いつからここが尸魂界だと錯覚していた? 作:yvrararara
満場一致特別試験、当日。
昼休みが明け、いよいよ試験の時間がやってきた。
チャイムが鳴ると同時に、担任の星之宮先生と、試験の監視役を務める教師が一人、無言で教室に入ってくる。
「じゃあ、事前の通告通りに、すべての通信機器を回収させてもらいます。もし仮に隠し持ってくることが発覚した場合は、重い処分が下るからね〜」
星之宮先生の指示に従い、生徒たちは次々とスマートフォンなどの端末を前の教卓へと提出していく。
すべての回収と点呼が終わり、定刻を迎えた。
「それでは、これより満場一致特別試験を始めます。ここからはルール通りに進行するから、インターバルの時間以外に席を立つことや、禁止されたタイミングでの私語は絶対にしないようにね」
星之宮先生の普段とは違う真剣なトーンに、教室の空気がスッと引き締まる。
机の上に固定された専用のタブレット端末の画面が切り替わり、六十秒のカウントダウンと共に『最初の課題』が表示された。
【課題①】
・3学期に行われる学年末試験でどのクラスと対決するかを選択せよ。
(クラス階級の変動があった場合でも、今回の選択が優先される)
【選択肢】
・Bクラス(75)
・Cクラス(50)
・Dクラス(0)
※()内の数字は対戦時に勝利することで得られる追加のクラスポイント。
「タブレットに書いてある通りよ。学年末までにクラスの変動があっても、今回の投票結果が優先されるわ。ただし、他クラスと希望する組み合わせが不一致だった場合は、学校側がランダムで対戦相手を選ぶことになっているから注意してね」
(なるほど。まずはこういう感じの課題からか)
私は画面を見つめながら、静かに思考を巡らせる。
(とりあえず、事前の作戦通り、一之瀬と神崎が満場一致にならないように最初は違う選択肢に投票する手筈になっている。俺は適当に選んでおけばいいだろう。……それにしても、この追加ポイントの傾斜。この分だと、下位クラスが我々Aクラスに勝利した場合の報酬は『100ポイント』に設定されているんだろうな)
全員が画面をタップし終え、すぐに最初の投票結果がモニターに映し出された。
【投票結果】
・Bクラス:20票
・Cクラス:20票
・Dクラス:1票
「満場一致とならなかったので、これより十分間のインターバルに入ります」
(……綺麗に割れたな)
私は自分の手元の画面から視線を上げ、クラスメイトたちの顔を見渡した。
「じゃあみんな、話し合おうか!」
インターバル開始の合図と共に、一之瀬が席を立ってクラス全体に呼びかけた。
「ああ。とりあえず、Dクラスは除外して考えて良さそうだな」
神崎の言葉に、クラスの全員が頷く。
「ここはやっぱり、Bクラスと直接対決するべきじゃないか? 最後の一年に入る前に、直接叩いて差を広げられればかなりデカいと思うぜ!」
柴田が身を乗り出し、強気な提案をした。
「だけど……学年末試験がどんな試験か分からない以上、リスクも高いんじゃないかな? もしも完全な学力勝負の試験になったとしたら、正直まだBクラスが相手だと分が悪いと思う……」
初川が不安そうに反論する。
「うーん、でも一年生の時みたいに、総合力が試されるような試験になるんじゃないかな? この一年間の集大成みたいな特別試験なら、ただの筆記試験だけに偏るとは思えないよ」
網倉が前向きな意見でフォローを入れると、今度は浜口が冷静な声で懸念を口にした。
「ですが、学年末特別試験でBクラスに負けた場合、追加のクラスポイントを相手に渡してしまうことにもなります。どれだけクラスポイントが動くかは予測できませんが、もし仮に最後の一年に入る直前にクラスが降格してしまうようなことになれば……士気にも大きく関わるのではないでしょうか」
各々がリスクとリターンを天秤にかけ、白熱した、それでいて非常に建設的な議論が交わされていく。
十分間のインターバルの終わりが近づいたところで、一之瀬がパンッと手を叩いて場をまとめた。
「うん! みんなの意見はよく分かったよ! 今の話し合いを踏まえて、どのクラスと戦いたいかを次の投票で入れよう。そこで多数決を取って、三回目の投票で満場一致させようか!」
