はアレキサンダー大王本人であるぞ?」

 

「えっ、まだ続けるんだ⋯ロールプレイってやつ?」

 

「いやすげぇな⋯一周まわって尊敬するわ」

 

 何やら、余は人真似していると勘違いされておるようだ⋯まぁ無理もあるまい。こやつらにとっては余は二千年以上も過去の存在であるからな⋯

 

 余がどう答えたものかと思案しておるとーー

 

「はいストップストップ!そんなに一度に質問しちゃアレクシアが困っちゃうわよ?それにもうすぐ下校なんだし、続きはまた明日にしましょ!」

 

「えぇー⋯まぁそれもそうか。悪かったな、九条」

 

「ごめんねー、また今度時間ある時にお話しよ!」

 

 夏美の一言で、余に群がっていた生徒達は蜘蛛の子を散らすかの如く離れていった。

 

「すまぬな、助かったぞ夏美よ」

 

「いいわよ、このくらい。それにしても⋯何かやらかすんじゃないかと思ってたけど、あれは予想の斜め上だったわよ」

 

「でも、かっこよかったよ〜?」

 

 遅れて心春も余の側へとやってくる。

 

「余はアレキサンダー大王であーる!なんちゃって〜」

 

「やめときましょ?」

 

 心春は面白がって余の真似をし、夏美がそれをやんわりと止めている。

 

「しかし夏美よ、陸上競技を征服とはまた大きく出たものよな?その道、決して容易くはないぞ?」

 

「いやあなたのせいだからね!?別に征服しないから!心春だってそうでしょ?」

 

「えぇ〜?どうかなぁ〜??」

 

「ちょ!?」

 

「はっはっは、夏美よ、どうやら心春はその気のようだぞ?」

 

「いや、なんで!?」

 

 そうやって暫し三人で雑談しておるとーー

 

「⋯九条さん」

 

 銀髪の女子ーー真冬が余に話しかけてきた。

 

「ふむ⋯真冬であったか。其方は無いのか?何か胸の内に秘めた野心は」

 

 余がそう問いかけると、少し目を細めた真冬が答える。

 

「⋯私には、そのようなものありません」

 

 ふむ⋯?何か隠しているような気もするが⋯気のせいであろうか?

 

「ねぇアレクシア。茅野さんとも知り合いだったの?」

 

 疑問に思ったのか、夏美が余にそう問いかけてきた。

 

「うむ⋯今朝方少々な?向こうの道場で手合わせしたのよ」

 

「⋯手合わせ?」

 

「何かで勝負したって事かな〜?」

 

 二人はよく分かってないのか、理解が追いついていない表情をしている。

 

「⋯見た事のない未知の型、足運び。一体それが何なのか⋯興味があります」

 

「ふむ⋯ならば今一度やるか?今度はどちらかが倒れるまでな」

 

 強者との戦いは望むところよ。余は今からでも構わぬぞ?

 

「魅力的な提案ですが⋯遠慮しておきましょう。私もそれ程暇ではありませんので」

 

 そう言うと、真冬は場を離れ歩き出した⋯が。ふと立ち止まるとーー

 

 

「ですがーー」

 

 

「いずれ、必ず」

 

 

 そして真冬は背を向け離れていった。ーーあぁ、余はいつでも受けて立つとも。

 

 

『A組の皆さんは、誘導に従い下校を始めてください』

 

 ふむ、どうやら待機の時間は終わりのようであるな。

 

「皆さん、それでは私に続いてください。慌てて走らないようお願いします」

 

 戻ってきた橘が、生徒達の先導を始める。ではーー

 

「余達も参るとしようか」

 

「ええ、そうね」

 

「は〜い!」

 

 橘と生徒達へ続き、余達も教室を後にした。

 

 

 

 外へと出ると、丁度太陽が天頂へと昇った刻であった。

 

「そういえばもうお昼だったわね⋯あーお腹空いた」

 

 夏美の呟きに、余はふと気になり問う。

 

「む?夏美は昼に食べる派なのか?」

 

「そりゃね。食べないと体が持たないし⋯って、アレクシアは食べないの?」

 

「余は殆ど食わぬな。戦中に食など不要よ」

 

「あなたは毎日何と戦ってるの⋯?」

 

夏美が呆れた顔で余を見てきよる。誠にもって遺憾だぞ?

