いつからここが尸魂界だと錯覚していた?   作:yvrararara

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十三話

 五月末。

 高度育成高等学校に入学して初めての大きな試練である『中間テスト』は、全科目範囲変更という学校側の理不尽な罠を伴いながらも、無事に終わりを迎えた。

 

 そして数日後、答案用紙が返却されるホームルームの時間。

 1年Bクラスの教室内には、歓喜と安堵の吐息が満ち溢れていた。

 

「はーい、みんな静かにー! テストの結果、全員分返し終わったわよー!」

 

 教卓の前に立つ担任の星之宮知恵が、パチンとウィンクをしてパンパンと手を叩いた。

 

 彼女の表情は、今月初めのポイント減額宣告の時のような冷ややかなものではなく、心からの称賛を浮かべたゆるふわな笑顔に戻っていた。

 

「結果から言うとね……1年Bクラス、今回のテストでの『退学者』はゼロです! みんな、全科目で見事に赤点を回避したわ! 先生、みんながここまで団結して頑張るなんて思ってなかったから、本当に感動しちゃった!」

 

「「「よっしゃああああああ!!」」」

 

 星之宮の言葉に、クラス中から割れんばかりの歓声が上がった。

 

 体育委員の柴田颯は両手を突き上げてガッツポーズをし、書記の白波千尋は隣の網倉麻子と抱き合って涙ぐんでいる。学級委員の一之瀬帆波や、副委員の神崎隆二も、クラスメイトたちの喜ぶ姿を見てホッと胸を撫で下ろしていた。

 

 無理もない。学校側から仕掛けられた『試験三週間前での全科目の範囲大幅変更』という罠。

 

 だが、蓋を開けてみれば、テスト本番で出題されたのは、一之瀬が上級生から買い取った『過去問』と一字一句違わずに同じ問題だったのだ。

 

 試験の三日前に過去問を配布し、解答を丸暗記させたことで、下位層の生徒たちも余裕で赤点を回避することができたのである。

 

「……藍染、椎名。お前たちが勝利への確かな道筋を照らしてくれたおかげだ。……心から感謝している」

 

 神崎が、自分の席から立ち上がり、わざわざ教室の最後尾――私の席までやって来て、深く頭を下げた。

 

 それに釣られるように、一之瀬や柴田たちもこちらを向き、次々と感謝の言葉を口にする。

 

「藍染くんの言う通り、過去問の配布をギリギリまで遅らせて正解だったよ! それまで基礎を固めておいたおかげで、過去問を見るまでの不安も少なかったし、本当の学力も身についた気がする!」

 

「おう! 藍染と椎名さんのスパルタ翻訳勉強会がなかったら、俺、確実に気が緩んでたぜ! マジでサンキューな!」

 

 クラスメイトたちから向けられる、畏怖と、それ以上の純粋な『尊敬』と『感謝』の眼差し。

 

 入学初日に「関わったら殺される魔王」として完全に孤立していた頃からは考えられないほどの、温かな空間がそこにはあった。

 

(おおお……! なんかめちゃくちゃ感謝されてる! 俺、ただ「ちゃんと勉強しようぜ」って言いたかっただけなんだけど……でも、誰も退学にならなくて本当に良かった! みんな頑張ったもんな!)

 

 私は内心で嬉し涙を流しながら、しかし表面上は「フッ」と不敵な冷笑を浮かべ、窓の外へ視線を向けた。

 

「――勘違いするな。私はただ、盤上の駒が己の無力さに絶望して砕け散る様を見るのが、少々退屈だっただけだ。……君たちが這いつくばって泥を啜り、明日への切符を掴み取ったのは、君たち自身の矮小な執念の結果に過ぎない」

 

(うわああああ!! 照れ隠しで褒めようとしたら、また上から目線の傲慢魔王ポエムになっちゃった!! みんなごめん、本当は『お疲れ様、みんなの努力の賜物だよ!』って言いたかったんだ!)