「妥当だな。これだけ意見が割れているなら、多数決で一つに絞るのが一番いい方法だろう」
神崎も同意し、クラス全体がその方針に納得した表情を見せた。
――そして、インターバル終了。二回目の投票が行われた。
【投票結果】
・Bクラス:18票
・Cクラス:23票
・Dクラス:0票
結果が表示され、二回目のインターバルへと入る。
「うん! 僅差ではあるけど、Cクラスを指名することにしようか! 異論がある子はいるかな?」
一之瀬が教室全体を見渡して問いかけると、真っ先にBクラスとの対決を推していた柴田がカラッと笑って答えた。
「いや、多数決で決まったなら文句はないぜ! どっちにしろ、勝てばいいだけだからな!」
柴田の潔い言葉に、クラスの空気が和らぐ。誰も不満を口にすることなく、スムーズに意思統一が図られた。
そして三回目の投票。
【投票結果】
・Cクラス:41票(満場一致)
(うん。とりあえず、このやり方で進めるのが良さそうだね)
私は、滞りなく課題をクリアしたクラスの様子を眺めながら思考する。
(うちのクラスなら、一之瀬が最初から『これを選ぼう』と決めてしまえば、みんなリーダーの彼女に従っただろう。だが……こうして各々が意見を出し合い、納得した上で決断を下していく『過程』が何よりも重要だ。盤石な信頼は、こうした小さな対話の積み重ねから生まれるのだからね)
第一課題の滑り出しとしては上々だ。
私が静かに目を細めていると、やがて次の六十秒のカウントダウンが始まり、モニターと手元のタブレットに新たな課題が浮かび上がった。
【課題②】
・11月下旬予定の修学旅行に望む旅行先を選択せよ。
【選択肢】
・北海道
・京都
・沖縄
「ここでの決定はクラスの総意としての『一票』になるわ。最終的には全クラスの多数決で決まるから、これで確定ってわけじゃないからね〜」
星之宮先生の補足説明を聞きながら、私は内心で密かにテンションを上げていた。
(おお!! 修学旅行!? 行き先をみんなで選ぶってことか!)
私は表面上は冷静な強者の表情を崩さないまま、心の中でワクワクと思考を弾ませる。
(素晴らしいイベントだ。……俺はもちろん、『北海道』一択だな)
私は迷わず手元のタブレットの『北海道』をタップした。
やがて全員の投票が完了し、結果が表示される。
【投票結果】
・北海道:24票
・京都:5票
・沖縄:12票
「今回は北海道が優勢だね! だけど、一回はみんなでちゃんと話し合おうか!」
「ああ。話し合いで他者の意見を聞き、考えを変える生徒もいるだろうからな」
一之瀬と神崎が場を回すと、早速各々の希望する行き先について、和気藹々としたプレゼン合戦が始まった。
「やっぱり修学旅行といえば海だろ! 11月の沖縄ならまだ暖かいし、マリンスポーツも最高だぜ!」
沖縄派の筆頭である柴田が、爽やかな笑顔で力説する。
「そうそう! みんなで綺麗なビーチを散歩したり、美ら海水族館にも行きたいな!」
同じく沖縄派の網倉も身を乗り出して同調した。
「でも、北海道の美味しいグルメも絶対に捨てがたいよ! 海鮮丼とかジンギスカンとか、本場の味をみんなで食べたくない!?」
「それに、11月末なら雪景色も見れるかもしれないぞ。スキーやスノボなんかのウインタースポーツも楽しめるしな」
対する北海道派の白波や滝川たちが、グルメや景色を武器に反論を展開していく。
少数の京都派も「歴史的建造物と紅葉の組み合わせは外せない」と熱弁を振るい、教室はただのホームルームのような温かく白熱した空気に包まれた。
(なかなか白熱しているな。……だが、海やビーチなら夏の無人島試験で十分に堪能したし、俺としては雪景色の北海道へひよりと一緒に行きたいところだな)
私は隣の席で楽しそうに議論を眺めているひよりの横顔をチラリと見つめ、フッと微笑んだ。
(まあ、どこになったとしても……ひよりや、このクラスの仲間たちと行けるのなら、結局のところどこでも楽しい思い出になるだろうけどね)
そんな穏やかな思考を巡らせている間に、十分間のインターバルが終了の時間を迎える。
「みんな、意見をありがとう! 今回もこの話し合いを踏まえて二回目の投票をして、その次で多数決に合わせて満場一致させようか!」