 

「でも、できたらちゃんと食べた方がいいよ〜?」

 

 すると、何やら若干真剣な顔になったような⋯いやそうでもないような心春が余に進言をしてきた。

 

「お昼ご飯ってね〜、血糖値が下がるの防ぐ役割もあるんだよ〜」

 

「む、血糖値?」

 

「そう、エネルギー切れると集中力落ちちゃうの〜。ぼーっとしちゃうよ〜?」

 

 血糖値が何かはよく分からぬが⋯集中力が落ちるというのは聞き捨てならんな⋯それは戦局を左右しかねないものよ。

 

「補給を行う事で、午後の戦を万全の状態で挑めるというわけか」

 

「うん!そんな感じ〜!」

 

 成程な⋯現代の知識で生み出された新たな戦術という事であるな。

 

「忠言聞き入れたぞ心春よ。余も今後は昼も食を頂くとしよう」

 

「それがいいよ〜!」

 

「なんだろう⋯通じてるようで何かズレてる気がする⋯」

 

 そうして他愛もない会話をしながら、本校舎の傍を抜け主路を進みーー余達は正門近くへとやってきた。

 

 

「それじゃ、親が待ってるから私はここで。また明日ね!」

 

「私もお母さんと帰るね〜、また明日〜!」

 

「うむ、ではな」

 

 二人はそのまま、正門の外へと足早に去っていった。⋯さて、余も父上と母上を待たせておるだろうからな。急がねば。

 

 余が歩を進めようとした、その時ーー

 

「待ちなさい、九条さん」

 

 背後から余を呼び止める声が。何奴と思い振り返ってみれば。

 

「橘か」

 

「だから、橘先生と⋯まぁいいでしょう。これを。」

 

 半ば諦め顔の橘は、余に装いの入った紙袋を渡した。

 

「おぉ、忘れておったわ。余の魂ではないか」

 

「魂なら忘れないでください⋯コホン」

 

 橘は一つ咳払いをし、言葉を続けた。

 

「これはお返ししますが、明確に校則違反となりますので。くれぐれも今後は着用しないように。学校外での事には基本的に関知しませんので、そこはご自由になさってください。ですが、度の過ぎた問題行動は起こさないようお願いします。」

 

「ふむ⋯橘は話が長いな?」

 

「誰のせいだと?」

 

 人に教えを説く者は、いつの時代も堅物でいかんな。そのように眉間に皺を寄せては、美人が台無しであるぞ?

 

「承知した。保証は出来ぬがな?」

 

 そう言って余が笑うと、橘は一層疲れきった顔をした。

 

「⋯では、お気をつけてお帰りください。入学初日から遅刻なんてしないでくださいね?」

 

 そう言い残すと、橘は踵を返し本校舎の方へ去っていった。

 

 

まぁ⋯指導者の指示であるからな。暫くは従うとしよう⋯機を待てばよい。

 

 

 そうして、改めて正門を抜けて見渡すとーー父上と母上の姿があった。

 

「お、待ってたよアレクシア」

 

「アレクシアちゃん、どう?クラスでは上手くやっていけそう⋯?」

 

 母上よ、何故そんなに不安気なのだ?

 

「うむ、委細問題無しよ。余は大人気であるぞ?生徒の心は既に掌握した」

 

「流石は我が王⋯アレクシアだね」

 

「良かった⋯クラスで浮いちゃうんじゃないかと心配だったのよ?ほら、大王語りの子が浮かないはずないし⋯」

 

 うむ、母上は何気に辛辣だな?解せぬ。

 

「それじゃあ、帰ろうか?」

 

「えぇ、そうしましょ」

 

「うむ、参ろう」

 

 こうして式典は無事終わりを告げ、余達は帰路へと着いた。

 

 明日からはどのような戦が始まるのであろうか。

 

 どのように征するかーー滾りよるわ。

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