 

 私の相変わらずの威圧的な物言いに、神崎や柴田たちは一瞬ビクッと肩を震わせたが、隣の席で銀髪の天使がクスリと笑った。

 

「……ふふっ。惣右介くんはこう仰っています。『僕はお手伝いをしただけで、赤点を回避できたのは、皆さんが最後まで諦めずに勉強を頑張った結果ですよ。本当にお疲れ様でした』……と」

 

「「「おおおおお!! 藍染!!」」」

 

 ひよりの完璧すぎる(そして優しさに満ち溢れた)翻訳によって、クラスメイトたちの感動は最高潮に達した。

 

 もはやBクラスの生徒たちは、「藍染惣右介=極度のツンデレ魔王」「椎名ひより=魔王の心を知る唯一の翻訳機」という共通認識を完全に確立させてしまっていた。

 

「それにしても、藍染くんはやっぱりすごいね……。全科目、100点満点だなんて」

 

 一之瀬が、私の机の上に置かれた束になった答案用紙を見て、感嘆の溜め息を漏らした。

 

 そう、私のテスト結果は、当然のように全教科において100点満点だった。過去問の答えを丸暗記するまでもなく、藍染スペックの頭脳にとって高校一年生レベルの問題など、思考するまでもない作業でしかないのだ。

 

 ちなみに、ひよりの成績も非常に優秀であり、クラスでもトップクラスの点数を叩き出していた。

 

(ひより、本当に頭いいな。同じクラスになれて、一緒に勉強できて最高だぜ!)

 

 私はひよりと視線を交わし、内心でデレデレになりながら、静かにホームルームの終了を待った。

 

「それじゃあ、今日はこれで解散! みんな、週末はゆっくり休んでねー!」

 

 星之宮先生の明るい声と共に、終わりのチャイムが鳴り響いた。

 

 地獄のようなプレッシャーから解放された生徒たちは、口々に「カラオケ行こうぜ!」「ケヤキモールで豪遊だ!」と、足早に教室を後にしていく。

 

 私とひよりも、帰りの支度を済ませて立ち上がった。

 

「惣右介くん。テストも終わりましたし、今日は図書室で新しく入った本でも探してみませんか? 最近は勉強ばかりで、ゆっくり読書ができていませんでしたから」

 

「――ああ。世界を形作る文字の海に、再び身を投じるのも悪くない。……我々の聖域へ向かおうか」

 

(訳:賛成! 久しぶりにゆっくり本読もうぜ!)

 

 私たちは連れ立って教室を出ると、夕日が差し込む渡り廊下を歩いて図書室へと向かった。

 校内には、テストが終わった解放感を味わう生徒たちの楽しげな声が響いている。ひよりと並んで歩くこの平穏な時間が、私にとっては何よりも代えがたい宝物だった。

 

(……それにしても、一ヶ月で色んなことがあったな)

 

 私は歩きながら、これまでの怒涛の高校生活を振り返っていた。

 

 入学初日のポエム大暴発による魔王ボッチ化から始まり、ひよりのBクラス移籍のために荒稼ぎした2000万ポイントの賭け事無双、生徒会副会長・南雲雅の蹂躙、そして旧友・綾小路清隆との再会とゲーム対決。

 

 中身はただの一般人なのに、藍染スペックと呪いのポエム自動変換のせいで、とんでもないことになっている。だが、こうして親友と一緒にいられるのだから、結果オーライだ。

 

 そんなことを考えながら、放課後の図書室の重厚な扉を開ける。

 テスト終わりということもあってか、生徒の姿はまばらだった。私とひよりは、いつもの特等席へと向かい、鞄を置いた。

 

「私は少し、奥の書架を見てきますね。惣右介くんは何を読まれますか?」

 

「……そうだな。君が選んだ物語なら、どんな結末が待っていようと退屈はしないさ。君の直感に任せよう」

 

「ふふっ、わかりました。少し待っていてくださいね」

 

 ひよりが嬉しそうに微笑み、書架の奥へと消えていく。

 私は席に座り、窓の外の茜色の空をぼんやりと眺めていた。このまま、平和な三年間が過ぎてくれればいい。そんな、ささやかで切実な願いを込めて。

 

 ――しかし。

 私のその平穏への祈りは、図書室の入り口から現れた『二つの影』によって、無惨にも打ち砕かれることとなる。

 

 コツ、コツ、コツ。

 静かな図書室に、規則的で、しかし重みのある足音が響いた。

 その足音は迷うことなく、真っ直ぐに私の座るテーブルへと向かってくる。

 

(ん……? 誰か来た?)

