いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
無人島試験の結果発表から一夜が明け、豪華客船での優雅なクルージングが幕を開けた。
私は身支度を整えた後、手元の端末を操作し、昨日の結果発表に合わせて更新された最新のクラスポイントを確認していた。
【最新クラスポイント】
・Aクラス(一之瀬):1513cp
・Bクラス(坂柳) :1330cp
・Cクラス(龍園) :736cp
・Dクラス(堀北) :316cp
我々Aクラスと坂柳のBクラスは、125cpのプラス。一方のCクラスとDクラスは、200cpのプラスという結果がしっかりと反映されている。
(おおっ、ついに1500ポイント超えか!報酬のプライベートポイントも入ったし、クラス貯金がまた潤うな)
内心でホッと胸を撫で下ろし、端末をポケットへとしまう。
今日と明日の二日間にわたり、船内の掲示板には全グループの詳細な最終結果が張り出されることになっている。あの過酷な特別試験が最終的にどのような形を描いたのか、私としても全く気にならないと言えば嘘になる。
だが、今の私にはそれよりも遥かに優先すべき、至高の使命があった。
それは他でもない――ひよりと共に過ごす、穏やかな読書の時間である。
私は無人島へ出発する前にあらかじめ購入しておいた真新しいハードカバーを片手に、ひよりの客室の前へと足を運んだ。
約束の時間ちょうどに扉が開く。
「お待たせしました、惣右介くん」
私服姿に身を包んだひよりが、パッと顔を輝かせて姿を現した。
そして彼女の後ろから、同室である一之瀬、網倉、白波の三人も連れ立って出てくる。
「あっ! 藍染くん、おはよう! ひよりちゃんのお迎えだね!」
一之瀬が私に気づき、人懐っこい笑顔で手を振ってきた。
「ああ。君たちも、これから束の間の日常を謳歌するつもりかい?」
「うんっ! 私たちはこれからクラスの子たちといろいろ見て回ろうって話してて。……あ、そうだ藍染くん! クルージングの三日目には、クラス全員で集まって打ち上げをしようと考えてるんだけど、どうかな?」
一之瀬からの提案に、私は涼しげな表情で思考を巡らせ、静かに口を開いた。
「――死線を越えた魂たちが交わる祝祭か。ならば、三度目の月が海原に沈む前に、その宴の席に私の玉座を用意しておくがいい。乾ききった杯を満たし、同胞たちと凱歌を分かち合うのも一興だろう」
「『三日目のクラスの打ち上げですね、喜んで参加します』とのことですっ」
私のポエムを、ひよりが即座に、かつ完璧な笑顔で翻訳する。
その淀みない連携に、一之瀬たちは「よかったー!」と嬉しそうに笑い合った。
「それじゃあ、私たちは先に行くね! 二人とも、デート楽しんできてね〜!」
「いってらっしゃーい!」
網倉や白波たちからからかうように見送られ、ひよりは少しだけ頬を染めながら「行ってきます」と小さく手を振り返した。
一之瀬たちと別れた後、私たちは船内に設けられた、クラシックのBGMが静かに流れる落ち着いた雰囲気のカフェへと足を運んだ。
ふかふかのソファ席に向かい合って腰を下ろし、それぞれが持参した本を開く。淹れたての珈琲の芳醇な香りが鼻腔をくすぐり、無人島で極限まで酷使した心身を優しく解きほぐしていく。
(クーラーの効いた空間で美味しい珈琲を飲みながら読書! 無人島の過酷なサバイバルからの落差もあって、マジで天国すぎる……!)
落ち着いた空間で読書を楽しみながら時折、本の世界に深く没頭しているひよりの顔を眺めては、静かに幸せを噛み締める。
(やっぱりひよりと二人でこうして読書している時間が、世界で一番落ち着くな……!)
