いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
満場一致特別試験の開催が告げられた、九月十六日の放課後。
私の部屋には、一之瀬、神崎、そしてひよりが集まり、明日の試験に向けた作戦会議が開かれていた。
「ひよりちゃん! 紅茶ありがとう!」
「ふふっ。お茶菓子も用意しますね」
ひよりが手慣れた様子で上品なティーカップをテーブルに並べ、一之瀬が嬉しそうに微笑む。
すっかり私の部屋の主のような振る舞いを見せるひよりの姿に、私は内心でほっこりしつつ、優雅に紅茶の香りを嗜んだ。
全員の手元に紅茶が行き渡ったところで、一之瀬が少しだけ表情を引き締め、口を開いた。
「じゃあ、明日の満場一致特別試験について話し合おうか!」
「ああ。といっても、事前にどんな課題が出るか分からない以上、具体的な対策を練るのは難しいがな」
神崎が腕を組み、真面目な顔つきで続く。
「話し合いなしで満場一致になり、意見を交わす機会を失ってしまわないよう、敢えて最初の投票は揃わないようにする……といった取り決めくらいしかできないんじゃないか?」
「どんな課題が出されるか分かりませんからね。でも……」
ひよりが紅茶のカップをそっと置き、小首を傾げて推測した。
「プロテクトポイントがこの試験では『無効』となるということは、プロテクトポイント保持者による、契約で投票の強制をするなどの、妨害工作を防ぐための措置でしょうか?」
(うん。確かにその側面もあるだろうね。だが、二年生だけがこの時期に特別試験を課された本当の理由は……これまで退学者が極端に少ない俺たちの学年に向けて、学校側が意図的に退学者を出させようとしているからだと考えるべきだ)
私はひよりの推測に内心で深く頷きつつ、優雅に紅茶の香りを嗜み、極上のバリトンボイスを響かせた。
「――表層の理としては正解だよ。だが、何故我々の学年だけがこの時期に盤上へ招かれたのか。……刈り取るべき駒が多すぎるが故に、箱庭の主は自ら残酷な『天秤』を用意したのだろうね。もっとも、下位の者たちが贖いの術を持たない以上、盤上が無慈悲な絶望のみに染まりきることはない。いかなる天秤が提示されようと、我々には運命の理すらも買い戻す『絶対的な対価』がすでにあるのだから、過度に恐れる必要はないよ」
「『妨害工作の防止という側面もあるでしょうが、退学者が少ない二年生だけがこの時期に試験を課されたということは、退学者と何かを天秤にかけるような課題が確実に出るはずです。でも、下位のクラスは救済用のポイントが足りないだろうから、そこまで酷な選択肢にはならないと思いますし、どんな課題になっても、うちのクラスなら最悪プライベートポイントで救済できるから大丈夫ですよ』と言っていますっ」
私のオサレな分析とひよりの完璧な翻訳を聞き、二人はホッとしたように表情を和らげた。
「うん。そうだね。わざわざプロテクトポイントを無効にしてくるってことはそういう課題が出る可能性は高いけど……いざとなったら私たちには二千万ポイントの救済措置がある」
「ああ。だが、仮に救済措置が使えなかったとしても、うちのクラスならどんな選択肢が提示されようと『退学者を出さない』という方針を取るだろう」
(クラスのみんなは試験のルールを聞いた時に少し楽観的な様子だった。……それ自体は、ポイントに余裕があって、結束力の強いうちのクラスの良い所ではある)
ゆっくりとティーカップをソーサーに置きながら、私は目の前に座る二人の顔を静かに見つめた。
(だが……クラスのリーダーである一之瀬と、参謀の神崎には、今のような余裕が一切なくなった極限状態での『究極の選択』を迫られた時のことを、深く想像しておいてもらった方がいいだろう)