 

 私が窓の外から視線を戻すと、そこには二人の上級生が立っていた。

 

 一人は、一歩後ろに控えるように立つ、真面目そうな雰囲気の女子生徒。橘茜という名前の生徒会書記だ。

 

 そして――私の目の前に立つ、もう一人。

 完璧に着こなされた制服。鋭く、冷徹で、理知的な光を宿した眼鏡越しの瞳。

 

 ただそこに立っているだけで、周囲の空気が重く沈み込むような、圧倒的なプレッシャー。

 

 南雲や龍園といった連中から感じる威圧感とは次元が違う。これは、上に立つ者として磨き上げられた『本物の王気』とも呼ぶべきものだった。

 

 顔に見覚えはある。

 入学式の日に、新入生を歓迎する挨拶を壇上で述べていた、高度育成高等学校の頂点に君臨する男。

 

 生徒会長、堀北学であった。

 

(…………っ!?)

 

 私の心臓が、恐怖で大きく跳ね上がった。

 

(せ、生徒会長!? なんで!? 入学式で見たあの生徒会長が、なんでわざわざ俺のところに!?)

 

 私の脳内で、最悪のシミュレーションが高速で展開される。

 学校のトップが、1年の新入生に直接会いに来る理由。

 それは間違いなく『処罰』の宣告だ。

 

(ヤバいヤバいヤバい! 絶対アレだ! 俺がひよりを移籍させるために、色んな部活回って先輩たちと賭け事してポイント巻き上げたのがバレたんだ! いや、バレてるに決まってるけど、生徒会が動くレベルで問題視されたのか!?)

 

 冷や汗が背中を伝う。

 

(それとも、副会長の南雲をPK戦でボコボコにして500万ポイント奪ったことの報復か!? 『うちの副会長になんてことしてくれたんだ』って!? どっちにしろ終わった! 退学になったらひよりと離れ離れになっちゃう!!)

 

 私は内心で大パニックに陥り、今すぐ土下座して「許してください!」と叫びそうになっていた。

 

 しかし、私の意に反して、私が纏う『藍染惣右介としての外殻』は、微塵も動揺を見せることはなかった。

 

 足を組み、頬杖をついたまま、私はゆっくりと視線を上げ、生徒会長である堀北学と真っ向から視線を交差させたのだ。

 

 二人の怪物から放たれるプレッシャーが激突し、図書室の空気がビリビリと震える。

 

 静寂を破ったのは、学の方だった。

 

「……入学初日に『Sシステム』の全貌を露わにし、たった一ヶ月という短期間で、2000万ポイントという途方もない対価を得た男」

 

 学の低く、静かな声が響く。

 

「……お前が、1年Bクラスの藍染惣右介か」

 

 学の鋭い視線が、私の全てを見透かそうとするかのように突き刺さる。

 

 背後に立つ橘も、「この男が、あの異常な記録を……」と極度の警戒心を露わにしている。

 

(ひいいいいいいい!! やっぱり全部バレてる!! しかもめちゃくちゃ怒ってる声のトーンだ!! 『すいませんでした! 調子乗ってました!』って謝れ俺!! 誠心誠意謝罪しろ!!)

 

 私は喉の奥から必死に謝罪の言葉を絞り出そうとした。

 しかし、あの忌まわしき呪いの装備が、私の生存本能を無惨にも書き換える。

 

「――如何にも。私が藍染惣右介だが」

 

 私の口から紡がれたのは、謝罪ではなく、相手を嘲笑うかのような極上のポエムだった。

 

「……私の足跡が、君の玉座を揺らしてしまったかな? だが、安心するといい。世界を暴くのに、月日など必要ない。……私はただ、大人たちが必死に隠した『綻び』を、軽く指差したに過ぎないのだから」

 

(うわああああああああああ!! 何言ってんだよおおお!! 完全に生徒会長に喧嘩売ってる!! 玉座を揺らすとか、世界を暴くとか、もう言い訳不可能なテロリストのセリフじゃねえか!!)