そんな穏やかな時間を過ごしているうちに、やがてお昼時を迎えた。
私たちはそのままカフェで、色彩豊かなシーフードパスタのランチを堪能することにした。過酷な環境を抜け出した後のまともな食事は、ことさら美味に感じられる。
食後、優雅に食後の紅茶を味わっていると、ひよりが周囲を少し見渡してから提案してきた。
「惣右介くん。いつまでもこのカフェに長居してしまうのも他のお客さんに悪いですし……それに、せっかくのクルージングですから、海の見える所で読書の続きをしませんか?」
その控えめで可愛らしい提案に、私はフッと口角を上げた。
「――いいだろう。果てなき蒼の深淵を背に頁を捲る方が、我々の魂には相応しい。共に往こうか」
「ふふっ、はいっ!」
私たちは会計を済ませてカフェを後にすると、船内の広々とした展望デッキへと向かう。
潮風が心地よく吹き抜けるベンチに並んで腰を下ろすと、見渡す限りの青い海と、静かな波の音が私たちを包み込んだ。
「風が気持ちいいですね、惣右介くん」
「ああ。だが、風が強い。本を飛ばされないように気をつけることだ」
最高のロケーションの中、私たちは再びページを開き、二人だけの穏やかな読書の世界へと没頭していくのだった。
一方、無人島試験を終え、割り当てられた客室のベッドで横たわりながら、オレは端末の画面を静かに見つめていた。
(惣右介もまだ休んでいるかもしれないが……やはり、気になるな。とりあえず、このクルージング期間中の予定を聞いておくか)
そう思い、メールアプリを立ち上げる。だが、文章を打ち込もうとした指がふと止まった。
(……思えば、これまで惣右介と話す時は、オレとあいつの二人きりになる状況が多かったな)
もし、オレが惣右介の真意を根本から勘違いしていたのだとすれば。あいつの真意を完全に理解している、椎名が同席している状況で話す方が、見えてくるものがあるかもしれない。
オレは少し考えた後、短い文面を打ち込んで送信した。
『このクルージング中に、良ければお前と椎名を交えて三人で話したいことがある。予定はどうだ?』
送信完了の表示を見つめながら、オレはさらに思考を深める。
(……惣右介がオレを『友』と思ってくれているからこそ、オレを部屋に招く時は、あえて椎名や他の生徒がいない状況を作っていたのかもしれないな)
オレの実力が人目に触れないように。そして何より、ホワイトルームという異常な過去が誰かに露見しないように、あいつなりに細心の注意を払い、気を回してくれていたのだとしたら……。
同じ頃。ひよりと共に展望デッキのベンチで読書に耽っていた私の端末が、短い通知音を鳴らした。
画面を確認すると、差出人は綾小路清隆だった。
(おっ! 清隆からメールだ! 『俺とひよりを交えて三人で話したい』って、なんだろう? ひよりも交えてってことは恋愛相談とかかな?)
私は内心でワクワクしながら、隣で本を読んでいるひよりへと視線を向けた。
「――静寂の海に、一石が投じられたようだ。清隆が我々との対話を望んでいる」
「綾小路くんからですか? せっかくですし、ここに来てもらいますか? 彼もお疲れかもしれないので、後日でも構いませんが……」
ひよりが本から顔を上げ、気遣うように小首を傾げる。
「我が領域への扉は常に開かれている。彼が今この時を望むのであれば、招き入れるとしよう」
私はオサレにそう了承し、清隆へ返信を打ち込んだ。
現在いる展望デッキの位置情報を添えて、『君の都合が良ければ、今からここへ来ても構わないよ』と送信する。
その後、再びひよりとの穏やかな読書の時間へと戻り、潮風を感じながら十五分ほどページを捲り続けていた頃だった。
「……すまないな。デートの邪魔をして」
不意に、淡々とした声がかけられた。
本から視線を上げると、そこにはいつも通りの無表情を貼り付けた清隆が立っていた。
「どうしても、お前に聞いておきたいことがあったんだ」
清隆は静かにそう言って、私とひよりを見据えた。
私が内心で首を傾げていると、清隆はいつも通りの抑揚のない声で、唐突に切り出した。
「お前はオレのことを、『友』だと、そう思ってくれているのか?」
(……え?)