私はオサレな笑みを消し、二人の瞳を真っ直ぐに見据えた。
「――だが、満ち足りた光に目を奪われれば、足元の深淵を見落とす。もしも盤上が終局を迎え、贖いの対価も底を尽き、一つ下の階層との差が紙一重だったとしたら……君たちはその時、全ての駒を抱いたまま敗北の泥に塗れるか。それとも、一つの犠牲の上に築かれた玉座に座りたいと願うのかな?」
「『今回はポイントに余裕もあり、もしもの時は救済も可能です。今の時期からなら、満場一致にならなくてペナルティを受けたとしても巻き返す時間もあります。でも……もしも三年生の終盤で、救済用のポイントも足りず、Bクラスとは僅かな差の状況になったとして。その時、誰も退学させずにBクラスへの降格を受け入れるか、それともクラスメイトを一人退学にしてでもAクラスを掴みたいと願うのか……どちらを選びますか?』と言っていますっ」
私の突きつけた極端で残酷な想定と、ひよりの翻訳に、一之瀬と神崎はハッと息を呑んだ。
あまりにも生々しい『究極の選択』。もし、これまでの努力が水泡に帰すかどうかの瀬戸際で、仲間の一人を天秤に乗せられたら。
「……」
一之瀬はギュッと膝の上で拳を握りしめ、少しの沈黙のあと、真っ直ぐに顔を上げた。
「私は、それでも……クラスから退学者を出したくない。もしそんな状況になって、Bクラスに逆転されたとしても……仲間を切り捨てて得る勝利に、意味はないと思うから」
その揺るぎない眼差しは、彼女の強さであり、同時に危うさでもあった。
だが、その隣に座る神崎は、ひどく険しい顔をして顔を伏せていた。
「……一之瀬の言うことが正しい。それは分かる」
神崎は苦渋に満ちた声で、ゆっくりと絞り出すように本音を吐露した。
「だが……その状況になった時に、迷うことなくその選択を取る自信は、俺にはない」
「……うん。そうだね。もちろん、そういう考えの生徒もいると思う」
一之瀬は少し悲しそうな顔をしたが、決して神崎を否定することはなく、静かに受け入れた。
「綺麗事だけでは済まされない瞬間が、この学校には必ず来る。この特権を手放したくないと強く願う者が、いざという時に利己的な選択をする可能性は常にあるんだ」
神崎の重い言葉に、一之瀬は力強く頷き返す。
「うん。でも、だからこそ私たちは、そうならないために今から全力を尽くさなきゃいけないんだよね。誰一人欠けることなく、笑って卒業できるように」
二人は真っ向から、Aクラスの抱える理念と現実の矛盾について、短いながらも深い議論を交わした。
(よし。二人とも、極限の状況における『人間の心理の揺らぎ』を正しく認識してくれたようだね)
私は十分に場が温まったのを確認し、意図的に纏っていたプレッシャーを解いた。
「――許してほしい。無粋な幻影を見せたね。だが、王を戴き、先陣を切る者たちには、この極限の闇を常に直視する義務があると感じたからね」
「『意地悪な質問をしてごめんなさい。でも、クラスのリーダーの一之瀬さんと、参謀の神崎くんには、どんな試験であっても楽観的にならずに、そういう最悪の状況も想定してもらう必要があると感じました』と言っていますっ」
私がオサレに謝罪を口にすると、一之瀬は少しだけ困ったように微笑み、フルフルと首を横に振った。
「ううん。嫌な役回りを押し付けちゃってごめんね、藍染くん。……でも、私はそんな状況でも絶対に仲間を見捨てない。仮にAクラスで卒業出来なかったとしても、その前に、努力を続けて希望の進路を自分の力で勝ち取れるような人間に……みんなで成長していく道を選ぶだけだよ」
「……ああ。先ほどはすまなかったな、一之瀬」
神崎は深く息を吐き、自嘲するように目を伏せた。