 

 私は内心で絶望のどん底に叩き落とされ、白目を剥きそうになっていた。

 これで終わりだ。生徒会長の逆鱗に触れ、明日には退学通知が突きつけられるだろう。ひより、短い間だったけど楽しかったよ……。

 

 だが。

 私のその不遜極まりないポエムを聞いても、堀北学は怒るどころか、その鋭い眼光の奥に、確かな『興味』と『評価』の色を浮かべた。

 

「……綻び、か。フッ。なるほどな」

 

 学は短く鼻で笑い、眼鏡の位置を直した。

 

「南雲との勝負についても聞いている。あの男を実力で完全に叩き潰し、500万ポイントを奪い取ったそうだな。……新入生が、現生徒会副会長を一方的に蹂躙するとはな」

 

(ひっ! やっぱり南雲の件も! 報復だ、絶対に報復される!!)

 

「――彼が自ら、己の首を私の刃の下に差し出してきたのだ。……身の程を知らぬ羽虫の羽を捥ぎ取るのも、天に立つ者の慈悲というものだろう?」

 

(もうやだこの口!! 勝手に南雲のこと羽虫呼ばわりしやがった!! 生徒会長の前で副会長を羽虫って、もう死刑宣告でしょこれ!!)

 

 私はもはや自暴自棄になりかけていた。

 

 橘が「なっ……! 生徒会副会長に向かってなんて口の利き方を……!」と激怒しそうになるが、学は片手で彼女を制止し、私を真っ直ぐに見据えた。

 

「……面白い男だ。藍染惣右介」

 

 学の口から出たのは、全く予想外の言葉だった。

 

「お前のような、既存の枠組みに一切囚われない『イレギュラー』の存在は、この学校のシステムに、新たな風を吹き込むかもしれない。……どうだ。生徒会に興味はないか?」

 

「「「…………え?」」」

 

 図書室にいた数少ない生徒たち、そして橘すらもが、驚愕に目を見開いた。

 それもそのはずだ。厳格で知られる堀北学が、入学して一ヶ月しか経っていない問題児の新入生を、直接生徒会にスカウトしたのだから。

 

(…………は?)

 

 私も、内心で盛大にフリーズしていた。

 

(せ、生徒会!? 俺が!? 絶対無理に決まってんじゃん!! まず第一に、俺はひよりっていう最強の翻訳機がいないと、まともに会話すら成立しないコミュ障魔王なんだぞ!? 生徒会役員会議で俺がポエム吐きまくったら、一瞬で学園崩壊の危機になるわ!!)

 

 私は全力で拒否しなければならない。

 

 『ごめんなさい、私にはそんな大役は務まりません! 誰かの下に就くのも嫌だし、平和に本を読みたいだけなんです!』と、はっきりと断るのだ!

 私は静かに立ち上がり、学を見下ろすようにして、決意を込めて口を開いた。

 

「――私が誰かの下に就くことなど、あり得ない。……これからは」

 

 私は、前髪をゆっくりとかき上げながら、静かに、そして絶対的な威圧感を込めて言い放った。

 

「――私が天に立つ」

 

(うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!)

 

 私は内心で、あまりの恥ずかしさと厨二病の極みのようなセリフに、爆発して消し飛びそうになっていた。

 

(言ってしまった! あの伝説の名言を!! ただ『生徒会には入らないよ』って断りたかっただけなのに、なんで世界を統べる神みたいな宣言になっちゃってんの!? これじゃあ完全に学校乗っ取る気満々じゃねえか!!)

 

 静まり返る図書室。

 あまりにも傲慢で、しかし圧倒的なカリスマ性を伴ったその宣告を前に、学は沈黙した。

 

「…………」

 

 学は、私の言葉の真意を測るように、数秒間私を見つめ続けた。

 

 そして。

 

「……なるほど。お前が口にする比喩や詩的な表現は、少々難解で完全に理解することはできないが」

 

 学は、眼鏡の奥で鋭く光る瞳を細め、フッと口角を上げた。

 

「俺の下に就くつもりはない。だが、いずれ頂点(天)を奪い取るつもりだということだな。……よかろう。その野心ごと、生徒会で飼い慣らしてやる。お前の言葉、承諾したと受け取ろう」

 

(…………えええええええええええ!?)

 

 私は、内心で目玉が飛び出るほど驚愕した。

 

(違う!! 断ったんだよ!! 『私が天に立つ』って言ったじゃん! なんでそれで『生徒会に入って下剋上してやる』みたいな解釈になってんの!? 受け取らないで! 返品して!!)