その言葉を聞いた瞬間、私の思考は完全に停止した。
(……どういうことだ? 清隆はホワイトルーム時代を共に生き抜いた幼馴染であり、俺にとっては大切な友人だ。そんなの当たり前すぎるだろ……? なんで急にそんなこと聞くんだ?)
私の隣で、ひよりも予想外の問いかけにきょとんとした表情を浮かべている。
私は内心では大いに困惑しつつ、オサレな態度を崩さずに問い返した。
「――奇妙な問いだ。明白な真理を前にしてなお疑念を抱くとはね」
「『どういうことですか?』とのことですっ」
私の言葉をひよりが完璧に翻訳する。
清隆は僅かに目を伏せ、やがて静かに語り始めた。
「いや、そうだな。正直に話そう。……オレはお前のことを底知れない怪物だと、オレをホワイトルーム諸共消し去ろうと考えているのだと思っていた」
「……」
「だが、自身の不利となるにも関わらず、オレのために池と時任を差し向けてくれたことで、オレがお前のことを根本から勘違いしていたのではないかと疑問に思ったんだ」
淡々と告げられたその言葉に、ひよりが不思議そうに首を傾げる。
「……ほわいとるーむ、ですか?」
一方、私の内心はと言えば――。
(え、えええええええええっ!? 嘘でしょ!? 俺が清隆を消し去ろうとしてた!?どういうこと!?)
私は心の中で絶叫していた。
驚愕。そして、すれ違いに対する深い絶望感。
「なん……だと……?」
しかし、ここでただ狼狽えるわけにはいかない。私は必死に弁明の言葉を紡ごうとした。
「――嘆かわしいね。始まりの白き箱庭より、我らの魂は既に交わっていたというのに。……だが、よもや君自身の口からその禁忌の扉を開くとはな」
「『ずっと大切な幼馴染であり、友人だと思っていますよ。……でも、ひよりの前でホワイトルームのことを話してしまっても大丈夫なんですか?』とのことですっ」
その翻訳を聞いた清隆は、わずかに目を見開き、そして静かに息を吐き出した。
「……そういうことだったのか。お前がオレのために気を回していてくれたことは理解できた。だが……そうだな。オレはお前の真意を理解できていなかったようだ。すまない」
(いやいやいや!! 悪いのは完全に俺だよ!! 清隆なら俺のポエムの意図を全部汲み取ってくれてるって、勝手に信じ切って全く疑ってなかったから!! ……ってことは、清隆はずっと俺のことを友達だと思ってなかったの!? いや、俺が完全に悪いんだけど、流石にちょっと悲しい……!)
内心で盛大にパニックに陥り、そしてひそかにショックを受けながらも、私はあくまで涼しげな表情を崩さずに口を開いた。
「――謝罪は不要だ。同じ深淵を歩む我々の軌跡は既に一つに交わっているものと、錯覚を抱いていた私の落ち度だからね。水面に映る月を掬おうとするように、言葉なき理解を求めた私の傲慢さゆえのすれ違いだ」
「『謝らないでください。通じ合えていると勝手に勘違いしていた、私が原因ですから』とのことですっ」
「オレも今は実力を隠すのはやめたが……当時のオレとしては、その気遣いはありがたいものだった。……オレもお前の言動から深読みしすぎていたようだ」
(うわぁぁぁ!……最初からひよりがいる時に話し合っておけばよかった……!)