「賛成!」
「異議なしだぜ!」
一之瀬の提案に全員が気持ちよく返事をして、二回目の投票が行われた。
【投票結果】
・北海道:26票
・京都:2票
・沖縄:13票
「じゃあ、多数決通り『北海道』で決定しようか! 沖縄と京都に行きたかった子は、希望に沿えなくてごめんね……」
一之瀬が申し訳なさそうに手を合わせると、沖縄派だった柴田がカラッと笑って首を振った。
「気にするなよ一之瀬! クラス全体の意見が一番重要なんだから、俺は全然構わないぜ!」
「うんうん、私たちのプレゼンが足りなかったね……。でも、北海道も絶対に楽しいと思うから、全然気にしないでね!」
網倉もにっこりと笑って一之瀬をフォローする。
少数派の意見を尊重しつつも、多数派の決定に一切の不満を残さない。Aクラスの生徒たちが持つ『善性』が、ここでも遺憾なく発揮されていた。
そして三回目の投票。
【投票結果】
・北海道:41票(満場一致)
順調すぎるペースで進む中、すぐに次のカウントダウンが始まり、新たな課題が表示される。
【課題③】
以下の中から選ぶ。
・選択肢①:毎月クラスポイントに応じて支給されるプライベートポイントが0になる代わりにクラス内のランダムな生徒3名にプロテクトポイントを与える。
・選択肢②:支給されるプライベートポイントが半分になり任意の1名にプロテクトポイントを与える。
・選択肢③:次回筆記試験成績下位5名に支給されるプライベートポイントが0になる。
※どの選択肢が選ばれても、プライベートポイント没収期間は半年間続く。
(……やはり、簡単な課題ばかりではないか)
私は画面に表示された三つの選択肢を見比べる。
(プロテクトポイントという強力な盾を得る代わりに、半年間という長期に渡ってプライベートポイントを没収される。これは明確な痛みを伴う課題だ。当然、クラス内でも意見が割れるだろうな)
私は『選択肢③』をタップし、全員の投票を待った。
【投票結果】
・選択肢①:16票
・選択肢②:13票
・選択肢③:12票
「満場一致とならなかったので、十分間のインターバルに入ります」
「じゃあ、この課題も話し合おうか!」
一之瀬が前向きな声で呼びかけると、神崎が冷静な分析から入った。
「俺たちのクラスならば各個人の貯金もあるし、いざとなればクラス貯金から引き出して助け合うこともできる。極論を言えば、どれを選んだとしても当面の生活に大きな影響はないだろう」
「でも、いざという時のために、クラス貯金はあまり無駄遣いしたくないかな。それなら、選択肢③を選んで、ペナルティを受ける五人分だけをみんなで等分して補填してあげるのが一番安上がりでいいんじゃない?」
姫野が現実的な計算を元に、選択肢③のメリットを主張する。
だが、浜口がそれに異を唱えた。
「戦略的に考えるならば、藍染くんにプロテクトポイントを付与するために、選択肢②がいいのではないでしょうか? 全員が半額の負担になるのであれば不公平感による文句も出ませんし、今のうちのクラスポイントなら、半額になったとしても十分過ぎるプライベートポイントは貰えますから」
「確かに! 去年の学年末試験みたいな、代表者が退学をかけるような特殊な試験があった時に、藍染くんがプロテクトポイントを持っておいてくれるのは凄く安心感があるね」
白波も浜口の提案に強く賛同する。
「でもさ、俺たちのクラスはすでに一之瀬と椎名がプロテクトポイントを持ってるだろ? そんな試験があっても、二人がいれば十分に任せられるんじゃないか? それなら選択肢①にして、ランダムでも三人の生徒を守れるようにした方が、クラス全体としては安全だと思うぜ!」
柴田が選択肢①を推す声に、いくつか同調する頷きが起こった。
それぞれがクラスのためを想うが故に、意見が三つに分かれてしまう。
「だけど、これまでの特別試験の傾向からして、下位に沈んだり、ボーダーラインを割るような失敗をしない限りは、いきなり退学になる可能性って低くないかな?」
津辺が真剣な表情で全体の議論に一石を投じた。