「このクラスで仲間の大切さを学んだと思っていたが……いざとなれば足元が揺らぐ。俺は、自分が思っている以上に利己的な人間だと思い知ったよ」
「ううん。この学校の特権は凄く魅力的だから、もちろん神崎くん以外にもそういう考えの子はいると思う。それは、決して悪いことじゃないよ」
一之瀬の優しいフォローに、神崎は微かに表情を和らげた。
そして神崎は、再び私へと視線を向け、鋭い瞳で力強く頷いた。
「藍染。お前の警鐘の意図、確かに受け取った。今の潤沢なポイントやクラスの雰囲気に胡座をかかず、常に最悪の事態を想定して動く必要があるな。決して油断せず、クラス全体の危機管理を徹底させよう」
「ええ。明日の試験も、どんな課題が出たとしても慌てないように、しっかりと準備をして臨みましょうね」
ひよりも温かい紅茶を一口飲み、ふわりと微笑んだ。
(意地悪な質問をしてしまったが、これで二人の気もより引き締まり、明日はもちろん、これからの試験にも油断なく臨めるだろう)
私は彼らの成長と覚悟に満足しつつ、静かに紅茶の残りを飲み干した。
一方、同じ頃。
Bクラスの葛城の自室でも、明日の特別試験に向けた話し合いの場が設けられていた。
「今回は橋本や真田たちは呼ばなくて良かったのか?」
部屋の主である葛城が、腕を組みながら問いかける。
「ええ。今回は自クラス内で完結する試験ですからね。単純に考えれば、私と葛城くんで意見を合わせて、クラスを満場一致に持っていくだけの試験ですから」
椅子に優雅に腰掛ける坂柳が、ステッキに両手を添えながら事もなげに答えた。
「まあ、そうよね。……で? なんで森下はいるの?」
壁に寄りかかっていた神室が、ジト目で部屋の中心を指差す。
そこには、無言のまま一定のペースで、坂柳の座る椅子の周りを衛星のようにクルクルと回り続けている森下の姿があった。
「……すまん。森下が『坂柳に呼ばれた』と言っていたから一応連れてきたんだが……」
葛城が申し訳なさそうに眉間を揉む。
「森下さん? そろそろ気が散るので、やめてもらえませんか?」
坂柳の額にピキッと青筋が浮かぶ。だが、森下は歩みを止めることなく、わざとらしく大きなため息をついた。
「はぁ。この程度の動きで気が散るなど、坂柳有栖もまだまだお子ちゃまですね」
「……お子ちゃま?」
ピタッと森下の足が止まったかと思うと、彼女は制服のポケットからガサゴソと何かを取り出し、坂柳の目の前にスッと差し出した。
「飴ちゃんでも舐めて落ち着いてください」
「……森下さん? そろそろ本当に怒りますよ?」
いちご味の飴玉を突きつけられ、坂柳の笑顔の裏から明確な殺気が漏れ出す。
「はいはい。とりあえず落ち着いて。森下も、有栖にちょっかい出さないの」
見かねた神室が間に割って入り、呆れたように仲裁した。
「……神室真澄がそう言うのであれば」
森下はスッと差し出していた手を引っ込め、あっさりと引き下がった。
「……なぜ、真澄さんの言うことは素直に聞くのでしょう?」
坂柳が解せないといった様子で、ピキピキと額の青筋を増やしながら睨みつける。
「フッ」
森下はそれには答えず、ただ一度だけ得意げに笑みをこぼすと、そのままクルリと背を向けて自室へと帰っていった。
「…………すまない、坂柳」
「……はぁ。いえ、葛城くんが謝ることではありません。気を取り直しましょうか」
坂柳はコホンと一つ咳払いをし、崩れかけたペースを元に戻すように表情を引き締めた。
「明日の試験で事前に決めておくことと言えば……どのような課題でも一度は必ず議論の場を設けるために、最初の投票だけ『私と葛城くんで違う選択肢に投票する』。それくらいでしょう」
「ああ、分かった。だが、これだけの試験内容ならあまりに簡単すぎる。時間制限も五つの課題で五時間以内と緩い。……間違いなく、かなり難しい選択を迫られる課題が紛れ込んでいるはずだ」