 

 私の魂の叫びは、当然ながら誰にも届かない。

 学は背を向け、去り際にこう告げた。

 

「明日の放課後、生徒会室に来い。他のメンバーを紹介しよう」

 

「か、会長、本当によろしいのですか!? このような危険な思想の持ち主を生徒会に引き入れるなど……!」

 

 橘が慌てて、しかし学に対しては完璧な敬語で進言する。

 

「俺が決めたことだ。……行くぞ、橘」

 

「……はい。……あなた、会長が特別にお許しになったのですから、明日は絶対に遅れないように来てくださいよ」

 

 橘が私をキッと睨みつけ、学の後を追って図書室を去っていく。

 

 静寂が戻った図書室。

 私は、彫像のように固まったまま、燃え尽きた灰のように真っ白になっていた。

 

(…………終わった。俺の平和な図書室ライフが……生徒会なんていう、最も目立つ激務の渦に巻き込まれてしまった……。なんで俺、あんなカッコつけて天に立とうとしちゃったんだろう……)

 

「お待たせしました、惣右介くん」

 

 そこへ、数冊の本を抱えたひよりが、小走りで戻ってきた。

 彼女は私の様子がおかしいことに気づき、小首を傾げる。

 

「どうしました? なんだか、酷くお疲れのようですが……。それに、今しがた生徒会長の方々が帰られていくのが見えましたが、何かお話でもあったのですか?」

 

 私は虚ろな目でひよりを見た。

 そして、全てを諦めたように、悲哀に満ちたポエムを紡いだ。

 

「――ひより。……どうやら私は、ひどく退屈な盤上へと足を踏み入れることになったようだ。……自ら玉座を差し出そうという哀れな者たちの懇願を、無下にはできなくてね」

 

(訳:ひより……俺、生徒会長にスカウトされて、断れなくて生徒会入ることになっちゃった……)

 

 私のその言葉を聞いて、ひよりは一瞬目を丸くした。

 そして、私の悲痛な叫びを完璧に翻訳し、パァッと顔を輝かせたのだ。

 

「えっ! 惣右介くん、生徒会長にスカウトされたんですか!? すごいですっ! 生徒会に入るなんて、本当に名誉なことですよ!」

 

(ちがうんだよひより……名誉とかいらないんだよ……)

 

「でも……惣右介くんは、本当は断るつもりだったんですよね? 静かに読書をする時間が減ってしまうから」

 

(そう!! その通り!! さすがひより、俺の心を世界で一番理解してくれてる!! )

 

「――一度踏み出した足を、今更引いてやる道理はない。……彼らが自ら私の前に盤上を差し出したのだ。ならば、全てを蹂躙し尽くすのが覇者の礼儀というものだろう」

 

(訳:今更もう、怖くて断りにくいんだよ……どうしよう……)

 

 私が泣きそうな声(ポエムのせいで決意を秘めた魔王の声になっているが)で言うと、ひよりは優しく微笑み、私の手をそっと握った。

 

「ふふっ。惣右介くんは、本当は責任感が強くて優しい方ですから。頼まれたら、無下にはできないんですよね。……生徒会のお仕事、大変だとは思いますが、頑張ってくださいね」

 

 ひよりのその温かな声と、手に伝わる柔らかい感触。

 私の荒れ狂っていた心が、スッと凪いでいくのを感じた。

 

「もし、何か困ったことがあったり、辛いことがあったりしたら……いつでも私に相談してくださいね? 私はずっと、惣右介くんの味方ですから」

 

 夕日を背に、天使のように微笑む椎名ひより。

 

(…………っ!)

 

 私は内心で、彼女の前に跪き、五体投地で崇拝の祈りを捧げていた。

 

(本当いい子!! マジ天使!! 仏!! 女神!! ひよりのためなら、俺、生徒会の仕事でも世界征服でもなんでもやってやるよ!!)

 

「――ああ。君が私の隣にいてくれる限り、私の歩む道に暗闇はない。……行くぞ、ひより。我々の物語の、次のページを開くために」

 

「はいっ!」

 

 かくして。

 中身は平和主義者の一般人でありながら、自らの意思とは無関係に、学校の頂点である『生徒会』という新たな盤上へと引きずり上げられてしまった藍染惣右介。

 

 彼とひよりの、奇妙で尊い学園生活は、さらなる混沌の渦へと巻き込まれていくのだった。

 

 

 

 

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