「単純計算だけど、半年間で私たちはクラス全体で三千七百万近くのプライベートポイントが支給される計算になる。もちろん生活費とかもあるから実質的に貯金できる額はもっと減るとは思うけど……それをまるまるゼロにするのは、後々になって響くんじゃないかな?」
(うん。俺もどちらかと言えば、津辺の意見寄りだな。ランダムで付与されたとして、退学の危機に瀕しない生徒に当たって無駄になる可能性も高い。それならば、プライベートポイントをしっかり貯めておき、万が一退学者が出そうになった時に二千万ポイントで救済できるようにしておく方が得策だろう)
「うーん……どの意見も一理あるし、これは難しいね」
一之瀬が小さく唸り、困ったように私の方を振り返った。
「藍染くんはどう思う?」
私は静かに立ち上がり、クラス全員の視線を集めた上で、オサレなポエムを紡いだ。
「――虚飾の盾に目を奪われれば、真の刃を失う。不可視の危機に怯え、手元の蓄えをいたずらに投げ出すのは愚か者の行いだよ。盤上を支配する絶対の理を築き上げることこそが、結果として全ての駒を救う最強の盾となるのだからね」
「『津辺さんの言う通りですね。ランダムな付与よりも、ポイントを貯めておいて、いざという時に救済で使えるようにした方が得策です』と言っていますっ」
私に続き、ひよりが完璧な翻訳を教室に響かせる。
そして、ひよりは少しだけ思案するように言葉を付け足した。
「それに、選択肢③はデメリットしかない課題ではありますが……無理に任意の生徒にプロテクトポイントを付与しなくても、半年間あれば、このままのクラスポイントならさらに二千万ポイント近くは貯金できるはずです。難しいところですね」
「うーん。なるほど……」
一之瀬も腕を組み、深く考え込む。
(そうなんだよな。今のAクラスやBクラスくらい、安定してクラスポイントを積み上げている上位クラスにとっては、正直なところどの選択肢も旨味がない。それならば、クラス全体の被害を最小限に抑え、一番プライベートポイントを残せる選択肢③にして、ひたすら貯金をするのが最も堅実な選択だよな)
私は椅子に座り直し、静かに事の行く末を見守った。
私が示した道筋と、ひよりの論理的な補足。そして一之瀬のリーダーシップによって、クラスの意思は一つにまとまりつつあった。
「みんな、インターバルの時間が終わるよ。次の投票は……」
【投票結果】
・選択肢①:4票
・選択肢②:8票
・選択肢③:29票
「満場一致とならなかったので、二回目のインターバルに入ります」
先ほどの話し合いを経て、票は明確に『選択肢③』へと偏った。
「じゃあ、この課題も多数決の通り、『選択肢③』にしようか! 下位五人に入ってペナルティを受けちゃう子の分は、毎月みんなの支給額から少しずつ割って負担し合おう!」
「ああ。それが一番安全で確実な方法だな」
一之瀬の決定に神崎が頷き、他の生徒たちも異論なく賛同の意を示した。
そして、三回目の投票。
【投票結果】
・選択肢③:41票(満場一致)
ここまでは極めて順調だ。やがて四回目のカウントダウンがゼロになり、新たな課題が表示される。
【課題④】
・2学期末筆記試験において、以下の選択したルールがクラスに適応される。
【選択肢】
・選択肢①:難易度上昇
・選択肢②:ペナルティの増加
・選択肢③:報酬の減少
(……これまた、デメリットしかない課題だな)
私は三つの選択肢を眺め、静かに分析する。
(ペナルティの増加に、報酬の減少。ということは、次の二学期末筆記試験では各クラスの成績に応じて『クラスポイントが動く』ということか。
学力勝負となれば、清隆や高円寺が本気を出したとしても、今のうちのクラスの学力なら少なくとも二位にはなれるだろう。それならば、ペナルティが増加したところで被害はない『選択肢②』が無難か。ここでいたずらに『難易度上昇』を選べば、Dクラスの選択次第では三位以下に落ちる危険性もあるからな)
私は手元のタブレットで『選択肢②』をタップした。
【投票結果】
・選択肢①:13票
・選択肢②:16票
・選択肢③:12票
「満場一致とならなかったので、十分間のインターバルに入ります」
票は三つに見事に割れたが、僅かに選択肢②が優勢だった。
「……どれも嫌な選択肢だね。みんなはどう思う?」