私は内心でひよりに平伏しつつ、なんとか清隆との致命的なすれ違いを解消できたことに安堵していた。
「あの……」
すると、会話の区切りがついたと判断したのか、ひよりが不思議そうな瞳で私たちを交互に見つめた。
「先ほど仰っていた、『ほわいとるーむ』とは何ですか?」
純粋な疑問だった。
私は視線を清隆へと向ける。
「私は語るにやぶさかではないが……どうするかな、清隆」
「話しても構わない。椎名は、人の秘密を言いふらすような人間には見えないからな」
清隆の許可を得た私は、かつて過ごしたあの真っ白な施設のことを思い返した。
(ホワイトルーム、か。ぶっちゃけ追放されるまでは、この世界が『BLEACH』の世界だと本気で勘違いしてたから、
私は当時を振り返り、内心で苦笑する。
(早く霊圧に目覚めないかなーとか、斬魄刀早く欲しいなーとか考えてたし、ここで詰め込まれる勉強だって、もしかしたら崩玉の研究に役立つかもしれないと本気で信じていた。次々と脱落していく他の子供たちを見ても、『ああ、彼らは護廷十三隊には入隊できないんだな』くらいにしか思っていなかったし)
当時の己のあまりに重度な勘違いっぷりを思い返し、私は内心でこっそりと頭を抱えた。
(それに、俺自身が施設から追放された時も、ちゃんと孤児院を斡旋してくれて最低限の衣食住の面倒は見てくれた。だから当時は、あそこが悲惨な環境だなんて微塵も思っていなかったし、むしろ修行に打ち込める最高の環境だとすら思ってたんだよな……)
無論、そんな能天気すぎる本音を今ここで明かすわけにはいかない。
私は過去の痛々しい記憶をひた隠しにし、ひよりに向けて、あの施設について語り始めた。
「――あれは、無垢なる白で塗り固められた狂気の揺籠だ。人の在り方を歪め、感情を削ぎ落とし、ただ純粋な『力』と『叡智』のみを抽出するための実験場。我々はそこで、冷たいガラスケースの中の標本として生を享けた」
私の言葉に、ひよりは痛ましそうに目を伏せた。
「……惣右介くんも、綾小路くんも、そんなにお辛い過去があったのですね……」
(いやいや! 俺は護廷十三隊に入るための修行だと思ってたし、アフターケアもしっかりしてたから、別にそこまで悲しい過去だとは思ってなかったんだけどね!?)
悲しげなひよりの表情に、私は内心でツッコミを入れながらも、ふと、無人島で起きた事件へと意識が向いた。
(ただ……姫野と吉田を襲撃した八神拓也。そして、あんな歪んだ人間を生み出し続ける元凶であるホワイトルームは――いずれ、この手で完全に潰さなければならないがな)
その瞬間、私の内側で静かに燃え上がった冷徹な意志が、重圧となって、ほんの一瞬だけ外へと漏れ出した。
「――ッ!?」
そのプレッシャーを肌で感じ取った清隆が、反射的に目を見開き、一瞬にして極限の警戒態勢をとる。ホワイトルームの最高傑作である彼にすら、本能的な死の予感を与えかねないほどの濃密な重圧。
だが、その張り詰めた空気は、すぐに解け落ちることになる。
「……大丈夫ですよ、惣右介くん」
隣に座っていたひよりが、私の右手を両手でそっと、優しく包み込んだのだ。
ひよりの温もりと、ふんわりとした柔らかい微笑みに触れた瞬間、私から漏れ出ていた重圧は嘘のように霧散し、穏やかな海風だけが再びデッキを吹き抜けていった。
(しまった、無意識に圧が出ちゃった……! ごめんね、ひより!)
私は内心で平謝りしつつ、気を取り直すようにふと、あの施設での最後の日のことを思い出した。
(そういえば……俺の勘違いじゃなければ、俺が施設を追放されて去る時、清隆って結構寂しそうな顔してなかったか?)