葛城が鋭い視線で分析する。
「まあ、そうよね。それだけ緩い条件なら、逆に裏があるって考えるのが普通だわ」
神室も同意するように頷いた。
「ええ。プロテクトポイントが無効化されている点から見ても、退学が絡むような課題か、あるいはクラスの進退そのものを問うような……完全匿名であればあるほど、意見を揃えるのが極めて難しい課題が選ばれる可能性は高いです」
坂柳は淡々と最悪の状況を口にしつつも、その瞳には余裕の色が宿っていた。
「ですが、最悪の最悪、どうしても満場一致とならず、退学者を選ぶような状況に陥ったとしても、私たちには救済用のプライベートポイントがありますから」
「ああ。出来れば、ここでその資金を使うことなく乗り切りたいところではあるがな」
葛城が腕を強く組み直し、重く頷く。
「油断はできませんが、今の私たちのクラスならば大丈夫でしょう」
「そうね。森下もああ見えて試験の時には真面目に頑張ってくれるし、橋本ももう裏切るような真似はしないからね。有栖と葛城の意見さえ一致すれば、Bクラスは絶対に揺らがないでしょ」
神室の言葉に、葛城も静かに同調した。かつての派閥争いなど見る影もない、今のBクラスの強固な信頼関係がそこにはあった。
「ふふっ。ええ、その通りですね。今のBクラスは一枚岩です。学校側がどのような悪意ある課題を用意していようと、私たちの敵ではありません」
王座を虎視眈々と狙うBクラス。強固な信頼関係を築き上げた彼らは、静かな闘志を燃やしながら明日の試験を待ち構えていた。
――同刻、ケヤキモール内のカラオケボックス。
防音設備の整った薄暗い個室には、同盟関係にある、二つのクラスのリーダー格が集まっていた。
Cクラスの龍園翔と金田悟、そしてDクラスの堀北鈴音と綾小路清隆である。
「特別試験が発表されたということで、一応同盟クラスとして集まったけれど……今回の試験は特にクラス間で協力するようなことは無さそうね」
堀北がテーブルに置かれた烏龍茶のグラスを見つめながら、冷静に口火を切った。
「ええ。自クラス内で完結する試験であり、事前に課題の内容が分からない以上、本番まで待つしかありません。現段階で推測を立てるのは難しいでしょう」
金田が眼鏡の位置を中指で直しつつ、堀北の言葉に同意する。
「ククク……ただの課題なら、満場一致に揃えること自体は難しくねぇ。だが、『特別試験』と銘打っている以上、ただの多数決で終わるはずがねぇんだよ。……俺たちに、究極の選択を迫るようなおもしれぇ課題が必ず紛れ込んでいるだろうな」
ソファに深く腰掛け、足を組んだ龍園が、獲物を狙うような獰猛な笑みを浮かべる。
「……究極の選択、ね」
堀北の表情が、わずかに翳った。
「一年生の時の『クラス内投票』のような、理不尽に退学者を選択させるような課題が出る可能性もあるわね。……そうなれば、AクラスやBクラスと違って救済用のポイントが足りない私たちDクラスは、確実に退学者を出すことになってしまうわ」
かつての記憶が蘇ったのか、堀北は静かに目を伏せた。
「流石に、あそこまで理不尽な強制退学を押し付けてくることはねぇだろう。考えられるとしたら……『退学者を一人出す対価として、クラスポイントを獲得する』とか、天秤にかけさせるその程度の課題だろうな」
「仮にその課題が出たとして。……龍園氏はどうお考えに?」
金田が探るような視線で、自身のクラスの絶対的な独裁者へと問いかける。
もしも、クラスメイト一人を犠牲にすれば、上位クラスへと駆け上がるための莫大なポイントが手に入るとしたら。
その問いに対し、龍園は喉の奥で低く笑った。
「……ククク。そいつは、その時のお楽しみだ」
明確な答えは出さず、ただ不敵に笑う龍園。