一之瀬の問いかけに、クラスメイトたちが各々の意見を口にし始める。
「難易度上昇はキツいけど、報酬が減るのも嫌だよな」
「ペナルティが増えるのも怖くない? もし赤点を取っちゃったらどうなるんだろう……」
不安の声が広がる中、私は静かに口を開いた。
「――恐れることはない。与えられた天秤を見るといい。奪われる対価と、与えられる果実。この二つが並び立つということは、次の盤上では我々の持つ階級の証そのものが直接やり取りされるという絶対的な暗示に他ならない。ならば、我々が取るべき道は自明だろう?」
「『ペナルティと報酬という言葉があるということは、次の筆記試験ではクラスポイントが動く可能性が高いです。うちのクラスの学力なら上位には入れるはずですから、下位になった時のペナルティが増える選択肢②を選んでおけば、実質的にノーダメージで乗り切れるはずですよっ』と言っていますっ」
私のオサレな暗示と、ひよりの的確な翻訳が教室に響き渡ると、クラスメイトたちはハッとしたように顔を見合わせた。
「なるほど! 確かに藍染くんの言う通りだ!」
「私たちが普通に頑張れば、下位になってペナルティを受けることなんてないもんね!」
「それなら選択肢②が一番安全だぜ!」
不安が払拭され、教室の空気が一気にポジティブなものへと変わる。
「うん! みんな、藍染くんの言う通りだね。それじゃあ、次の二回目の投票はこれまで通りに思うとこに入れようか!」
一之瀬が明るくまとめ上げ、インターバルが終了した。
【投票結果】
選択肢②:41票(満場一致)
(……今回は二回目で綺麗に揃ったようだね)
私は満場一致を知らせるモニターを見上げ、内心で小さく感心する。
この時点で、試験開始から一時間と少しが経過したところだった。設定された五時間の制限時間にはまだまだ圧倒的な余裕があり、クラスのムードも「このままいけばすぐに終わる」という心地よい一体感と安心感に包まれていた。
だが。
モニターに表示された『最後の課題』を見た瞬間、教室の和やかな空気は一瞬にして凍りついた。
【課題⑤】
・クラスメイトが1人退学になる代わりに、クラスポイント100を得る。
(賛成が満場一致になった場合、退学になる生徒の特定、及び投票を行う)
【選択肢】
・賛成
・反対
――あまりにも直球で、残酷な選択。
昨日、私があえて最悪の事態として想定させた『劇薬』が、そのままの形で投下されたのだ。
(……やはり、こういう課題が出るか)
ハッと息を呑み、僅かに肩を強張らせる一之瀬と神崎の背中を見つめながら、私は誰にも気づかれないように冷静に思考を巡らせる。
(100ポイント、か。これがもっと大きなポイントが貰える課題なのであれば、あえて『賛成』で固めて退学者を選び、その直後に二千万のプライベートポイントを使って救済するのが一番いいんだろうが……判断が難しいな)
(あの学先輩のクラスですら退学者が出てしまっていたことを考えると、ここから先、さらに理不尽で厳しい試験が続く可能性は極めて高い。たった100ポイントのために、万が一のための命綱をここで切ってしまうのは得策ではないか)
私は静かに、他クラスの動向へと意識を向けていく。
(だが、坂柳の統率するBクラスが、ここでプライベートポイントを惜しむことなく使って、したたかに100ポイントを取りにくる可能性はある。仮にそうなれば、その僅かな差が最後の最後で響いてくる可能性もあるし……)
(そして……龍園や清隆たちは、果たしてどんな決断を下すのだろうか。上位クラスがノーリスクで『反対』で固める、もしくはプライベートポイントで救済してポイントを得ていく可能性を考えれば、手元に命綱を持たない下位クラスの彼らが『犠牲を払ってでもここでポイントを得たい』と考えてもおかしくはない、か……)
私は、今まさに他クラスの教室で突きつけられているであろう『極限の天秤』を想像し、密かに小さく息を吐いた。
(どうか、最悪の結末にだけはならないといいが……)
私は薄暗い深淵の底で難しい決断を迫られているであろう彼らの状況を案じながら、静かに目を伏せた。
課題④が抜けていました。
申し訳ありませんでした。
指摘してくださり、ありがとうございました。