その記憶の答え合わせをするため、私は目の前の清隆に向けてオサレに問いかけた。
「――そういえば、私が白き揺籠を去り、君という存在と分かたれたあの日。君の瞳の奥に、ほんの僅かだが喪失の影が揺らいで見えた気がしたよ。それも錯覚だと言うのかな?」
「『私が施設を去る時、綾小路くんは寂しそうな顔をしてくれていましたよね?』とのことですっ」
ひよりの翻訳を聞き、清隆は少し考えるように視線を落とした。
「……寂しい、か。そうだな。正直に言うと、当時から常にオレの先を行くお前を観察できなくなることは、オレ自身の成長の妨げになると思っていた」
いかにもホワイトルーム仕込みといった、冷徹で徹底した自己主義の思考。しかし、清隆はそこで言葉を切ると、少しだけ表情を和らげたように見えた。
「だが……そうだな。今思えば、あの時もオレは無意識的に、お前のような存在と競い合える環境が無くなることを純粋に『寂しい』と思っていたのだろうな」
(おおっ! 理由はともかく、俺の勘違いじゃなくてよかった……!)
私は内心でホッと胸を撫で下ろしながら、次の疑問を口にした。
「――やがて訪れるモラトリアムの終焉。その時、君は再びあの狂気の揺り籠へと還るつもりなのか」
「『卒業したら、綾小路くんはホワイトルームへ戻るつもりなんですか?』とのことですっ」
清隆は、静かに頷いた。
「……そうだな。この学校を離れれば、オレの自由は無くなる。ホワイトルームへ戻り、教官として働くこととなるだろう」
その言葉に、私の隣でひよりが悲しそうに目を伏せる。
私はオサレな笑みを消し、静かに、だが明確な意志を持って告げた。
「――私は同胞を傷つけたあの歪な揺籠を許容するつもりはない。いずれ完全に消し去るつもりだ」
「『私は友達を傷つけた元凶であるホワイトルームの存在を赦すことはできません。いずれ潰そうと思っています』とのことですっ」
「お前ならば、そう考えるだろうな」
清隆は驚く様子もなく、ただ淡々と受け入れた。
「――この箱庭での遊戯のように、君と競い合うのは嫌いじゃない。その関係が終焉の時まで続くことを望んでいる。だが、私の剣は君を傷つけるためのものではない。本当の意味で刃を交えることなど、私は望んでいないよ」
「『私は綾小路くんと、この学校でライバルとして競い合うことは楽しいですし、卒業まで続けたいと考えています。でも、本当の意味で敵対したいとは考えていません』とのことですっ」
「……」
「――故に、盤面をひっくり返す。愛する者たちを泥に塗れさせないためにも、私は表舞台の頂へと君臨し、君の創造主を打ち倒そう。その時、君が私の玉座の傍らに立ち、共に剣を振るってくれるのならば、これ以上の悦びはない」
「『ひよりや友達を巻き込まないためにも、将来は政治家かそれに近い権力者になって、真っ向から綾小路くんのお父様を潰そうかと考えています。綾小路くんも、その時は協力してくれると嬉しいです』とのことですっ」
私の壮大すぎる野望と、ひよりの完璧すぎる翻訳。
清隆はしばらく沈黙し、潮風に吹かれながら静かに思索に耽っていた。
「……そう、だな。自由、か。少し考えさせる時間をくれ。オレもお前と本気で敵対したいとは思っていない。だが、一度考えを整理したい」
そう言って、清隆はきびすを返した。
数歩歩き出したところで、彼は一度だけ振り返る。
「……デートの邪魔をして悪かったな。お前がオレのことを『友』だと思ってくれていたこと、嬉しく思う」
それだけを残し、清隆は去っていった。
残された展望デッキには、再び穏やかな波の音だけが満ちていく。
「……二人のすれ違いが解決できて、良かったです」
これから立ち向かうであろう未来の巨大な問題。その重圧を感じさせないように、私を不安にさせまいとするかのように、ひよりは私の手を両手で優しく包み込み、ふわりと笑いかけてくれた。
(……本当に、ひよりには支えられてるな……)
私は内心でその温かさを深く噛み締めながら、彼女の小さな手を、愛おしさを込めてそっと握り返した。