オレは、そんな彼らのやり取りをただ無言で、底知れない感情の読めない瞳で見つめていた。
その後も、探り合いとも雑談ともつかない短いやり取りを交わした後、解散することになった。
「龍園、悪いが先に出ていてくれ。堀北と少し話すことがある」
席を立とうとした龍園たちにそう声をかけると、龍園は何かを察したように「ククッ、勝手にしろ」とだけ言い残し、金田と共に個室を出て行った。
防音扉が閉まり、室内にはオレと堀北の二人だけが残される。
オレはテーブルに残っていたグラスの水を一口飲み、静かに本題を切り出した。
「お前は、先ほど言っていたような『退学者を出す代わりにクラスポイントを得る』といった課題が出た時、どう考える?」
「……そうね。このクラスをAクラスに上げるためなら、時には残酷な決断をする必要もあるのかもしれない。だけど……」
堀北はそこで言葉を濁し、わずかに視線を伏せた。
(これが入学当初の堀北なら、迷うことなく能力の低い生徒を切り捨てていただろう。……他者と関わり、クラスメイトという存在を重んじるようになったことでの心境の変化。これは彼女にとっての『成長』か、それとも……)
リーダーとしての強さと脆さを同時に内包し始めた堀北を見つめながら、オレは淡々と現実を突きつける。
「もしも、本当にそんな課題が出るのならば、オレたちのクラスが満場一致となることはない。ただでさえ、Aクラスとは絶望的なほどのポイント差が開いているからな。Aクラスの特権を強く望む人間は、他者を切り捨ててでもクラスポイントの獲得を望むだろう。それに――」
「分かっているわ。櫛田さんのことよね」
堀北は小さくため息をつき、オレの言葉を遮った。
「でも、彼女はこのクラスが勝ち上がるためには、どうしてもなくてはならない存在よ」
「もしも、退学者を出さない方針で、櫛田以外が一致したとしてもか?」
オレのストレートな問いに、堀北の肩がピクリと揺れる。
櫛田桔梗という生徒の抱える深い闇と、堀北に対する異常なまでの執着。もしも退学者を選ぶ匿名の投票が行われれば、彼女は絶対に『賛成』に票を投じ続けるだろう。
「……それは……そうね、分かっているわ。でも、そんなことにはさせない。もし彼女が反対し続けたとしても、私が必ず説得してみせるわ」
堀北は強い意志を込めた瞳で、オレを見返した。
だが。
(堀北の覚悟は立派だが、櫛田が説得に応じるとは思えないな。……ならば、切るべき生徒は自ずと決まってくる)
オレは表面上は相槌を打ちながらも、内心では冷静にクラスの生徒の情報を整理していた。
(堀北が何を考え、どう動こうと関係ない。いざとなれば、オレがその結末へと誘導すればいいだけのことだ)
「……今はただ、そんな残酷な課題が出ないことを祈るしかないわね」
どこか自分に言い聞かせるように呟く堀北に、オレは首を横に振る。
「ああ。だが、それくらいの選択肢がないと、特別試験としては難易度が低すぎる。五時間という設定時間を考慮しても、間違いなく意見が割れる難しい課題があると想定しておく方がいい」
「そうね。……私もその時は、覚悟を決めるわ」
堀北はそう言って立ち上がり、静かに個室のドアへと向かった。
その背中を見送りながら、オレは薄暗いカラオケボックスのソファに深く沈み込む。
(覚悟、か。だが、お前の抱くその甘い覚悟では、到底切り抜けられない瞬間が必ず来る)
明日の満場一致特別試験。
もしも、クラスの息の根を止めるような劇薬が投下され、どうしようもない膠着状態に陥ったとしたら。
その時は――オレが手を下し、不要な駒を排除するだけだ。
液晶モニターが放つ無機質な光の中、オレは明日の試験に思いを馳せながら、誰にも見せることのない昏い瞳を静かに細めた。